■SNS漏洩を防げない経営マネジメントの壁
新年度が始まったと同時に、新入社員など若手社員によるSNSでの機密漏洩や不適切投稿といった炎上事件が、4月の1週間足らずの間に相次いで発生しました。これまでもアルバイト社員による「バカッター行為」がありましたが、今回の騒動はこれまでの「バイトテロ」と一線を画しています。
かつては、飲食店などの現場作業員中心だったのと比べ、日本テレビのような大手テレビ局や、三菱電機グループといった本来ガバナンスが機能しているはずの大手企業の内部で続発しているということです。
これは「リテラシーの低い若手個人のやらかし」では済む次元の問題ではなく、組織の在り方が、そして経営層のマネジメント能力そのものが問われる経営責任の局面であると考えます。
この4月にネットニュースやSNSを騒がせた事例を振り返ると、その異常性が際立ちます。
・日本テレビ情報番組「ZIP」制作スタッフによる番組情報流出:放送前の番組内容や内部情報を、制作側の人間がSNSに投稿
・三菱電機グループ企業で新入社員が社内書類を投稿:研修中と思われる新入社員が、社外秘の書類を撮影してSNSに公開
・大手外資系コンサル企業社員による業務画面の映り込み:美容院での施術中にPCを開き、業務内容が映り込んだ状態で「自撮り写真」を投稿
■ネットの常識が通用しない若手世代
身もふたもない言い方をするなら、大手企業のビジネス空間にも、こうした行為に及ぶような者が入ってきているということです。もはや「わが社の社員は優秀なので、こんな愚かなことはしない」と言い切れなくなったと言わざるを得ません。
なぜ、本来なら「優秀」とされる彼らが、これほどまでに致命的な失敗を犯すのでしょうか。その背景には、経営層と若手社員の間にある、埋めようのない「常識の断絶」があります。
今回のような投稿は、BeRealやInstagramストーリーズ、X(旧Twitter)の鍵アカウントなどの「身内だけ公開」だったり、一定時間で消えてしまうメディアにおいて行われています。このような新たなメディアなどへの感度は、若い世代のほうが高そうです。
しかし時間や対象が限定されていたとしても、画面のスクリーンショットを撮られれば終わりです。画像にされたら、それをさらに他に転送もできます。ネット上にプライバシーなどないことはもはや常識ですが、そんな常識があれば考えられないはずの、業務上の秘密を公開するという行為が実際に存在し、続発しているのです。
■いま組織に求められるのは「歩み寄る力」
一方で、組織の舵取りを担う幹部側はどうでしょうか。最新のSNSにも長けているという人の方が例外であって、不慣れな最新メディアやITに精通している必要はありません。ただ自分たちが知らないところでどのような変化が起き、何が流行っているのか、その実態に関心を持つ姿勢は不可欠です。
哲学者ソクラテスや孔子が説いた「無知の知(自らが無知であることを知る)」は、より上位の経営判断をするためには重要だと思います。これまでのように「優秀な人材を選別している」という自負に固執し、最近の若手を「宇宙人だ」と突き放し、その実態に向き合わないことは組織に危機を招きかねません。
若手社員が「コスパ(費用対効果)」や「タイパ(時間対効果)」を重視し、仕事においても他人からどう見られるか、何より自分を承認してくれることを求めるといった行動特性があること。それを上司が否定的に捉え、若手も上司を拒絶するという、正に「断絶」が起きていないでしょうか。
組織におけるコミュニケーションの重要性はいうまでもないかもしれませんが、それは単に「トップダウンの指示」や「情報の共有」であってはなりません。ここまで論じてきたような、多様な価値観やライフスタイルという、どちらかといえば一致団結の逆方向へ拡散しかねない現代において、コミュニケーションのあり方も変革する必要があります。
■若手の「常識不足」は経営陣の「対話不足」
社長の言葉を動画化したり、社内SNSを作ったり、さまざまな努力はすでに始めていることでしょう。そういった文字通りのコミュニケーションも良いですが、視点を変えて「教育研修」についてはどうでしょうか。教育研修の役割を今一度顧みて、その役割の再定義をすべきではないでしょうか。
「SNSでの投稿は禁止です」
「機密情報を漏らしてはいけません」
このように単にSNS禁止令を出したところで、そもそも「何が機密か」「なぜSNSがいけないのか」という感覚が欠如している層には響きません。
教育研修をただの研修として捉えるのではなく、課題や意思疎通を改善する機会と捉えるのです。常識がない若手に常識を教えるだけでなく、なぜ経営者が「常識」を求めているのか、ちゃんと教える機会はあまりないように思います。
「知っていて当然」「言わずともわかる」という前提が消えようとしている今、なぜその「常識」が必要なのかを、同じ目的を持つ仲間として言葉を尽くして伝える。その丁寧なプロセスこそが、今求められています。
■研修を「ルーチンワーク」と捉えていないか
教育研修とは、正にそのためにある機能ではないでしょうか。新人研修や階層別研修、ハラスメント研修……と、人事が「ルーチンワーク」でやっているというような認識はありませんか。教育研修は、こうした環境変化に組織を適合させるための、積極的な経営方針を共有化するための、戦略的なマネジメントだと考えます。
その際に一方的な経営側の主張をインプットするのではなく、教育を受ける社員を理解することも欠かせません。
違っていても、経営戦略として研修を戦略的コミュニケーションへと昇華させること。教育を受ける側の認識とすり合わせを行い、会社のプリンシプル(原則)を「なぜ今、守るべきなのか」という文脈で語ること。それが、組織を環境変化に適応させるための、きわめて有効かつ必須な手立てです。
結局のところ、新入社員の暴走は、組織が「対話」というコストを惜しんできた結果、支払わされることになった「ツケ」なのかもしれません。
■高コストな対話こそが最強のリスク管理
社員の中からモンスターが生まれたのは、個人の未熟さだけでなく、形骸化した研修や一方的な価値観の押し付け、何よりはれ物扱いのような「放置」をしてきたことが原因だといえないでしょうか。
炎上事件を起こした若手社員にはおそらく悪気はありません。ただ、愚かにも行動の結果への想像力があまりにも欠如していたのだと思います。機密漏洩という認識すらなく、「日常の切り取り」や「映え」と呼ばれる自己承認欲求を満たすことが、職場や仕事にまで浸食している「公私の境界線の消滅」というだけのことなのではないかと思います。
経営者とその方針を具体化する管理職は、言語化によってメッセージを発することはもちろん、相手の視点に立ち、理解する姿勢を惜しまず、対話を続けること。教育研修は、単なるスキルの伝達ではなく、組織のプリンシプルを周知させ、行動変容の場とすべきだと思います。
DX(デジタルトランスフォーメーション)やAIによる価値転換の荒波が押し寄せ、どれほど技術が進歩しても、組織を動かし、守るのは「人」です。
泥臭くとも、「対話」という、一見すると高コストで非効率な積み重ねこそが、組織と若き才能を炎上から守り、真のガバナンスを構築するための最強の防壁となるはずです。今こそ経営者は、形だけの研修を捨て、若手社員との「真の対話」に踏み出すべきではないでしょうか。
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増沢 隆太(ますざわ・りゅうた)
東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家
東北大学特任教授、人事コンサルタント、産業カウンセラー。コミュニケーションの専門家として企業研修や大学講義を行う中、危機管理コミュニケーションの一環で解説した「謝罪」が注目され、「謝罪のプロ」としてNHK・ドキュメント20min.他、数々のメディアから取材を受ける。コミュニケーションとキャリアデザインのWメジャーが専門。ハラスメント対策、就活、再就職支援など、あらゆる人事課題で、上場企業、巨大官庁から個店サービス業まで担当。理系学生キャリア指導の第一人者として、理系マイナビ他Webコンテンツも多数執筆する。著書に『謝罪の作法』(ディスカヴァー携書)、『戦略思考で鍛える「コミュ力」』(祥伝社新書)など。
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(東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家 増沢 隆太)

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