伊勢彦信氏は1929年、富山県に生まれ、地元の農業学校を卒業後、父の養鶏業を継ぎました。当時の日本の鶏卵産業は、家内工業的な小規模経営が主流で、本格的な企業経営は存在していませんでした。
大規模農場の建設や最新技術・設備の導入によって、飼料生産から採卵鶏の飼育、採卵、輸送までを一貫して担う体制を築き上げ、家業を日本有数の鶏卵食品企業へと成長させました。
日本市場での成功を経て、伊勢氏は修行先であった農業大国アメリカにも進出。1980年代に現地法人「イセ・アメリカ」を設立しました。1986年には『ニューヨーク・タイムズ』が「アメリカの卵王は日本人」と題した記事を掲載し、その事業規模を次のように伝えています。
「伊勢彦信の会社は東京の卵需要の25%を供給し、日本では“卵の王”と呼ばれている……アメリカでも同じ称号を得るにふさわしい。『イセ・アメリカ』は1,000人の従業員と1,400万羽の鶏を擁し、ミシシッピ川以東の100の市場に卵を供給しており、すでに全米最大の卵生産者と見なされている……
卵は朝に産まれ、午後には包装され、翌日には店頭に並ぶ……彼らは高品質を武器に、アメリカの消費者にやや高めの価格を納得してもらおうとしている……一方、日本国内ではサプリメントや健康食品事業も展開している……」
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1986年、『ニューヨーク・タイムズ』は「アメリカの卵王は日本人」と題した記事を掲載し、伊勢彦信氏を紹介した。
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山田清機著『卵でピカソを買った男――卵の王・伊勢彦信の成功法則』書影
伊勢食品は1970~80年代にすでに飛ぶ鳥を落とす勢いであり、伊勢彦信氏の芸術コレクションも早くから世界的に知られていました。1986年の『ニューヨーク・タイムズ』では「伊勢コレクションはフランス印象派美術で名高い」と紹介されています。
印象派および近代美術はまさに伊勢コレクションの中心を成し、その顔ぶれには巨匠たちの名が並びます。「印象派の父」モネ、「近代美術の父」セザンヌ、「フォーヴィスムの父」マティス、天才ピカソ、イタリアを代表するモディリアーニ、そしてユダヤ系巨匠シャガールなどが名を連ねています。
2023年には、伊勢コレクションから十数点がニューヨーク・サザビーズで競売にかけられ、以下の作品が高額で落札されました:
・モネ《黄昏のエプト川岸の白樺》91.5×81.5cm|US$30,783,000(約24億香港ドル)
・シャガール《街の上》67.5×91cm|US$15,616,200(約12億香港ドル)
・セザンヌ《青の食器》28×22.7cm|US$6,079,500(約4,740万香港ドル)
・マティス《ピンクのドレスを着た少女》61×46.5cm|US$5,849,700(約4,560万香港ドル)
伊勢氏はアメリカ現代美術にも早くから注目し、アンディ・ウォーホルが名を成す以前にすでに作品を購入していました。
・アンディ・ウォーホル《シルバー・リズ》101.6×101.6cm|落札額 JPY 2,300,000,000(約14.8億香港ドル。落札額であり、手数料込みの最終価格は非公表)
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モネ《黄昏のエプト川岸のポプラ》|2023年 ニューヨーク・サザビーズ、US$30,783,000で落札
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シャガール《街の上》|2023年 ニューヨーク・サザビーズ、US$15,616,200で落札
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アンディ・ウォーホル《シルバー・リズ》|2022年 新美術拍賣(Shinwa)、落札価格 JPY 2,300,000,000
伊勢彦信氏は「世界のトップ100コレクター」や「アジアのトップ50コレクター」にも度々名を連ね、日本メディアの推計によれば、最盛期にはコレクションの総額が1,000億円(約530億香港ドル)に達したとされています。西洋美術に加えて、特に中国古美術への情熱が知られています。
今回サザビーズで開催される「伊勢彦信珍蔵重要中国陶磁」特別オークションは、出品数約200点、総額2億5,000万香港ドル超という、伊勢氏にとって前例のない規模となります。
2017年のインタビューによれば、伊勢氏は1980年に中国陶磁の収集を始めて以来、長年にわたり一切売却せず、2020年頃からようやく市場に出るようになったといいます。その多くは東京中央オークションで落札され、以下のような高額取引が記録されています:
・殷商 青銅饕餮文貫耳壺|2021年 東京中央拍賣、HK$43,120,000
・明永楽 青花纏枝花卉文稜口大盤|2021年 東京中央拍賣、HK$11,536,000
・清雍正 珊瑚紅地洋彩九秋同慶図碗 一対 「雍正御製」款|2021年 中国嘉徳、RMB 8,510,000
・清雍正 琺瑯彩万花錦文小碗 「雍正御製」款|2021年 中国嘉徳、RMB 7,360,000
・清乾隆 瓷胎洋彩黄地纏枝蓮托八宝文花觚 一対 「大清乾隆年制」款|2020年 東京中央拍賣、HK$5,290,000
・清雍正 斗彩龍馬「河図洛書」図盤 「大清雍正年制」款|2025年 北京保利、HK$2,760,000
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殷商 青銅饕餮文貫耳壺|2021年 東京中央オークション、HK$43,120,000で落札
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明・永楽 青花纏枝花卉文稜口大盤|2021年 東京中央オークション、HK$11,536,000で落札
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清・雍正 珊瑚紅地洋彩九秋同慶図碗 一対「雍正御製」款|2021年 中国嘉徳、RMB 8,510,000で落札
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清・雍正 琺瑯彩万花錦文小碗 「雍正御製」款|2021年 中国嘉徳、RMB 7,360,000で落札
「独り楽しむより皆で楽しむべし」との信念のもと、伊勢氏はコレクションを公共機関に惜しみなく貸し出してきました。中でも注目されたのが2017年、パリのギメ美術館と大阪市立東洋陶磁美術館という二大美術館で相次いで開催された特別展です。
今回サザビーズ香港オークションに出品される注目作も、このときの展覧会に並びました:
・明成化 青花梔子花宮碗 「大明成化年制」款|推定 HK$4,000万 - 8,000万
・南宋 官窯青釉葵口盤|推定 HK$2,500万 - 5,000万
・清雍正 粉彩折枝桃花長頸胆瓶 「大清雍正年制」款|推定 HK$2,500万 - 5,000万
・南宋 官窯米黄釉直頸瓶|推定 HK$800万 - 1,600万
・明永楽 青花折枝花卉文碗|推定 HK$700万 - 1,400万
・北宋 磁州窯白地剔黒彩牡丹文梅瓶|推定 HK$700万 - 1,400万
伊勢氏の収蔵品の多くは、日本の老舗古美術商である繭山龍泉堂や平野古陶軒の鑑定を受けており、フランス・メディアへの取材では「最も愛するのは宋代陶磁だが、最初に手に入れたのは康熙朝の茶葉末釉尊だった」と語っています。
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南宋 官窯米黄釉直頸瓶|推定HK$8,000,000 - 16,000,000、本年9月サザビーズにて出品
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明・永楽 青花折枝花卉文碗|推定HK$7,000,000 - 14,000,000、本年9月サザビーズにて出品
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北宋 磁州窯白地剔黒彩牡丹文梅瓶|推定HK$7,000,000 - 14,000,000、本年9月サザビーズにて出品
美術市場には伝統的に「3D(Death=死、Debt=債務、Divorce=離婚)」という言葉がありますが、伊勢彦信氏の場合は「Debt(債務)」に該当します。
伊勢食品は長らく日本の鶏卵市場をリードしてきましたが、2020年頃からコロナ禍による業績悪化と負債が伝えられ、2022年には事業再編を開始、翌年には社名を「Tamago & Company」に改めました。
報道によれば、コレクションの所有権が個人か会社か不明確で、しばしば会社名義の借入を通じて購入していたため「私有財産か企業資産か」の判断は容易でなかったといいます。今回のオークション出品は、伊勢氏本人と会社側の合意によるものとされています。
いずれにしても、伊勢コレクションは質・量ともに圧倒的で、出所も確か。博物館で展示された実績を持ちながら、本格的に市場に出るのは今回が初めてです。いかなる事情であれ、9月のオークションでは激しい競り合いが展開されることは間違いありません。
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伊勢食品が近年の再編・改称後に発売した鶏卵
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2023年、伊勢芸術基金会が香港で設立され、伊勢彦信氏(前列)が名誉会長に就任。発起人には(後列左から)丁鵬雲氏、任徳章氏、呂卓氏、李適宜氏、坂本麻美氏が名を連ねた。
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