世界で存在感を示す日本の核融合スタートアップは何をしているか。元日本原子力研究所研究員で作家の高嶋哲夫さんは「日本が得意とする『ものづくり』と極めて相性が良い要求精度が高く、代替の効かない部品やシステムを供給する、京都大学発の日本の核融合スタートアップ企業を紹介する」という――。

※本稿は、高嶋哲夫『核融合発電で世界はこう変わる』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■日本の核融合スタートアップ企業の強み
本稿では現在、世界の最先端を進んでいる日本の核融合スタートアップ企業について述べたいと思います。
京都フュージョニアリング株式会社(Kyoto Fusioneering)――核融合発電に無くてはならない周辺技術ベンチャー企業

世界的に見れば、核融合分野ではアメリカが研究費の規模、ベンチャーへの投資額のいずれにおいても一歩先を行っています。巨大な資本を背景に、炉本体の建設を目指すスタートアップが次々と誕生している点は、日本との差として認めざるを得ません。
一方で、日本の核融合スタートアップ企業には、アメリカとは異なる明確な特徴があります。それは、核融合炉そのものよりも、「周辺技術」に強みを持っている点です。
これは弱点ではなく、日本が長年培ってきた工学力、材料技術、精密加工、熱制御、真空技術といった分野の延長線上に、核融合を位置づけてきた結果だと言えます。
その象徴的な存在が、京都フュージョニアリングです。日本には他にも核融合関連のベンチャー企業はいくつか存在しますが、知名度や資金調達額、国際的な連携状況を総合的に見ると、同社が一歩先を進んでいるのは事実でしょう。
京都フュージョニアリングは2019年に設立された、京都大学発のスタートアップ企業です。核融合工学を研究してきた研究者たちが、学術研究を社会実装へとつなげることを目的に創業しました。
同社の最大の特徴は、自ら核融合炉を建設するのではなく、「炉を動かすために不可欠な周辺システム」に特化している点にあります。

■「核融合発電の共通インフラ」を目指す
具体的には、核融合反応で生じる中性子を吸収し、熱を取り出す「ブランケットシステム」、燃料であるトリチウムを安全に回収・循環させる「トリチウム燃料循環システム」、さらに高温の熱を効率よく発電につなげるための冷却系・熱交換器・発電ユニットなどです。
ブランケットには、低放射化フェライト鋼など、日本が得意としてきた材料技術が活かされており、耐久性や安全性の面で国際的にも高い評価を受けています。
重要なのは、こうした周辺技術が「炉の形式を選ばない」という点です。トカマク型であれ、将来別の方式が主流になったとしても、熱回収や燃料循環といった機能は必ず必要になります。
京都フュージョニアリングは、どの企業が炉を完成させても、その中に自社技術が組み込まれる可能性を持つ、「核融合発電の共通インフラ」を目指しています。
この戦略は、日本が得意とする「ものづくり」と極めて相性が良いと言えます。巨大なプラントを自前で建設するのではなく、要求精度が高く、代替の効かない部品やシステムを供給する――これは、将来世界中に核融合炉が建設された際、日本が部品供給国として重要なポジションを占める可能性を示しています。
京都フュージョニアリングはすでに試験設備や実証プラントを保有し、ブランケットやトリチウム回収装置のプロトタイプ開発を進めています。
■フュージョンエネルギー産業化に大きく貢献
さらに、イギリスのSTEP計画(球状トカマク型核融合炉の建設プロジェクト)をはじめ、欧米の研究機関やスタートアップとも連携し、2021年にはイギリスに、2022年にはアメリカに、2024年にはドイツに子会社を開設しました。国際共同開発の中核を担おうとする姿勢は明確です。
将来、日本製の核融合周辺システムが世界標準となり、各国の核融合炉に組み込まれる――その可能性は、決して夢物語ではないと考えています。
ところが、2025年11月27日、京都フュージョニアリングのホームページに、以下の趣旨の発表がなされました。

「国内初の民間主導フュージョン発電実証プロジェクト「FAST」が、開始から1年で概念設計(CDR)を完了し、報告書を公開。Starlight Engine と京都フュージョニアリングが主導し、産学連携で進められている。
FASTはトカマク方式を採用し、2030年代の核融合発電実現を目指す。CDRではプラントの性能要件や構成、安全設計やコスト評価を明示。今後は建設に向けて工学設計フェーズへ移行し、2028年にEDR(工学設計報告書)完成を予定。
高温超電導やトリチウムサイクルなど商用炉技術も統合実証し、フュージョンエネルギー産業化に大きく貢献することが期待されている」
計画通り進めば、すばらしいことです。
■日本の独自技術への信頼と意欲を示す
株式会社Helical Fusion(ヘリカルフュージョン)――日本の「ヘリカル型」研究の成果を生かす

株式会社Helical Fusion(ヘリカルフュージョン)は、核融合炉の実用化を目指すスタートアップ企業です。特徴は、トカマク型ではなく、らせん状の磁場でプラズマを閉じ込める「ヘリカル型」の方式を採用していることです。この方式は、プラズマ内部に電流を流さずにすむため、長時間安定して運転できる可能性が高いと期待されています。
この会社には、国立研究機関や大学で核融合を長年研究してきた専門家たちが集まり、日本が世界に誇るヘリカル型の研究成果をもとに、商用炉の実現を目指しています。トカマク型が主流の中で、あえてヘリカル型に挑む姿勢は、日本の独自技術への信頼と意欲の表れです。
資金面でも順調で、2025年までに複数の出資を受け、累計で数十億円にのぼる開発資金を確保しています。
高温超電導コイルや燃料供給装置など、基盤技術の整備が進められています。
目標は2034年、世界初の定常運転可能な核融合炉(商用炉)を完成させることです。
■国内外の研究者や企業、投資家からも注目
株式会社EX‐Fusion(エクスフュージョン)――大阪大学発のレーザー核融合企業

大阪大学から生まれた日本初のレーザー核融合企業の株式会社EX‐Fusion(エクスフュージョン)は、「慣性閉じ込め方式」で核融合の実用化を目指しています。大阪大学でレーザーやプラズマの研究に取り組んでいた研究者たちによって設立されました。
現在は、2030年代の実証発電を目指し、レーザー装置の高性能化やプラズマ制御、反応効率の向上に取り組んでいます。大阪大学との共同研究も継続されており、国内外の研究者や企業、投資家からの注目も集まっています。
レーザー核融合は、設備を小型化しやすく、将来的にはモジュール型の発電システムにも応用可能です。磁場型とは異なるアプローチをとることで、核融合の選択肢と可能性を大きく広げる役割を果たしています。
これら以外にも、日本では大学発ベンチャーや別のアプローチの企業が増えています。たとえば、中性子をあまり出さないプロトン・ボロン反応を目指す企業など、核融合技術の多様なアプローチが生まれています。
これらの動きは、日本が核融合技術の産業化で世界の競争に参加するための重要なステップであり、ITERなどの国際プロジェクトだけではなく、民間主導の研究開発が国内でも活発化しつつあることを示しています。

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高嶋 哲夫(たかしま・てつお)

作家

1949年岡山県生まれ。
慶應義塾大学工学部卒業、同大学院修士課程修了。日本原子力研究所研究員となり、当時世界最高水準だった核融合実験装置JT–60の研究開発に携わる。79年、日本原子力学会技術賞受賞。だがカリフォルニア大学に留学した際に研究者としての限界を痛感し、やがて小説家に転身する。94年、「メルトダウン」で第1回小説現代推理新人賞、99年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。著書に『M8 エムエイト』(集英社文庫)、『首都感染』(講談社文庫)、『官邸襲撃』(PHP文芸文庫)など多数。

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(作家 高嶋 哲夫)
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