世界から不思議に思われる日本人の仕事の慣習は何か。元Googleの人材開発責任者で起業家のピョートル・フェリクス・グジバチさんは「日本の上司が同行した海外出張の商談で、何も決まらないまま終わることは珍しくない。
こうした不透明な対応は、相手に『この会社は一体何がしたいのか』という不信感を抱かせる」という――。
※本稿は、ピョートル・フェリクス・グジバチ『世界の一流は「部下」に何を教えているのか』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■「情報交換しましょう」という謎のフレーズ
日本企業が海外企業と商談する際には、部下に同行して上司が「顔合わせ」のために海外出張するケースもありますが、日本の上司が最も多く口にするのは、「情報交換しましょう」という謎のフレーズです。
この言い回しは、「お互いのことを、よく理解してからビジネスを進めましょう」という意味合いの日本式のビジネス常套句であるため、海外のビジネスパーソンには、そのニュアンスが伝わりません。
このフレーズが飛び出すと、海外の交渉相手は、ほぼ例外なく困惑します。
「情報交換? どんな情報を、何のために交換するんだ?」
相手が日本人であれば、「阿吽の呼吸」で雑談が始まりますが、外国人が相手であれば、そうしたことは期待できません。
海外のビジネスパーソンは、上司が来るということは、アジェンダに関するディスカッションをするためだろう……と考えて、そのための準備を整えています。
どんな提案があるのか、どんなプレゼンがあるのかと待ち構えているところに、「最近はどうですか?」という意味不明な問いかけが始まるため、彼らは一様に、「何のこっちゃ!?」となります。
「この場で、何を話すべきなのか?」という疑問が、会議の空気を支配してしまうのです。
■目的を欠いた交流は単なるコスト
上司がわざわざ海外まで出張しても、活発な議論が交わされることなく、何も決まらないまま商談が終わることは珍しくありません。
このような状況は、海外の交渉相手に強い困惑を与えます。
相手は貴重な時間を割いているため、目的が不明確な商談は「時間対効果が低い」と判断します。

最悪の場合には、「自分たちの貴重な時間を奪われた」と否定的に受け取られるリスクもあるのです。
こうした不透明な対応は、相手に「この会社は一体何がしたいのか」という不信感を抱かせる原因になります。
仮に「情報交換」という言葉を用いるのであれば、その目的や、情報を得た後にどのようなアクションを取るのかをあらかじめ明らかにしなければなりません。
相手との関係構築は大切ですが、目的を欠いた交流は単なるコストに過ぎません。
本来、交渉とはつねに何らかの意思決定を伴うものであるべきなのです。
■始める前に「ひとつよろしく」は意味不明
日本の常識が、世界の「非常識」となるケースは、これだけではありません。
日本企業では、ビジネスを始める前に、上司が相手先を「表敬訪問」したり、居酒屋やゴルフ場で「親睦を深める」ことを大切にしていますが、欧米企業や外資系企業では、こうした事前交流はほとんどありません。
海外の企業でも、相手先と一緒に酒を飲んだり、ゴルフをすることはありますが、それはビジネスが終わった後の話です。
日本企業には、仕事を始める前に「ひとつよろしく」と顔合わせをする習慣がありますが、欧米企業では「お疲れさまでした」が主流です。
今後は、ますますグローバルビジネスの機会が増えてくるはずですから、この違いを前もって理解しておく必要があります。
海外のビジネス現場では、日本人は真面目かつ勤勉であると高く評価されていますが、その一方で、「取り組むべき目的を言語化するタイミングが遅い」、「物事を判断して意思決定を下すまでに多大な時間を要する」と受け取られています。
ビジネスに取り組む前に、「ひとつよろしく」と言われても、世界のビジネスパーソンには、「何をどうよろしく」なのか判断ができません。

人間関係を構築するというのは、洋の東西を問わずに大事なことですが、お互いが人間関係を深めるのは、アジェンダを達成することが目的です。
■当日の目的をあらかじめ明らかにする
目的を言語化しないまま関係構築を始めてしまうと、相手は事前準備ができない状態で時間を過ごすことになります。
何を期待されているのかが不透明な時間は、意思決定の速度を停滞させ、相手にとっては単なる「損失」として受け取られてしまいます。
こうした事態を避けるためにも、事前交流を行う際は、当日の目的をあらかじめ明らかにしなければなりません。
「本日は、お互いの方向性を揃えるところまで進めたい」など、具体的なゴールを提示することが大切です。
目的をはっきりと共有するだけで、形式的な儀礼に過ぎなかった時間を、お互いの将来を共に描くための「設計」に変えることができるのです。
■エレベーター前の形式的な「お辞儀」
日本企業を訪れた海外のビジネスパーソンは、エレベーターのドアが完全に閉まるまで深々と頭を下げ続ける日本人の姿に、強い感銘を受けます。
このような礼節を重んじる姿勢そのものは、日本が世界に誇るべき素晴らしい文化といえますが、ここで注意すべきなのは、その行為が「本来の目的を適切に果たしているかどうか?」という点です。
長時間お辞儀を継続している間、他の来訪者はエレベーターの前で待機を強いられることになります。
お辞儀をする本人が通路を塞ぐことで、周囲で働く同僚の動線を遮ってしまうだけでなく、深く頭を下げ続けている本人は、周囲の状況を把握することができません。
礼儀の形式が厳格に守られていたとしても、空間全体の最適化という視点は失われている可能性があるのです。
こうした姿に対し、海外のビジネスパーソンは「目の前の儀礼には集中しているが、全体が見えていないのではないか?」という懸念を抱きます。

■過剰な儀礼が組織にもたらす3つの損失
本来、礼儀とは相手を楽にするための行為です。形式を守ること自体が目的化した瞬間、その行為は相手への配慮ではなく、自己満足的な内向きのパフォーマンスへと変質します。
この過剰な儀礼が組織にもたらす損失は、大きく3つの側面に集約されます。
第一に、周囲への意識が遮断されることによる状況認識の低下です。
第二に、本来優先すべき業務や配慮を見失う優先順位の誤認です。
第三に、成果を出すことよりも「役割を演じること」が称賛される風土の醸成です。
グローバルな環境で真に求められるのは、丁寧さと同時に、周囲の状況を的確に読み取る力です。
代替行動としては、「ありがとうございました。お気をつけて」と一言添えて、自然にその場を解放することが挙げられます。

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ピョートル・フェリクス・グジバチ(ぴょーとる・ふぇりくす・ぐじばち)

プロノイア・グループ代表

TimeLeap取締役。連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。ポーランド出身。
モルガン・スタンレーを経て、グーグルでアジアパシフィックにおける人材育成と組織改革、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。2016年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、2020年にエグジット。2019年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。『ニューエリート』(大和書房)ほか、『0秒リーダーシップ』(すばる舎)、『PLAYWORK』(PHP研究所)など著書多数。

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(プロノイア・グループ代表 ピョートル・フェリクス・グジバチ)
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