世界の一流は、部下との関係をどう築いているのか。元Googleの人材開発責任者で起業家のピョートル・フェリクス・グジバチさんは「世界の一流の上司が部下との『関係』を重視しているのは、そこに信頼や信用、尊敬がなければ、『関係性』だけの結び付きになるからだ」という――。

※本稿は、ピョートル・フェリクス・グジバチ『世界の一流は「部下」に何を教えているのか』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■世界の一流の上司は「3つの関係」を重要視
欧米企業や外資系企業の一流の上司は、部下との関係性を感情や相性といった曖昧なもので捉えることはありません。
彼らは「信頼」「信用」「尊敬」という3つの明確な基準を設け、日常のあらゆる言動の判断軸に置いています。
①「信頼」 相手が「善意を持って行動している」と信じられる関係

②「信用」 相手が「約束を守り、最後までやり切る」と信じられる関係

③「尊敬」 相手が「学ぶ価値のある存在だ」と思える関係
1つ目の信頼とは、相手が善意を持って行動していると信じられる関係を指します。
信頼があれば、部下は上司を敵ではなく味方だと認識できるため、失敗を恐れずに挑戦できるようになります。
2つ目の信用は、相手が約束を守り、最後まで仕事をやり遂げると信じられる関係のことで、信用が確立されることで、部下は問題を隠さずに共有するようになり、仕事のスピードと質を同時に高めることが可能になります。
3つ目の尊敬は、相手を学ぶ価値のある存在だと思える関係を意味します。
尊敬の念があるからこそ、部下は誰かに言われたからではなく、自ら学びたいという意欲を持って前に進もうとします。
■部下の成長を駆動するラポール
これら3つの要素が揃って初めて、上司と部下の間には本当の意味で健全な関係性が構築されます。
これは心理学で 「ラポール」 と呼ばれる、互いに身構えることなく安心して本音を交わせる状態です。
世界の一流の上司は、このラポールこそが部下の成長を駆動するエンジンであると理解しています。
逆に言えば、これら3つのうちどれかひとつでも欠けた瞬間に、部下の成長は止まってしまいます。

成果は出すものの、部下を見ていない上司や、人当たりは良いが判断や指示に一貫性がない上司は、部下の信頼や信用を損ないます。
仕事はできるが、部下のために動こうとしない上司や、部下の面倒見はいいが、結果に責任を取らない上司も、尊敬を得ることはできません。
こうした上司の下では、部下の中に「この人は信用できない」とか、「この人からは学ぶものがない」という感情が生まれます。
その際、部下は声を荒らげて反発するのではなく、表面上は指示に従いながら、内側では挑戦を避け、自身の成長を止めてしまいます。
組織にとって最も深刻な事態は、目に見える対立が起きることではなく、こうした静かな停滞が広がることなのです。
■日本の上司は「関係」の構築が不十分
世界の一流の上司が部下との「関係」を重視しているのは、そこに信頼や信用、尊敬がなければ、「関係性」だけの結び付きになるからです。
関係性というのは、単なる「役割」を指します。
「上司はこの人で、部下はこの人」という関係性だけになると、上司は部下を指導する、管理することが役割となります。
部下は、上司に指導され、管理される役割を担います。
単純に関係性だけで結びついてしまうと、上司からの一方通行のマネジメントになって、建設的な仕事ができなくなるリスクが高まるのです。
日本企業の上司が部下の育成に苦慮している原因は、関係性だけがあって、3つの関係の構築が不十分であることが関係しています。
若手社員を育てるには、関係性だけでなく、関係に目を向ける必要があります。

上司に信頼されている、上司から信用されている、上司が尊敬の念を持って接してくれる……と感じることは、部下にとって「心理的安全性」が高い状態であり、モチベーションをアップさせる要因になるのです。
世界の一流の上司は、部下と3つの関係を築くために、次のことを意識して行動しています。
①好奇心や関心を持って接して、上司が「目を向けている」ことを示す

②部下に対するサポートを通して、「味方」であることを知らせる

③部下のキャリアにとって「価値」のある情報を伝える
上司の立場から部下を見下ろすのではなく、部下を「一人の人間」として尊重して、スキルレベルや本人の考え方、ジェンダーに応じた接し方を工夫することが大切です。
■仕事の意義を自分事として捉える設計
場合によっては、厳しいフィードバックを与えたり、シビアな指導をすることも必要ですが、人に指導されるのは、管理されるのと同じように苦痛を伴うことだ……と想像力を働かせることが大事なポイントとなります。
「早く一人前になりたい」とか、「これから世界に出たい」と考えている若手世代の部下には、自己肯定感が感じられて、自信を持って働ける場を提供することは上司の責任です。
「とにかく、上司の指示通りにやれ」と強引に仕事を押しつけたのでは、今日は取り組んだとしても、明日はやらないかもしれません。
そのため、上司は一つひとつの業務が部下自身のキャリアにおいてどのような価値を持つのかを具体的に提示し、本人がその意味に納得して取り組める状態を築かなければなりません。
部下が仕事の意義を自分事として捉えた時、モチベーションは外部から強制されるものではなく、本人の内側から自発的に湧き上がるようになります。
このようなプロセスを通じて、上司は単なる業務の管理者ではなく、部下の成長を常に支え続けるメンターとしての役割を果たすことが求められます。
成長プロセスにある部下が上司に求めているのは、 「この上司と出会って、一緒に仕事をしたことで、自分が変わった、スキルが向上した、専門知識が身についた」という成長実感を通しての成功体験です。
部下に成長実感を提供して、向上心にエネルギーをチャージすることも、上司の大事な役目と考えることが大切です。

----------

ピョートル・フェリクス・グジバチ(ぴょーとる・ふぇりくす・ぐじばち)

プロノイア・グループ代表

TimeLeap取締役。
連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。ポーランド出身。モルガン・スタンレーを経て、グーグルでアジアパシフィックにおける人材育成と組織改革、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。2016年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、2020年にエグジット。2019年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。『ニューエリート』(大和書房)ほか、『0秒リーダーシップ』(すばる舎)、『PLAYWORK』(PHP研究所)など著書多数。

----------

(プロノイア・グループ代表 ピョートル・フェリクス・グジバチ)
編集部おすすめ