※本稿は、メライン・ファンデラール(著)、國森由美子(訳)『熟睡力』(新潮社)の一部を再編集したものです。
■恋愛感情の「強さ」は睡眠の質を左右する
先史時代の人々がどのように恋をしていたのかはわからないが、現代と同様、肉体的な魅力は重要な役割を果たしていたに違いない。よく休み、心身ともに健康そうな相手はより魅力的だったはずだ。なぜなら子孫を繁栄させ、よく守り、世話してくれるだろうからだ。
では恋愛と睡眠の関係は科学的にはどのように考えられているのだろう?
エビデンスによって影響の方向は異なるものの、恋をすると主観的な睡眠の質に影響が生じる可能性がある。思春期の若者では恋と入眠のしやすさには関連性があることが、2件の研究からわかっている。また、恋愛感情が強まると夜中の覚醒回数や睡眠問題は減少した。
他方、別のある研究は思春期の女子が恋をすると睡眠時間が短くなると指摘し、他の関連調査のほとんどでは恋愛感情と睡眠には関連性がないとしている。
こうした結論の相反する研究間での重要な違いは、ポジティブな効果がみられた最初の2件の研究では恋愛感情の主観的な強度を測定したのに対し、その他の研究では恋愛感情の有無のみを調査したという点である。
■睡眠不足は見た目の魅力を下げる
恋愛感情と夜の睡眠の向上の間に関連があると考えられる理由はなんだろう? メカニズムの1つとしては、よく眠ると気分も上向きになり、活力も増すということだろう。よく睡眠をとると性的な感情の表出が増加すると考えられる。
主観的な睡眠の質が高いことで、身体的な魅力も改善されるかもしれない。ある研究では40人のオブザーバーに、通常どおり眠った人と睡眠不足になるプロセスを経た人の写真10枚を評価してもらった。
すると、睡眠不足の人々はまぶたが垂れ下がっている、目が赤く腫れている、目の下のクマが濃い、顔色が悪い、しわが多い、口角が下がっているなどと評価された。
重要な点は被験者が31時間眠らず睡眠不足になった後、5時間の睡眠をとっていたことだ――これは実生活で経験する以上の極端な睡眠不足である。それはともかくとして、よく眠ることは外見を磨くのに役立つようだ。
恋をしたい時期に相手を見つけるには、身体的な魅力や活力が重要だが、主観的な睡眠の質がよいと、魅力や性欲が高まる可能性がある。逆に睡眠不足だと、相手探しの意欲も性欲もおそらく減退すると考えられる。
■恋人に満足している人ほどよく眠る
恋愛が成就し安定したパートナーになる……そんな関係は夜の睡眠にどんな影響を及ぼすだろう? パートナーの有無と睡眠の関係についてのエビデンスは矛盾しており、ある研究では未婚だと夜よく眠れないという関連性を示し、別の研究では独身だとよく眠れると指摘している。
前者には研究対象にホワイトカラーが含まれていたのに対し、後者ではパンデミックによるロックダウン中の軍人男性を対象に調査していた。軍人たちは長期間自宅を離れることに慣れていたが、パンデミックで予期せず自宅に戻ることになった。
突然家庭生活に適応せざるを得なくなった既婚者群は多くのストレスを感じた可能性があり、これが睡眠問題が増えた理由かもしれない。
恋愛相手がいることで夜の睡眠が改善されるとは限らない。
ある研究では、恋愛相手から社会的に支えられていると感じている人々の主観的な睡眠の質は15年間にわたってよかったことがわかった。良好な恋愛関係は睡眠の質を高めるのかもしれず、これは理にかなっている。日々のストレスが少なければ夜の睡眠の質もよくなるからだ。
相手との関係によってはストレスが非常に多い場合もあるだろうが。
■寝る前の口論は「悪い記憶」を残す
睡眠の状態が悪いと、相手との関係に問題が増える可能性もある。相手と対立中ならもちろん、そうでなくとも関係に影響が生じるだろう。3章では夜の睡眠が感情や活力レベル、集中力、記憶力に及ぼす影響について述べた。
睡眠の問題で疲れていると、相手の身になって物事を考えられなくなりがちだ。事実、よく眠れていないと思いやりを持てなくなり、機嫌が悪くなるなどの問題につながる可能性がある。
どちらかが眠れない最悪な夜を過ごしたりしていれば、会話はますます対立を深めることとなる。よく、口論したまま寝てはいけない、対立は寝る前に解消すべきだと言われるが、実際にこの考えを裏づける研究もある。
脳の特定の活動により、睡眠中はネガティブな記憶を抑制する効果が低下し、その結果、悪い記憶ばかりが脳内に蔓延することになる可能性がある。ネガティブな出来事を忘れるのが難しくなってしまうのだ。
これに関与する脳の組織は感情に大きな役割を果たす扁桃体と、情報の長期記憶に重要な海馬である。というわけで、たとえ頼んだことをしてくれなかったと相手に腹を立てていたとしても、傷ついた心をなんとかなだめすかして就寝前にお互いの意見の違いを話し合おう。
■眠りの質が低いとパートナーへの攻撃が増える
極端な場合、夜の睡眠の状態が悪いと愛し合う二人が互いに攻撃的になりかねない。主観的な睡眠の質が悪いことと、相手を心理的および身体的に虐待することは関連している。睡眠の状態が悪いと虐待行為を悪化させる可能性があると研究でわかっているのだ。
そうなると互いの緊張は高まり続け、睡眠の状態がさらに悪化し、余計に相手を攻撃するという悪循環に陥ってしまうことが容易に想像できるだろう。
パートナーを失ったり恋愛関係が終わったりすると、夜の睡眠の状態が悪くなることは多い。
総じて、恋愛関係の質と睡眠には強い関連性があるようだ。恋愛感情が強まると主観的な睡眠の質が向上しやすい一方で、愛する人を失うと、当然であるとはいえ、睡眠の状態が悪くなりやすい。
恋愛相手との関係と夜の睡眠の間にはおそらく、ストレスの有無や幸福感が関わっているのだろう。恋愛関係についてのポジティブな感情は心理的な安心感につながり、睡眠を促進するかもしれない。恋愛相手に対する攻撃や衝突は逆の効果を生む可能性が高い。
■恋人と一緒に寝るとレム睡眠が増える
恋愛相手と一緒にベッドで眠るとよい効果があるだろうか? これまでの研究では相反する結果が明らかにされている。動作を通して睡眠を測定するアクティグラフィーを用いる科学者もいるが、脳の活動を測定する睡眠ポリグラフ検査より精度が低い。
ある研究はアクティグラフィーでの調査で、一緒に眠るとよく眠れなくなるのが一般的と結論づけた。別の研究では、女性は恋愛相手と一緒に眠るとよく眠れないと結論づけられ、また別の研究では男性は一緒に眠るとよく眠れると結論づけられた。
睡眠ポリグラフ検査を用いた研究では、恋愛相手と一緒に眠ると夜の睡眠にどんな影響が生じるかをさらに詳しく調査できた。研究では24人の健康な若年成人を対象とし、主観的および客観的な睡眠のパラメーターの他、質問票を用いて相手との関係の質を調べた。
この研究では二人で一緒に眠ると夢をよく見るレム睡眠の量が増大することがわかった。興味深いことに、生物学者たちは群れで生活する哺乳類の一種、ハイラックスでも同じ効果を発見した。安定したレム睡眠は安全な環境を知覚していることと関連があり、それがこの睡眠段階でよく眠れる理由ではないかと考えられている。
■恋人が重要だと感じると睡眠中の脳は同期される
主観的な睡眠の質と恋愛関係の質には関連があると先に述べたが、それだけではない。最近のある研究では、恋人同士の脳が睡眠中に同期することと、二人の結びつきの深さの間にも関連があることがわかった。
科学者たちは隣り合って眠るカップルの脳の活動を測定した。質問票では相手が人生でどれほど重要かという質問に答えてもらった。その結果、相手との結びつきを深く感じているカップルほど、二人の睡眠段階が時間の経過につれて似通うことがわかった。
神経科学では、人々が相互にコミュニケーションをとると脳が同期し、親密な人同士であるほどその度合いが強いことがわかっている。身体的な愛着を表している可能性があるが、睡眠中にも起こるというのは極めて興味深い。
■いびきで眠れないならベッドを別にする
パートナーと一緒に眠ることにはそれなりのいい効果があるとはいえ、睡眠療法士として仕事をする中では、一緒に眠るのが難しい例も多く診てきた。
パートナーがいびきをかく、閉塞性睡眠時無呼吸症候群のため空気を鼻から送り、気道を拡げて睡眠中の無呼吸やいびきを防止する機器を使用している、頻繁に寝返りを打つなど、別々に眠ることを話し合った方がよさそうな場合もある。
熟睡できるかどうかで日中の活動に格段の差が生じることを考えれば、ベッドを別にするのも選択肢である。相手に言い出すのを躊躇(ためら)う人もいるが、二人でよく話し合った上であれば、毎晩でも時々でも、ベッドを別にすることは互いを思いやる気持ちの表れとも言える。
■子どもと寝ると母親の眠りは浅くなる
ベッドを共有するのが恋愛相手だけではない場合もある。ハヅァ族では平均2~3人と一緒に眠る。一緒に眠る相手は通常、自分の子どもや恋愛(婚姻)相手だが、その人数が増えれば睡眠が断片化されるのは当然である。寝返りやいびきで頻繁に睡眠が妨げられることは大いにあり得るからだ。
添い寝による両親と子どもの主観的および客観的な睡眠の質への影響についてのイスラエルの研究では、母親の睡眠がより断片的になることがわかった。被験者となった母親は夜中に乳児が目覚める回数が増えたと報告したが、これは客観的には測定されなかった。
研究者たちは、乳児が寝床にいると、母親はすばやく目を覚ますのかもしれないと結論づけた。あるいは、母親の睡眠は子どもの出生前から既に状態が悪かったため、夜中の新生児の動きや音に一層敏感になり、目が覚めやすかったのかもしれない。添い寝をする際には母親の睡眠の質を考慮することが大切であると、この研究では結論づけられている。
■愛犬と同じベッドで寝ると睡眠の質は下がる
一緒に眠る相手は乳幼児や恋愛相手だけではない。犬や猫を抱いて眠る人もいる。調査によると56%の飼い主がペットと同じ部屋で眠っている。これは睡眠の質にどんな影響を及ぼすのだろう?
生後6カ月以上の犬がベッドの外で眠る場合、夜中に寝室にいても悪影響はないようだ。しかし、犬がベッドで一緒に眠る場合、アクティグラフィーの測定によると人間の客観的な睡眠の質は低下するようである。愛犬をベッドに入れるよりは、ベッドの横の犬用バスケットにいてもらった方がいいということだ。
愉快なのは、科学者たちは飼い主の寝室で眠る犬の睡眠の測定も行ったことだ。すると、犬の客観的な睡眠の質はワンダフル、素晴らしくよかったことがわかった。
猫ではどうか? 犬とは異なるかもしれない。猫は主睡眠を日中にとる傾向にあり、夜行性である。飼い主の睡眠中に動きまわる可能性があり、夜の睡眠を妨害する原因となるだろう(こうした友人たちの良し悪しについてはさらに後述する)。
総合すると、恋愛相手と一緒に眠ることでよりよい睡眠につながり、特に安定したレム睡眠で夢を見ることも大幅に増えるかもしれない。相手との結びつきが強ければ強いほど睡眠の質もよくなる可能性がある。
寝室にペットがいる場合、ベッドの中にいるのでなければ、そして猫でなければ、悪影響はないかもしれない。ごめんね、猫ちゃん。
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メライン・ファンデラール
睡眠科学者
1979年、オランダ・ヴェールト生まれ。マーストリヒト大学で生物心理学を学び、博士号を取得。現在は同大学で教鞭を執る。専門は不眠症および睡眠問題。長年オランダの睡眠医学センターに勤務。睡眠医学の普及のため、本国では多数のメディアに執筆、出演。
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(睡眠科学者 メライン・ファンデラール)

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