いい睡眠をとるにはどうすればいいのか。身近にある「コーヒー・タバコ・アルコール」が知らないうちに睡眠を蝕んでいる恐れがあるという。
睡眠科学者のメライン・ファンデラールさんの著書『熟睡力』(新潮社)からお送りする――。(第2回)
※本稿は、メライン・ファンデラール(著)、國森由美子(訳)『熟睡力』(新潮社)の一部を再編集したものです。
■睡眠中、本人が気づかない「覚醒」が起きている
コーヒーの木は人類発祥の地アフリカの一部地域に自生しているが、先史時代の人類がカフェインを摂取していたとわかる明確な史料はない。コーヒー豆は後に飲料に用いられるようになるまで、おそらく食用にしていたと思われる。お茶を含む沸かした飲み物をホモ・サピエンスが初めて摂取したのは紀元前1000年頃だと考えられている。
今日広く飲まれているコーヒーや様々な種類のお茶、エナジードリンクにはカフェインが含まれている。カフェイン摂取のタイミングや分量、個々人の感受性や習慣性などすべてが睡眠に影響を及ぼすようだ。
2013年のある研究は、カフェイン400ミリグラム(コーヒー約4杯分)を摂取すると、それが就寝の6時間前であっても睡眠時間は平均1時間短くなると指摘している。コーヒーが睡眠に潜在的に悪影響を及ぼすことを多くの人が実感していないのは注目すべきだ。被験者はよく眠れたと述べるが、測定では定期的に少しの間、覚醒していることがわかる。
これはどういうことだろう? 安眠タイプの人は特に、一瞬の覚醒をいわば「忘れる」ため気づかないことが多い。目覚めた直後に脳が記憶機能を低下させていることとも関係がある。
科学者によれば、いずれにしても午後5時以降はカフェイン入りの飲料を飲まないようにすべきだという。
この研究から結論を導くにあたっての難点は、被験者の数が少ないことと、被験者が摂取した量が夜のカフェイン摂取量としてはかなり多かったことだ。
■カフェイン摂取は不眠症と直結しない
アドバイスとしてはなにが言えるだろう? 何杯のコーヒーをいつ飲んだらいいのだろう? 1976年、イスメット・カラジャン博士の研究チームは、カフェインと夜の睡眠の関係を調査した。就寝30分前にコーヒーをカップ1杯飲んだ場合、睡眠ポリグラフ検査で測定された客観的な睡眠の質に影響はないことがわかった。
しかし、寝る30分前にコーヒーを2杯飲むと睡眠は短く、浅くなった。深い眠りも若干先延ばしになった。カップ4杯では、影響はさらに大きくなった。
この2件の研究の共通点は実験室で測定が行われていることだが、実験室と日常の実生活との比較はできない。実際の生活ではどうだろう? 一般にカフェインの摂取は不眠症と関連していないようだ。アイスランドとスウェーデンで約1100人を調査した際の分析によれば、コーヒーの摂取量は入眠問題と直結するものではないという。
■コーヒー8杯以上飲む人は睡眠が平均40分短い
どうやらカフェインに対する感受性には明らかに個人差があり、大半の人はカフェインの摂取をかなり適切に調整できている。カフェインに敏感な人はコーヒーの量を多分控えめにしているのだ。

カフェインを極端に多く摂取した場合には、睡眠に影響が生じる可能性がある。コーヒーを1日に8杯(カフェイン800ミリグラム)以上飲む人は平均40分、睡眠時間が短くなる。日中、標準的な量のコーヒーを飲んでいる分には客観的な睡眠の質にほとんど影響はない。
習慣ともなんらかの関係があるのかもしれない。1週間毎日カフェインを摂取すると睡眠を妨げる影響は減少する。夜に多量に摂取する場合も同じだ。定期的に摂取していたカフェインをやめようとすると、一時的に夜の睡眠に悪影響を及ぼす可能性がある。影響に気づくまでにはかなり時間がかかり、通常、最後に摂取してから27時間以上経ってからである。
前述のように、人によってはカフェインに対して身体が敏感に反応することがある。コーヒーを一口飲むだけで興奮する場合もあり(そういう人はあまり飲まないだろう)、人口の約20%が該当する。
年齢にも関わりがある。年齢を経るにつれカフェインへの感受性は高まることがわかっている。
中年の人が夜に400ミリグラムのカフェインを摂取すると、一般的に入眠にかかる時間が長くなり、睡眠時間は短くなり、睡眠の質が低下する。こうした影響は若者よりも大きい。
■ニコチン依存が強いほど睡眠時間は短い
太古の狩猟採集民がニコチンを摂取していたことはわかっているが、彼らが植物であるタバコを喫煙していたのか噛んでいたのかは不明だ。
タバコの喫煙の最古の痕跡は西暦860年、先史時代よりずっと後だが、北米の遺跡から発掘された石製のパイプとその破片が当時のアメリカ先住民の喫煙を示唆している。
アカ族など現代の狩猟採集民の部族集団ではよく喫煙する。タバコはアメリカ大陸原産で、1600年代にヨーロッパ人によってアフリカに持ちこまれた。アカ族に伝わったのはずっと後の1800年頃で、喫煙は太古からの習慣ではないということになる。
ニコチンと睡眠の関係とは本質的にどういうものだろうか? 不眠タイプだとニコチン中毒になりやすい? それともその逆?
ニコチンが夜の睡眠に及ぼす影響は測定可能なようだ。ニコチンパッチを貼っている人は喫煙しない人に比べて睡眠時間が短く、レム睡眠とノンレム3という深い睡眠が少ない。ニコチンの分量が問題のようだ。ある実験的な環境では、ニコチンを大量に摂取した喫煙者の睡眠の状態は悪化した。
喫煙者はよく、タバコを吸うと気持ちが落ち着くと言うが、ニコチンにはやはり刺激作用があり、血圧と心拍数の上昇を引き起こして、睡眠に悪影響を及ぼす可能性がある。

実際、喫煙は客観的な睡眠の質の低下と、それ以上に入眠困難と関連している。ニコチン中毒が重度なほど睡眠時間は短くなり、覚醒時間は長くなる。
依存症の度合いを判断する一つの方法は、起床から最初の1本目のタバコを吸うまでの時間、つまり最初の喫煙までの時間を調べることだ。この時間が短いほど睡眠問題が増える。
禁煙はよいことだが、一時的に睡眠問題は悪化するかもしれない。影響は最大3週間続くことがある。
■寝る前のアルコールは悪夢を招く
知ってのとおり、原始人類は何千年も前からアルコールを飲んでいた。コンゴのバヤカ族などの現代の狩猟採集民も社交と儀式の両方でアルコールを用いる。バヤカ族のアルコール摂取量は多い。
83人の部族のメンバーを対象とした調査では、44%以上が過度に飲酒していたことがわかった。男性メンバーは週に平均グラス10杯、女性メンバーは5~6杯を摂取していた。参考までに、2006年の米国では1週間あたりの平均アルコール消費量は4単位、度数が5%のビールなら2リットルを少し下まわっていた。

寝つきをよくしようと寝酒を飲む人は世界中にたくさんいる。アルコールは実際、入眠改善の助けになるが、悪影響もある。夜の前半のレム睡眠の量が減少するのだ。
一方、目覚める前の最後の数時間はレム睡眠が多くなり、眠りは浅く断片的になりがちである。鮮明な夢を見たり、夢の内容を覚えていたりすることが多い。楽しい夢だけではない。アルコールを摂取することで悪夢を見ることも増えるからだ。
■禁酒で2週間以内に不眠症は改善する
一晩飲酒すると、主観的および客観的な睡眠の質は著しく低下するようだ。夜の睡眠時間は平均1時間短くなる可能性が高くなり、中途覚醒の回数が増えることがわかっている。カフェインの場合と同様、実際に起きていることであるにもかかわらず、アルコールの摂取で睡眠の質が悪くなっていることに気づかない人も多い。
アルコールの摂取は夜の睡眠にどんな影響を及ぼすだろう? アルコールの乱用と不眠症は同時に起こる場合が多い。重度の飲酒者の約35~70%が不眠症に悩まされており、就寝が遅く、眠りが浅く、中途覚醒が多い。

では、アルコールの乱用と不眠は一般的にどう関係していると言えるのだろう? 最近の双生児研究で、過度の飲酒は人生のあらゆる段階で不眠症と関連しており、過度の飲酒は不眠を導く可能性が高く、その逆ではないことがわかった。
つまり、夜の睡眠に関して言えば禁酒が効果的だ。過度の飲酒をやめたいと思ってもはじめは難しいかもしれない。最初の3~5日間は眠りが浅くなり、中途覚醒の回数が増える。しかし、朗報もある。睡眠は1~2週間以内に改善することが多い。すると、入眠が早くなり、長く眠れるようになる。

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メライン・ファンデラール
睡眠科学者

1979年、オランダ・ヴェールト生まれ。マーストリヒト大学で生物心理学を学び、博士号を取得。現在は同大学で教鞭を執る。専門は不眠症および睡眠問題。長年オランダの睡眠医学センターに勤務。睡眠医学の普及のため、本国では多数のメディアに執筆、出演。

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(睡眠科学者 メライン・ファンデラール)
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