■前年比1.3%増の8万8518人と9年ぶり増加
今年2月に2025年の東京都の出生数の速報値(厚生労働省「人口動態統計」)が公表され、全国的には出生数減が続く中で、前年比1.3%増の8万8518人と9年ぶりの増加。また、婚姻数についても2年連続の大幅な増加となったことが報じられ、話題となった。
小池百合子都知事は「チルドレンファースト」政策の成果を強調したが、実際のところ、何らかの地域構造の変化が生じているためだろうか、今回は、この点を23区の各区の出生動向から探ってみよう。
出生数は出産年齢の人口の増減によっても左右されるので、出生動向を見極めるためには、出生率、それも出生年齢の女性当たりの出生数から算出される合計特殊出生率(女性が一生に産む子どもの人数)を見ていく必要がある。以後、ここでは合計特殊出生率を出生率と呼び、東京都の中でも一番気になる東京23区の出生動向の分析を試みよう。
まず、おおまかに23区内の出生率の状況とその変化を知るために、2000年と2020年の区別の出生率の分布マップを図表1に掲げた。市区町村別の出生率については、出生データの毎年の変動を平準化して地域比較ができるよう、5カ年の平均値が厚生労働省によって算出、公表されているので、それを使った。
■湾岸部や都心で出生率が大きく上昇
全国の2000年と2020年の出生率はそれぞれ、1.36と1.33だった。各区の出生率は概してそれよりは低くなっているが、図表1では、全国水準に近い1.2以上の出生率を確保しているエリアを水色で色分けし、逆に出生率のかなり低い1.0未満のエリアをグレー(0.9未満は濃いグレー)で色分けした。
2000年当時の出生率の分布は23区内の縁辺部、特に東部で高く、西部の山の手地域や都心部では低いという状況だった。
それが2020年にかけてかなり大きく変化している。
第1に、東部だけでなく、タワーマンションが増えた湾岸部を抱える江東区、中央区、港区へと高出生率のエリアが時計回りの方向に拡大した。
第2に、上と重なるかたちで、出生率の低かった千代田区、それに隣接する文京区、台東区といった都心部で出生率が上昇している。
第3に、西部の山の手地域の0.9未満の低出生率は0.9~1.0未満へとやや回復した(ただ、豊島区だけは0.9未満のまま)。
■変化の乏しい京都市の状況とは大きな違い
こうした東京23区の大きな出生率の変化は、他の大都市と比較するとはっきりしている。
図表2には参考に京都市の各区の出生率の状況とその変化を図表1と同じ基準で作成した。
京都市の2000年の状況を見ると、もともとの伝統的な京都市街、いわゆる洛中を構成する上京区、中京区、下京区とそれと鴨川をはさんで隣接する花街や神社仏閣の多い東山区で出生率が低く、それより南の住宅地を多く抱える山科区、伏見区をはじめとする南部地域で高い出生率の地域が広がっていた。そして、北部地域は両者の中間的な性格だった。
ところが、2020年になっても、この構造はほとんど変化していない点が目立っている。洛中地域の低出生率を残したまま北区や左京区と言った北部地域は出生率がやや上昇しており、むしろ2000年当時の地域構造が一層明確になったとも言えよう。
こうした旧態依然の京都の状況と比較すると東京の状況がいかに変化に富んだものかが実感されるのである。
■東京の脱「人口のブラックホール」化
東京における出生率の地域構造の変化の要因をさらに探るため、代表的な区における出生率の変化を時系列的に1993年から直近の2024年にかけての毎年の動きを追ってみよう(図表3参照)。データとしては、毎年の区ごとの合計特殊出生率を東京都が独自に算出し公表しているのでこれを使った。
各区の動きを見る前に、まず、「全国」と「東京23区」の動き(2本の点線の動き)に着目してみよう。
図表3に見るように、全国的な出生率は、2005年を境に上向いていたものが2015年を境に低下傾向に転じている。一方、東京23区は水準こそ低いものの同様の起伏で推移している。
ただし全国では最新の2024年の1.15はかつてのボトム年の1.26を大きく下回り、過去最低を更新しているが、東京23区は0.96とボトムであった2005年の0.95をわずかながらであるが上回っている。
また、「全国」と「東京23区」の対比では、出生率格差(2つの点線の差)が、0.4前後から0.2前後へ半減。つまり大きく縮小してきている。かつて東京は、流入させた人口を食いつぶしていくという意味で「人口のブラックホール」と見なされていたが、そんなこともなくなってきているのである。
各区の出生率の推移をそれぞれ見てみると、かつて23区平均より高かった区の低下が目立つ反面、かつて低かった区の中で出生率が大いに伸びた区が複数ある点が目立っている。
■人口流入が多いが低出生率の「ブラックホール区」
▼東部・北部地区などかつての高出生率エリアの出生率低下
江戸川区はかつて23区の中でもっとも出生率が高く、ほぼ全国水準を保っていたが、2020年代に入ると低下が目立ちはじめ、今ではいわゆる都心3区(千代田区、中央区、港区)よりも低い水準となっている。
江戸川区とともに下町3区と呼ばれる葛飾区、足立区も江戸川区と同じ傾向をたどっているが、北部地域の板橋区の低下傾向はより目を引く動きとなっている。板橋区の出生率はかつて23区平均を安定的に上回っていたのであるが、今や大きく低下傾向をたどり、2022年以降には豊島区と並んで23区の最低レベルに落ち込むまでに変貌しているのである。
▼かつても今も低出生率のエリア
池袋を抱える豊島区は、世田谷、渋谷、中野、目黒などの区とならんで2000年に23区の中で最低レベルの出生率を記録していたが、2020年にはその他の区が出生率を上昇させる中でなお低位にとどまっているため23区内で最低の区と見なされるようになった。
豊島区は、2014年、民間研究機関「日本創成会議」の報告で若年女性の減少予測から東京23区で唯一「消滅可能性都市」に位置づけられ、かなり話題となった。
▼出生率が大きく上昇した都心エリア、湾岸エリア
図表3のなかで、2000年当時、千代田区、港区、文京区は豊島区などと並んで23区平均を下回る低出生率エリアをなしていた。
ところが、港区、千代田区、文京区の順に出生率の上昇傾向への転換が起こり、港区、千代田区では、驚くべきことに、全国レベルまで出生率が上昇するに至っている。中央区、江東区も港区と同様の動きである。文京区も23区平均を大きく上回り、今や江戸川区を追い抜く勢いである。
千代田区、中央区、港区は都心3区と呼ばれるが、こうした都心部と重なる江東区などの湾岸部、および都心部に隣接する文京区は合わせて23区のうちの最高レベルの高出生率エリアに変貌している。
こうした変貌の要因としては、以下の3つが考えられる。
■タワーマンション建設分布と出生率の上昇地域
①湾岸エリアにおける活発なタワーマンション建設によって3LDK前後のファミリー向け物件が大量に供給され、職住近接をかなえる新たな家族型の居住エリアが誕生したこと。タワーマンションの建設分布を図表4参照に掲げたが、出生率の上昇地域と重なり合っていることが分かる。
②人手不足を見越した企業などの取り組みにより子育てしながらキャリアを継続できる環境が整ってきて「夫婦ともに高収入の専門職や管理職として働く“パワーカップル”が増加」していること(にゃんこそば『データでわかる東京格差』の紹介記事)
③豊かな財政力を背景に都心部などにおいて東京都や各区によって、高い教育費・住宅費や待機児童、安全なお産などの課題に対応するため、所得制限なしの018サポート(18歳まで月額5000円支給)、保育料の無料化、出産・育児用品の配布(赤ちゃんファースト)、国に先駆けた無痛分娩の費用助成など、出産・子育て家庭に対する包括的な経済的・生活的支援が強化されていること
このように見てくると、出生率の地域構造の変貌は東京においてかなり著しいと言えよう。都心部も単に通勤場所、あるいは独身者が一時期すごす場所という性格から子を産み育てる場所としての性格をもつ複合地域へ変化しつつあるようだ。
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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『統計で問い直す はずれ値だらけの日本人』(星海社新書)。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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