■「独身税」は税金ではなく社会保険料上乗せ
まず押さえておきたいのは、「独身税」という税目は存在しないという点です。正式名称は「子ども・子育て支援金」であり、公的医療保険(協会けんぽ・健康保険組合など)に加入している人の健康保険料に上乗せして徴収される制度です。
負担額は、加入している健康保険の種別と標準報酬月額によって決まり、簡単に言えば給料が高くなるほど負担額が上がる仕組みになっています。こども家庭庁の推計によると、2026(令和8)年度の負担額(平均月額)は、被用者保険は被保険者一人当たり約550円、国民健康保険加入者は一世帯あたり約300円、後期高齢者医療制度は被保険者一人あたり約200円となっています。
会社員のケースで具体的に計算の流れを見ていきましょう。2026年度の支援金率は0.23%であるため、たとえば標準報酬月額が40万円であれば、支援金額は「40万円×0.23%=月920円」です。これを会社と個人で折半するため、個人負担は約460円となります。
この支援金は2026年4月分の給与に反映されるため、会社員の場合は5月給与から天引きされます。国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入している人については、6~7月に送付される納入通知書に反映されます。
こども家庭庁の説明では、この支援金は「実質負担なし」とされています。
とはいえ2027(令和9)年度以降も実質負担ゼロとなるかは不確実であり、「給付を受けられる子育て世帯」と「給付を受けられない単身者」の間の不公平感は残ります。
■充実した子育て支援の一方で残る不公平感
こども家庭庁の試算では、子ども・子育て支援金による給付拡充は「こども1人あたり約146万円」にのぼります。具体的にどのような支援が拡充されたのかを整理しましょう。
筆者は3人の子どもを育てており、支援金による恩恵を受けています。児童手当の対象外だった高校生の長男が支給を受けられるようになったり、三男の支給額が倍増したりといった形で、「手当が増えて助かる」と実感する場面は少なくありません。
今年大学生になった長男は、多子世帯が対象となる高等教育の修学支援新制度(大学無償化)を、高校生になった次男は高等学校等就学支援金等(高校無償化)を、それぞれ受けることができます。
私自身は大学生の頃に月16万円の貸与型奨学金を借り、卒業時には金利を合わせて1000万円近い負債を背負ったことを思い返すと、現代の子育て支援の充実ぶりを実感するところです。
しかし、こうした恩恵を受ける立場だからこそ、給付の対象にならない独身者やDINKs世帯の不公平感は理解できます。「自分が受けられない給付のために、なぜ保険料を払わなければならないのか」と感じるのは自然な感情でしょう。
少子化対策は社会全体の課題であり、子育て支援の充実そのものに異論を唱える人は多くないはずです。しかし、その財源を医療保険料に上乗せする形で広く徴収する以上、給付を受けない層への配慮や説明が十分とは言いがたい面があります。
■以前から存在していた「見えない独身税」
独身者にとって不利な仕組みは、今回の新制度に限った話ではありません。日本の税制・社会保障制度には、以前から「家庭を持つ世帯を優遇する」という構造が組み込まれています。イメージを掴んでいただくために、年収500万円の会社員をモデルケースとした概算を示します。
年収500万円で年間13万円超の差
このように、同じ給与所得者であっても、配偶者控除や扶養控除の有無によって年間の税負担に大きな差(試算したケースでは13万円超)が生じうる仕組みになっています。さらに、会社員の配偶者が一定の範囲内の収入であれば、いわゆる「第3号被保険者」として、保険料を一切負担することなく国民年金や健康保険に加入できます。
つまり、専業主婦(夫)やパートで一定以下の収入の配偶者の保険料を、現役の第2号被保険者(会社員・公務員など)全体が支える構造になっており、独身者からすれば「自分が払う保険料の一部で、他人の配偶者の保険料も負担している」と感じられても不思議ではありません。
「子ども・子育て支援金」は月額数百円の話ですが、こうした既存の仕組みによる負担差のほうが、金額としてはよほど大きいのです。新制度だけに目を向けて怒るのではなく、この構造全体を知っておくことが重要だと考えます。
■なぜ「独身者不利」の制度ができるのか
こうした“独身者不利”の構造は偶然ではなく、日本の税制や社会保障の出発点に理由があります。
配偶者控除が創設されたのは1961年で、当時は「夫が働き、妻が家庭を守る」というモデルが一般的であり、妻の「内助の功」を税制で評価する趣旨がありました。
第3号被保険者制度も同じ思想の延長線上にあり、「夫婦と子どもからなるモデル世帯」を前提に制度設計が行われてきた結果、独身者や多様な家族形態は想定の外に置かれがちだったのです。
また、少子化が深刻な課題となるなかで、政策サイドは「子育て世帯への支援拡充」を優先しやすく、単身者向けの軽減策は後回しになりやすい構造もあると考えられます。選挙においても、子育て世帯は教育費や保育の問題で投票行動が共通しやすいのに対し、独身者は政治的にまとまりにくい層であることも影響しているでしょう。さらに、今回の支援金が「税」ではなく「社会保険料」として設計された点についても、既存の徴収インフラを使えて、負担が目に見えにくいという点から、政治的なハードルの低さが意識された可能性があります。
■独身者がとるべきマネー防衛術
制度への不満を抱えていても、それだけでは手取りは増えません。では、独身の方は具体的にどうすればよいのでしょうか。私が薦めたいのは、独身の方こそ使いやすい仕組みをフル活用するという発想です。それが最大の防衛策になります。
まず優先すべきは、iDeCoとNISAの活用です。独身者は、子育て中の方に比べて可処分所得に余裕がある傾向にあります。その分をiDeCoやNISAに回し、税制優遇を受けながら資産形成を進めることが有効です。
iDeCoは掛金が全額所得控除の対象になるため大きな節税効果があります。会社員であれば月額2万3000円まで拠出でき、所得税率が20%の方なら年間約5万5000円の税負担軽減が見込めます。
※企業年金ありの会社員:月5.5万円→月6.2万円、企業年金なしの会社員:月2.3万円→月6.2万円、自営業者・フリーランス:月6.8万円→月7.5万円(国民年金基金などとの合計)
ふるさと納税も見逃せません。扶養家族がいない独身者は、一般的に控除限度額が高くなる傾向にあります。限度額いっぱいまで活用すれば、実質2000円の自己負担で各地の返礼品を受け取ることができます。「どうせ控除が少ないのだから」と投げやりになるのではなく、使える制度はしっかり使い切る意識を持ちましょう。
■「独身税」という言葉に振り回されない
今後、配偶者控除の見直しや廃止の議論が本格化すれば、独身者と既婚者の税負担格差は縮まる可能性もあります。税制は変わり続けるものです。感情的に「不公平だ」と嘆くよりも、現行の制度をしっかり理解し、使える武器を使い切ることが何より大切だと考えます。
子育て世帯の筆者がこのようなことを申し上げるのは、やや気が引ける部分もあります。しかし、「独身税」という言葉が広く使われている現状は、多くの人が負担と受益のバランスに敏感になり、制度の中身を知ろうとしているサインでもあります。
少子化対策は社会全体で取り組むべき課題であり、その財源を誰がどう負担するかという問いに唯一の正解はありません。ただ、少子化がこのまま進めば、独身者を含むすべての人が将来の年金・医療・介護の面で深刻な不利益を被ることになります。世代や立場を超えて「社会全体で子育てを支える」という理念には、一定の合理性があることも確かです。
大切なのは、俗称や感情的なラベリングに振り回されず、制度の仕組みを正しく理解することです。そのうえで、ご自身の家計やライフプランにとって最適なマネー戦略を立て、「使える制度は使い切る」という発想を持っていただければと思います。
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小林 義崇(こばやし・よしたか)
フリーライター
1981年福岡県生まれ。西南学院大学商学部卒業。2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事。2017年7月、東京国税局を退職し、フリーライターに転身。書籍や雑誌、ウェブメディアを中心とする精力的な執筆活動に加え、お金に関するセミナーを行っている。『超改訂版 すみません、金利ってなんですか?』『僕らを守るお金の教室』(ともにサンマーク出版)、『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社)、『2050年のインド経済 急成長する巨大市場の現在地と未来図』(NEXTRAVELER BOOKS)、『相続税調査でわかった 富裕層が大事にしている「お金の基本」』(講談社)ほか著書多数。
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(フリーライター 小林 義崇)

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