きのこ帝国のドラマー・西村"コン"が新たに結成し反響を呼んだ3ピースバンド・add。シンガーソングライターとしても活躍するタグチハナをボーカル&ギターに、元アカシックで現在は可愛い連中のベーシストとしても活躍するバンビをメンバーに擁する。
INTERVIEW:add

自分の想いを素直に言うとか、あの頃の自分にはできるはずもなかった
──約半年ぶりのリリースとなる新曲“ニヒルな月”がいよいよ配信リリースされましたが、その瞬間はどのような気持ちで迎えられたんですか。西村"コン"(Dr./以下、西村) やっと聴いてもらえるっていう気持ちがいちばん強いですね。実はこの曲、制作してからかなり時間が経ってるんですよ。タグチハナ(Vo&Gt./以下、タグチ) 1年前くらいにはもう作っていて。──ということは前作、1st EP『Not Enough』(2020年9月4日リリース)の制作と同じ頃に?タグチ むしろ先にレコーディングしちゃってたかもしれないです。──そうなんですか!? これまでに発表してこられたaddのどの曲とも肌触りが違うので、てっきり最近の曲だと思っていました。addの新しい扉が開いたという印象だったのですが、もともとこういう引き出しも持っていらしたんですね。タグチ 『Not Enough』はわりとバーッと曲を作って、EPにしたんですよ。この曲は時期的には同じだけど、映画の主題歌というお話をいただいて作ったものなので、またちょっと意味合いが違うというか。もちろんaddの引き出しのなかのひとつではあるんですけど。──今作は映画『Bittersand』の主題歌として初めて書き下ろした楽曲とのことで。

──ではタグチさんは映画のどういったところにフォーカスして、今回の“ニヒルな月”を書かれたんですか。タグチ 作品を観て、登場人物たち全員がそれぞれの視点を持っている映画だなってすごく感じたんですよ。いろんなストーリーがあるというか、その人によって学校生活が全然違うふうに見えていたのが印象深かった。だから、これはむしろ登場人物全体を俯瞰して書くよりも、誰か1人の目線で書いたほうがいいなって思ったんです。なかでも主人公の相手となるヒロインの気持ちが映画の序盤から伏せられがちだったので、彼女の目線で書いたらどうかなって。映画ではあまりわかりやすく表現されないけど、「本当はこうだったんじゃないかな」、「こういう気持ちってあるよね」って、彼女と話しているような気持ちで書きました。自分の学生時代を振り返ると、すごく楽しかったときもあればすごく悩んだときもあって……。


模索したからこそ進化した表現
──コロナ禍前にはリモートで曲を作ることなんて、そうなかったでしょうしね。バンビ うん、ないです。西村 僕も初めて取り組みました。急遽、DTMの機材を購入したり、セルフレコーディングの方法を模索し始めたという感じで。

──おふたりはこのタイトルを聞いて、どう感じました?西村 僕は真夜中のお月様というよりは昼間の月が思い浮かんだんですよ。昼間ってみんなが忙しく働いていたり、いろんなものが激しく動き回っているのに、月だけ何もしてないというか、ただそこにいて地上を座視してる感じがして。
add(アド) / ニヒルな月(Music Video)
──撮ったものはどういうコンセプトで仕上げていったんですか。タグチ ただ楽しいだけで完結しすぎないように、addを結成してからの現在までの時間とか、そういうものがうまく表現できればいいなと思いながら作っていきました。なのでロードムービーっぽく撮った映像に交えて、レコーディングとかライブ直前とかの過去の映像や、各々がプライベートで撮った映像なんかもいろいろ入れていったんです。昼間の海にいるのは今現在の私たちだけど、ちゃんと積み重ねてきた過去もあって、それぞれの過ごしている日常もあって、みたいな。西村 ただ単に僕らの楽しい日常というだけじゃなくて、映像を観た人が、その人にとっての思い出と重ね合わせて観てもらえるようなMVになったらいいなと思ってます。──きっと初めてaddを知る人にもバンドの空気感がまるごと伝わる、とてもいいMVだと思います。一方で、タグチさんが手掛けられたジャケットのアートワークは夜をモチーフにされていますよね。タグチ そうですね、ジャケではよりわかりやすく表現したいというのもあって。でも、夜というか、インパクトのあるものにしたかったんですよ。月が見ているイメージが私のなかにあったので、目をコラージュしてみたり。


どんどん“3人のバンド”になってきてる
──月とかすみ草と蝶という組み合わせも素敵です。さて、addを結成されて2年目となりましたが、ここまで3人でやってきた手応えなどはいかがでしょう。結成後、すぐにコロナ禍となってしまって思い描いた通りの活動がなかなかできない状況ではあると思いますが。バンビ 普通に動いていたら、お互いの距離はもっとあったのかもしれないですね。addを結成して走り出したときは世の中は普通に動いていたから、そのままだったら忙しくなんとなく毎日が過ぎていたかもしれない。でも世の中的には本当に大変ですけど、こういう状況になったことで活動のスピードはゆっくりなぶん、より関係性は濃厚になったというか。タグチ 三者三様、タイプがバラバラなので、最初から毎日慌ただしく一緒にいたら、すっごいバチバチしてたかもしれない(笑)。でも、みんなのことをしっかり知れる時間があったから、今こうしてちゃんとしゃべれてる気がします。──お互いじっくり知り合えたからこそ培われた関係性は、これから作品にいっそう反映されるんでしょうね。バンビ そう思います。すごくゆっくりなスタートだったぶん、ゆくゆくいい方向に転がっていく時間になったと思います、この1年半は。

──並行して他の形での音楽活動もなさっていたりもするみなさんですが、そうしたなかでもaddというバンドは特別な場所になりつつあるのではないですか。西村 はい。当初はそれぞれに活動もするし、そこで消化できないものや「こういうことをやってみたいのにな」ってものを実験的にやってみる場みたいな、プロジェクト的なニュアンスで考えてたりしたんですけど、一緒にやるたびに、どんどん“3人のバンド”になってきてる感覚はありますね。バンビ たしかに“バンド”になってる感じはあるかも。ハナはソロでやってきたキャリアが長いし、僕もコンちゃんも別のバンドをずっとやってきていて、それぞれ経験値があるわけで。3人の経験値が合わさったら、暗黙の了解じゃないですけど、なんとなく「ここはこうしてこうなるよね」みたいになると思ってたんですよ。でも、そんなことは全くなくて、思っていた以上に手探りなことが多くて。改めて違う場所なんだなってそのとき思ったし、だからこそ最近バンドっぽくなってきたのを実感するんです。各々、口には出さないけどなんとなく掴み始めてる気がしますね、addってものを。──addとして今、目指しているものは?タグチ ひとつ大きなものがあるというよりは、みんながいろいろ持っているやりたいことを毎年、叶え続けていきたいんですよ。そうやって長くやっていきたい。一瞬でワーッと駆け抜けるのではなく、毎年、新しい場所に立ち続けられたらいいなと私は思います。バンビ 僕は幹が太いバンドになりたいです。存在感がしっかりあって、それがゆえに倒れない。その上でどんどん太くなっていくバンドに。「あのバンド、ずっといるね」って言われるようになりたいんですよ。みんなが知っていて、しかもずっとシーンにいるような、太く長いバンドに成長していきたいですね。西村 聴いてくれた人のそっと隣にいるような、寄り添うようなものになってほしいと思う曲が多いんですよ、addの曲って。たくさんの人にとってそうなれる曲を作って、発信して、届けていきたい。いろんな形でそういうことをたくさんできたらいいなって思ってます、今は。やりたいことはいっぱいあるので、やれることからどんどん発信していきたい。それが今年の目標ですね。──TikTokのオフィシャルチャンネルも開設されましたし、今年はいろんな場面でいろんなaddが見られそうですね。タグチ 3人とも今まで各々で活動してきて、関わってくれた人たちも、今の私たちを応援してくれる人もいっぱいいて。もっともっと大きくなって、その人たちにめちゃくちゃ恩返ししたいんですよ。みんなに楽しんでもらいたいし、一緒に仕事ができるようにもなりたいし。だからこそ、新しいこと、今までできなかったことにもチャレンジしていきたいなって思うんです。──ワクワクしながら次の一手を待っています。一同 はい、ぜひ!

Text by 本間夕子Photo by 河澄大吉

INFORMATION

ニヒルな月
2021年5月12日(水)add各種音楽配信サービスにてダウンロード、ストリーミング配信配信リンク
Bittersand
2021年6月25日(金)~シネ・リーブル池袋、UPLINK吉祥寺他、全国順次公開主題歌:add “ニヒルな月”出演:井上祐貴 萩原利久 木下彩音 小野花梨 溝⼝奈菜 遠藤史也 搗宮姫奈 ほか監督:杉岡知哉配給:ラビットハウス公式サイト
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