20代で十分な年収と貯蓄があれば、この先の妊娠出産やマイホーム購入も十分可能だろうか。FPの中村哲規氏は「今は盤石そうな家計でも、案外『隠れリスク』を抱えていることがある。
具体例を挙げるので参考にしてほしい」という――。
※本稿は、中村哲規『お金より先に“生き方”の話をしよう 後悔しないためのライフプランニング』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■20代共働き夫婦の家計を見直す
【新婚共働き夫婦】

・夫:会社員・29歳・年収575万円

・妻:会社員・28歳・年収300万円

・金融資産:銀行680万円・NISA30万円

・ご相談:出産・住宅購入のために家計全体を見直したい
ご紹介するのは、都内在住、新婚で共働きのご夫婦の事例です。
夫の拓海さんは29歳、開発職に従事されています。妻の里美さんは28歳、医療事務のお仕事をされています。
拓海さんの年収が575万円、里美さんが300万円。保有している金融資産は710万円(銀行預金680万円+NISA30万円)でした。預金のうち200万円は、間近に控えた結婚費用に充てる予定です。
ご相談の入口は、これからの暮らしが楽しみな一方で、ふと不安がよぎる、といった温度感でした。結婚して目の前の生活は順調ですが、結婚式はこれからで大きなお金が動きます。いずれはマイホームも購入したい。子供は2人くらい欲しい。
一方でSNSや周囲を見ると、教育資金や老後資金など不安な情報ばかり。「みんなどうしてるんだろう」「うちはどのくらいのペースで進めればいい?」と、期待と不安が同時に膨らんでいました。
収入も貯蓄もあり、一見すると問題がないように見えます。しかし、詳しくヒアリングを行いライフプランを可視化すると、家計の「隠れリスク」が見えてきました。
■この先の「家計が崩れる兆し」を発見
ご夫婦の生活費は、基本生活費に加え、お車のローンが月10万円(2年後まで)、維持費が年40.8万円、さらに旅行費として年35万円を計上されていました。
それでも家計が大きく崩れていなかった背景には、拓海さんの勤務先から支給される月8万円の家賃補助が大きく寄与していました。実際の家賃負担は月10.8万円に抑えられており、この制度が家計の安定を支えていたのです。
ただし、この家賃補助には34歳までという期限がありました。さらに、お二人のライフプランでは2年後と4年後にお子様の誕生を想定しており、里美さんは産休・育休取得後、時短勤務によって年収250万円程度になる見込みでした。
つまり、住居費の負担増と、出産・育児による支出増加、さらに世帯収入の一時的な減少が重なる35歳前後は、家計にとってひとつの大きな転換点になると考えられました。
また、保障面にも見直しの余地がありました。お二人とも医療保険には加入していたものの、社会人1年目に入ったままで、その後の生活変化に応じた確認がされていない状態でした。
加えて、今後お子様を迎えるライフプランを踏まえると、万が一の際に家族の生活をどう支えるかという観点で、死亡保障も含めた保障全体の再整理が必要な段階に入っていました。
■ライフプランをもとに家計の優先順位を整理
つまりこのケースでは、金融資産そのものは十分にありましたが、住宅資金、教育資金、当面の生活防衛資金といった目的別の整理が十分ではなく、どの資金を何のために残すのかが見えにくい状態でした。だからこそ、資産を「増やすこと」だけでなく、「使う目的ごとに整えること」が、このご家庭にとって重要なテーマだったのです。
そこでまずはご夫婦の希望や不安を整理し、出産、住宅購入、働き方の変化といった将来の出来事を織り込んだライフプランを作成しました。
その上で、どのタイミングで家計に変化が起こりやすいのか、いまある資産をどう位置付けると判断しやすくなるのかを確認しながら、家計全体の優先順位を整理していきました。
① 住宅購入の目安をライフプランから確認する
住宅購入については、「いくらまで借りられるか」ではなく、「購入後も無理なく暮らしを続けられるか」という視点から整理しました。
出産後の働き方や教育費、今後の積立余力も含めて確認していくと、このご家庭では住居関連費を月15万円前後に収められるかどうかが、ひとつの目安になることが見えてきました。
その前提で、当時の金利水準や返済期間などを踏まえて試算すると、購入価格は5000万円前後が現実的な水準として整理できました。
もちろん、住宅は価格だけで決められるものではありません。希望するエリアや広さ、住環境を優先すれば、予算を上げる選択も十分に考えられます。その場合に家計へどのような影響が出るのか、反対に予算を抑えた場合にどのような余裕が生まれるのかを見比べながら、判断しやすい形にしていきました。
また、住宅購入時には、物件価格だけでなく、諸費用や購入後の生活予備資金まで含めて自己資金の配分を考える必要があります。
頭金を多く入れれば借入額や利息負担を抑えられる一方で、住宅ローンはほかの借入と比べると、長期間にわたって低い金利で借りやすく、住宅ローン控除や団体信用生命保険といった制度面のメリットもあります。
そのため、自己資金をどこまで頭金に入れるかは、借入額だけでなく、その後の暮らしも踏まえて考える必要があります。特に結婚、出産、住宅購入と大きなライフイベントが続く時期は、手元資金の余裕がその後の安心感を左右します。このご家庭でも、住宅購入時に必要となる諸費用を前提にしながら、頭金をどこまで入れるか、また購入後に備えてどの程度の現金を手元に残すかを、借入負担とのバランスを見ながら整理しました。
■手元の金融資産を見直す
② 資産を目的ごとに整理する
次に行ったのは、手元の金融資産を目的別に整理することです。
このご家庭は、銀行預金とNISA、合わせて710万円の資産を保有しており、家計の土台はしっかりしていました。一方で、結婚費用、生活防衛資金、住宅購入資金、教育資金、老後資金といった役割が明確に分かれていたわけではなく、「いま使っていいお金」と「将来のために残しておきたいお金」が少し見えにくい状態でもありました。
そこで、資産を短期・中期・長期の3つに分けて考えました。
短期は、結婚費用や生活防衛資金など、近い将来に使う予定のあるお金。中期は、住宅購入や、その後の教育費準備につながるお金。長期は、老後資金やインフレへの備えとして、時間をかけて育てていくお金です。
このように役割を分けて考えることで、資産の全体像が整理され、住宅購入や出産といった大きなライフイベントを前にしても判断しやすくなります。
漠然と「貯めなければ」と考えるのではなく、それぞれのお金に意味を持たせていくことが、安心感にもつながっていきました。
③ 固定費を見直し、毎月の資金の流れを整える
また、資産を目的ごとに整理した上で、毎月の家計の流れについても確認していきました。
光熱費の契約プラン、スマートフォン料金、利用頻度の低いサブスクリプションサービスなど、毎月決まってかかる固定費を見直してみると、生活水準を大きく変えずに、月2万円ほど見直せる部分が見えてきました。
その上でライフプランを踏まえると、短期的に必要となる資金は手元の資産で賄える状態のため、毎月の余力については、中長期の資産形成に回していく形で整理しました。
具体的には、すでに活用していたNISAを継続しながら、拓海さんが月1万円で行っていた積立を月3万円に増額しました。これにより今後必要となる教育資金や老後資金に向けた準備を、無理のない形で進めていきました。
④ 保障は今後の家計に必要なものを整理する
保障についても、万が一のことがあった場合に、いまのライフプランにどのような影響が出るかを見ながら整理していきました。
お二人とも医療保険には加入していましたが、出産や住宅購入を考えていく段階では、入院時の備えに加えて、万が一の死亡や長期の就業不能によって収入が減少した場合の家計への影響も確認しておく必要がありました。特にこのご家庭では、世帯収入の中で拓海さんの比重が比較的大きく、働けない期間が長引いた場合には、その後の家計設計にも影響が出やすい状況でした。
一方で、現時点ではまだお子様がいないことや、将来的に住宅購入をした際には団体信用生命保険の活用も想定できることから、まずは現状に合った就業不能保障を確認し、その後は妊娠・出産や住宅購入といった節目に応じて見直していけるよう、将来の変化に合わせて調整できる形で備えを整えていきました。
■「不安な家計」から「見通しのある家計」へ
ご相談当初のお二人は、これからの暮らしへの期待がある一方で、出産や住宅購入、将来のお金に対する漠然とした不安も抱えていました。
しかし、ライフプランを作成し、「いつ、どのタイミングで、どのくらい家計負担が大きくなりやすいのか」を整理したことで、不安は少しずつ具体的な課題として捉えられるようになっていきました。

住宅についても、「どのくらいの住居費であれば、その後の教育費や家計全体とのバランスが取りやすいか」という目安が見えたことで、ご夫婦で基準を持ちながら落ち着いて物件探しを進めやすくなりました。
また、資産を目的ごとに分け、毎月の資金の流れを整えたことで、「なんとなく貯める」状態から、「何のために、どのくらい準備していくか」がわかる状態へと変わっていきました。
プランニング実施後、里美さんからはこのようなお言葉をいただいています。
「固定費も、我慢ではなく整えるだけで月2万円の余力がつくれるとわかって安心しました。口座を分けて先取りの形にしたことで、『余ったら貯める』ではなく、『先に分けておく』形になり、気持ちがすごく楽になりました」
こうして、「貯める・使う・守る」の役割が整理され、毎月の家計も回しやすい形へと整っていきました。
将来の出産や住宅購入といった大きな変化を前にしても、何を優先し、どのように備えていくかが見えたことで、ご夫婦にとって家計の土台を整える大きなきっかけとなったのです。

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中村 哲規(なかむら・てつのり)

ブロードマインド事業開発部マネジャー/ファイナンシャル・プランナー

大学卒業後ブロードマインド入社。2年目でMDRT会員、FPとして2000世帯超を支援。現在は経営企画室で金融教育の新規事業を統括し、「ブロっこり」の事業責任者を務める。大学などで金融教育授業を担当し、理論と実務を融合した指導を行う。

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(ブロードマインド事業開発部マネジャー/ファイナンシャル・プランナー 中村 哲規)
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