新入社員のSNS投稿による炎上が相次いでいる。成蹊大学特別客員教授の高橋暁子さんは「友達限定公開の機能であっても外部に流出する。
企業が情報漏洩を防ぐには、何よりも早いSNSガイドラインの研修と指導が大切だ」という――。
■シフト表や社内文書をSNSで大公開
「ばーか大変だけど●●こういう一生動いてますみたいな仕事大好きだから楽しかった バカやりがい感じるし芸能人沢山会えて話せてまじで楽しい」(●●は名前)
日本テレビ系「ZIP!」の水卜麻美アナウンサーやパーソナリティのSnow Man阿部亮平さんなどの名前も記されたシフト表と思われる画像投稿が炎上した。画像には、こんな楽しそうな言葉も載せられていた。
NTT東日本でも社内文書やシフト表が流出していたことが発覚。また、ある投稿では、美容院でセットしながらリモート会議に参加している画像が炎上した。PC画面に、「PwC」という社名が写り込んでいたためだ。三菱電機住環境システムズの新入社員は、名札や機密保持誓約書などが写り込んだ写真を投稿してしまった。
■炎上リスクが高い「2大アプリ」
4月1日の入社式からまだ日も浅い中、新入社員たちによる炎上が続いている。しかも、NTT東日本、日本テレビ系「ZIP!」制作会社、三菱電機住環境システムズ、PwCコンサルティング等、著名企業が多いという特徴がある。なぜこんなことをしてしまうのか。
投稿のほとんどは、InstagramのストーリーズやBeRealなどによるものだ。大学生に人気が高く日常的に利用されているが、実はどちらも炎上リスクがとても大きい。

Instagramのストーリーズは24時間で投稿が消えるため、つい油断して個人情報等を投稿してしまいがちになる。しかし、見た人が動画や静止画などで残すことは容易であり、リスクは高い。最近の炎上は、このストーリーズをきっかけとしたものが多いのが特徴だ。
■「友達だけに」と投稿したつもりが…
BeRealは、ランダムな通知から2分以内に投稿せねばならず、画像加工もできないSNSだ。間に合わせようと慌てて投稿されることが多いため、個人情報の写り込みなどでトラブルになることも多い。やはり、炎上のきっかけになることが増えている。
この2つのアプリは、「友達限定公開」を選ぶことができるが、これも油断しがちなポイントだ。彼らにとってSNSは身内限定の映える写真を投稿する場だが、実際はそうではなく、インターネットの大海につながっている。
SNSの友達は、リアルの友達と違って本当の友達ばかりとは限らない。守秘義務違反などの問題がある内容を投稿した場合、それをおかしいと思う人が外部に公開して炎上することは多いのだ。
■業務に関するほとんどは「投稿NG」
念願の企業に入社でき、新しい職場で活躍している自分を見てもらいたい。そんな思いで投稿した社員証チラ見せ、社内文書チラ見せが、大炎上している。

では、どんな情報はSNSに公開してはいけないのか。実は、仕事に関わる多くのことは投稿すべきではない。
たとえば「○社の人間が×社と打ち合わせ」と公開しただけでも、同社が今後どんなサービスを出すかを推測できることがある。投稿によって会社に株価下落などの損害を与えた場合は、損害賠償を請求されるリスクもある。
社内の機密情報、リリース前の情報、顧客情報や個人情報などを投稿した場合、守秘義務違反で問題とされる可能性が高い。軽微なことでも外部に漏らせば、信用を失い、社名に泥を塗ることになる。リリース後に宣伝のために投稿する場合などを除き、多くの仕事には守秘義務があることは忘れてはならない。
それ以外にも、不適切行為、違法行為、マナー違反行為、差別投稿なども、所属会社の信用やブラインドイメージを傷つける行為として、処罰される可能性が高い。
なお、勤務時間内に職務以外のことをしていた場合も、職務専念義務違反と見なされる。ランチタイムにSNS投稿するだけで処罰対象となる企業もあるので、自社の社内規定は必ず確認するべきだ。SNSでの情報収集や発信を業務としていない限り、業務時間内にSNSに触れるのはやめておくべきだろう。
■医師、看護師はよりモラルを求められる
SNSの取り扱いにとりわけ注意が必要な職種もある。
医師や看護師などの医療系、教員や保育士などの教育系だ。
どちらも個人情報や守秘義務を多く抱える仕事であり、投稿が問題となりやすい。保健師助産師看護師法や地方公務員法などにより、守秘義務が規定されてもいる。一般の人よりもモラルを求められ、多くの人が自分事としやすい職業でもあることも、炎上しやすい理由だ。
たとえば病院内では、そもそも撮影・録画などが禁止されているところは多い。ところが、学生時代から投稿するのが当たり前の中で過ごしてきたため、自然に投稿してしまい、問題になっている。
2025年10月、岐阜県大垣市民病院で看護師が手術室に私用のタブレットを持ち込み、患者の臓器の写真を撮影、SNSに投稿。2026年3月には、福岡県佐田病院の看護師が患者ひとりの電子カルテを撮影し、Instagramストーリーズに投稿して、それぞれ問題となった。
■児童の顔写真を投稿した小学校教諭
教師の場合、学校や自治体等でSNSの利用を禁じているところもある。たとえば愛知県は毎年作成する「個人情報の手引」で、「教員自身の氏名や所属校を伏せたとしても、意図せず個人情報を漏洩する可能性があることから、業務に関することは個人のSNSに書き込まないこと」と明記している。
ある学校では、全教員が毎月、体罰をしていない、交通ルールを順守しているなどを申告するチェックシートシートを管理職に提出している。その中には、「私的に校務の情報や児童の情報をSNS等に発信しません」という項目もある。

ところが、2021年に大阪府内の小学校で、児童13人の顔や名前などが特定できる写真を複数回Instagramに投稿していたとして教諭が文書訓告処分とされるなど、やはり問題は起きている。
なお、モラルを求められやすく、多くの人がモノを言う権利があると考える公務員、多くの人が自分事にしやすい飲食業なども炎上しやすいので注意が必要だ。
■「SNSネイティブ」にとっての当たり前
ある教員からは「教育実習生が校内に足を踏み入れた途端、子どもたちと自撮りしてSNSに投稿していて、慌てたことがありました。それ以来怖くて、学校を案内するより前に、まず『子どもの写真や名前、個人情報は決してSNSに投稿してはいけない』という約束を取り付けるようになりました」と聞いたことがある。
日本のSNSの先駆けであるmixiの登場から、既に22年経つ。今の若者たちは完全なるSNSネイティブであり、投稿することが当たり前の中で育ってきた。自分のいる場所、行動、会っている相手等は投稿することが当たり前であり、疑問を持ってこなかった。社会人になった途端、その当たり前の行為は問題とされるが、それを知らない新入社員は多い。
最近の大学生のメインアカウントは、Instagramだ。画像や動画を投稿するSNSのため、撮影して投稿しないではいられない。違法なことはしてはいけないのはもちろん、そうした行為をSNSに投稿してもいけないのは分かっている。しかし、たとえ違法ではなくても投稿してはいけないものがあると知らない若者もいる。

■就業規則やガイドライン、誓約書で縛る
多くの経営者・管理職が不安になり、新入社員の対処に悩んでいるかもしれない。しかし、社員の私的なSNS利用や投稿を禁じることは、法的にも難しい。
現実的には、SNS投稿で会社に損害を与えた場合の懲戒規定を就業規則に盛り込んだり、ガイドラインで「業務に関する投稿の禁止」「社内での撮影・録画禁止」などを盛り込んだりするという手がある。SNS利用に関する誓約書を提出させたり、リテラシー研修を定期的に実施することも大切だ。
最終的には、「SNSに投稿したい」という気持ちを抑えられる情報リテラシーが大切となる。冒頭でご紹介した反面教師となる事例を伝え、撮影や録画の禁止や守秘義務について改めて徹底させるべきだろう。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)

成蹊大学特別客員教授

ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『若者はLINEに「。」をつけない 大人のためのSNS講義』(講談社+α文庫)ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。


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(成蹊大学特別客員教授 高橋 暁子)
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