ShioriyBradshawは、ヒップホップ/R&Bをルーツに持ちながら、常に新しいサウンドやカルチャーとの出会いを求め、アンテナのおもむくままに活動することで、さまざまなプレイスタイルを獲得してきた。その結果、現在はクラブだけでなくホテルやラウンジなど多種多様な場でのプレイに対応する、まさに現場叩き上げの“ザ・DJ”だと言えよう。

そんな彼女が、DJを始めてから約14年目にして、渋谷はManhattan Recordsより初のオフィシャル・ミックスCD『Lifestyle』をリリース。そのタイトルが示す通り、心地よいグルーヴとサウンドスケープで、日常のさまざまなシチュエーションに優しく寄り添い、いつもより少し豊かな時間を演出してくれる、いつでも手に取れる場所に置いておきたい1枚となっている。そして特筆すべきは、今回のインタビューで浮かび上がった、作品のリラックスしたムードのなかに内燃する、“キュレーター”であり“空間を演出するアーティスト”としての想い。そこには、これからのDJが進むべきひとつの答えがあるように思えた。

ShioriyBradshawが辿り着いた、”空間演出”というDJとしての在り方

Interview:ShioriyBradshaw

━━まずはDJを始めたきっかけから、教えていただけますか?中学生の頃から曲を掘ることは好きで、お気に入りの曲を集めてCD-Rに焼いてコンピレーションみたいなものを作ったり、それを校内放送で流したりしていたんですよ。自分の選曲を人に聴いてもらうことは、昔から好きでしたね。それからしばらくして、高校生の時に、クラブカルチャーやDJの存在を知って、私もDJになりたいと思いました。━━中学生の頃はどんな音楽を聴いていたのですか?2000年代前半のヒップホップとR&Bが多かったです。カニエ・ウエスト(Kanye West)、アリシア・キーズ(Alicia Keys)、ニヴェア(Nivea)、Crystal KayとかSOULHEADとか、ほんとにいろいろ聴いてましたね。━━その時期だと、エミネム(Eminem)の存在がとても大きかったと思うんですけど、影響は受けなかったんですか。すごい現象でしたよね。でも、私個人としては、彼のアルバムも聴いたし『8 Mile』(※2002年に公開されたエミネム主演の映画)も観たんですけど、そこまでハマらなくて。あとは、サウス系の人たちもどんどん出てきた時期で、アウトキャスト(Outkast)がグラミー賞を獲ったり。

そのあたりの流れは好きでした。━━中学生時代にさまざまな音楽を聴き、その後DJやクラブカルチャーの存在を知ることで、また新しい刺激があったと思うんですけど、いかがですか?90年代のリバイバル期だったのか、私が知り合ったDJの人たちに90年代好きが多かったのか、ニュージャックスウィングや当時のハウスに触れることが多くなりました。私はオンタイムの音楽がほとんどでそこは遡って掘ってはなかったので、すごく新鮮でしたね。━━オンタイムの00年代を中心に聴いてきて、クラブが90年代を掘るきっかけになった。カタログの知識が増えることは、DJにとってすごく大切なことですし、近年は本当に90年代の呼び戻しがありましたし、よかったですね。確かにそうかも。「若いのに今のリバイバルだけじゃなくて、ちゃんと90年代当時の曲も知ってるんだね」って評価されて、オファーをもらったこともありました。

ShioriyBradshawが辿り着いた、”空間演出”というDJとしての在り方

━━初めてブースに立った日のことは覚えていますか?はい。何分のセットだったかも何をかけたかも覚えてないんですけど、あれかけたいこれかけたいって、レコードをバッグに詰めて出かけたんです。でも、それ以上の思い出は、特にありません(笑)。━━そこから、13年も続けてこられたのは何故だと思いますか?高校生の時にDJを始めて、神奈川の大学に入って東京でもDJをするやるようになって、すごく楽しかったんですけど、特にDJでどうこうなりたいとは思っていなくて、そのまま普通に就職とかしてOLをしながら、時々DJするのかしないのか、みたいな20代を想像してたんです。でも、大学の卒業が見えてくる4回生になったあたりから、仕事としてDJのオファーをもらえるようになって、だったら別に就職も今しなくてもいいやって思っちゃって。

とはいえ、「DJでご飯食べていくぜ」って腹を括ったわけでもなく、気がつけば今みたいな(笑)。━━今までは、お金のことなどは関係なく友達同士でワイワイやっていたところに、ギャラの発生するオファーが増えてきたんですね。それでご飯が食べられるくらいにオファーが殺到したわけではなくて、数は少なかったんですけど、「こういう世界もあるんだ」って思いました。それまでは、本当に大勢いるDJの中の一人って感じだったんで。━━その“大勢いるDJ”から、ギャラが発生するDJになった理由は、何だったのでしょう?はっきりと断定はできないんですけど、自分がDJするしないにかかわらず、ただ遊びに行って踊るのが好きだったから、頻繁にクラブに遊びに行っていたことは、結果的に大きかったと思います。そこで知り合った人がまた別の人を紹介してくれて、みたいな感じで、輪が広がっていって、DJをする機会が増えていったんです。━━現場で生まれた信頼関係は大きいですよね。あと、カッコいいDJはたくさんいるし、そのなかでプレイの内容だけで重宝されるようになるのは、なかなか難しいんです。だから、メールのレスポンスを早くするとか、オファーがあったときにすぐに出せるプレスキットを用意するとか、そういった事務的な細かい作業をちゃんとすることが、大切かもしれないです。実際にそれで、人からの見え方とか印象が変わっていったようにも思います。

Asia tour in Bali 2019 – ShioriyBradshaw

━━音楽的なルーツはヒップホップやR&Bにあって、そこからさまざまな経験を経て辿りついた、今のDJとしてのスタイルを言語化すると、どうなりますか?新しい音楽やムーブメントが好きで、興味の幅はどんどん広がってるので、言葉にするのは難しいんですけど、共通して好きなのは“グルーヴのある音楽”。そういう意味で、ルーツはやっぱりヒップホップとR&Bですね。

でも、そればかり聴いていたら、こんなにDJを続けることはなかったと思います。ヒップホップもR&Bもどんどん更新されていますし、現在進行形で起こってるさまざまなムーブメントを追いかけてるからこそ、昔好きだった曲も新鮮に聞こえることがあるし、DJでいられてるように思います。━━先を追うからこそ、過去の活かし方も面白くなってくると思います。じゃあ、今は具体的に何をかけてるのかとなると、ヒップホップの文脈を感じられるようなDJプレイもしますし、ここまで話してきたイメージとはぜんぜん違う音楽、例えばハードスタイルやガバ、ユーロビートとかもかけますし、やっぱり言葉にするのは難しいですね。━━振れ幅がすごいですね。ですよね。ローファイハウスもやりますし。去年まではヒップホップが流行っていたように思うんですけど、今年は4つ打ちというか。私が遊びに行くのも、だいたいそういう音が鳴ってますね。海外のクラブにもよく行くんですけど、上海でハードスタイルがめちゃくちゃ流行ってるクラブがあって、すごく好きなんです。━━となると、今回リリースしたミックスCD『Lifestyle』はどんなモードのShioriyBradshawなのか、がぜん興味が湧きます。ミックスCDをじっくり聴く状況って、今は少ないような気がするんです。
通勤や運転中とか掃除中とか、“ながら聴き”がメインなのかなって。そう思ったときに、手に取ってくれた人の生活に染み込んでいくような、長く聴いてもらえる1枚にしようと思いました。

ShioriyBradshawが辿り着いた、”空間演出”というDJとしての在り方

━━セレクトした曲やテンポ感、音の流れなどで意識したことを聞かせてもらえますか?DJをしているときやミックスを作るときは、自分のなかに物語があるんです。それはどんな話なのかと訊かれると、まったく言葉にはできないんですけど。今回、“ながら聴き”がテーマですが、もちろん選曲にはこだわってますし、起承転結をすごく大切にしています。━━その、内燃する想いを汲み取って欲しいとは思わないんですか?「ShioriyBradshawがミックスCD出しました」みたいなテンションではないんですよね。聞いてもらった時に、なんとなく流れと余韻を感じてもらいつつ、「これ誰がやってんの? あ、ShioriyBradshawっていう人なんだ」くらいに思ってもらえたら嬉しいです。━━そんなShioriyBradshawさんにとってDJとは?DJは、キュレーターであり、空間を演出するアーティストだと思います。そこに誇りをもってやっているので、“わかる人だけにわかればいい”というスタンスではなく、曲の良さを伝えることと、自分自身の信頼度を高めるための努力は怠らないようにしてます。━━DJがもっと広く世に出ていける可能性はあると思いますか?はい。DJが何をやってるのか、世の中にちゃんと知ってもらったほうが、仕事もDJができる場所も増えて楽しいし、間口を広くもってやっていきたいですね。もし私と同じように考えている人たちがいるなら、もっといろんな場所に出られるように、一緒に頑張りたい。

でも、私は多くの人を先導する旗手タイプでもないし、「ShioriyBradshawさんがこういう風にやってるし、僕も、私も、やってみよう」みたいになってくれたらいいですね。

ShioriyBradshawが辿り着いた、”空間演出”というDJとしての在り方

━━街のさまざまな場所にDJがいる。考えただけでも楽しくなりますし、都心ではそうなってきてる部分もありますよね。クラブは私にとってすごく大切な場所ですけど、“DJ=クラブ”でもない。これからDJを始める人たちも、もっとフラットな感覚でいてほしいですね。日本にいるとあまりピンとこないかもしれないですけど、ホームパーティーとか。最近だとDJのいるバーやホテルもけっこうありますし。DMC系(DJの技を競う世界規模の大会)のDJとかになると、また活動のベクトルは違うのかもしれないですけど、私たちのような曲をセレクトしてミックスするDJは、“空間を演出するアーティスト”だと認知されたら、できる場所はもっともっとたくさんあると思います。━━今後DJをやってみたい場所はありますか?これまでにも、いろんな現場を踏ませてもらって、それぞれにいいところがあって楽しいんですけど……。ニーナ・クラヴィッツ(Nina Kravitz)が京都の二条城でやってたじゃないですか。さすがに世界遺産ではやったことがないですし、それは彼女がロシアという国を代表する存在だからこそできたことだと思うんで、憧れますね。━━ほかに、これからの活動の指標となるようなDJはいますか?私、DJ KRUSHさんに会ったことで、「DJを続けてもいいんだ」って思ったんです。

「もう20代後半だし女だし……」と、なんとなくDJを続けられないなと考えていたら、「なんで? やりたいなら続けなよ」って言ってくださった一言で「続けます」って。単純(笑)。KRUSHさんはずっと最前線でやってきた方で、出す作品はどれもカッコいいし、ルーツはヒップホップにあるけどテクノもやられてて、そういう意味でも自由にやっていいんだって、思わせてくれた大きな存在ですね。

Dj Krush - DJ set @ Sónar 2019 (full show)

━━縛られてないし誰も縛らない先輩。偉大ですね。偉大です。あとはフライング・ロータス(Flying Lotus)ですね。アーティスト/DJとして大好きですし、3Dライブは初めて観たので衝撃的でした。私がいきなりそんなことをやれるわけじゃないんですけど、まずはここまでやってきたことや想いを、ミックスCDという形にしてリリースできたので、次は自分が作曲した曲のリリースしてみたいですし、今までとは違う、新たなステップを踏みたいとは思っています。具体的なことはまだ何も決まってませんけど。

Text by TAISHI IWAMI

ShioriyBradshawが辿り着いた、”空間演出”というDJとしての在り方
ShioriyBradshaw日本人の女性DJ。2006年にターンテーブルを入手し、DJ活動をスタート。東京を拠点に各地方、アジアなどの海外でも活動中。近年では、NIKEやIKEAなどの大手ブランドや、新鋭ブランドのレセプションパーティーやインストアイベントでDJとして出演。Hip Hop, R&Bをベースとしながら様々なジャンルをクロスオーバーさせるプレイが彼女のスタイル。2016年に自身初のMIX CD『NOVA』をリリース。2017年よりDJ BAR&LOUNGE WREPで「Palladium Lab」というパーティーをスタート。パーティーを軸に、今後はキュレーション活動も展開予定。2018年より日本のインターネットテレビインターネットテレビ「AbemaTV」の番組「AbemaMix」に定期的に出演中。2019年にManhattan RecordsよりMIX CD『Lifestyle』をリリース。

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ShioriyBradshawが辿り着いた、”空間演出”というDJとしての在り方

Manhattan Records(R)presents Lifestyle

ShioriyBradshaw2019.12.06(金)LEXCD19012¥1,980 + 税ジャンル:R&B/エレクトロニックレーベル:Manhattan Recordings/LEXINGTON Co., LtdCD(Manhattan Records)|デジタルトラックリスト01. Dead Horse Beats/Thinking Of You02. Zak Waters/Come To LA03. Toshiki Hayashi/Tobari – Instrumental04. Potatohead People/Morning Sun(feat. Nanna.B)[DJ Spinna Galactic Funk Remix]05. Illa J/Strippers(prod Potatohead People & Kaytranada)06. Potatohead People/Love Hz07. Toshiki Hayashi/Da Vinci – Instrumental08. Dead Horse Beats/Easy Nothing09. Birthday Boy & Trish/Chance To Go Far10. Potatohead People/Change of Heart feat. Illa J11. AstroLogical/Bottom Of My Heart12. Lefto/Jukesoftheworld13. Manatee Commune/My Dearest Friend14. Miles Bonny/So Hard15. Midas Hutch/The Feels(Jeftuz Remix)16. Manatee Commune/What We’ve Got ft. Flint Eastwood17. B. BRAVO/Can’t Keep My Hands Off You feat. Reva Devito(Grandfeather Remix)18. B. BRAVO/Stay The Night(Mr. Carmack Remix)19. Anomalie/Hang Glide20. Kool Customer/Favorite Song(Midas Hutch Remix)21. Midas Hutch/Out Of Business詳細はこちら

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PANTHER TIME

OPEN 22:00中目黒SolfaDIS:¥1,500/DOOR:¥2,000(1ドリンク込) GENRE:Hiphop、Trap、Techno、HouseLINE UP:"Lifestyle"RELEASE GUEST DJShioriyBradshawDJ:DaBookDJ KRO (Chilly Source)329northdaichiShinsukeLIVE:RDD LIF詳細はこちら

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