日本のモノづくりを支える現場において、町工場とメーカー、商社や別の専門とする町工場のマッチングは難しい。人材・後継者不足が続く業界の中で、地域や対応範囲の合致する発注先は限られ、また自社HPを持っていない事も多くWEB上で見つけ出すにも容易ではない。


そんな中、2022年7月に柳井製作所は機械加工へ特化したマッチングサイト「カコナビ」を公開した。

町工場とメーカーの直接取引を支援する機械加工専門マッチングサイト「カコナビ」のサービスを開始PR TIMES×

本サービスの代表を務める柳井圭一(以下、柳井)は、現役の町工場を営む社長だ。

事業アイデアの発案からサービス開始まで13年という年月がかかった本サービスについて、リリースまでの裏側について柳井から伝える。

50年以上続く、柳井製作所とは

柳井製作所は、神奈川県横須賀市にある船舶部品の製作及び部品に伴う溶接を営んでいる、まさに町工場だ。1972年に柳井の祖父にあたる柳井勝太郎が創業した。横須賀という場所柄、主にタンカー船や護衛艦の船舶部品製造を行っている。

創業から50年が経つ同社へ入社したのは、柳井が23歳の時だった。
早朝から夜遅くまで機械加工をして過ごし、町工場の現場で必要なことを学んだという。

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社長になったのは3年前の2020年だ。50歳をきっかけに父親の役割を引き継ぎながら、会社運営に必要な営業活動などを行う。今まで現場を中心に仕事をしてきた柳井が、webサービスであるカコナビの開発に着手したのは2021年12月だった。

コロナウイルスによる影響も大きかったと話すが、原点は更に前へ遡るという。

リーマンショックを期に、普段の疑問や業界の課題を見つめなおす

町工場とのマッチングというアイディアを思いついたのは、およそ13年前のリーマンショックの時だった。アメリカから始まった金融危機だったが、日本にも大きな影響を及ぼした。
当時の柳井製作所では、常に行っていたリピート品の製作が激減し売上の減少、また関連会社の自主廃業や撤退といった事態に追い込まれた。

着想から13年。部品製造会社の社長が挑む、町工場とのマッチングを可能にする「カコナビ」の開発秘話。


(国道沿いにあり、普段はお客さまが多く訪れる。)

日々行なっていた製作の業務が止まることで、普段とは異なることをして補う必要性がある。そんな時に、とある常日頃感じていた疑問が思い浮かんだ。

「飲食店や美容関係、宿が手軽に見つけられる中で、なぜ町工場版がないのか?」、と。

自分にとっては、有れば使いたいサイトだった。
同じ思いの方々もいるのではないか?と思っていた。

町工場において、2次加工が必要な急ぎの案件等、様々な発注者から仕事を受けて飽和した際、協力をしてもらえる会社へ依頼することは商習慣上で多々ある。しかし、依頼できる先も対応が難しい場合に八方塞がりとなってしまい、知らない加工会社に助けを求めざるを得ない。

そのような場合、仲介業者を活用する必要があるものの、納期、金銭的な負荷、から依頼することを断念することも多々ある。

多くの場合、人の繋がりや地域単位で危機的な状況を乗り越えることもあるが、深刻な人材・後継者不足が進む業界において同じ構造を維持することは難しい。

そんな状況において、サイト内でのメーカーへの営業、知らない町工場へ直接コンタクト等、簡単に新しい繋がりが生まれる仕組みを作ることができないかと思い付く。


サービスのアイディアを元に、柳井は実現を試みた。

今でこそ「マッチング」という言葉が一般化しているが、2010年当時は思い描いていた手軽に見つけ・出会うことができる町工場版の「マッチングポータルサイト」というアイデアを適切に伝えることができず、形に起こすことは難易度が高かった。

挑戦をする中で、少しずつ売り上げも回復し、当時、アイデアを実現する試みは下火になったが、またこの様な事態になった時は「必ず実行する」と心に誓い13年が経つ。

コロナの危機に、当時のアイディアを元に再起を図る

2020年3月、コロナウイルスが猛威を振るい始めると、製造業を営む柳井製作所にも大きな影響があった。まるでリーマンショックを思い起こすような事態の中、2021年12月に当時のアイディアを実現できないかと思い出す。

13年前は形にならなかったものの、年月も経ち、現在は「マッチング」という考え方も浸透している。柳井は思い出してから1ヶ月経たない内に、具体的なアクションを起こした。


自身にweb開発の経験やスキルがあるわけでもないが、「カコナビ」というサイト名、サイト中央に日本地図を配置、自由に発信、等、構想は13年前にできていたため、web制作の会社に訪れて考えを伝えると、すぐに話は進む。

新しくサービスを作るにあたって、どんな機能をつけるのか、出来上がってからも町工場目線にたち、システムの動作確認から使いやすいか?等、チェックなど多岐に渡り、イラスト、ロゴデザイン、等、未経験の連続だ。

日本地図に点在する町工場さん全員がホームページを持ち、仲間になったように写真とテキストで表現することにこだわった。その他、トップページでも人とのつながりで伝わるような明るさや表情を見せることに工夫している。

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サービスをリリースするにあたって、ロゴも作った。名前は「加工ナビゲート」から取っており、一眼で金属系でわかるように、文字色はグレーにした。
加えて、要所要所でボルトが止まっているような工夫も施されている。

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(当時のロゴアイディア)

柳井が紙でイメージを描き、デザインソフトで形に起こしてもらうことを繰り返し、出来上がった。最終的に、開発の7ヶ月間を経て、無事にリリースがされる。

サービスの公開と、今後の展望

サイトは7月に公開するも、無反応だったという。検索しても引っかからない中、9月にプレスリリースを発信したところ、徐々に反応が増えてきた。

地元である神奈川県のメディアを中心に取り上げていただき、お問い合わせも増えてきたという。「サイトを見て、問い合わせをした旨の連絡がきたという事に、とにかく嬉しかった」と振り返る。

とんでもなく素晴らしく凄い技術を持っているのにホームページがなく、目に留まっていない、発信できていない。このような工場も本当に沢山見てきた。

地域でどうにかしていた品物も永続的ではないことも実感してきた。

このカコナビで発信していただき新たな繋がりの大切さを実感してほしい。

現在、製造業に便利を提供するためにも登録企業を順調に増やしている状況だが、今後は切削加工業者に留まらず2次加工分野にも展開、「表面処理、熱処理、塗装、樹脂、ゴム、ワイヤー放電、金型、射出成形等が分野で選べ、アピールできる状態」と柳井は話す。

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