※本稿は、稲垣栄洋『雑草は、なぜ何度でも生えてくるのか』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。
■「かわいそう」と思われる雑草の正体
アスファルトのすき間に生える雑草があったとします。
こんなわずかなすき間で、誰にも気づかれることなく、小さな花を咲かせている……人間たちは、そんな雑草をかわいそうと哀れんでみたり、もしかすると自らの境遇を重ね合わせて、センチメンタルになってみたりするかもしれません。
しかし、本当にそうでしょうか?
その雑草はアスファルトに咲く能力を持っています。
アスファルトに咲く雑草は、小さく咲く能力を持っています。だから、アスファルトのすき間で小さく咲いているのです。
けっして、頑張っているわけではありません。
持っている能力をありのままに発揮しているだけです。
■ライバルがいない、水がある、抜かれない
しかも、アスファルトのすき間は、私たち人間が考えるほど、みじめな場所ではありません。
道ばたのアスファルトのすき間には、大きな雑草は生えないので、小さな雑草の上にも、日光が降り注ぎます。
また、道路に降り注いだ雨水は、路面を流れて、アスファルトのすき間に流れ込んできます。アスファルトのすき間は、小さな雑草にとって、水も十分に得られる場所なのです。しかも、アスファルトの下に注ぎ込んだ水は、簡単には乾かないから、雨が上がった後も十分に水を吸うことができます。
アスファルトのすき間に入り込んでしまえば、もう人間が抜くこともできません。
私たち人間から見ると、かわいそうに見えるアスファルトのすき間は、じつは雑草にとっては居心地の良い場所かもしれないのです。
雑草は頑張っていません。
アスファルトのすき間の雑草は、アスファルトのすき間の雑草として生えているだけなのです。
■雑草も生き物も頑張らない
雑草魂というと、がむしゃらに頑張るというイメージがあるかもしれませんが、実際には違います。
雑草が生きる場所は、頑張れば生き抜けるというほど甘い環境ではありません。
頑張れば、それで良いというものではないのです。
だから、雑草は頑張りません。
雑草だけではありません。
生物はみんなそうです。
たとえば、深海魚たちは光の届かない暗い海の底で、ものすごい水圧の中で暮らしています。それは、私たち人間から見れば、とてもつらい環境です。
しかし、深海魚は頑張っているわけではありません。
もし、暗い海の底はかわいそうだと、海の上に引き上げたとしたらそれは、迷惑な話でしょう。
深海魚は、深海に適した能力を持っています。それを発揮して暮らしているだけなのです。
■チーターが「陸上最速」である理由
あるいはチーターは、時速90キロメートルを超える速度で草原を走り抜けます。この速度を手に入れるために、チーターは血のにじむような努力をした……わけではありません。
チーターは何の練習もしなくても、速く走ることができるのです。
すべての生物が、自分の能力を発揮して生きている、ただ、それだけのことです。
自然界は頑張れば生き抜けるというほど甘いものではありません。
だからこそ、生物は頑張りません。
そして、ただただ自分の能力を発揮するのです。
すべての生物は、自分が持つ自分の能力を超えて生きることはできません。
できることは、自分の能力を最大限に発揮することだけです。
それなのに、人間は努力をします。
もちろん、努力はムダではありません。
私たちの遺伝子は、さまざまなスイッチがあって、ふだん使わない機能はスイッチがオフになっています。そして、努力をしたり、練習をしたり、苦労をしたりすることによって、そのスイッチが入ることがあるのです。
■人間は生身では空を飛べないけれど…
ただし、残念ながら私たちは、どんな能力を持っているのか知りません。生まれながらに発揮される能力もありますが、ただスイッチが切れているだけの能力もあります。
そして、自分の能力であるにもかかわらず、そのスイッチがどこにあるのかさえも知らないのです。
やってみることによってスイッチが入るかもしれませんし、やってみても、もともとスイッチがないかもしれません。
結局のところ、やってみないとわからないのです。
そのため、私たちには「ムダな努力」も必要です。
遺伝子に書かれていない能力は、どんなに努力してもスイッチが入ることはありません。どんなに望んでも、どんなに努力しても、ないものはないのです。
たとえば、私たちはどんなに努力しても道具なしに空を飛ぶことはできません。
「努力は報われない」と言いますが、努力して、何度、崖から飛び出したとしても、空を飛べるようにはなりません。人間は生身では、空を飛ぶ能力を持っていないのです。
鳥たちのヒナは飛ぶ練習をしますが、どのヒナも最後には飛ぶことができます。飛ぶことのできない鳥はいません。
トンボやハエは誰に教わらなくても簡単に飛び回ります。
彼らは、飛ぶ能力を持っているのです。
■「努力=スイッチを探す作業」
私たちは、他の生き物に比べると、とても器用でさまざまなことができます。
私たちは自分たちが飛べないことは知っています。
しかし、他の能力はわかりません。
何ともやっかいなことに、私たちにとって、「ムダな努力であるかどうか」は、やってみないとわからないのです。
そうだとすると、後から考えてみると「ムダな努力」だったとしても、まずはやるしかありません。
しかし、その努力によって「できないこと」を確認できたとすれば、それはムダではありません。
努力とは、スイッチを探す作業なのです。
■勝つには「努力」より「準備」が必要
もちろん、受験や大切な試合や発表会のために、私たちは努力をします。
それは、ベストなパフォーマンスをするためです。
けっして、がむしゃらに努力することではありません。
たとえば大切な試合で、強豪と対戦することになったとしましょう。
努力によって能力を高めることも大切かもしれません。相手より強くなることも必要かもしれません。しかし、もし勝つことだけを考えるのであれば、「相手の方が強い」と認めてしまうことです。そして、相手を分析したり、強豪に勝つような作戦を立てたりすることが重要かもしれません。
つまり、もし、本当に勝つことだけを目指すのであれば、必要なのは「努力」ではなく「準備」なのです。
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稲垣 栄洋(いながき・ひでひろ)
静岡大学大学院教授
1968年静岡県生まれ。農学博士、植物学者。岡山大学大学院農学研究科修了後、農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。『弱者の戦略』(新潮選書)、『植物はなぜ動かないのか』『雑草はなぜそこに生えているのか』『はずれ者が進化をつくる』(すべてちくまプリマー新書)、『生き物の死にざま』(草思社)、『世界史を大きく動かした植物』(PHP研究所)、『生き物が老いるということ』(中公新書ラクレ)など著書多数。
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(静岡大学大学院教授 稲垣 栄洋)

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