我々が“HAPPY”の新たな船出に同乗するべき理由
HAPPYがセカンド・アルバム『HIGH PLANET CRUISE』をリリースした。フル・アルバムとしては実に5年ぶり。また、昨年の時点で、4年ぶりとなるアルバムのツアーを発表したにもかかわらず、リリースをキャンセルしツアーの名目を変更したこともある。

ここにあるパッケージと全12曲の中身は、視覚(アートワーク)と聴覚(サウンド)から、人々の生活にアクセスし、それぞれの頭の中にある想像力の扉を叩き、今までに味わったことのない旅に誘い、何のしがらみもない理想の惑星へと導いてくれるかのよう。ストリーミング・サービスやダウンロードももちろんありだが、できればCDを手に、歌詞カード(英詞・和訳付き)を見ながら、全編を通して聴いてもらいたい、“アルバム”としての価値に溢れた作品となっている。本稿では、そんなHAPPYの結成から現在までの歴史をあらためて辿るとともに、『HIGH PLANET CRUISE』の魅力に迫る。
HAPPYが音楽シーンに与えた衝撃
HAPPYは、京都府綾部市でともに青春時代を過ごした同世代の仲間同士である、Alec(Gt/Vo)、Ric(Syn/Vo)、Chew(Gt/Syn)、Syu(Ba/Syn)、Bob(dr)によって2012年に結成。1960年代のウッドストックやスウィンギング・ロンドン、70年代のパンクや90年代のグランジといったムーヴメントが、2010年代にまとめて起こったような、自由奔放なパフォーマンスが、地元関西を中心に数々のライブハウスやクラブに衝撃を落とし、瞬く間にアップカミングな存在としての噂が広まった。HAPPY - Lift This Weight #hpyまた、彼らが自らの存在を知ってもらうために、初めに自主制作したデモ音源のパッケージも印象的だった。市販の台所用アルミホイルに包んだだけのチープなCD-R。2016年と2017年に、音源付きのPHOTO ZINEとしてリリースした“Mellow Fellow”“CYM”や、以前本誌で取材を行った際に見せてくれた、洋服に加えるアクセントもそうだが、既製品や既成概念だけでは満足できない性分と、それに対して気負うことなく生まれてくる、DIYでユーモラスなアイデアは、その音楽性においても重要な要素となっている。2014年にはプロダクションと契約しHAPPY RECORDSを設立。そしてリリースしたファースト・アルバム『HELLO』は、その創造性を存分に発揮し、全国的に大きな話題んだ。AlecとRicのツイン・ヴォーカルが紡ぐ、力は抜けつつ強く耳に残る甘いメロディ、Syuのときに独創的なベースライン、Chewの構造はシンプルで大味ながらコクのある音色が特徴的なギター、マジカルで幻想的な世界観を演出するシンセ、そういった4人の個性や独特のタイム感を屋台骨で支えるBobのドラム。それらが重なったサウンドは、60年代発、当時の世界を見渡したインディー・シーンにおけるキーワードだった“サイケデリック”の系譜に連なるものでありながら、MGMTやTame Impala、Templesといった人気バンドのどれにも似ていない、なおかつ引けを取らないレベルでのインパクトを持った作品だった。
セカンド・アルバム『HIGH PLANET CRUISE』の魅力とは
HAPPY - High Planet Cruise (Album Teaser)では、そういった流れを受けて今作『HIGH PLANET CRUISE』はどんなアルバムになったのか。まず、ここまで述べてきた彼らの、文化の歴史や時代性を、気負いなくオリジナルな感性で切り貼りするセンスは流石。そのうえで、過去の作品群とはまた大きく異なるスタイルを打ち出している。全体的な印象としては、60年代後半から70年代のSilver ApplesやNEU!らを思わせるミニマル(反復)な魅力や、それとは対極にあるトリッキーな展開など、人間を正常値から陶酔状態に持っていくサイケデリック特有の中毒性や、R&B/ブルーズ・ロックにある土着的な味わい、我々をあらゆる苦しみや呪縛から解き放ってくれるような、胎内回帰やステンドグラスに彩られた西洋の教会を想起させる魅力が混ざり合い、まだ見ぬ宇宙へと導いてくれるようなサウンドが融合したイメージ。近年のHAPPYを象徴するスマイリー・フェイスをもとにしたロゴが、あらゆる人々を許容する心、その連動が反復、タイトルのコラージュはパンクやオルタナティヴな気概、すなわち新感覚の提案であると思われるジャケットのアートワークも、今作の音楽性を的確に表しているように思う。そしてタイトルにある「PLANET」が各曲を指し、我々は惑星から惑星へと、旅をしてパーティをする。
HAPPYが作り上げた惑星をめぐる旅

シンセの重なりが妖しくも神秘的な世界を演出し、《何処でもない国》、《僕等は空を歩いている》と歌う、旅の始まり感じさせるイントロダクション的な“In nowhere…”の残響から、そのまま先行シングル“Naked Mind”へと繋がる幕開け。前述したミニマルなサイケデリック・ミュージックからの影響を感じさせる曲ではあるが、時間の指標となるドラムのキックを減らし裏拍で用いたり、そのドラミングや間奏で微妙にリズムをずらしたり、たったワン・ストロークのギターでブルーズを感じさせ、無機質な世界に有機的なエッセンスを加えたりと、彼らならではの秒を操るセンスと、ここでしか味わえないサウンドスケープが光る。HAPPY - Naked Mind [STEREO] (Official Video)続いては、前作のタイトル曲“Stone Free”のイントロでも用いていた、ジャズからインスパイアを受けたであろうサックスや、ブルーズ・ロック譲りの鍵盤、うっすらとマッドチェスターを思わせるようなメロディとビートが響く“Gold”で、つまらない愛の話や自由の話に対し感情を殺して抵抗するさまを歌う。“yesyes(Speeding on Landscares) ”の、ギターのフレーズとパーカションやドラムのループ、それらのサウンドの抜き差しに、即興的なサックスやベース、シンセの音色が出入りする自由度の高い演奏は、まさに歌詞にある“目まぐるしく動く景色”を表現しているよう。



そして、“Naked Mind”に続く先行シングルにもなっていた、《地球がすでに終わってしまった50世紀からやってきた魂》が、我々に語り掛ける“50 Century Song”の奇跡的なレベルでのメロディに至る流れは、そんな不条理でストレスの溜まる世界に生きる我々を抱擁し、解放してるように感じた。HAPPY - 50 century song (Official Video)おそらく誰もが耳にしたことがあるであろう、バッハの“主よ、人の望みの喜びよ”のフレーズを用い、インタルード的な役割を果たす“Jesus Bach”から作品は後半へ。続いて絶妙な間でフェイドインしてくる“Shooting Walts”が、個性的なベースラインやフロアタムを効かせたドラムが、低音域から摩訶不思議且つ落ち着いたグルーヴを生み、幾重にも重ねられた上音の美しさがジワジワと高揚感を煽る。


昨年リリースしたシングルでミュージック・ビデオにもなっている“Ice Age Summer”の、氷河期に思う先の見えない不安が爆発するような壮大な展開から、持ち前の甘いメロディを崩して囁くように歌うヴォーカルと、こちらも重厚なグルーヴが際立つビッグな展開に彩られた“I Go”、そして、ここまでに投げかけてきた疑問を回収するかのように続く、インスト曲“Country Tears”から音楽の持つ力を歌う大曲“WOWWOW”へ。HAPPY - ICE AGE SUMMER (Official Video)
後半は前半よりも静と動のコントラストをはっきりさせて、旅のエンディングをドラマチックに演出しているように思える。その極みがラストの“Indianwalk”。“WOWWOW”でひとつ締まったように思えた結末を壊すかのように、スペイシーなガレージ・サイケ魂の炸裂するハイな序盤から、そのトラディショナルで東洋的なフレーズを残して、ドラッギーな低音が響く現代的なプロダクションと混ざる中~後半、そして最後の最後は何とも言えず割り切れない後を引く展開に。それは、物語に余韻を残し、再び1曲目に戻りなくなるような仕掛けなのではないだろうか。そう、彼らはきっと、この世界がある限り、我々とパーティを続けたいのだ。





また、繰り返し聴きたくなるような要因としてさらに特筆すべきは、ここまででも少し触れてきた歌詞の内容だ。CDに付いている歌詞カードを読んでみると、常に自然体で活動してきた彼らではあるが、そうあるためには大変なこともたくさんあったのだろう。やりたいことが思ったように伝わらない悔しさ、ガラパゴス化した国内の音楽シーンのなかで、商業的成功を望む周囲の期待感から生まれる葛藤。推測するにそういったパーソナルな想いもあったのかもしれない。そして、同調圧力や古い価値観、偏見だらけの歪んだ世の中。また、そういった状況に対する正論同士の不毛なぶつかりを目にすることもある。そして多数の無関心層。何も変わらない現状にむしばまれ、やがてはほんとうに正しく優しい言葉すら、わずらわしく感じるようになった人も決して少なくはないだろう。




あくまで筆者の勝手な妄想ではあるが、そういった局地化する価値観の壁だらけの昨今。だからこそ、HAPPYは、この作品を手に取った同志と、異次元にフラットな世界を築こうとする意志が随所に伺える。批判対象を明確にしないのは決して自己防衛ではない。あらゆる喧騒と距離を置き、自分たちのペースで、本質的な愛や正義を探す旅。

Text by TAISHI IWAMIPhoto by big "guru" west (Paint Groove)
HIGH PLANET CRUISE

Release
2019.08.07
Tracklist
01 In nowhere...92 Naked Mind03 Gold04 yeses (Speeding on Landscapes)05 50 Century Song06 Jesus Bach07 Soothing Waltz08 Ice Age Summer09 I Go10 Country Tears11 WOWWOW12 Indianwalk

High Planet Cruise Tour 2019
2019年8月23日(金)宮城県 enn 3rd2019年8月27日(火)福岡県 THE Voodoo Lounge2019年8月29日(木)大阪府 Shangri-La2019年8月30日(金)愛知県 CLUB ROCK’N’ROLL2019年9月12日(木)東京都 新代田FEVER

HAPPY
京都府綾部市出身、幼馴染み5人組により2012年1月11日に結成。全員が複数のパートを担当し自由な発想で創られた楽曲がライブハウスシーンとSNSによる口コミで広まり、デビュー前にして2013年SUMMER SONIC出演をきっかけに注目が集まる。2014年3月3日、初流通シングル「SUN」(TOWER RECORDS限定)リリース。MTV [HOTSEAT]に選出され、タワーインディーチャート初登場1位(総合チャート3位)を記録。同年3月12日からアメリカテキサス州オースティンで開催される世界最大の音楽見本市”SXSW”への 出演も含めたUSツアーを行う。計8都市10公演に出演し各地で大盛況となった。2014年8月6日、1stアルバム「HELLO」をリリース。収録曲がSPACE SHOWER TV [POWER PUSH!]やFM802 [邦楽ヘビーローテーション]等に選出され、各誌・サイトの2014年ベストディスクにも多数選ばれる。数々の大型フェスや国内ツアーを経て、2014年末にはバンド初となるワンマンツアー(東阪公演ソールドアウト)を開催。
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