※本稿は、深瀬浩一『血液型でわかる 病気とケガのリスク』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■血液型と感染症の複雑な関係
ABO式血液型の違いにより、病気のかかりやすさに実際に違いがあるのか、そしてその違いはどのような生物学的メカニズムによって生じるのか――これらの疑問について、血液型と感染症の関係からくわしく見ていきましょう。
感染症とは、細菌やウイルスなどの病原体が人体内に侵入し、増殖することによってさまざまな症状や機能障害が生じる疾患の総称です。
このうち、細菌は1つの細胞だけで構成された単細胞生物で、適切な栄養環境さえあれば、細胞分裂によって自律的に増殖することができます。私たちの体内に侵入した細菌は、体液や組織液を栄養にして、急速に数を増やしていきます。
一方でウイルスは、細菌とは根本的に異なる存在です。細菌よりもはるかに小さな微粒子で、細胞のような完整した構造をもちません。また、細菌とは違って単独では生存することができず、DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)といった遺伝情報はあるものの、自分自身で増殖する能力はまったくありません。
そこでウイルスは、ほかの生物の細胞に巧妙に侵入し、その細胞が本来もっている「遺伝情報の複製システム」を乗っ取って、自分自身のコピーを大量生産するという、極めて狡猾な戦略をとります。
■感染は「受容体」から起こる
多くの細菌やウイルスは、口や鼻、眼、皮膚の傷などを通じてヒトの体内に侵入します。しかし、侵入しただけでは感染は成立しません。
たとえば、インフルエンザウイルスの場合、喉や鼻の粘膜細胞に強固に付着する必要があります。もしこの付着が不十分であれば、喉の繊毛運動(異物や細菌を痰(たん)とともに体外へ排出する清浄機能)や唾液の洗浄作用、飲食物による物理的な洗い流しなどによって簡単に除去されてしまい、感染には至らないのです。
それに付着といっても、ただ細胞にくっついただけでは、細胞に入ることはできません。細胞表面に存在する「受容体(レセプター)」と呼ばれる特殊な分子構造との、精密な分子間相互作用によって実現されます。
受容体とは、その名のとおり「特定の分子を受け止める専用の受け皿」のような機能をもつ部位のことです。この受容体の有無、種類、発現量の違いが、感染の成立しやすさを大きく左右します。
たとえば、「鳥インフルエンザは、通常は人間に感染しない」という現象があります。これは、鳥インフルエンザウイルスが結合する特定の受容体が、人間の呼吸器系の細胞にはほとんど存在しないためなのです。
■受容体としての血液型抗原
ここで、私たちの血液型の話に戻りましょう。
一部のウイルスや細菌は、感染の最初の段階で、人間の細胞表面に存在する糖鎖に結合し、それを足がかりとして細胞内部への侵入を試みることが明らかになっています。つまり、糖鎖が病原体にとっての受容体として機能しているのです。
そして、ABO式血液型のA抗原・B抗原・H物質は、すべて糖鎖の一種です。つまり、何らかの細菌やウイルスが細胞に侵入する際には、A抗原やB抗原、あるいはH物質も「足がかり」として利用されているのです。
この考えにもとづくと、血液型による感染症への感受性(かかりやすさ)の違いを説明することができます。
たとえば、A抗原を受容体として利用するウイルスがあるとすれば、そのウイルスはA抗原を豊富にもつA型やAB型の人には感染しやすい一方で、A抗原をもたないB型やO型の人には感染しにくいということになります。
B抗原を受容体とする病原体であれば、B型やAB型の人が高リスクとなり、A型やO型の人は相対的に低リスクということになるでしょう。
そして、H物質(O型の基本構造)を受容体とする病原体の場合は、すべての血液型の人がある程度の感受性を示すものの、H物質の発現量がもっとも多いO型の人で感染リスクが高くなる可能性が考えられます。
このように、血液型抗原が感染症のかかりやすさに直接的に関わっている可能性があることが、現代の分子生物学的研究によって次第に明らかになってきているのです。
■ウイルスは血液型を選り好んでいる?
さらに最近の先端的な研究では、一部のウイルスが人間の消化管細胞表面に存在する血液型物質を「選り好み」し、特定の血液型の人により効率的に感染しようとしていることが判明してきました。
ABO式血液型に関連する抗原は、赤血球だけに存在するのではありません。心臓や肺、肝臓、腎臓などの主要臓器から、筋肉、骨に至るまで、全身のさまざまな器官や組織に分布しています。
とくに胃や小腸、大腸などの消化管の上皮細胞表面には、赤血球表面よりも高密度で血液型抗原が発現しています。
どうやら一部の「賢い」ウイルスは、感染対象として適切な細胞かどうかを判断するために、これらの血液型物質の違いを利用しているようなのです。
つまり、ウイルスが「この血液型の人は感染しやすそうだ」「この血液型は避けておこう」といった具合に、宿主を選別している可能性があるということです。
■ウイルスは感染した人の血液型情報を記憶する
ウイルスの増殖のしくみにも、血液型が深く関わっています。
ウイルスは宿主細胞に感染し、自己複製を完了した後、新たな感染拡大のために細胞外へと脱出していきます。このとき、感染した人の血液型情報を自分の表面に「記録」して持ち出しているのです。
まず、インフルエンザウイルスなどの一部のウイルスは、自分のコピーを大量生産しようとして、宿主の細胞(ヒトの細胞など)に寄生し、細胞内に自分の遺伝情報(DNAやRNA)を注入します。
そして、その細胞がもつシステムを利用し、ウイルスの構成タンパク質や遺伝物質を大量に合成(コピー)するのです。
やがて細胞がウイルスのコピーで満杯になると、細胞膜が破裂し、ウイルスのコピーが一斉に放出されます。この際、脱出するウイルスのコピーは、宿主細胞の細胞膜の一部を外側にまとった状態で出ていくのです。
つまり、A型の人に感染したウイルスは、A抗原の分子的特徴を表面に保持した状態で、次の感染対象を探しに行くことになります。
このA抗原の特徴をもったウイルスが別の人の体内に侵入した場合、どのような現象が起こるでしょうか。
その人がA型だった場合、体内の免疫システムは、A抗原の特徴をもつウイルスを「異物」として認識する能力が低下してしまう恐れがあります。
なぜなら、A型の人の免疫システムでは、A抗原を「自己の構成成分」として学習しているため、A抗原を表面にもつウイルスに対して警戒態勢をとりにくいのです。
その結果、免疫応答の開始が遅れ、感染が成立しやすくなると考えられています。
■A抗原もB抗原も「構成成分」として持つAB型
一方で、B型やO型の人の血液中には、A抗原に対する抗A抗体が豊富に存在しています。つまり、A抗原の特徴を表面にもったウイルスが侵入してきた場合、これらの抗A抗体が即座に反応し、ウイルスを中和したり凝集させたりして、感染の成立を阻止しやすくなると推測できます。
同様の理論は、B型の人に感染したウイルスがB抗原の特徴をもつ場合にも適用できます。今度はB型の人の感染リスクが相対的に高まり、抗B抗体をもつA型とO型の人は、B抗原を表面にもつウイルスに対してより強い抵抗力を示すと考えられます。
なお、AB型の人は、A抗原もB抗原も「自己の構成成分」としてもっているため、いずれの抗原を表面にもつウイルスに対しても、免疫学的な「寛容」を示してしまう可能性があります。
つまり、AB型の人は理論的にはどちらのタイプのウイルスに対しても、リスクが高い状態にあると考えられます。
反対に、O型の人はA抗原もB抗原ももたず、抗A抗体と抗B抗体の両方を保有しています。これは、表面にA抗原・B抗原をもつ、いずれのウイルスに対しても、効果的な免疫防御を展開できることを意味します。まさに「二重のガード」のような状態といえるでしょう。
そして、新型コロナウイルス感染症について、世界各国で行われた大規模調査から、こんな事実が明らかになっています。
「血液型がO型の人は、新型コロナウイルスに感染しにくく、重症化もしにくい」「血液型がA型の人は、新型コロナウイルスに感染しやすく、重症化もしやすい」
ここで説明した理論モデルは、この調査結果と一致していますね。
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深瀬 浩一(ふかせ・こういち)
大阪大学名誉教授
1960年、岡山県生まれ。大阪大学大学院博士後期課程修了・理学博士。大阪大学大学院理学研究科教授、理学研究科長、大阪大学理事・副学長、大阪大学総長参与を歴任。2025年、大阪大学名誉教授。専門は糖質化学、有機合成化学、生体分子化学。2025年4月より、大阪大学放射線科学基盤機構特任教授として、自然免疫活性化分子・ワクチン・新規免疫療法の開発ならびにがんの核医学治療研究を進める。
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(大阪大学名誉教授 深瀬 浩一)

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