
<写真:完成時のイメージ図>
×<動画:SANITAS建築現場風景>
SANITASはラテン語で「健康(ウェルネス)」を意味します。2029年に100周年を迎える玉川学園が、次の100年に向けてウェルネス教育を推進し、快適な競技環境とともに、共に励まし助け合える健やかな教育環境を構築します。スポーツのまだ見ぬ可能性を広げ、地域にも開かれたフレキシブルかつオープンな施設として、キャンパスの新たな象徴となるでしょう。
屋根にはつり構造を採用することで、高いデザイン性を持たせるだけでなく、風による圧力の変化を生み出し、自然換気を促します。屋根部分には太陽光発電設備を設置し、二酸化炭素(CO2)の排出量を実質的に半減させることを目標に掲げています。施設内の中央には、全室に通じる通路「コミュニケーションコリドー」を設けており、そこから互いの活動を垣間見られるようにするなど、学生同士が集う交流の場として位置づけています。

<図:環境に配慮したスポーツ施設>
こうした多くの工夫を取り入れたSANITASの建設現場では、3Dモデリング技術や飛行ロボット(ドローン)、人工知能(AI)、拡張現実(AR)の活用といった建築デジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいます。玉川学園では2027年3月に予定するSANITASの完成に向けて、学生が日々移り変わる建設現場を見学し、設計にも意見案を提出するといったように、教育機関として“学びの機会”を折に触れて設けています。

<写真:座談会の出席メンバー>
今回はSANITAS計画に参画する久米設計 設計本部主査の石田哲史氏、西松建設 生産設計副所長の西田泰貴氏が、玉川学園 総務部管財課長の細谷清氏と、共に作り上げる魅力的なスポーツ施設SANITASについて、設計と施工のそれぞれの側面から対談しました。(後編に続く)
――SANITASはどのような施設ですか。

<写真:玉川学園 細谷課長>
細谷「玉川学園は教育理念として、学問(真)、道徳(善)、芸術(美)、宗教(聖)、身体(健)、生活(富)の六つの価値を調和的に創造していくことを『全人教育』として掲げ、特に真・善・美・聖を『絶対価値』、健・富を『手段価値』ととらえています。スポーツ施設SANITASは、その中でも健の教育を実践する場として、現在、大学8号館の跡地に建設中の建物です」

<図:SANITASのコンセプト>
「学内にある今の大体育館と屋内プールの機能を持たせることに加え、多目的な活動ができる多目的室や、学生だけでなく、教職員のウェルビーイング(心身の幸福)にも寄与すると期待される『ウェルネスデザインラボ』を設けます。
――SANITASを玉川学園の教育施設として建設するに当たり、重視されたことは何ですか。
細谷「一番は『学びとのつながり』です。そのために、施設の完成をただ待つだけでなく、建設の過程をできるだけ児童・生徒・学生に見てもらい、また参加できるようなプログラムを積極的に導入しています。例えば、将来について考え始める中高生を中心に、工事の見学会を定期的に開催することで、建築の最新技術である3次元(3D)モデリング技術『BIM(Building Information Modeling)』をはじめ、建築デジタルフォーメーション(DX)の現状を生徒たちが実際の建設現場を肌で学べる機会を設けています。
また、古い建物を重機で壊す解体現場を小学生に見学してもらい、リサイクルやリユース(再利用)といった環境再生・資源循環に関する体験学習につなげたりもしています。解体時や建設途上の施設が、立派な実践的な教育の場になります」

<写真:学内見学会の様子>
――教育機関内の施設であることを前提に、設計において特に意識された“学び”への配慮があれば教えてください。

<写真5:久米設計・石田氏>
石田「SANITASのデザインコンセプトは『自由な“きょうそう”の場』です。体育や運動では、ともすると結果を競うことだけに目が行きがちですが、『体育運動≒競争』、という考え方をいったん解きほぐし、“きょうそう”、すなわち『共創』や『協奏』、『教創』、『協創』といったイメージで、多様な個性を持つすべての学生が自由な発想で学び、教員と共に作り上げるインクルーシブ(包摂的)な場にしたいと考えています。具体的には、子どもたちの『やりたい』を受け止めるため、壊れにくい、凹凸がない、滑らないといった建物の安全面はもちろん、共用部のコミュニケーションコリドーをガラス張りにして互いの活動を見えるようにし、他の人とのつながりや、そこから生まれる気づきなど、多くの触発を促せるよう工夫しています。
建物の周囲には人工芝の広場を設け、1周約200メートルのランニングスペースも作ります。目指すのは、公園のようにすべての人を受け入れ、頭と体を使って『遊ぶ』ように学べる空間です」


<図:SANITAS施設内の完成イメージ>
――教育の現場にふさわしい、「時代に先駆けた設計」という観点ではいかがですか。
石田「今回のアリーナは規模としてもかなり大きいことが特徴と言えますが、ほかにもプールが並んで立っており、通路を挟んでそこから2カ所の施設を同時に見られる構造も特殊だと思います。全学園共有の50メートルプールは幼稚園生から大学生まで幅広い年齢の園児・児童・生徒・学生たちが利用するため、設計段階から体育の先生方と協議して床の高さが変えられる可動床を導入しました。同様にアリーナの床も、実際に構造材を見てもらった上で決定しました。
コロナ禍に始まった計画でもあり、十分な換気量を確保しつつ、高効率な機器を採用することに加え、自然換気を促す空気の流れを作る窓の配置と開閉機構など、利用者の健康と環境への配慮を両立しています。空調を効かせて環境を人工的に管理するのではなく、自然の風を感じながら快適に活動できるようにする。そうした環境を提供することは、これからの時代の建物の一つのあり方ではないでしょうか。実際に窓が開いて外から風が入ってくると、ユーザーの方にもきっと実感してもらえると思います。環境省が定めるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)オリエンテッドの公式認証も取得しています」

<写真:BIMの活用の紹介>
――BIMを使った設計プロセスにおいて、玉川学園の教職員など関係者との打ち合わせはどのように反映されたのですか。
石田「基本設計の中でこれまでに6回、先生方や学生さんの意見を聞く場を設け、その要望をできるだけ取り入れてフィードバックとして提示し、設計を詰めていきました。例えば、アリーナは式典などにも用いるようですが、メインは授業で使うことから、ステージを設けるだけでなく、可動式の間仕切りを設置することでステージ上も活動スペースとして利用できるよう計画しました。打ち合わせでは、アリーナの座席に座った時に見えるステージの風景を3Dデータで示すなど、図面では分かりにくい部分を可視化するなど行事の演出イメージなどもつかんでもらいやすくなったと思っています。
今後も学生さんを含め、どのように活用していくかといったアイデアを聞いて検討する場を設けられたらと考えています」
――学生や玉川の関係者が現場を見学した際の反応はいかがでしたか。

<写真:西松建設・西田氏>
西田「建設現場は基本的に仮囲いが設置された閉鎖的な空間であり、普段は工事の様子をあまり目にすることはないと思います。できあがった建物ではなく、建物を作っているその最中の様子を見ることで新たな気づきや学びが得られると考え、見学会では第一に、現場を間近で見てもらうことを大事にしています。当社では、高校生の職業体験や大学生の就職活動(インターンシップ)の一環として、また地域のイベントなどとして、こうした現場見学会をたびたび開いています。
SANITASの現場でも、我々が取り組んでいるDX、例えば、3Dモデリングなど最新のソフトウエアを実際に操作しながら紹介すると、工事の進展の様子が視覚的にイメージし易くなるので、学生さんは興味を持ってとても喜んでくれます。また目の前で見る重機などのスケール感にも圧倒されるようですね。貴重な見学機会となっているようです」

<写真:見学会の様子>
〇関連情報:
新たな複合スポーツ施設「SANITAS」の期待を熱く語る~玉川学園「SANITAS」座談会~
https://prtimes.jp/story/detail/b3QjjkiwDRx