高市早苗首相は3月19日(日本時間20日)、ワシントンで日米首脳会談に臨み、ドナルド・トランプ大統領がホルムズ海峡の航行の安全へ向けて日本の貢献を要請したのに対し、エネルギーの安定供給の観点からも重要だとの認識を示し、「日本の法律の範囲内でできることを行う」と前向きに応じた。日本の生命線を守るためなのだから、当然のことだ。
高市首相は「中東情勢も含めて世界中の安全保障環境が厳しい状況にある。私は世界の繁栄と平和に貢献できるのは、ドナルドだけだと思っている」と述べ、米国の孤立感を和らげるメッセージも送った。日本の左派メディアは「追従の度が過ぎる」と批判したが、戦争を終結させる責任がトランプ氏にある、とも取れるダブル・ミーニングだと、この発言を評価する向きは永田町に少なくない。
米紙ニューヨークタイムズは、トランプ氏を怒らせることなく、「ほぼ無傷で乗り切った」とその成果を報じた。トランプ氏は会談後、艦船派遣について、FOXニュースに「日本には憲法上の制約があるが、必要とあれば支援してくれるだろう」とそれなりの理解を示したという。
これも、高市首相が計80兆円(5500億ドル)もの対米巨額投資を提示したことで、この場をしのいだというのが実相ではないか。
首相は訪米から帰国後、暫く高揚感に浸っていたが、国会運営をめぐっては「激おこ」(首相周辺)なのだという。2026年度予算案の年度内成立に向け、2月中旬から与党幹部にはっぱを掛けてきたが、3月30日にそれを断念させられたからだ。
与党が過半数割れしている参院で予算案審議の主導権を握れなかったためだが、首相官邸と参院自民党が意思疎通を欠いたまま、衆院段階で採決を強行したことで、国民民主党が離反したことが決定的だった。
■「13日に衆院通過なら、年度内成立だ」
予算案成立までの「つなぎ」として、暫定予算が3月30日の衆参本会議で可決、成立したのだが、高市首相はそれ自体、面白くなかったらしい。その直後の自民党役員会で、厳しい表情でこう不満を露わにした。
「参院幹部の皆様に最後までご尽力いただいたが、年度内成立が実現しなかったことは、残念だ。
これを受け、石井準一参院幹事長が立ち上がって「予算を年度内に成立できず、申し訳なかった。参院として体制を強化する」と陳謝したのだが、額面通りには受け取れない。
松山政司参院議員会長や石井氏は、少数与党の参院での予算案審議は、衆院のような強引な手法は通じないことを木原稔官房長官らに再三にわたって伝えていたからだ。
ボタンの掛け違いはどこにあったのか。首相官邸から言わせれば、石井氏が3月初めに「予算案を13日に衆院通過してくれれば、参院で年度内成立を図る」と言ってきたから、坂本哲志衆院予算委員長に3日以降、委員会開催や日程を職権の乱発で決めさせ、例年70~80時間の審議時間のところ、わずか59時間で採決させたのに、話が違うとなる。
参院自民党から言わせれば、予算案の年度内成立は国民民主党(22議席)が賛成するというのが前提条件だったはずで、その計算を狂わせたのは誰だったのか、ということだろう。参院では、自民党と日本維新の会の与党会派は120議席で、現在の過半数(124議席)に4議席足りないのだから。
■「玉木氏は『おかわり君』と呼ばれる」
国民民主党は、玉木雄一郎代表が昨年末に予算案に賛成する意向を示していたが、1月の衆院解散を「経済後回し解散」と批判し、首相と距離を置く。3月初旬、坂本予算委員長の13日の衆院通過に向けた強引な日程設定に反発し、党の方針を転換した。自民党の鈴木俊一幹事長が10日、榛葉賀津也幹事長との会談で、13日の衆院通過への協力を求めたが、榛葉氏が審議時間不足などを理由にこれを拒否したのである。
国民民主党は13日の採決当日、榛葉氏が鈴木氏に「衆院採決が16日なら、予算案に賛成する」と持ち掛けたが、首相官邸が受け入れなかった。首相に近い筋は「玉木氏は『おかわり君』と呼ばれている。
この結果、参院では予算案以外の法案でも国民党の協力は望めなくなった。
石井氏の陳謝には、首相官邸に「13日」と提示したことで、首相らの強硬姿勢が正当化され、国民党の離反を招いたことへの反省と皮肉が込められている。年度内不成立は「不測の事態」ではなく、当然の結末ではなかったのか、と。
■「(野党と)変な約束するんじゃないよ」
実は、高市首相がなぜ年度内成立に拘ったのか、未だに判然としない。「国民生活に支障を生じさせない」との理由を挙げるが、成立が例年より1カ月程度遅れても、暫定予算を用意しておけば、実体経済や国民生活に影響はないというのが通り相場だからだ。政権内からも「あれだけ衆院選で勝てば、年度内成立しなかったと言って責める人は誰もいない」(現職閣僚)と訝る声が上がる。
舞台裏でささやかれるのは、特別国会開会後、野党が求める党首討論、集中審議に応じようとしない高市首相の姿勢だという。「何でできないの? あなたの仕事でしょ」と言うのが口癖で、機嫌が悪く、側近の萩生田光一幹事長代行や遠藤敬首相補佐官の言うことも聞かない。尾崎正直官房副長官は、首相に「(野党と)変な約束するんじゃないよ」とくぎを刺され、ストレスが溜まっている。
朝日新聞が3月28日に「高市首相は自民党執行部に、事実上の年度内成立となる4月3日までの予算成立を指示し、参院で調整されている集中審議にも応じない意向だ」と報じたが、官邸内の空気を伝えたものだろう。
参院で予算案が否決され、両院協議会で不一致となれば、衆院の優越で早めに決着させられるという狙いが読み取れる。
■「間違った報道だ」「出席する」
首相は30日の参院予算委員会で「間違った報道だ」と否定し、「求めがあれば出席する」との考えを示さざるを得なかった。
議院内閣制の要諦は首相が常に議会の信任を意識することだが、高市氏はどこか勘違いしているのではないか。
国民民主党の伊藤孝恵氏は、菅義偉、岸田文雄、石破茂の歴代首相が参院予算委の集中審議に24~40時間応じたのに、高市首相は30日時点で4時間だと指摘した。その後の与野党折衝で、最終的に集中審議は11時間、審議時間は59時間に積み上って衆院に並ぶ。
予算案の参院審議と並行して、参院自民党による多数派工作が進む。松山、萩生田両氏は30日、日本保守党(2議席)の百田尚樹代表らと会談し、外国人政策やスパイ防止法制定に関する両党協議の設置で合意することで予算案への賛成を取り付けた。加えて、チームみらい・無所属の会の尾辻朋実氏、無所属の斉藤健一郎、平山佐知子、望月良男の3氏が賛成に回ったのだ。
26年度予算は、参院自民、立憲民主両党の協議で、4月11日の自然成立を待たずに、6、7両日の参院予算委で首相出席の集中審議などを経て、7日の参院本会議で成立した。
松山、石井両氏は、参院を軽視しては政権運営が立ち行かない、というメッセージを首相に送り付けたことになる。今後の法案の審議では、参院で否決されたら、衆院の3分の2による再可決に持ち込むことができるが、少数与党は28年参院選まで続くだけに、この力業をたびたび使うわけにはいくまい。
■佐藤官房副長官は選挙の洗礼を経てない
首相や木原官房長官は、国会対策の経験に乏しく、参院の政治力学と文化に疎いのだろう。
参院自民党には、総裁の人事権も及ばない。参院議員会長は選挙で選出され、参院幹事長などの人事を自ら決定する“独立国”なのだ。与野党に人脈を持つ、参院のドンとされる実力者が時に現れる所以でもある。
歴代政権では、村上正邦参院議員会長が小渕恵三政権で存在感を示したほか、小泉純一郎首相が青木幹雄参院議員会長、安倍晋三首相が青木氏を師と仰ぐ吉田博美参院幹事長と人間関係を築き、安定政権に繋げてきた。
高市首相は当初、参院のキーマンである石井氏を軽視していたのだろう。昨年10月の政権発足時の官房副長官人事で、旧安倍派の不記載(裏金)議員の佐藤啓氏(参院奈良選挙区)を充てたが、石井氏は選挙の洗礼を経ていないと適格性を疑問視し、参院議院運営委員会などへの出入り禁止を主導した。
首相は、事前に石井氏に「(佐藤氏を)よろしく」と電話一本入れただけで、事態の深刻さを把握しようとしなかったという。
佐藤氏は、衆院選大勝後の特別国会で、ようやく参院への出入り禁止が解かれたが、首相と石井氏らの「冷戦」は続く。
■「日本の機雷掃海の技術は世界最高だ」
高市内閣の支持率は、なお高い。3月の日本経済新聞世論調査(27~29日)で72%と前月調査から3ポイント上昇し、3カ月ぶりに7割台に回復した。
日米首脳会談の5日前の3月14日、トランプ大統領は、イランのホルムズ海峡封鎖に関連し、SNSへの投稿で「多くの国々は、海峡の通行と安全を確保するため、米国と連携して軍艦を派遣することになるだろう」「中国、フランス、日本、韓国、英国、その他の国々がこの海域に艦船を派遣することを望む」と、日本などの艦船派遣に期待を示していた。
首脳会談では、高市首相が「法律の範囲内でできることを行う」と述べ、トランプ氏が「NATOとは違う」と評価する場面もあった。首相は、停戦合意までは自衛隊の派遣は難しいとの認識をトランプ氏に伝えた。その際に「憲法9条による制約がある」と述べたことも、その後に判明している。
中東から調達する原油の9割が経由するホルムズ海峡の安定は、日本にとって死活的に重要だ。安全保障関連法の存立危機事態を認定すれば、集団的自衛権の行使が可能になり、機雷撤去や有志国によるゾーンディフェンスに当たることができる。重要影響事態と認定すれば、米軍などへの後方支援活動が可能となるが、いずれも支援する相手国が国際法を遵守していることが前提になる。今回の米国のイラン攻撃は国際法違反の疑いが強く、政府も法的評価を避けている。
日米首脳会談に同席した茂木敏充外相は3月22日のフジテレビ番組で「日本の機雷(掃海)の技術は世界でも最高だ。
■「憲法9条を使って逃げている」
憲法9条改正を掲げてきている首相が、その9条を盾にトランプ氏の艦船派遣の要請をかわしたことに複雑な反応もある。
橋下徹元大阪府知事は、3月22日のフジテレビ番組で「高市さんらは『憲法9条が日本をダメにしてきた』と言ってきた。今回、トランプ氏に真正面から議論できないと言って、9条を使って逃げている」と批判し、与党が改憲に取り組むチャンスだとの考えを示した。
自民党の長島昭久衆院議員(安全保障調査会副会長)は、3月25日のブルームバーグのインタビューに「ホルムズ海峡に自衛隊を派遣し、日本関係船舶だけでなく他国の船舶も護衛することが日本の国益に資する」「自衛隊の役割を拡大する特別措置法の制定が必要だ」との認識を示した。「日本やアジア諸国のエネルギー需給がひっ迫すれば、停戦前に派遣が必要な状況になる」とも説いている。
永田町では、改憲派からも、事実上閉鎖が続くホルムズ海峡に自衛隊の艦船を派遣できるよう、憲法と関連法を改正すべきだとする声は大きくなっていない。
高市首相は4月7日の参院予算委で、「米国、イランと意思疎通をしなければならない。(トランプ、ペゼシュキアン)両大統領との電話会談を追求中だ」と述べ、早期沈静化を双方に呼びかける意向を示した。国民にエネルギーの節約を呼びかけるどうかは「今後の状況をみながら、臨機応変に判断する」と述べている。
日本には232日分の石油備蓄がある。今は事態を認定するまでの切羽詰まった状況ではないとの判断が働くが、このまま法的に対応しないという選択肢はないのではないか。
トランプ氏は6日の記者会見で、ホルムズ海峡の安全航行の確保を念頭に、日本に不満を表明した。NATO、韓国、オーストラリアと同列に「日本は我々を助けてくれなかった」と述べたものだ。
日本の外交・安保政策、日米同盟のあり方が改めて問われている。
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小田 尚(おだ・たかし)
政治ジャーナリスト
1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て、フリーに。2018~2023年国家公安委員会委員。
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(政治ジャーナリスト 小田 尚)

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