国語の「記述問題」の重要度が増している近年の中学受験。難関校に多くの合格者を出している塾ではどのように指導しているのか。
東京・神奈川に14校を展開するエルカミノで講師をしていた大前真由美さんが実際に桜蔭中高で出題された問題の模範解答と、正解に見えるが間違っている解答を紹介してくれた――。
※本稿は、大前真由美『中学受験塾 エルカミノがわかる本 元講師が教える「考える力」を育てる塾のすべて』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■記述を重視
近年の中学入試では、記述問題の比重が以前にも増して高くなっています。エルカミノの6年生の国語でも、記述に重きを置いて指導しています。
参考までに、御三家の記述問題の割合を見てみましょう(2025年度入試)。高い順に、開成は85点満点中約70点(約82%)、桜蔭は100点満点中約80点(約80%)、武蔵は100点満点中約80点(約80%)、麻布は60点満点中約35点(約58%)、女子学院は100点満点中約40点(約40%)、雙葉は100点満点中約30点(約30%)が記述問題です。6校の平均は60%を超えています。
記述の比重が高い傾向は御三家に限りません。ほかの難関校でも同様です。合否は記述の出来不出来にかかっているといえます。
■2025年度の桜蔭の記述問題
エルカミノの記述指導では、模範解答を目指して書き直すのではなく、生徒本人の答案をもとに、何をどのように直していくかを伝えることを大切にしています。
そのためには、どのような記述が得点になり、どのような記述が得点にならないかを正しく見極める必要があります。
2025年度の桜蔭中学校の入試問題を例に見ていきましょう。エルカミノで毎年開催している志望校別講演会の資料から抜粋します。
2025年度 桜蔭中学校

『〈弱いロボット〉から考える 人・社会・生きること』(要約)
筆者は、手作りしてきた「ゴミ箱の姿をしたロボット」を子ども向け施設に連れ出す。そのロボットは、「ポリバケツ」そのものという姿でヨタヨタと動きまわるだけで、自分ではゴミを拾えない。ところが一人の子どもがいたずらからゴミを投げ入れると、ゴミ箱ロボットはお礼をするようなしぐさをする。このことをきっかけに、他の子どもたちも一緒になってゴミを拾い集めてきてゴミ箱はいっぱいになってしまう。そのうち一人の子どもがその場を仕切り始め、色分けされたゴミ箱に分別してゴミを入れるようになる。
こうしてロボットとしては不完全であるからこそ、放っておけないという気持ちを引き起こさせ、子どもたちに活躍の場をたくさん与えることとなった。
ロボットの開発にあたっては、多くの場合その機能や能力の隙間を埋めようと工夫し「ひとりでできるもん!」を究めようとするが、想定外のことに対しては脆弱であり柔軟性に欠けてしまう。ところが「ゴミ箱ロボット」は、弱さをさらけ出すことで子どもたちの器用にゴミを拾い集めるという強みややさしさや工夫まで引き出した。不完全なロボットは、お互いの弱さを補いあいながらそれぞれの強みを引き出しあう「しなやかな強さ」を持っている。
「注文をまちがえる料理店」というレストランがあり、ホールスタッフの多くは認知症の方々で、「注文をまちがえるかも」と弱さをさらけ出すことによって、客と店員という立場を越えて助け合い「しなやかなシステム」を作り上げている。

またハサミはわたしたちの手の働きを得ることによって、人間の手だけではできないひもなどを断つことを可能にしている。このように素朴な道具はわたしたちとの協働によってしなやかな関係を作っているからこそ、世の中から淘汰されず重宝されている。

■桜蔭の記述問題の模範解答
問四 (文中の)「〈しなやかな強さ〉というのは、こういう関係の中から生みだされるようです。先の『ひとりでできるもん!』と強がっているはずでも、実は『とても脆(もろ)い』ことと対照的に思われるのです。」について、「しなやかな強さ」が「とても脆い」ことと対照的とはどういうことですか、具体的に説明しなさい。
模範解答欠けている機能や能力を埋めたり、新たな機能を追加したりしてロボットが自分の力で事態をのりこえる完全さを究めようとしても、想定外のことが起こると対応できず脆さを露呈する。弱みのあるゴミ箱ロボットが子どもの手助けを引き出したように、不完全なもののほうが互いの協働を生み、弱さを補い合って柔軟な強さを引き出すということ。

なお、この模範解答は学校が発表しているものではなく、エルカミノで用意したものです。講演会では、続いて「よいように見えて実はよくない解答」を資料に載せています。
よいように見えて実はよくない解答
ロボットに機能や能力の欠けているところがあるなら新たな機能を追加し完成度を上げていくが、やはり想定外のことが起こると立ち往生してしまう脆弱さが露呈される。ゴミ箱ロボットなのに、自分ではゴミを拾えないし見つけることもできない弱さを見せると、そばにいた子どもたちの手助けを引き出して子どもたちに活躍の場を提供し協働を生む。

保護者には「この記述をお子さんが書いていたら、少なくとも△はもらえそうと安心してしまいませんか? でも、部分点すらほとんどもらえません」というお話をしています。では、どこが問題なのでしょうか。

この問いで聞かれているのは、「完全と思われるロボットにはできないが、不完全なゴミ箱ロボットにはできている」ことの説明です。
完全を求めて完成度を上げていくロボットは、誰の力も借りず自分だけで完結できるよう、さらなる「足し算のデザイン」を施されます。しかし、想定外の事態には立ち往生してしまいます。
一方、ゴミ箱ロボットは自分でゴミを見つけることも拾い上げることもできない不完全なロボットです。しかし、不完全であるがゆえに、子どもたちの手助けを引き出し、結果、ゴミを拾うという目的を達成します。
まずはこのように対立構造を明らかにします。
そのうえで、「よいように見えて実はよくない解答」の問題点を見ていきましょう。
■なぜ正解のように見えて実はよくないのか?
よくない理由は、大きく2つあります。
1つ目は、ゴミ箱ロボット自体が不完全であるという内容が不足していることです。解答の「ゴミ箱ロボットなのに、自分ではゴミを拾えないし見つけることもできない弱さを見せる」という部分を、「ゴミ箱ロボットは自分ではゴミを拾えないし見つけることもできない不完全なものだが」と書き直す必要があります。こう変更することで、完全を求めるロボットとの対照性が明確になり、対立構造に気づいていることを採点者に伝えられる記述になります。問いに書いてある「対照的」「具体的」にも対応します。

2つ目は、結論が不十分なことです。脆さを「ゴミを拾えない」、強さを「ゴミを拾える」と対照的にとらえていますが、ここで重要なのはただの強さではなく「しなやかな強さ」です。そのため、記述の終わりが「協働を生む」では不十分です。「協働を生む」ことはゴミが拾えるようになる「強さ」かもしれませんが、この問いの答えは「協働によってしなやかな強さが引き出される」ということです。問いの「しなやかな強さ」に応え、「協働を生み出す柔軟な強さを発揮する」と結ぶ必要があります。模範解答のような「弱さを補い合って」まで書ける子は少ないですが、「柔軟な強さ」は必ず入れたい要素です。
生徒たちには、本文中の「脆弱さが露呈される」「協働」といった言葉をきちんと見つけて使えている点を評価したうえで、正しい文章と比べて何が足りなかったのかを指摘していきます。
ここまで細かく指導するのか、と思われた方もいるかもしれません。エルカミノの方針として、難関校の入試では、国語の採点基準はかなりシビアだと考えて指導しています。学校が入試後に公開している平均点や合格最低点を見ても、それがわかります。なんとなく合っているからOK、という採点はしません。

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大前 真由美(おおまえ・まゆみ)

フリーライター

筑波大学第二学群(現:人文・文化学群)比較文化学類卒業。
一般企業勤務を経て、二人の娘を育てながら生活情報誌の編集ライターに。その後、中学受験関連書籍などを手がけるフリーライターとして活動。SAPIX講師を経て、エルカミノで約15年間、高学年の国語と低学年クラスを担当した。自身も中学受験経験者であり、娘の中学受験にも母親として伴走した。趣味はピアノとゴルフ。

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(フリーライター 大前 真由美)
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