ヨーロッパでは先日まで、反欧州連合(EU)の立場を取る政治家が、愛国主義の観点からアメリカのドナルド・トランプ大統領を担ぐ傾向が強かった。同大統領がアメリカ第一主義を掲げたためだが、そうした傾向は特にロシアとの国境が近い中央ヨーロッパや東ヨーロッパの国で顕著だった。
その好例が中央ヨーロッパの小国ハンガリーだ。同国は4月12日に総選挙を控えているが、長年にわたり事実上の“独裁”を続けてきたビクトル・オルバン首相が窮地に立たされている。オルバン首相は事あるごとにトランプ大統領との親密な関係をアピール。選挙戦の終盤にはJ・D・バンス副大統領も駆けつける異例の事態となっている。
しかし、そうしたオルバン首相のアピールは、ハンガリーの有権者にもはや響かないようだ。実際、オルバン首相がトランプ大統領にすり寄ったところで、ハンガリーに具体的なベネフィットは何ももたらされなかった。景気の低迷や汚職の蔓延を前に有権者はオルバン首相に対する不信感を募らせており、政権交代が視野に入る情勢である。
■各国で強まる嫌悪感
このように、先日まで、ヨーロッパの一部の政治家は、アメリカのドナルド・トランプ大統領への共感や関係の親密さをアピールすることで、有権者の支持を獲得しようとしていた。しかし、今やそれは逆回転を起こしており、大統領と一線を画することが有権者に支持される。トランプ大統領への嫌悪感がヨーロッパ中で急拡大したためだ。
イギリスの調査会社ユーガブ(YouGov)は、ヨーロッパの主要国の国民を対象に、トランプ大統領に対する印象に関する調査を定期的に行っている(図表1)。
もともとヨーロッパの主要国の国民はトランプ大統領に対して悪い印象を抱いていたが、大統領が年明け以降に傍若無人さを急速に強めたことで、その傾向は一段と強まっている。
■独自の中東外交に徹するメローニ首相
実際、ヨーロッパの主要国の指導者はトランプ大統領から距離を置いている。例えばイタリアのジョルジャ・メローニ首相である。同首相はアメリカのイラン攻撃に対して一貫して否定的だ。そのメローニ首相は4月3日~4日の2日間の日程で、カタールとアラブ首長国連邦(UAE)を訪問、戦争の早期終結や両国の復興支援に関し協議を行った。
イタリアはEUの中でもカタール産の液化天然ガス(LNG)への依存度が高い(図表2)。ゆえにメローニ首相はイラン情勢の緊迫化に神経を尖らせており、中東を訪問したようだ。なお同首相は、今回のアメリカとイスラエルによるイランの攻撃に際して、初めて中東を訪問したEUおよび北大西洋条約機構(NATO)加盟国の首脳となる。
これに先立つ3月25日、メローニ首相は北アフリカのアルジェリアを訪問し、アブデルマジド・テブン大統領と会談し、アルジェリアからの天然ガス供給の強化を取り付けた。両国は地中海を挟んで対岸に立地しており、そもそも経済関係が深い。とにかくエネルギーの確保に努めるメローニ首相の姿は、為政者として非常に頼もしいものだ。
■アメリカと一線を画し、国益を守る
またイタリア政府は、中東に向かうアメリカ軍機がシチリアにあるイタリア軍基地への着陸を求めた際、事前に協議が行われなかったことを理由にこれを拒否した。
イタリアでは3月22日に司法改革に伴う憲法改正の是非を問う国民投票が行われ、否決されたばかり。メローニ首相の肝いりの政策であったため、その否決は首相にとって打撃になったという評価もある。それが失点だとしても、有権者の評価は決して悪くないし、直後のエネルギー外交を見る限り、その失点を取り戻すに十分な働きぶりだ。
ヨーロッパの首脳陣がトランプ大統領を突き放すようになったのは、そもそも同大統領の荒唐無稽な要求について行けなくなったことのほか、ヨーロッパの中で同大統領への嫌悪感が高まっていることがある。加えて、アメリア国内での支持率の低下が顕著なこともあると考えられる。つまり、政権交代の可能性が高まっていることだ。
■「距離を置く」段階から「突き放す」に
各種世論調査では、アメリカの有権者のトランプ大統領に対する支持率はガタ落ちの状況である。特にイスラエルとともにイランを空爆したことは、MAGA層と呼ばれる大統領の支持者層の離反につながったとも指摘される。またアメリカ各地では“NO KINGS”をスローガンに掲げた大規模な反政権デモも行われるようになっている。
イランとの戦争は2週間の停戦に入ったが、これで終幕かは不明だ。
またいわゆる“トランプ関税”の仕掛人の一人であるハワード・ラトニック商務長官も解任するという噂がある。トランプ大統領とJ・D・バンス副大統領との関係の悪化も伝えられるところだ。発言内容が二転三転することもあり、大統領自身の健康不安説も燻り始めた。もはやトランプ政権そのものが瓦解しつつある状況かもしれない。
トランプ政権の路線は長くは持たないし、2028年の大統領選でトランプ大統領の路線を継承する候補が勝利する可能性も低くなった。そう踏んでいるからこそ、ヨーロッパの指導者たちはトランプ大統領から確実に距離を置くようになったのだろう。それはもう距離を置くレベルを通り越しており、突き放すレベルなのかもしれない。
■付かず離れずの距離をどうとるか
ヨーロッパ主要国からの協力を得られないことに業を煮やしたトランプ大統領は、NATOからの離脱に言及し、ヨーロッパに圧力をかけようとしている。とはいえ、大統領の権限だけでNATOから離脱することは不可能だ。脱退には上院の賛成が必要になるが、上院共和党の議員の中にはNATO支持者は多い。
日本もヨーロッパと同様、アメリカと経済的にも政治的にも深い関係にあるため、友好関係の意地は不可欠だ。とはいえ、アメリカとの友好関係とトランプ大統領との友好関係は必ずしもオーバーラップしない。それどころか、両者のズレは着実に拡大している。その現実を踏まえたうえで、イタリアのメローニ首相らは現実的な判断を下している。
同様の判断が、日本も迫られているのだろう。いずれにせよ高市首相には、メローニ首相と同様に、エネルギーの確保に向けた積極的かつ主体的なトップセールスを期待したいところである。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)
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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。
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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員 土田 陽介)

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