中学受験をする子供の勉強に、親はどう関わればよいのか。プロ家庭教師集団・名門指導会代表の西村則康さんは「自らも中学受験を経験した親と、未経験の親とで異なる落とし穴がある」という――。

■高学歴な父の「落とし穴」
中学受験に「親の学歴はどのくらい影響を与えるのか」という質問をよく受ける。結論から言うと、親の学歴が高いからといって、有利に働くことはあまりないと感じている。むしろ、親が高学歴のために、子供を苦しめてしまうケースは少なくない。近年、特に悪目立ちしているのが、自身も中学受験を経験し、難関中高一貫校から難関大学へ進学した、いわゆる高学歴の父親の存在だ。
ひと昔前までは、中学受験といえば、母と子の二人三脚が主流だった。しかし、10年ほど前から公立不信の波が押し寄せ、首都圏では中学受験者数が急増。そんな中、コロナ禍でリモートワークが広がり、これまで子供の受験にノータッチだった父親が関与するようになった。
子供の受験に父親が積極的に関わることは、とても良いことだと思う。しかし、そのやり方を間違えると、母と子が疲弊する。特に高学歴な父親がやりがちなのが、自身の成功体験をそのまま子供に強制してしまうことだ。
■親世代とは入試問題が大きく違う
今、小学生の親世代にあたる40代が小学生だった頃、つまり約30年前の中学受験は、知識の多さと処理能力が重視されていた。そのため、たくさんの問題を素早く解く力をつけるためのトレーニングを行うことが受験勉強だった。
このやり方は大学受験でも通用した。そのため、難関中高一貫校から難関大学へ進んだ高学歴の父親たちは、わが子の受験でも同じように、大量の問題をくり返し解かせようとする。自分の成功体験が絶対だと信じているからだ。
しかし、近年の中学受験は、思考力や記述力を問う問題へとシフトチェンジしている。つまり、親世代の中学受験とは、入試問題の質が大きく異なっているのだ。ただ、知識量や解き方のテクニックは以前よりも易しくなっているため、すでに多くの解き方や考え方を知っている大人からすれば、簡単に感じるものもある。そして、いつまでも成績が上がらないわが子を前に、「なぜこんな簡単な問題が解けないのだ」と責め立てるのだ。
さらには、わが子の成績の低迷の原因は、「母親の管理が甘いからだ」と妻に怒りの矛先を向ける父親もいる。こうなってしまうと、「威圧的な父親」と「萎縮する母と子供」という構造になりやすい。今、家庭教師界でもっとも頭を悩ませるのは、この手のパターンだ。
■細かく学習スケジュールを立てて管理
そういう家庭では、父親がこと細かに学習スケジュールを立てる。しかし、その内容は、小学生の学力、体力、気力を遙かに超えている。
だが、すべてを終わらせないと父親に叱られるので、子供はとりあえず覚えて、作業をするというアタフタ学習に陥ってしまう。すると、子供から笑顔が消えていく。
表面上だけの学習は、知識として定着せず、それをもとに考える思考系の問題に太刀打ちできないのはもちろんのこと、基礎的な問題でもぼろぼろ抜けが出る。当然、成績は上がらない。そして、さらに父親の管理が厳しくなる。このように、負のスパイラルが続いていく。
■つい「キレ気味」になってしまう母
一方、近年は高学歴の母親も増えている。この場合、面白いことに2つのパターンが見られる。1つは、わが子ができないことに腹を立てるパターンだ。ただ、高学歴の父親と違うのは、自分の成功体験で得たやり方を押し通すことはない。基本的には塾のカリキュラムに則って、受験勉強をサポートする。ただ、ケアレスミスをしたり、何度も同じような問題を間違えたりすると、「なんでこんな問題でミスするのよ!」と、あふれ出る感情が抑えきれず、ついキレ気味になってしまうところがある。

もう1つは、自分は成績が良かったけれど、自分とわが子は別の人間と理解した上で、受験サポートをする母親だ。こういう母親はわが子をよく見ていて、子供のペースに合わせた学習をさせるので、うまくいっているケースが多い。自分が教えられるところは教えるけれど、基本的には勉強は塾に任せ、自分は子供が気持ちよく勉強ができるように、わが子のモチベーション維持に励む。共感力が高いという点で、高学歴の父とは一線を画す。ただ、そう多くはめぐり会えない。
■中学受験をしていない親の注意点
では、親が中学受験未経験者、もしくは取り立てて高学歴ではない場合は、どんな傾向が見られるか――? これも2つのパターンに分かれる。
1つは中学受験に対して無知な故に、SNSなどの情報に振り回されやすいパターンだ。特に地方出身の親は、首都圏にどんな学校があるかを知らず、とりあえず名前が知られた有名校を目標にしたがる。また、高校受験しか知らない人は、目標校は1つという考えに陥りやすい。
しかし、高校受験と違って、中学受験は準備に多くの時間を要する。最低でも3年間は必要といわれている中で、目標を1つに絞ってしまうのは、非常に危険だ。ある程度の目標校を設定しておくのはいいが、4年生~6年生の3年間かけて、日々無理なく学習を進め、6年生の夏時点の学力で、受験校を決めていくというのがいいだろう。
目標ありきで進めていくには、あまりにも先の未来過ぎて、頑張り続けるのが難しいからだ。
また、成長発達の途中にいる小学生は、成熟度も成績に大きく関係しており、必ずしも頑張れば結果につながるというわけではない。このように、小学生特有の受験であることをよく理解した上で、挑戦させてほしい。
■塾の宿題との「程よい距離感」がわからない
今の時代、中学受験には塾が不可欠だ。なぜなら、塾のカリキュラムは受験に必要な内容を一通り網羅しているからだ。しかし、塾から言われるがまま大量の宿題をやろうとすると、いずれ破綻する。そこで、子供の現時点での学力に応じて、取捨選択をしていかなければならないのだが、多くの親はそのさじ加減が分からず、とりあえず全部やらせようとしてしまう。特に中学受験を経験したことがない親にその傾向が強い。自分が経験したことがないから、「受験のプロである塾に任せるしかない」という発想だ。近年の中学受験親の多くが、ここに該当する。
一方で、「こんな難しい問題、小学生の子供に分かりっこないから、塾の宿題なんてやらなくていい」と言い放ち、放棄してしまう親もいる。だからといって、受験をやめるのかというと、そういうわけでもなく、ただ塾に通わせているというケースも実は少なくない。
また、子供自身も塾に行けば友達がいるといった理由で、塾通いを望む。
こうなってしまうと、塾は習い事の1つ、もしくは学童代わりという感覚になってしまう。全体から見れば少数派ではあるが、こういう存在も無視できないのが、今の中学受験なのだ。
■「自分とは違う」わが子をよく観察する
中学受験の指導をするようになって40年以上が経つが、ここ10年ほど、本当にいろいろな親がいるな、と感じている。かつての中学受験は、親子代々で同じ学校へ通わせたい、将来的に医師を目指させたいなど、ごく限られた家庭が行うものという印象があったが、今はさまざまな理由で受験をするようになっている。
ここまで、中学受験経験者の親と未経験者の親のそれぞれの傾向を挙げてきたが、どちらが良いか悪いかというものはない。ただ、どちらもそれぞれに陥りやすい傾向があることを知っておいてほしい。わが子の中学受験に親の学歴は関係ない。大事なのは、自分とわが子は別の人間であること、また大人と子供とではできることとできないことがあることを理解した上で、目の前にいるわが子をよく観察することだ。
■毎日「良くなっていること」を探す
人生経験が豊富な大人と違って、小学生の子供は遠い未来に向かって頑張り続けることはできない。そのため、親のサポートは「何をやらせるか」よりも「どのように進めていくか」が重要になる。遊びたい盛りの小学生を毎日コツコツ勉強に向かわせるには、子供が気持ちよく勉強ができるようにしてあげることが大切だ。

大人からすると、覚えたことをすぐ忘れたり、ケアレスミスが多かったりと、ちっとも成長していないように感じるかもしれないが、よくよく観察すれば、毎日何かしら良くなっていることが見つかるはずだ。
例えば、今までは適当に書いていた漢字のハネがきちんと書けるようになった。途中式を書くのを面倒くさがっていたのが、書くようになったなど、どんな些細なことでもいいから、良くなった点、良くなりつつある点、良くなりそうな予感がする点に目を向け、そこを褒めてあげてほしい。この小さな、小さな前進の積み重ねが、やがて確かなものへと変わっていく。そう信じて、子供のサポートをしてあげてほしい。
「受験とはこうあるべきだ」という親の先入観があると、中学受験はうまくいかない。いろいろな情報が飛び交う昨今だが、誰かの子供の成功談ほど当てにならないものはない。余計な情報は遮断し、とにかく目の前のわが子をよく見て、伴走してあげてほしい。

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西村 則康(にしむら・のりやす)

中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員

40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。新著『受験で勝てる子の育て方』(日経BP)。

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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)
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