■「フリーレン」「呪術」に次いで人気だった意外な作品
世界中にいるアニメファン約2000万人が集う「My Anime List(MAL)」は、アニメ好きのためのWikipediaのような存在だ。
3カ月ごとに60~70本放送される新作アニメのページが新設され、Members(アニメをリストインしている人)、Score(アニメ評価)、Popularity(Members数の歴代ランキング)、Ranked(Scoreの歴代ランキング)の4つがトップに表示される。当然海外のアニメファンのためのサイトであり、すべて英語。
ここはエンタメを研究する私のような立場の人間にとって宝の山だ。6~7割が10~20代の若者世代、5~6割が欧米ユーザー、あとはアジア・南米などで日本人はほんの1%未満、という純粋な「日本人以外のアニメファン」サイトだ。
ネットフリックスや海外における最大級のアニメ配信サイト・クランチロールによって世界中に配信されたアニメをどう受け止めているかのリアリティが、ここにある。
2026年1~3月は豊饒のアニメシーズンだった。
『葬送のフリーレン』(第2期)Score9.0、『呪術廻戦』第3期 「死滅回游 前編」Score8.7、『地獄楽』(第二期)Score8.3、『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録』Score8.1、『【推しの子】』(第3期)Score8.4、とMember数トップ5すべてが高評価水準のScore8以上。とにかくコメントの評価が軒並み高い。
「フリーレン」、「呪術」、「推しの子」のシリーズはもはや定番・トップアニメの域にある。順にマッドハウス、MAPPA、動画工房とブランドが確立された制作会社によってつくられている。
■激しいバトルシーンがなくても◎
フリーレンの第2期は、「一級魔法使い試験編」と「マハト編」という2つのハイライトの谷間のストーリーであり、大爆発した第1期と比べて決して盛り上がりのあるタイミングではなかった。それでも、である。
まさに本作の「RPGでラスボスを倒した後の世界で、バトルはそこそこに、人との思い出を回顧しながら時間、喪失、人生について考える」という“余生アニメ”の設定にふさわしい内容だった。
トーンは弱いものの人間の情緒そのものにハイライトをあてている作品として、よりアニメとしての純粋な描写力・表現力が高く評価される結果となった。
MALには「第1期と同様、まさに傑作」「10話という短さにもかかわらず、番組の根幹を成す美学は最後まで素晴らしい」「アニメーションは、必要のない場面でさえも流麗で息を呑むほど美しい」と絶賛が並ぶ。
■呪術3期はもはやアート
呪術廻戦もまた「MAPPAの卓越した技術力を改めて証明する。その完成度の高さは、他の追随を許さない」といったコメント通り、アニメ会社の技術に対しての評価が並んでいる。
すでに3期目で47~59エピソードになってきており、続く「死滅回游 後編」、そして「人外魔境新宿決戦」編とクライマックスに近くなってきている。主要キャラクターの五条悟が封印され、物語の複雑性が増し、正直よくわからなくなっていったという読者の声もあったシーズンだ。だが、このカオスすぎる世界観に対して、アニメの筋は多分に実験的である。
「壁にアイデアを投げつけて何がくっつくか試しているように感じられる」「脚本がひどい。疾風伝を『ハンター×ハンター』のように見せている」といった批判も交じりこむため、すべてのユーザーが諸手(もろて)を挙げて絶賛、という感じではない。
「シーズン3は今のところ全てが芸術作品」「マンガを完全に読み終え、何が起こるか正確に知っていたにもかかわらず、アニメ化されたその表現に完全に圧倒されたのはこれが初めて」など、スピーディーで秀麗で斬新な表現に溢れている本作は、他のトップ作品にすら送られない「アート的な評価」に溢れている。
■海外ファンのアニメ視聴法
【推しの子】第3期も、賛否入り混じるという意味では呪術に並ぶ。一方では「言葉が出ない。すごい。」「ショービジネスの世界に戻ってきました。なんと暗く醜い場所でしょう。」と高評価。
マンガ原作に対して1~2期よりも3期アニメはずいぶんスピーディーに展開している。最終着地である第4期に向けて“巻いてきた”印象もあるが、そのハイペースなテンポが「脚本はより焦点が絞られ、物語はついに勢いを増した」「これまでで最高の『推しの子』シーズンだと言える」など、逆に高評価を生んでいたように思える。
動画工房のアニメクオリティには絶賛も飛んでいる一方、今シーズンに関しては「赤坂先生(原作者)は物語の後半を書くのが得意ではなく、その点がもどかしい」「アクア以外のすべてのキャラクターが、脚本の要求に応じて変化するカメレオンになる」など原作そのものへの指摘も多い。
欧米が中心となるMALのレビューをみていて気付くのは、アニメ視聴前に「マンガ原作人気」を周到に聞きこんだうえで、視聴の選択を行っている点だ。
脚本の筋やキャラクターの掘り下げに関しては原作の評価を調べ、(日本人と同じように)「間違いのないアニメ視聴体験になるか」を確認してから視聴に入っている。
だがそれはある意味、アニメ制作会社の手腕や表現を切り出して評価しようという傾向も強いように感じる。アニメ作品を共同体として一括に視聴するのではなく、原作者/出版社/アニメ製作委員会/アニメ制作会社ごとに切り分け、特に原作者/制作会社などのクリエイターそのものがどういった創作性を込めたかを、丁寧に評価しようとしている。
■増加率350%のラノベ発アニメ
今回注目したい新作は、『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録』である。Membersが配信前の6万人登録から配信終了後の27万人と、増加率350%となった、今クールにおけるピカ一のダークホースといえる。ラノベ発で久々のビックタイトルがデビュー! という感じであった。
2021年からKADOKAWAカクヨムで連載されていた本作は、「“勇者”は大罪人に与えられる刑罰であり、魔王に対する戦場の最前線に、たとえ死んでも蘇生され、戦い続けなければならない」という斬新な設定からはじまる。
主人公ザイロは序盤から強く、重めな雰囲気をまとう二枚目だが、実は大罪を犯した元聖騎士団長という設定。パートナーとなるテオリッタは、人工で作られた超兵器の《女神》。恐れ敬う高貴な存在かと思いきや、「敵を殲滅した暁には、この私を褒め讃え、そして頭を撫でなさい」とただ褒められたいだけの甘えん坊ロリキャラ、という設定もまた秀逸で、この2人のやりとりだけで何杯でも飯が食える。
恋愛に発展する気配がないことも、重要な安心感だろう。
「ストーリーの展開が待ちきれない!!! 注:シスコン、ブラコン、ロリコンのクソ展開がないことを祈る」など、安易なハーレム展開やラッキースケベに対する嫌悪感は欧米ユーザーのほうが強い印象だ。今回最終完結となった、今クール6位の「炎炎ノ消防隊 参ノ章 第2クール」でいまだに「タマキのファンサービス」が炎上の種として言及されていたことからも証明されている。
■キャラと内容が◎でも音楽は大事
「このアニメ(『勇者刑に処す』)は最高にクレイジーで、映像も素晴らしい!」「突如現れ、その魅力的なストーリーと優れた制作クオリティで私たちを驚かせた。間違いなく今年最高の新作シリーズの一つだ」
「アニメーションも素晴らしく、特に戦闘シーンは秀逸」というコメントがあるように、ADK子会社のスタジオKAIの手腕も光った作品といえる。
一方で、「(魔王現象などの)物語に深みとボリュームが必要」や「サウンドデザインはややありきたり」といった批判もある。設定、キャラクター、アニメーションが高評価の本作の場合、印象に残る音楽ではなかったということが批判の中心のひとつになっている。
音楽×アニメに対するファンの期待値が高い、ということも本作で改めて実感する。
ダークファンタジーといえば、今クール3位の『地獄楽』もそうだ。
極楽浄土と噂される謎の島を舞台に、無罪放免を勝ち取るため「不老不死の仙薬」を巡って死罪人と処刑執行人たちが怪物や己の過去と戦う凄惨なサバイバル活劇である。制作は、まさにこのジャンルで日本最高峰といえる、MAPPAである。
「色彩、アニメーション、サウンド、声優、すべてが本当に美しいです。」「戦闘シーン、アニメーション、全体的なアートスタイルは正直言って完璧です」、などMAPPAの芸術性の高さを称賛する声は引きも切らない。
「キャラクターたちは独自の動きと激しさで本当に「生きている」ように見えます。様々な場面で、まるで画面から飛び出してきて、周囲のすべてを飲み込もうとしているかのように感じられます」
このレビューは、マーベル映画などのハリウッド大作に対するそれと大差ない。アニメにおける表現力は今、これほどリアルに欧米ユーザーの心を捉えるようになってきているのだ。
■「呪術」以上だった「違国日記」の高評価
個人的にはTop10には入らなかったが、今回どうしても紹介したい作品がある。『違国日記』である。
両親を事故で失った中学生の朝を、小説家でコミュ障の叔母・槙生が引き取る。姪の心の傷の回復を不器用に見守りながら、生き方の指針を与えていくストーリーだ。
Scoreは8.8と高評価。決して大人気アニメとはいえない本作において、ほぼ誰一人「お勧めしない」というレビューをつけていなかった(唯一のBadレビューは「否定的なレビューが1つもないのをみて、少しイライラして書いた」というもの)。
Membersも2万→9万人と、完全にスコープ外だったところから急激に追い上げている。
叔母・槙生の言葉はさすが小説家のものであり、突然の母の喪失に悲しみすら覚えない姪・朝に「悲しくなるときがきたらそのとき悲しめばいい……」と言葉をかけ、気を遣うまわりに対しても「あなたの感じ方はあなただけのもので誰にも責める権利はない」と喝破する。
朝は日記をつけながら、槇生の言葉にすがるようにして生きていく。槙生の不器用だが真理と人の心に実直であろうとするスタンスは、ふと柳本光晴氏の『響 ~小説家になる方法~』を彷彿とさせる。
■コメントも文学性が高い
『違国日記』は「喪失」や「孤独」というテーマとずっと向き合い続けており、それは欧米でも少なからずいる内向的な人々の心に深く届いている。
「『アニメ』というよりは、地に足の着いた人間ドラマ」「アイデンティティ、家族、そして癒しをめぐる彼らの葛藤は、並外れた繊細さで描かれている」「自閉症スペクトラム障害(auDHD)を持つ者として、この作品にとても共感します」といった言葉とともに、とにかく賛辞が並ぶ。詩的なコメント欄はそれ自体が一つの作品のようだ。
「『N・H・Kにようこそ!』(2006)以外でこのようなアニメに出会ったことはほとんどありません」とあるように、引きこもりをテーマとしたアニメ作品の文学性は、十分にグローバルに通じるのである。
「喪失を劇的に描くのではなく、その奇妙で混乱した余波、何も解決していないように感じられる不確かな日々、そしてほとんどお互いを知らない二人が、取り返しのつかない何かの影の中で共存する方法を学ばなければならない日々を、さまようように描いている」というレビューに私も強く共感する。
人間のとりもどしようのない感情、決して埋め合わせがあるものではないものというのは「さまようように」しか昇華に向かえないものなのだ。
■デスゲームに求められている意外な要素
詩情を誘うという意味では、Membersで『違国日記』と同レベルの2→9万人と急増した『死亡遊戯で飯を食う。』も挙げておく。
なんとも表現しがたいが“日常系デスゲーム”とでもいうべき作品だ。登場人物全員がメイドの格好をした美少女で、淡々と殺しあいながらまるで日常会話のように生き延びる、「デスゲームの枯山水」のようなアニメだ。
本作は様々な発明がある。実はデスゲームで求めているのはほとばしる血や痛み、恐怖ではなく、その裏にある高度な心理戦だったりする。その「本質」のみを抽出し、防腐処理という名のもとに血は出ないし痛みを感じている様子もなく、そして全員が優雅なメイド服という“空前絶後”の設定にまとめている。
たしかにこうした抽出には、マンガやアニメという二次元化・抽象化のメディアは非常に優れている。
「アニメの雰囲気は驚くほど穏やかです。少女たちが危険にさらされていることは分かっていても、音楽や雰囲気はとても穏やかで落ち着いているため、深刻な出来事が起こっているにもかかわらず、「警戒」する感覚は引き起こされません。まるで『魔法少女まどか☆マギカ』の雰囲気、あるいは『蟲師』の雰囲気に『ソウ』や『イカゲーム』の雰囲気を混ぜ合わせたような感じです」というレビューが本作をうまく語っている。
「演出と芸術的な抑制が見事に融合した傑作」である。
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中山 淳雄(なかやま・あつお)
エンタメ社会学者、Re entertainment社長
1980年栃木県生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。著書に『エンタの巨匠』『推しエコノミー』『オタク経済圏創世記』(すべて日経BP)など。
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(エンタメ社会学者、Re entertainment社長 中山 淳雄)

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