何歳になっても衰えない人は何が違うか。脳内科医の加藤俊徳さんは「80歳を過ぎても50代なみの認知機能を維持している『スーパーエイジャー』は、『脳にストレスの攻撃を受けていない人』といえる。
元々の性格もあるが、性格はいくつになっても変えられる」という――。
※本稿は、加藤俊徳『80代でも若返る脳』(新星出版社)の一部を再編集したものです。
■「若返る脳」でスーパーエイジャーへ
脳の最盛期は40代後半から50代といわれています。
この年代は、若い頃の経験が花開くとき。気力体力、脳力も十分で、まさに脂が乗った働き盛り、円熟のときといっていいでしょう。
しかし、脳にとってはこの年代がピークではありません。50代の脳“脳力”のまま生きる70代、80代の方もいるのです。
80歳を過ぎても50代なみの認知機能を維持している方々を「スーパーエイジャー」と呼びます。彼らは、集中力、記憶力、理解力、判断力といった認知機能(脳貯金)に衰えがみられません。その脳は成長し続けています。
認知機能と年齢の関係を示した下図をご覧ください。
「①スーパーエイジャー」「②普通の人」「③認知症になる人」それぞれの認知機能が年齢とともにどう変化していくかを簡易的にあらわしてみました。

グラフの縦が認知機能の高低で、80歳横が年齢です。「①スーパーエイジャー」の認知機能を示す線はほぼ水平。「②普通の人」は60代から下がりはじめるもののカーブは緩やか。しかし、「③認知症になる人」では急激な降下を見せます。
そして認知症デッドラインを軽々と越えて下がっていきます。この認知症デッドラインをまたげば誰でも認知症になるのです。つまり脳貯金が減ると認知症に近づくのです。
一般的に60代から少しずつ認知機能が落ちはじめるのですが、「①スーパーエイジャー」は下がらないのです。
認知機能をキープするスーパーエイジャーの進化は止まりません。
次なるステージは?
──それが「センテナリアン(centenarian:100歳以上の長寿者)」です。
順調に年齢を重ねたスーパーエイジャーは、「センテナリアン」へと進化していきます。
読者の皆さんにも、「スーパーエイジャー」から「センテナリアン」への道を進んでほしいと思っています。

■自由な精神をもつ、人生を楽しむ達人
もう22年前になりますが、NHKスペシャル「老化に挑むあなたの脳はよみがえる」に、脳科学監修として関わる機会がありました。
この番組では、さまざまなスーパーエイジャーが紹介されたのですが、その生き様──脳の働かせ方──に感銘を受けた私はひとつの結論に至ります。
「スーパーエイジャーは、自由な精神をもち、ほがらか・おおらか、人生を楽しむ達人である」(とても前向きなので「ポジティブエイジャ―」といわれることも)。
「脳」は本来、成長を続ける器官であるはずです。それなのに「成長を止める=認知症」になるのはなぜか?
22年前、私は日々、楽しく明るく暮らしているスーパーエイジャーの姿から「ストレスフリーが健康長寿の秘訣。ならば、脳の老化を加速させるのはストレスである」と考えました。
現実に、海外で数々の賞を受賞したあのNHKの番組以降、私の予測を裏づける研究報告が世界の認知症研究者から続々と発表されるようになったのです。
例えば、ストレスと海馬の関係。
強いストレスに直面するとコルチゾールというホルモンが分泌されます。コルチゾールには脈拍や血圧を上げる作用があり、体を緊張状態に保ってストレスに対抗しようとするのです。
強いストレスに長期的にさらされるとコルチゾールの分泌量が増えてしまい、大量に分泌されたコルチゾールは脳の海馬の神経細胞を傷つけ、海馬を萎縮させてしまいます。
海馬とは記憶を司る部分であり、その萎縮は認知症の初期症状にあたります。
過度なストレスが認知症の一因であることは確かなのです。
■脳の使い方のクセを変える
さて、こう見ると、スーパーエイジャーたちは「脳にストレスの攻撃を受けていない人」といえます。しかし、それはスーパーエイジャーが、ストレスから隔離された世界を生きているという意味ではありません。
スーパーエイジャー──人生の達人たち──は、ストレス処理の達人なのです。ストレス処理に長けているのは「元々の性格」もあります。
「性格なのかあ」とがっかりした方。大丈夫、性格は変えられます。いくつになっても変えられます。「性格」とは「脳の使い方のクセ」といい換えられるからです。
スーパーエイジャーの特質ともいえる「明るく前向きな性格」になるのは、実は難しいことではありません。
最も簡単で確実なのは、「光」と「運動」で「前向きになるスイッチ」を入れて脳に働きかける方法です。
■「光」と「運動」で脳に貯金する
太陽の光が網膜から入ると、その刺激がきっかけとなってセロトニンが分泌されます。

セロトニンは別名「幸せホルモン」とも呼ばれ、ストレスの緩和、疲労の解消などの作用があり、「明るく前向きな性格」づくりに必須の存在です。
セロトニンが不足すると意欲も低下し、ストレスをダイレクトに感じるようになってしまいます。その結果イライラ、不安、不眠、うつといった症状に見舞われるのです。
私は、日光にあたってセロトニン分泌を促してストレス耐性がついた状態を「光貯金がたっぷりある」と表現しています。反対に、セロトニン不足で元気がないのは「光負債を抱えている」状態です。
もちろん、スーパーエイジャーは光貯金をたっぷりもっています。
なぜか?
皆さん例外なく「朝型」の生活スタイルであり、日光を浴びながら屋外で活動するのが日課だからです。
労働を現金化して蓄えるには時間がかかりますが、光貯金は実にスピーディーにたまります。そしてシンプルです。
日光にあたってセロトニンの分泌を促し、「ああ、幸せだな」という実感を日々もてばいいのです。光貯金が増えるほどに性格は前向きになり、ストレス耐性もついていきます。
つまり、ストレスの攻撃を受けない、スーパーエイジャーの脳に近づいていくわけです。

■運動でドーパミンが出ると前向きな性格に
興奮したときや集中力が高まったとき脳内に放出されるドーパミンは意欲や元気の源ともいえる存在です。
ドーパミンが増えると、楽しい・嬉しいといった感情が生まれ、ポジティブで活動的な気分になります。
「気分」は一過性のものですが、毎日、その気分が続くのなら、それはもう立派な「性格」。
明るい気持ちをキープするドーパミンを分泌するには「運動」が有効です。
「運動貯金」を蓄えるために私がおすすめするのは、「朝日を浴びながらのウォーキング」。朝日を浴びてセロトニンの幸福感を噛み締めながら、リズミカルに歩を進めてドーパミンの高揚感に包まれれば、自然と前向きな気持ちになるのです。
暮らしのなかで、ちょっとした心配ごとや不安がよぎることがあります。そんなときはあれこれ解決策を考えるのではなく体を動かしてください。ドーパミンの効力を実感できるはずです。
筋肉の反応、息づかい、汗ばむ皮膚などの変化を感覚総動員で追うと、よけいなことを考える余裕はありません。
ドーパミンの分泌も進むので、自然と考えも前向きになります。運動でひと汗かいた後は、心が軽くなり心配事に冷静に対処できるようになるのです。

「運動貯金」をコツコツ増やして毎日を前向きな気持ちで過ごせるようになったら、筋力アップ・体力アップという利子もしっかりついてきます。
老後のために「貯金」に励むことは当然のことと考えられていますが、お金の貯金と並んで老後の健やかな生活を支える大事な脳の蓄え(脳貯金)の源となるのが「光貯金」と「運動貯金」です。
ご自分を「心配性」「不安を感じやすい」「ストレスに弱い」と捉えている方は、すでに脳貯金が減っていて「光負債」と「運動負債」を抱えている状態です。
朝日を浴びて運動をして、マイナスからプラスにひっくり返しましょう。収入があっても、なくても、朝は必ずやってきます。光貯金と運動貯金は、誰でも必ずできるのです。

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加藤 俊徳(かとう・としのり)

脳内科医、加藤プラチナクリニック院長

新潟県生まれ。医学博士。株式会社「脳の学校」代表。昭和医科大学客員教授。脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニング、助詞強調おんどく法の提唱者。14歳のときに「脳を鍛える方法」を知るために医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。加藤式MRI脳画像診断法を用いて、脳の成長段階、強み弱みを診断し、これまでに1万人以上を治療。著書には、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)、『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『悩みのループから解放される!「執着しない脳」のつくり方』(大和書房)などがある。
※「脳番地」(登録第5056139 /第5264859)は脳の学校(登録4979714)の登録商標です。

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(脳内科医、加藤プラチナクリニック院長 加藤 俊徳)
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