仕事のできる上司は部下にどう接しているのか。元Googleの人材開発責任者で起業家のピョートル・フェリクス・グジバチさんは「上司の立場にあるならば、『人は管理できない』と考える必要がある。
残念な上司は、部下を子分のように考えて、『自分起点で考え、自分の思い通りに動かそう』と考える」という――。
※本稿は、ピョートル・フェリクス・グジバチ『世界の一流は「部下」に何を教えているのか』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■「人は管理できない」と考える必要がある
日本企業では、係長や課長の立場にある上司を「中間管理職」などと呼びますが、僕は上司にとって最も難しい仕事は「管理」だと考えています。
多くの上司が、自分の仕事は「部下を管理することだ」と考えがちですが、それは明らかな勘違いです。
上司に求められているのは、仕事の「プロセス」の管理であり、その先にある「成果」の管理です。
成果を出すための「売り上げ」や「予算」、「労働時間」や「リソース」などの管理を会社から求められているのであって、部下を管理することは含まれていません。
なぜならば、人が人を管理することは、仕事の領域を遥かに超えるほど、複雑で困難を極めるからです。
あなたに配偶者や恋人がいるとしたら、パートナーから管理されたいですか?
「今日は何をやりなさい」とか、「会社からは何時に帰りなさい」などと事細かく管理されたら、息苦しいだけで、仕事をする気力や意欲がなくなってしまいます。
会社はそんなムチャなことを、上司に求めてはいないのです。
上司の立場にあるならば、「人は管理できない」と考える必要があります。
優秀な上司は、部下を一人の人間として捉えて、 「相手起点で考え、部下を生かす方法」 を考えます。
残念な上司は、部下を子分のように考えて、「自分起点で考え、自分の思い通りに動かそう」と考えます。

この違いを理解しておくことが、部下が最大のパフォーマンスを発揮できる場を提供することにつながります。
■AI時代における上司の役割
あなたが上司の立場にあるならば、自分の強みがどこにあり、どの部分が不足しているのかを客観的に見つめ直す必要があります。
上司が果たすべき主な役割には、次のような5つの項目が挙げられますが、これらすべてに共通して 「ワークデザイン」(仕事の設計)という視点が不可欠です。
①チームの課題設定とビジョンの共有
上司はチームの課題や方向性を明確に提示し、部下の個別の目標と組織の目標を擦り合わせることで、部下が最大のパフォーマンスを発揮できる場を提供しなければなりません。
その取り組みの出発点となるのが、アウトプット(成果)の明確化です。
誰が担当するのか、どれだけ努力するかを検討する前に、上司は「チームが生み出すべき成果とは何か?」 を定義する必要があります。
・このチームが生み出すべき成果とは何か?

・その成果を出すために、必要なインプットは何か?

・人の判断が必要な仕事は何か?

・人がやらなくていい仕事は何か?
これらの要件が曖昧なままでは、チームの仕事は、目的のない忙しさに追われるだけで、何の成果も生み出さずに終わってしまいます。
AIの活用が前提となる現代では、ビジョンを示すことの本質は、何を人間が担い、何を自動化・削減すべきかを決断することにあります。
すべてのプロセスを人の判断に委ねれば、一つひとつの判断の価値は低下します。それとは反対に、判断の余地がまったくない仕事ばかりを強いたのでは、部下は何も成長することなく、やりがいも感じられません。
適切な線引きを行うことが、現代の上司にとって極めて重要な職務となっています。
■個人の成長を決定づけるのは「実体験」の質
②人材育成・能力開発
上司は、ティーチング(教える)やコーチング(引き出す)、フィードバック(伝える)を適切に使い分け、部下の思考力や問題解決能力を高めていく必要があります。

人間は言葉で説明されるだけで、成長するわけではありません。
個人の成長を決定づけるのは、どのような仕事を、どのような設計で経験しているかという「実体験」の質です。
仕事が細かく分断され、失敗の余地も、責任も伴わない状態では、自ら考えて決断する判断力は養われません。
その一方で、不確実性を含む仕事を任されれば、部下は否応なく思考を深め、成長を遂げることになります。
ここで留意すべきは、AIは個人の学習やフィードバックを強力に支援できますが、経験そのものを代替することはできないという点です。
上司は学びにつながらない作業を徹底的に削減・自動化して、部下の判断力が鍛えられる仕事を意図的に設計しなければならないのです。
③パフォーマンス管理
部下の成果を最大化する環境を整えるためには、プロセスではなく、「結果」を正しく評価して、組織としての公平性と一貫性を保つ必要があります。
その際、評価者である上司は、「インプット」、「アウトプット」、「アウトカム」という3つの要素を混同しないことが大切です。
・「インプット」(努力、時間、作業量)

・「アウトプット」(成果物、判断、意思決定)

・「アウトカム」(ビジネスへの影響)
インプットは、仕事に費やした努力や時間、作業量といったリソースの投入を指しており、アウトプットは、具体的な成果物や現場で下された判断、意思決定そのものを意味します。
アウトカムは、それらの活動が最終的に業務に対してどのような影響をもたらしたかという価値を指します。
これらの概念が整理されていない状態では、評価基準が単なる「忙しさ」や「頑張っている感」といった主観的な印象に引きずられて、正当な評価の妨げになります。
仕事が適切に設計され、「何をもって成果とするか?」という定義と判断ポイントが明確になっていれば、部下は自律的に動くことが可能です。

このような基盤を構築することで、AIは人間の判断を歪める存在ではなく、成果をさらに増幅させるための強力な存在となります。
■成果を出すための「ワークフロー」の設計
④チーム・マネジメント
コミュニケーションを活性化し、偏りのない情報共有を通じてチームの連携を強化することは、チーム全体の生産性を向上させるために不可欠です。
真のチームワークは、会議の回数を重ねるだけで生まれるものではありません。
成果を出すための鍵を握っているのは 「ワークフロー」の設計です。
具体的には、 「どこで意思決定を行うのか?」、「どの時点で上司にエスカレーションすべきか?」、「何を共有し、何は共有しなくてよいのか?」 という3つの基準を明確に定義する必要があります。
これらの判断基準が曖昧なまま放置されれば、予期せぬ事態の対応がすべて上司に集中し、結果としてチームの機能は停止します。
反対に、仕事の流れが論理的に設計されていれば、上司が現場に細かく介入しなくても、チームは自律的かつ円滑に回り始めます。
この課題は、メンバーのやる気といった個人の精神論に帰結させるのではなく、「組織の構造をいかに客観的に構築するか?」という仕組みの問題として捉えることが大切です。
■安心して挑戦できるための土台
⑤信頼関係の構築
部下の意見に真摯に耳を傾け、サポートの姿勢を示すことで、お互いの信頼関係を構築し、部下の自律性を促します。
信頼関係は、優しさだけで生まれるものではありません。
信頼の土台となるのは、業務における予測可能な仕組みです。
まずは、「自分の判断領域がどこまでなのか?」が明確である必要があります。

次に、「何が自動化され、何が人の判断に委ねられているのか?」という境界が定義されていなければなりません。
何をもって、「正当に評価されるのか?」という基準も不可欠です。
これらの条件が整うことで、部下は初めて安心して挑戦できるようになります。
AIが組み込まれた職場環境では、信頼のあり方は個人の「人柄」以上に、こうした「設計の透明性」によって決まるのです。

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ピョートル・フェリクス・グジバチ(ぴょーとる・ふぇりくす・ぐじばち)

プロノイア・グループ代表

TimeLeap取締役。連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。ポーランド出身。モルガン・スタンレーを経て、グーグルでアジアパシフィックにおける人材育成と組織改革、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。2016年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、2020年にエグジット。2019年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。『ニューエリート』(大和書房)ほか、『0秒リーダーシップ』(すばる舎)、『PLAYWORK』(PHP研究所)など著書多数。


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(プロノイア・グループ代表 ピョートル・フェリクス・グジバチ)
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