石油不足を回避する方法はあるのか。米メディアは、ホルムズ海峡を封鎖したイランだけが石油収入を確保し続けていると報じている。
損をするのは世界経済だけという歪んだ構造が続く中、米シンクタンクが「海峡をさらに封鎖せよ」という逆転の発想を大真面目に論じている――。
■ロシア制裁時より長期化するおそれ
ホルムズ海峡は世界の石油が行き交う海の要衝(チョークポイント)だ。イランが事実上封鎖した今、同等の物流を確保できる迂回路はない。
国際エネルギー機関(IEA)はこれを「石油市場史上最大の供給途絶」であると述べ、すでに4億バレルの戦略石油備蓄の放出に踏み切った。だが、生産も輸送も物理的に止まっている以上、それだけでは到底足りない。原油価格はすでに2008年7月につけた史上最高値の1バレル=147ドル(約2万3500円、7日現在のレート)に迫りつつある。
日本にとって、これは対岸の火事ではない。原油輸入の約9割を中東に頼り、その大部分がホルムズ海峡を通る。3月上旬には150円/L前後で落ち着いていたガソリン価格は、一時180円/L台にまで上昇。今後の夏シーズンに向け、電気代への影響も懸念される。
今回の原油高は長期化のおそれがあると、カタール国営衛星テレビ局のアルジャジーラは指摘する。2022年の高騰とはメカニズムが異なるためだ。

2022年、ロシアのウクライナ侵攻後にも原油価格は1バレル139ドル(約2万2200円)に急騰した。ロシアへの制裁を受けてのものだ。だが、西側はプライスキャップ(価格上限)を設けた上で輸入を続けた。原油価格は翌年には、ほぼ侵攻前の水準に落ち着いている。
一方、チョークポイントを掌握された今回の高騰は、輸出量自体が極端に絞られている。長引くおそれがあるとアルジャジーラは論じる。
■従来の石油ショックとは異質
今回の危機は、過去の石油ショックと比べても異質だ。
アメリカのダラス連邦準備銀行は、これまでの地政学的原因による供給途絶のケースでは、いずれも規模が限定的だったと指摘する。1973年の第四次中東戦争や1990年の湾岸戦争で失われたのは、世界供給の約6%。1979年のイラン革命でも約4%にとどまる。
しかもそのどれ一つとして、完全な供給遮断には至っていない。1979年に原油価格が急騰したのは革命後の警戒感が主因であり、1990年に懸念されたペルシャ湾の掌握も、結局は起きなかった。
かつての石油ショックは、いずれも結果としては「最悪の事態」を免れている。
対する今回は、ホルムズ海峡が史上初めてほぼ完全に封鎖された。世界供給の約20%が一気に消えた。過去の危機のパーセンテージの3~5倍に相当する。
ホルムズ海峡の封鎖と前後して、サウジアラビアやアラブ首長国連邦など周辺国の石油インフラも攻撃を受けた。さらに、輸出の道を断たれた湾岸諸国は、貯蔵施設が満杯に近づくにつれ、油井の閉鎖を迫られた。石油をくみ上げても、もはや行き場がないからだ。イラクやクウェートを皮切りに、3月上旬から各国が相次いで減産に踏み切っている。
湾岸地域の石油輸出は、もともと約80%がアジア向けだ。調達先を一度に失った輸入国が残る産油国に殺到し、原油価格は世界中で急騰している。
これほどの供給減を、迂回路で補えるのか。アルジャジーラは、「ルート変更も多角化も助けにならない(Rerouting and diversification cannot help)」と報じている。
ホルムズ海峡を迂回するサウジアラビアとイラクの代替パイプラインには日量350万~550万バレルの余力しかなく、喪失量には遠く及ばない。
天然ガスとなれば、なおさらだ。同海峡を通過するLNG(液化天然ガス)は年間1120億立方メートル、世界のLNG貿易量の20%にあたる。それが丸ごと止まった。ほかの供給国もすでにフル稼働に近く、増産で穴を埋める余地はほとんどない。
■悠々と輸出を続けるイラン
世界の原油市場が混乱する中、イランの石油産業だけは変わらぬ日常を謳歌しているかのようだ。
米ニュース専門チャンネルのCNNが伝えた複数のデータ分析会社の推計によると、2月28日の紛争開始以降もイランは日量約100万バレルの原油輸出を維持し、輸出量の累計は1200万~1370万バレルに達した。昨年の平均日量169万バレルには及ばないが、封鎖を仕掛けた側がこれほどの原油を売り続けていること自体が異例だ。
攻撃開始を見越してか、2月にはイラン最大の原油積み出し拠点であるカーグ島からの出荷量を日量204万バレルへ一気に引き上げていた。CNNによると紛争前の1月時点で、約1億7000万バレルものイラン産原油がすでに送り出され、洋上で買い手を待っていたという。
輸出の生命線であるカーグ島の石油インフラは、米軍の空爆を経てなお無傷だ。衛星画像の分析では、同島の原油貯蔵タンクは全55基が損傷を免れており、3月14日時点ではタンカー2隻が計270万バレルの原油を積み込んでいた。

イランのタンカーは西側の制裁をかいくぐるため、位置を自動発信するトランスポンダーを頻繁に切り、偽の位置情報を送出する。3月13日にはカーグ島沖のVLCC(超大型原油タンカー)6隻すべてが位置を偽装しており、実際の出港数はさらに多いとみられる。
イランがこれだけの輸出を続けられるのは、アメリカが意図的に手を控えているからだ。
米軍はイラン海軍の大部分を壊滅させたが、イラン原油輸出の約9割を担うカーグ島への攻撃では石油インフラを標的から外し、タンカーの動きを阻止する様子もない。
各国が封鎖で打撃を受けるなか、当のイランだけが石油収入を確保し続けている。痛手を負うのは封鎖された側ばかりだ。この歪みを正さない限り、世界的な石油危機に出口はない。
■個別取引に屈したインド
イランはこの状況を、むしろ外交上の武器として利用している。国ごとに異なる取引条件を提示し、対イランで結束させない状況を作り出した。
その典型がインドとの取引だ。CNNによると、インドは拿捕していたイランの石油タンカー3隻を解放した。見返りにイラン側は、液化石油ガスを積んだインド船籍2隻のホルムズ海峡通過を認め、いずれも無事に海峡を抜けた。

インドのジャイシャンカル外相はこれを外交的対話の成果だと評価したが、裏を返せば、海峡の通行をイランに「許可」してもらう立場を、インド自ら受け入れたことになる。
中国に対しては、条件が異なる。イランの高官はCNNに対し、石油の決済を人民元建てにするなら、タンカーのホルムズ海峡通行を限定的に認めることを検討していると明かした。
石油取引はドル決済が主流であり、中国はかねてサウジアラビアに人民元建ての原油取引を持ちかけてきたが、ほとんど進展はなかった。ところが今、封鎖という非常事態を受け、風向きは変わりつつある。ドルの支配力を突き崩したい中国にとって、断る理由のない提案だろう。
こうした個別の取引が成り立つのは、海峡がほぼ完全に封鎖されているからだ。米公共ラジオ放送局のNPRによると、開戦前に1日約130隻が行き交っていたホルムズ海峡を、今は1日6隻足らずしか通過できない。イランの外相は「友好的」な国の船舶には通過を認める一方、敵対国の船舶は排除すると明言している。韓国も「非敵対国」に認定して通行を認めるなど、取り込む国を着実に増やしている。
イランが個別の取引を進めるのは、目先の石油を売りたいためだけではない。影響力を強め、海峡の支配を既成事実化する狙いがあるとも読み取れる。

■アメリカが艦隊を派遣できない理由
では、海峡封鎖を解除させるにあたり、どのような策があり得るか。
始めに、軍事力の行使が考えられるが、先例に照らせば慎重にならざるを得ない。米シンクタンクのワシントン近東政策研究所が分析しているのは、1987~88年にアメリカがクウェートのタンカー護衛のため実施した護送船団作戦「アーネスト・ウィル」だ。
確かに、護衛が付いたことでタンカーへの直接攻撃は抑止された。だがイランはすぐに抜け道を見つけた。秘密裏に機雷を敷設し、護衛が離れたタンカーを港内で攻撃。また、護送対象外の船舶も狙い撃ちにした。
さらに同研究所は、当時と現在では条件が大きく異なると指摘する。当時の作戦に投入されたのは約30隻。米海軍が主要戦闘艦約250隻を擁していた時代の話だ。ところが現在は、約100隻にまで減っている。同じ規模の部隊を編成すれば、現有艦隊の約3分の1を一つの海域に張りつけることになる。
しかも1980年代と異なり、アメリカは今回、交戦の当事者国だ。護送船団を組めば、艦船そのものが攻撃の的になる。イランは対艦ミサイルに加え、射程1600キロ超の攻撃ドローンも保持している。攻撃兵器は迎撃弾よりコストが低いことから、撃ち落とすたびに守る側が消耗する。護衛作戦では一時的な圧力の緩和にしかならない、と同研究所は結んでいる。
護衛に限界がある以上、別の手として考えられるのがカーグ島の占領だ。だがこちらも容易ではない。
イスラエル英字オンライン紙のタイムズ・オブ・イスラエルによれば、イランは携行式地対空ミサイルの増強をはじめ、多層防衛を固めている。米軍が制空権・制海権を握っている以上、島の制圧そのものは短期間で済むかもしれないが、本当に難しいのはその先だ。
カーグ島はイラン本土からのロケット砲や自爆型ドローンの射程内にあり、ロシアから調達したドローンの移送もすでに進んでいる。占拠するまでは良いが、支配体制を維持するには、沿岸に散らばる移動式発射台を捜索・破壊するため航空戦力を大量に張りつけねばならない。カーグ島を奪うことはできても、守り続けるための消耗戦は容易でない。
■海峡閉鎖を強化すべきという逆説
どの選択肢をとってもイランの収入源を断てないのであれば、問題をまったく別の角度から捉え直すしかない。米外交問題評議会(CFR)名誉会長のリチャード・ハース氏は、逆転の発想を打ち出した。
彼が提案する案が、「全員に開放か、さもなくば全員に閉鎖か(Open for All or Closed to All)」だ。イランの船舶も海峡を通さないことで譲歩を迫り、海峡を開かせるという逆説だ。
ハース氏が米外交政策ニュースレターのホーム・アンド・アウェイで説く構想はこうだ。イランが商業船舶への妨害をやめるまで、同国のタンカーをいかなる国にも到達させない。空母と地域基地を拠点に、幅約200マイル(約320キロ)のオマーン湾に艦船・航空機・ドローンの防衛ラインを敷く。関係国にはあらかじめ通告し、それでも従わない商船は航行不能にする。
狙いは利害構造の逆転だ。いまイランの石油を輸入している中国・インド・パキスタン・トルコは、供給が断たれれば自らイランに海峡開放を迫る側に回る。封鎖で唯一利益を得てきたイランが、代償を免れなくなるという算段だ。
護衛作戦やイランの原油積み出し拠点であるカーグ島の占領に比べて作戦上のリスクははるかに小さく、国際水路の自由航行原則に沿うぶん国際的な支持も得やすい、とハース氏はみる。原油価格への影響が皆無とはいえないが、イランの輸出量自体が限られている以上、上昇幅は小さいとの読みだ。
ハース氏の構想を別の角度から補う提案もある。ワシントン近東政策研究所は、封鎖を仕掛ける当のイラン自身が輸入品の約80%をホルムズ海峡経由で受け取っている点に着目している。人道上必要な食料品は通すが、原材料や工業製品は迂回させるという選択的封鎖は十分可能との案だ。
■「長期戦」に賭けるイラン
封鎖解除は、時間との闘いでもある。封鎖が長引くほど、世界経済の傷は深くなる。そしてイランはそれを知っている。
ダラス連邦準備銀行が3月に公表したモデル分析によると、世界の石油供給の約20%が途絶した場合、わずか1四半期で原油価格の代表的な国際指標であるWTI原油は1バレル98ドル(約1万5700円)に跳ね上がり、世界の実質GDP成長率は年率2.9ポイント沈む。仮にそこで封鎖が解けても、2026年末時点の実質GDPは封鎖前を0.2%下回ったまま戻らない。
もし封鎖が2四半期続けば、原油は115ドル(約1万8400円)、成長率がプラスに転じるのは第4四半期以降と予測されている。3四半期に及べば原油は132ドル(約2万1100円)、年間GDP成長率は1.3ポイント削られる。しかもこの試算は、天然ガスや肥料の輸出途絶を織り込んでおらず、実際の影響はさらに大きくなるとみられる。
こうした時間的コストを、イランはしたたかに利用しようとしている。ワシントン近東政策研究所によれば、イランは意図的に「長期戦」を選んでいる可能性があるという。相手のほうが先に音を上げる、という読みだ。石油相場が上昇すれば、イランにとって不利にはならない。
そうしているうちにも、実体経済は蝕まれていく。アルジャジーラが指摘するとおり、石油化学・肥料・鉄鋼といったエネルギー集約型の産業が真っ先に苦しくなり、航空・海運の運賃が上がるにつれて家計の可処分所得も減少するおそれがある。一連の動きを通じ、湾岸協力会議(GCC)諸国が長年かけて築いた「信頼できる供給者」としての地位も揺らぎつつある。
イランだけが個別取引で石油の供給を実質的に支配している現状、輸出路を断つ「全員に開放か、さもなくば全員に閉鎖か」の戦略は的を射ているのかもしれない。停戦交渉の兆候も報じられるが、交戦と海峡封鎖が長引くシナリオも依然存在する。アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃は世界に波紋を広げており、一刻も早い幕引きが望まれる。

----------

青葉 やまと(あおば・やまと)

フリーライター・翻訳者

1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

----------

(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
編集部おすすめ