ジャイルス・ピーターソン(Gilles Peterson)の功績は計り知れない。2016年に設立したインターネット・ラジオ局「WORLDWIDE FM」では、実験的なエレクトロニックダンスミュージックや時代とともに更新されてきたジャズ、10年代から勢いを加速させメインストリームに乗り出たヒップホップなど、ジャンルを問わず常に刺激的な音楽を独自の切り口で、3年に渡り紹介してきた。

INTERVIEW:ジャイルス・ピーターソン
──WORLDWIDE FMが設立されて3年が経ったことについて、どのような所感をお持ちですか?この3年の間に、自ら発信して道を切り開いていく、そういったコミュニティーは世界中でどんどん拡張していて、僕はそれを予想してなかったんだ。その流れの中で、頭角を現し始めているミュージシャンやヴェニュー、DJ、新世代のアーティスト、新しいプラットフォームにとって、WORLDWIDE FMが重要なものになっていることを誇りに思うよ。──その間、そういった流れと同調するように、世界情勢も大きく変化したかと思います。今がとても複雑な時代であることは、みんなも感じているはず。それに対して、アートや音楽、ファッションのコミュニティーからはいつも興味深い反応がある。それぞれ不満を感じ、政治的にも敏感になっていて、そのことが音楽表現に反映されているんだ。より多くの議論を重ねて意見を交換することでクリエイティブ活動が活発になってきているから、現状をある意味では良く捉えることができる。例えば70年代のパンクシーンのようにね。

WORLDWIDE FMスタジオの様子Photo by Yukitaka Amemiya

WORLDWIDE FMスタジオの様子Photo by Yukitaka Amemiya

WORLDWIDE FMスタジオの様子Photo by Yukitaka Amemiya

WORLDWIDE FMスタジオの様子Photo by Yukitaka Amemiya
──DIYシーンではストリーミングなど、デジタルの普及も大きな役割を果たしています。インターネット環境とデバイスがあれば誰でも音楽にアクセスできるようになった一方で、フィジカルの人気も高くなっていますよね。DJとして、レコードは買い続けているけど、デジタルでプレイすることもある。今、フィジカルに趣をおいて、レコードのみでリリースする人たちも多い。でも僕は音が良ければレコードには限定しないでDJをするよ。一方でレコードでDJをするのはとても好きだよ。iTunesで曲のリストを作ると、それに沿ってプレイするけど、フィジカルがあると、DJの流れが変わるから。それはフィジカルの持つ一つの魅力だよ。僕はDJをするとき、持ち時間は長ければ長いほど良い体験を届けられると思ってる。DJの経験を積んできて、幅広いジャンルの曲をかけてきた。だからハウス、テクノ、ジャズ、ブラジル音楽からエレクトロニックをミックスするには2時間は短くて、最低6時間はやりたいと思っているよ。

Photo by Shoji Yagihashi
──ジャンルレスなミックスは、WORLDWIDE FMの大きな魅力の一つですよね。紹介される音楽は実験的な要素も多いですが、現在人気の高いLofi Hip Hopのように、ずっと聴いていられるようなビートが意識されているように思えます。現行シーンで聴く機会の多いビートの質感についてはどう思いますか?Kieferなどが活躍しているビートシーンは、ドラムンベースなどのようにソリッドなものだと思う。もしくはジャズやクラシックなテクノのように、ずっとあるものだよね。毎夜、僕は新しい音やアーティストをチェックするんだけど、そこでトリップ・ホップの音に近づいていると思ったんだ。Massive AttackやPortishead、DJ Shadowなどオールドスクールとされていた彼らの存在は、新しい世代に再び影響を与え始めている。ビートシーンは僕らがやっていることの基礎にあると思うし、ラップやハウス、全てのジャンルを支えている要素でもある。WORLDWIDE FMでももっと取り上げるべきだね。──今日はMoodymannのTシャツを着用されていますね。彼は今年LPをリリースしましたが、2019年で魅力的だと思った作品を教えてください。彼の『Sinner』はとても良いレコードだったよ! 他だとシカゴの〈INTERNATIONAL ANTHEM〉というレーベルがとても良かった。彼らがリリースする作品は素晴らしいと思う。

Photo by Shoji Yagihashi
──日本のアーティストで注目している方はいますか?DJのPowderはとても良いね。ロンドンに住んでいるKoichi Sakai、WaqWaq Kingdom、CHURASHIMA NAVIGATOR、GONNO…...、あとAkiko Kiyamaもすごく良いよ。彼女はエクスペリメンタルだね。僕が主宰する<Worldwide Festival>でもプレイしてくれた。それにMIEKO SHIMIZU、akiko×林正樹。Kikagaku Moyo(幾何学模様)というバンドも。
akiko×林正樹 "spectrum" teaserKikagaku Moyo - Dripping Sun(Live on KEXP)小瀬村晶『Romance』インタビュー中にはakiko×林正樹による『spectrum』収録“Music Elevation”、小瀬村晶が今年リリースしたシングル“Romance”、Kikagaku Moyoの昨年のアルバム『Masana Temples』収録“Dripping Sun”を聞かせてくれた。
Text by Koichiro FunatsuEdit by Kenji Takeda
Gilles Peterson Worldwide Radio
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