日本中、ほとんどの人が一度は袖を通す学校制服。詰襟(学ラン)やセーラー服、ブレザーなど、形は違っても誰もが制服に対しての思いや、制服にまつわる思い出を持っているのではないでしょうか。


そんな学校制服、日本においては100年以上の歴史があります。昔から大きな変化はないようにも思われますが、求められる価値の移り変わりと共に実にさまざまな変化を遂げてきました。

今回は、学校制服の歴史と変遷について、学生服メーカーとして168年の歴史を持つ菅公学生服の広報担当 谷岡と柄川がご紹介します。

▶カンコー公式サイト https://kanko-gakuseifuku.co.jp/

◆明治時代に誕生した学校制服は、高価でエリートの象徴だった【1879年~1930年代】



谷岡:学校制服を初めて導入したのは、現在の学習院だと言われています。和装が一般的だった1879(明治12)年に、当時の海軍士官の制服をモデルにした詰襟の制服を取り入れました。近代化の推進と機能性が求められた時代、制服も洋装化が進んだということです。女子の洋装制服の誕生は大正時代でした。女子教育が浸透し始め、洋装スタイルやセーラースタイルの制服が採用されました。

この頃の制服は、毛織物でとても高価。中等学校以上の学生が着る特権的な服だったようです。

ヤンキー、コギャルから多様性に配慮した最新トレンドまで。社会の変化を映し出す学校制服、100年超の歴史を老舗学生服メーカー広報が語る
写真は1893年(明治26年)撮影のもの 提供:学校法人 学習院

柄川:一方、同じ頃に岡山県の児島地区では、児島特産の木綿地を使った学童用の学生服を製造するようになります。安くて丈夫な学童服は大人気となり、全国に爆発的に普及しました。

当社でも、3代目社長の尾崎邦蔵が学童服の将来性をいち早く見越し、1923(大正12)年から一貫生産を開始しています。
1928(昭和3)年には、学問の神様・菅原道真公に由来した商標「菅公」を取得。それが現在も続いている「菅公(カンコー)」ブランドです。

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1920年代~1940年代 木綿地の学生服

◆統制の戦時中を経て、戦後は学生服復活!高度経済成長期には丈夫さや耐久性が求められた【1930年代~1960年代】



谷岡:戦争が激化すると、男子は国民服※を着るよう定められました。国民服が制服をかねるようになり、女子はもんぺ姿などが標準とされました。ちなみに戦時中は、当社の工場も軍の管理下となり、学生服ではなく軍服の製造を行っていました。

※国民服…戦時中に統制や合理化を目的に制定された軍服に似たカーキ色の上下服

柄川:戦後、男子は詰襟、女子はセーラー服が学生服として復活します。

素材はそれまで主流だった綿から合成繊維(ナイロン、ビニロンなど)へと変化していき、制服には丈夫さや耐久性が求められました。

谷岡:当社は、高度経済成長の波にのって業績を伸ばすべく全国各地の線路や街道沿いにホーロー看板を掲げ、熱心に営業活動を続けました。目を引くデザインと色合いのホーロー看板は、「菅公(カンコー)」ブランドを全国に広めることに大きな役割を果たしたと言われています。

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1960年代 詰襟・セーラー服(再現)/ホーロー看板(当時の現物)

柄川: 1968(昭和43)年、当社はついに業界で売上ナンバーワンとなります。その翌年、当時の最先端の技術と夢を詰め込んだカンコースプリンター学生服を発売しました。

谷岡:スリムでシャープなデザイン、動きやすいストレッチ性など、特許技術もふんだんに取り入れたこの商品は大ヒット!パッケージデザインも斬新で、「箱だけ売って欲しい」という問い合わせがくるほどの人気でした。

さらに、学生服業界として初めてイメージ・キャラクターにアイドルを採用しました。

初代はフォーリーブス、その後も、桜田淳子さん、香坂みゆきさんなどを起用し、女性アイドルが男子の学生服を着るCMが話題となりました。

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1969年発売 カンコースプリンター学生服(当時の現物)

◆制服廃止!?ツッパリ学生服増加!?新たなイメージのブレザー制服登場【1970年代~1980年代】



柄川:1970年頃の学園紛争のさいには制服廃止論が沸き上がり、都市部など一部の学校で制服が廃止されることもありました。

一方では、首都圏を中心に生徒人口が急増して高校の新設ラッシュが始まります。そこでは従来の詰襟と異なる、新しいイメージのスーツタイプの制服が採用されました。

谷岡:また、1970年代はツッパリブーム、80年代はヤンキーブームでした。『ビーバップ・ハイスクール』や『今日から俺は!!』に出てくるような長ランや短ラン、ドカンといった変形学生服が大流行。

そのため、変形学生服の対応策としてブレザー制服への移行が進みました。制服を教育の一環ととらえ、生徒指導面から非行防止の意味合いでも制服モデルチェンジ(見直し)が活発になりました。

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1980年代 変形学生服(再現)/1980年代 変形学生服のチラシ(当時の現物)

◆時代はバブル、昭和から平成へ。個性化する学校と制服!【1980年代末~1990年代半ば】



柄川:学校数の増加に伴い、生徒確保のためにも学校の特色(スクールアイデンティティ)を打ち出せる制服の個性化・ファッション化が進みました。1989(平成元)年からは一流デザイナーが手掛けるDCブランド制服が登場し、私立の高校を中心に採用されました。

※DCブランド…デザイナーズ&キャラクターズブランド

谷岡:当社でも小野塚秋良氏やコシノジュンコ氏と契約し、制服展示会ではモデルを使ったファッションショーを行っていました。

DCブランドブームの後にもオリジナルチェック柄の制服や、パステル調の明るい色や独特なニュアンスカラーの制服などが採用され、制服デザインが最も個性的だった時代と言えるかもしれませんね。


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1990年代 提案用制服:コシノジュンコ(当時の現物)/アキラオノヅカ(当時の現物)

◆コギャルブームで制服の着崩し増加!対抗策の制服登場?【1990年代半ば~2000年代】



柄川:1990年代半ばから2000年代にかけて、制服の着崩しが生徒たちの間で大流行します。男子は腰パン、女子は短くしたスカートにゆるいリボン、ルーズソックスなど。

教育現場では制服着崩しに頭を痛めていました。当社では「着崩し防止制服」を提案したり、制服の意義や正しい着こなしを伝える「着こなしセミナー」を始めました。

谷岡:少子化に伴う学校再編や小中高の一貫教育など教育環境が大きく変化した時期ですね。

この頃には、地球環境に配慮した再生ペット素材のエコロジー制服も誕生しています。制服に求められる役割も多様化し、教育現場へ即した課題解決が必要とされました。

ヤンキー、コギャルから多様性に配慮した最新トレンドまで。社会の変化を映し出す学校制服、100年超の歴史を老舗学生服メーカー広報が語る


1990年代 着崩し制服(再現)/1990年代 再生ペットの素材のエコロジー制服(再現)

ヤンキー、コギャルから多様性に配慮した最新トレンドまで。社会の変化を映し出す学校制服、100年超の歴史を老舗学生服メーカー広報が語る


2000年代 着崩し防止商品提案会/2000年代 着崩し防止スカート(再現)

◆多様性や個性を尊重できる制服へ【2010年代~現在】



谷岡:今現在の制服は、デザイン性はもちろんのこと、より機能的で動きやすく、お手入れも簡便なものに進化しています。

また、社会の変化に合わせ「多様性に配慮した制服」も求められるようになってきました。例えば、2015(平成27)年頃から性の多様性(LGBTQ)へ配慮した制服が増えています。特に導入が進んでいるのは女子スラックス(女子の体型に合わせたスラックス制服)です。その他にも性差の少ない制服や組み合わせの自由化、アイテムの選択制導入などが進んでいます。当社では、「インクルーシブ・ユニフォーム」という考え方の下、取り組みを行っています。

ヤンキー、コギャルから多様性に配慮した最新トレンドまで。社会の変化を映し出す学校制服、100年超の歴史を老舗学生服メーカー広報が語る


2010年代~ 性の多様性に配慮した制服(性差の少ない制服やアイテムの選択制導入)

◆制服の価値とは…



谷岡:当社では定期的にアンケート調査を行っています。
高校生に制服の必要性を聞いた最近の調査では、約8割の生徒が「学校制服はあったほうがよい」と回答しています。「毎日の服装に悩まなくていい」「学生らしく見える」といった理由からでした。一番は楽だから(笑)ということです。二番目の「学生らしく見える」というのは、今しか着られないものへの特別な思いがあるのかもしれませんね。制服を着て遊園地やテーマパークに出かけるのも、特別感があるからだと思っています。

過去の変形学生服や着崩し制服のブームを振り返ってみても、決して生徒たちは制服が嫌いというわけではなかったのでは?個性を発揮するために自分流のアレンジは加えますが、基本的にはみんなが同じ制服を着る。それによって仲間意識が高まったり、学生である今を実感できたりするアイテム。制服のそういった価値はおそらく今も昔も変わらず感じてもらえているのではないかと思います。

ヤンキー、コギャルから多様性に配慮した最新トレンドまで。社会の変化を映し出す学校制服、100年超の歴史を老舗学生服メーカー広報が語る


▶カンコーホームルーム https://kanko-gakuseifuku.co.jp/media/homeroom

柄川:こうして制服の歴史を見てみると、戦争や学生運動など転機が何度かあったように思います。

それでも100年以上、制服が日本に残り続けている理由は「制服=思い出」だからではないでしょうか。

志望校に合格し、憧れの学校の制服に袖を通した。学校帰りにわざわざ制服でプリクラを撮りにいく。
(年代が分かりそうですが…)話に花が咲いた帰り道、座りこんで何時間も話し込んでいた。楽しい、悲しい、幸せ、辛い…さまざまな感情が制服とともにあるのではないかと思います。

谷岡:性の多様性の観点から、詰襟、セーラー服から性差のあまりないブレザータイプに変更されることが増えています。しかし、時代が進み多様性の理解が浸透して、誰がどんな制服を着ても問題のない世の中になれば、詰襟やセーラー服も一つの文化として存在し続けるのかもしれません。

制服は学生時代の思い出とともにあるもの。どんな形になっても、この先もあり続けて欲しいと私は思っています。
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