総務省は2025年6月9日、「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」を発表しました。本ガイダンスでは、広告主自身が「広告の発信者」であることを再認識し、適正な広告配信を主体的に担うことが求められています。


私たちアドウェイズグループは、20年以上の長きにわたりデジタル広告業界に携わってまいりましたが、デジタル広告がユーザーにとって望ましい体験とは言い難い状況が続いている昨今のデジタル広告の“あり方”や“構造そのもの”に対し、かねてより問題意識を持ち続けてきました。

そうした中、2025年4月に総務省が「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」(以下、本ガイダンス)作成プロセスにおける、意見募集を実施。私たちは、これまで続けてきたデジタル広告業界の課題解決に向けたアプローチや知見をもとに、本ガイダンスへの賛同も込め、意見書を提出いたしました(※1)。

生活のなかでふと目に留まった広告が、ユーザーにとって偶然の気づきや新たな興味をもたらす。そんな本来の広告の価値を、ユーザーにきちんと届けるために、いま一度「デジタル広告のあるべき姿」を見直すべき時が来ているのではないでしょうか。アドウェイズグループは、そうした考えのもと、デジタル広告に向き合い続けています。

本記事では、アドウェイズ代表である山田 翔が、このたびの本ガイダンスが総務省から発表された背景、ガイダンスを受けて広告主に求められる考え方やアクション、デジタル広告にまつわる企業の目指すべき方向性についてお話しします。

※1 アドウェイズグループは、本ガイダンスの趣旨に賛同し、作成プロセスにおける意見募集に対して、株式会社アドウェイズ・UNICORN株式会社の連名で意見を提出いたしました。公表された「意見募集結果」には、複数の意見が掲載されています。提出した意見の概要はこちらをご確認ください。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000224.000033008.html

広告主のリスクと求められているアクション

――まず、今回総務省が示した本ガイダンスの発表背景をどのように捉えていますか。



山田:近年、デジタル広告、とりわけアドテクノロジーを活用した「運用型広告」は、国内広告市場において大きなシェアを占めるようになっています。しかしその一方で、広告の配信手法や効果計測などの仕組みが多様化・複雑化し、広告主が配信の実態を把握しづらいという課題も浮き彫りになっています。


たとえば、偽・誤情報を発信したり違法アップロードコンテンツを掲載するメディアに、広告主が意図しないまま広告が出稿されてしまうことで、知らぬ間にブランドイメージが損なわれたり、企業への信頼が低下するリスクが生じます。

また、botを利用した不正な手法で広告の表示・クリック回数が水増しされることによって広告費が搾取される「アドフラウド」の被害も深刻化しています。こうした不正は、広告配信の仕組みを悪用する第三者によって行われており、広告主からは見えにくい場所で損失が発生している点が課題となっています。

本ガイダンスにも記載されているとおり、2025年2月に総務省が行った調査によれば、約30%の広告主が、デジタル広告によるブランドセーフティに関する被害経験があると回答をしています。また、偽・誤情報が掲載されている記事等に配信されている広告をユーザーが見た際、約92%が広告主の印象が悪くなると回答しており、さらにそのうち35%が「広告を出している広告主が対応すべき」と考えていることにも注目すべきでしょう。

総務省は、こうしたリスクを放置することが「偽・誤情報や違法アップロードコンテンツ等の流通・拡散を助長することに繋がり、民主主義の前提となる表現の自由の基盤が脅かされる」可能性にもつながると指摘しています。そして、広告主側の担当者および経営層も含め、組織一体で対応していくことへの重要性を示しています。

こうした背景を踏まえ、広告主が自ら取り組みを進められるよう、総務省が本ガイダンスを策定しました。

――本ガイダンスでは、広告主が直面するリスクとしてどのような点が挙げられているのでしょうか。



山田:ガイダンスの中で特に重大なリスクとして挙げられているのは、「ブランドセーフティ」「アドフラウド」「不健全なエコシステムへの加担」の3点です。

まず、ブランドセーフティのリスクとは、デジタル広告の配信先に紛れ込む違法・不当なメディアや、ブランドを毀損する不適切なページやコンテンツに広告が配信されることにより、広告主のブランドイメージが悪化したり、ユーザーからの信頼が低下したりするリスクのことです。これは単に見た目の問題ではなく、ユーザーとの信頼関係を根底から揺るがす深刻なリスクです。


次にアドフラウドは、いわゆる“広告詐欺”のことです。botによるアクセスや不正な仕組みによって、広告のクリック数や表示回数が水増しされ、本来届けたかったユーザーに届かないまま広告費が消費されてしまう。実際に、本ガイドライン内に記載があるとおり、2022年上半期時点での日本のアドフラウド発生率は、デスクトップ/モバイルウェブの両方で世界20か国中ワースト2位(3.3% / 1.7%)でした。これは広告主にとって、大きな損失と言えるでしょう。

そして最後の「不健全なエコシステムへの加担」のリスクとは、偽・誤情報や違法コンテンツ等を掲載するメディアに広告が意図せず配信され、その広告収益がメディア運営者の収益となることで、結果的にそうした不健全な情報の生産・拡散を助長してしまうリスクのことです。これは単に広告の表示先が不適切だったという問題ではなく、広告主自身が社会に悪影響を及ぼす活動の資金提供者となり、その悪循環の形成に加担することで、企業としての社会的責任そのものが問われる重大な問題です。

なかでもガイダンスでも指摘があり、私自身も重要だと考えているのは、こうしたリスクに対する、企業の“経営層の理解と積極的な関与”です。2019年にJAA(日本アドバタイザーズ協会)等が実施した調査(※2)では、ブランドセーフティに関する経営層の認識率は15%未満と非常に低い結果でした。6年前のデータのため、近年この認識率は多少上昇している可能性がありますが、デジタル広告業界全体で取り組むべき状況であることは変わらず、問題に対する理解を深めることや、課題への認識・リテラシーの向上が求められています。

今回のガイダンスは、広告主に対して「より一歩踏み込んだ理解と対応」が求められる段階に差しかかっていることを示しています。自主規制だけでは制御が難しい状況にまで課題が深刻化しているからこそ、総務省が明確な指針を打ち出した。──つまりこれは、広告主だけでなく、デジタル広告業界に関わるすべての企業が当事者意識を持って課題解決に向き合うべきフェーズに入っていると私は考えています。


※2 JAA・宣伝会議「デジタル広告における意識・実態調査」(2019 年07月号)より

https://www.sendenkaigi.com/marketing/media/sendenkaigi/016418/ (有料記事)

――では、広告主としてはどこから着手すべきなのでしょうか?



山田:やはり、現場の広告運用部署や担当者に判断を一任するのではなく、経営層がリスクの本質を正しく理解し、率先して対策を推進することが不可欠です。実際に広告主およびその経営層に求められるアクションとしては、ガイダンスにて次の3点が挙げられています。

まず、1点目は「経営リソースの確保」です。広告配信における品質管理や監視体制を本気で整備するためには、専任人員や予算といった経営リソースを確保し、継続的な改善を支援していくことが重要です。

2点目は「広告管理体制の構築」です。広告主は、自社の広告がどのメディアに掲載され、どんな成果を上げているのかをリアルタイムで把握することが重要です。また、セーフリストやブロックリストの整備、意図しないメディアに広告が掲載された場合の対応フローを定めるなど、広告管理の方針を自ら策定することが求められています。特に、日々生まれ続けるMFA(Made for Advertising)のような悪質なメディアに対し、都度ブロックする手法では対応が追いつかない可能性があることから、より広告を安全かつ効果的に配信するために、セーフリストを持つことが非常に重要だと考えています。

3点目は「広告指標の再定義」です。短期的な成果指標ばかりに目を奪われるのではなく、広告配信の目的を明確化させたうえで、ブランド毀損のリスクや、ユーザーにとっての価値といった長期的視点からの評価軸を導入していく必要がある――。指標の“本来の目的”を正しく理解し、ユーザーにとって価値のある情報を、「見たい」と思ってもらえるような配信を行うことが重要かと思います。

ただ、現場がどれだけ課題や問題意識を持っても、経営層が短期的な指標を重視する姿勢であれば、改善の努力はすぐに限界を迎えます。

広告が企業の『顔』として社会と接する以上、そのリスクは単なる運用上の問題にとどまらず、経営層が主体的に把握し、管理すべき重要な経営課題となり得ます。
経営の最上位でこうしたリスクの全貌を正確に理解し、具体的な対策を講じることが、持続的な成長と社会的信頼を築く上で不可欠ではないでしょうか。

変わるデジタル広告業界。企業が今、向き合うべきこと

――本ガイダンスが示す方向性を踏まえ、より具体的に広告主はどう対応すべきなのでしょうか。



山田:そうですね。先述したように今回のガイダンスでは、広告主が自ら広告配信のリスクを認識し、責任ある立場として対策を講じることが強く求められています。単に「パートナーに任せる」のではなく、広告の品質や配信環境のノウハウを自ら持ち、健全な広告エコシステムの構築に主体的に関わっていく姿勢が求められているように思います。

なかでも、広告主が実施すべき具体的な取り組みとして、次の3点が挙げられます。

JICDAQ(デジタル広告品質認証機構)などの品質認証事業者との連携

広告配信における品質担保の一手段として、デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)など認証事業者との連携は重要な役割を果たします。信頼性ある広告環境を維持するうえで、広告主がこうした第三者機関と連携することは、基本姿勢として求められています。

配信先の精査

意図しないメディアや、不適切なコンテンツに広告が掲載されないよう、必ず配信先が開示されている広告プラットフォームを利用することや、前述のセーフリストやブロックリストを活用することが重要です。アドウェイズグループが提供しているマーケティングプラットフォーム「UNICORN」では、配信先の精査を厳格に行っており、外部団体から共有された違法メディアリストだけでなく、目視での審査を徹底し、画面の大部分を広告が占めていたり、不自然な日本語が使われていたりするメディア等は、配信対象から除外しています。

アドベリフィケーション(広告品質保証)ツールの活用

広告の表示先や表示状況を自動検証するツールを活用することも、広告の透明性を高める有効な手段です。


昨今では不正な広告在庫の流通や、botを悪用したトラフィックによる成果の水増しが巧妙化しており、単なるモニタリングでは不十分なケースも増えています。そのため、DV(DoubleVerify)やIAS(Integral Ad Science)など、外部のアドベリフィケーションツールに対応する広告プラットフォームを選定し、配信トラフィック全体を可視化・評価できる体制を構築することが重要です。

以上のとおり、ガイダンスで示されている「具体的取り組み」は、単なる形式的な対応ではなく、広告主の意志と責任が問われる領域です。私たちアドウェイズグループも、デジタル広告業界の一員として、広告運用・管理体制を整え続け、より広告主が安全で効果的な広告配信を行い、ユーザーとの最適な接点を創出することができるよう、デジタル広告を提供してまいります。

――最後に、改めてデジタル広告に関わる企業は、このような顕在化される問題に対し、どう向き合っていくべきだと考えていますか。



山田:デジタル広告を取り巻く問題が複雑化するなかで、総務省から広告主向けに明確なガイドラインが示されたことは、業界全体にとって非常に意義深い一歩だと受け止めています。

ただし、ガイドラインを遵守するだけでは解決が難しい問題も多く残されています。例えば、年齢や性別を問わず、誰もが利用するメディアにおいて、過激な表現やセンセーショナルなクリエイティブが含まれた広告が配信されているケースも少なくありません。仮に、法的に問題がなかったとしても、ユーザーに不快感を与え、メディアや広告主への信頼を損なう要因になり得ます。また、昨今ではインターネット上のユーザーにとって“邪魔”だと感じられる広告枠に広告が配信されることにより、不快な広告体験が生まれ続けています。

本質的な問題解決には、広告主のみならず、メディアや配信事業者など、デジタル広告に関わるすべての企業が問題を認識し、倫理観を持った行動を取っていくことが不可欠です。

今後もアドウェイズグループは、本ガイダンスの趣旨に賛同し、ユーザーの広告体験を向上させ、広告主の事業成長につながるマーケティング支援を実現することで、デジタル広告業界の持続可能な成長に貢献していきます。


株式会社アドウェイズについて https://www.adways.net/

2001年設立。2006年に東証マザーズ、2020年に東証一部に上場。2022年に東証プライム市場に移行。パーパスに、“全世界に「なにこれ すげー こんなのはじめて」を届け、すべての人の可能性をひろげる「人儲け」を実現する。”を掲げ、アプリ・Webの包括的なマーケティングを支援する広告事業、テクノロジーを駆使し新しい広告表現や広告効果最大化を実現するアドプラットフォーム事業、ライフスタイル事業、DX事業など、領域をまたいだ事業を展開。日本を始め、アジアを中心とした海外への事業展開も行っている。
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