KID FRESINOをフィーチャーした名曲“I LIKE YOU”のヒットから2年。千葉のラッパー兼ビートメイカー、VOLOJZAが新たなアルバム『割れた鏡が見た何か』を5月3日(水)に配信リリースした。
INTERVIEW:VOLOJZA

心境の変化でアルバムの方向性を転換
──今回のアルバムはラップアルバムとしては2年ぶりとなりますが、制作はいつ頃から始めましたか?こういう形でまとめようと思ったのは、去年4月の『其レハ鳴リ続ケル』リリースパーティの後ですね。4月の終わりから5月の頭くらいだったと思います。ラップに関しては古い曲を改良したものもあります。──古い曲を改良というと、一番古いのはどのくらい前のものがあるんですか?2曲目の“顔が濡れたら力が出ない”が一番古くて、9年くらい前になりますね。前にMVやジャケの写真をやってくれたtoydog......今はALOHADELIC SLIMって名前でDJをやっている人物がいるんですけど。リリースパーティに彼にも出てもらったんですが、“顔が濡れた力が出ない”のデモバージョンを持っていて当日かけてくれたんですよ。それを聴いたら悪くないなと思ったんですよね。
VOLOJZA-其レハ鳴リ続ケル
──昔の曲を聴くと恥ずかしいみたいなことを言う人もいますよね。
VOLOJZA-松戸にいる
仮面に影響を与えたMF DOOMなど「史上最高のラッパー」
──今回のアルバムは前作『其レハ鳴リ続ケル』とアートワークも似ていて、どことなく繋がっているような印象を受けました。裏バージョンというか。これは意識して作っていたわけではなくて、アートワークの写真も本当はサンプリングのアルバムで使う予定のものだったんですよ。お面も前作の時点で二つ作っていました。でも、結果的には今回出したものの方が、アートワークのイメージに合うものになったかなと思いますね。──あのお面は何を表しているのでしょうか?あれはコロナでマスクをする時期だったのと、MF DOOMが亡くなったじゃないですか。あれからKanye Westも覆面っぽいのをするようになりましたよね。「内面をよりビジュアル化したものを前に出す」みたいなことが面白いかなと思ってやりました。それで作ってみようと思って、二つ作ったんです。

──あれ自分で作ったんですね。MF DOOMといえば、“松戸にいる”にもその影響があるように思いました。
自分のビートでラップをするシンガーソングライター的な作り方
──また作品の話に戻りたいのですが、前作は客演が多くて賑やかな作品でしたよね。でも、今作は客演を絞っているじゃないですか。
VOLOJZA & Poivre - HARURANMAN(Lyric Video)
──今回の作品は、ビートを作ってラップを乗せた後に何か手を加えることはどのくらいやっていますか? ラップを乗せた後に「ここいらないな」っていうのを切ることはありましたが、ほぼないですね。──それは自分でビートを作っているからできる技ですね。今回のアルバムは、音の質感がぼんやりしたダウナーな感じで統一されていますよね。そこは自分でビートも作る人ならではだなと思ったんですが、ミックスとマスタリングに関してはKABEYAMさんに委ねているじゃないですか。そこに関してVOLOJZAさんの方からディレクションはどの程度されましたか?KABEYAMさんとはもう3~4作くらい一緒にやっているので、大体自分の好みはわかっているんですよね。リファレンスで曲も投げていますし。「ここを大きくしてくれ」とか細かいところは多少言いますけど、極端に変じゃなければ大丈夫です。トラックに関してはほぼ原曲通りですね。あと俺はマイクの音が悪いので、それに関してはかなり助けてもらいました。──リファレンスには例えば何を送りましたか?Raider Klanの時のDenzel Curry、昔のYung Leanなどです。インディロックっぽいものも送りました。元々そういうのが好きで、ああいう質感でまとめたいなっていうのがあったんですよね。さらに気持ちとしてもそういう気分だったので、全体的にそういうのでまとめました。
The NeptunesやSwizz Beatz、Iggy Popなどから受けた影響
──今回はハード機材で作ったそうですが、サンプリングメインのビートメイカーの中には「そういうの難しそうだ」と思って手が出せない人もいるんじゃないかと思います。VOLOJZAさんって、音楽理論とか学んだことはあるんですか?全くないですね。──理論なしで弾いてビートを作るにあたり、何か大変なことはありましたか?元々、The NeptunesやSwizz Beatz、ハイフィとかが好きだったんですよね。彼らのビートってループがメインじゃないですか。打ち込みもシンプルなものが多いですし。しっかりと音楽的なものを作ろうとは全く思っていなくて、「いいループを組む」というだけなのでサンプリングの時と感覚的には同じですね。4小節でいいループを組めるかです。理論ではなく、感覚で当てていくみたいな感じですね。──いわば、一音一音サンプリングして作っていくみたいな?そうかもしれないです。元々サンプリングの時でも、メロディじゃなくて響きや質感を重視しているんですよね。自分は、メロディがいくら良くても質感が良くないとダメなタイプなんです。「しっくりくるものを探して作る」という意味では、サンプリングとほぼ同じですね。──なるほど。今回のアルバムに限らず、VOLOJZAさんの音楽にはヒップホップ以外からの影響を感じることが多いのですが、そこについてお伺いしたいです。ヒップホップだけ聴いていると飽きちゃうんですよね。飽きて違うの聴いて、飽きてヒップホップ聴いて、飽きて違うの聴いて…みたいな感じを繰り返しています。今回のアルバムを作っている時は、クラウトロックとかを聴いていました。あとIggy Popの『Idiot』というアルバム。シンプルで暗いアルバムなんですけど、気持ちにもハマってよく聴いていたんですよ。そのダークでシンプルな感じをイメージしつつ、自分の場合はアウトプットがヒップホップの形になるみたいな感じでしたね。ダークでシンプルなループ、そこにラップのような感じです。──今回のアルバムの収録曲について、一曲ずつお話を聞いていこうと思います。まず先行シングルにもなった“真犯人”ですが、あれは早口ラップをやる曲ですよね。あれは早口ラップをしたくてあのビートを作ったんですか?それともビートに早口が合いそうだった?実は去年から酒の量を減らしたんですよ。そうしたら体力・気力的に変化が起きて、「早いラップをやりたい」みたいなモチベーションが出てきたんです。夜更かしをあまりしなくなったのも関係があるかもしれない。ビートはすごい昔、Skeptaを聴いた時に作ったビートがあったのを過去のファイルを見ていて思い出して、その早口モチベーションに合いそうだと思って選びました。
VOLOJZA - 真犯人
──“顔が濡れたら力が出ない”は古い曲とのことですが、何から影響を受けて作ったか覚えていますか?それこそA$AP Fergの“Work”を聴いて作ったビートですね。“顔が濡れたら力が出ない”はスネアがなくて、ハイハットの連打と808が2~3発バンバンって鳴るだけのビートです。あれはハイハットですごい面白い打ち方ができたから、それを活かしてフロウを一定化して推進させるみたいな感じで作りました。
インプットの蓄積
──“トンネル”は、The Cool KidsとThree 6 Mafiaを足したようなビートだと思いました。言われてみるとそうかもしれないですね。でも、あれはBabyface Rayとかのデトロイトラップを聴いて作ったビートなんですよ。デトロイトっぽいビヨビヨとピーヒャラを入れつつ、自分が作るからちょっと違う変になるみたいな感じですね。でもThe Cool Kidsも好きで、昔からそういうビートを作るとよく「The Cool Kidsっぽい」と言われます。誕生日もChuck Inglishと同じなんですよね。──そうなんですね(笑)。Chuck Inglishもデトロイトですよね。Babyface Rayとも繋がっているかもしれない。言われてみればそうですね。フロウの面でも、その時聴いていたデトロイトラップを意識しました。グニャグニャとしてちょっと弱くなるみたいなイメージです。ちなみにあの曲、サビは最初全然違ったんですよ。「トンネル抜けたなら」じゃなくて「モンベルバラクラバ」だったんです。Doe Boyがずっとバラクラバを被っているじゃないですか。モンベルでバラクラバが売っているのを見て、「ああいうMV撮ろうぜ」って言って作ったみたいな曲でした(笑)。──“寝るしかない”は歌っぽいフロウをやっていて、ビートも808を使ったトラップっぽい要素のある曲ですよね。でもオートチューンを使っていなかったり、ベースの鳴りがファンキーだったり、そういう明らかに違うところもあるのが面白いと思いました。あの曲は何からインスパイアされたんですか?あれはRolandの「MC-303」という古い機材で作ったビートです。アシッドハウスっぽい質感で鳴るんですよね。元々もっとドラムが入っていたんですけど、歌う時にメロディに当たっちゃうので全部剥いで808とベースだけにしました。インスパイア元としては、Etherealですかね。ドラムンベースに影響を受けたトラップというか。ああいうのが好きで、「昔のアシッドハウスとかの質感を残した何か」みたいなイメージで作りました。──“Favorite”は、ワブルベースみたいな音が入っていたりするけどヒップホップとしてまとまっているみたいな変なビートでしたよね。あれは何から影響を受けた曲なんですか?あれはSpaceGhostPurrpとかの影響を受けて作った曲でした。それと、持っている機材で適当にプリセットを鳴らして「これいいな」って思った音を選んでいたら、結果的にああなったみたいな感じですね。後から聴いたら「ダブステップみたいなベースじゃん」って気付きました。
VOLOJZA- Favorite feat. W.O
──そこはめちゃくちゃヒップホップ的な発想ですね。“靄靄”も低音が極端に少なくて面白いビートですよね。あれは変なドラムの打ち方になりましたね。あれもMC-303で作ったビートです。結局、影響って自分が聴いてきたものの蓄積だと思うんですよ。リファレンスというよりも、結果的にそうなったみたいな感じが近いんですよね。──確かに、お話を聞いているとVOLOJZAさんはインプットの蓄積がそのまま面白さに繋がっている印象を受けました。人に頼めないのもそういう理由だと思うんですよね、自分の中にあるものから、しっくりくるものを探して作っているんです。人に頼んでも全然イメージと違ったりするので、投げるのは結構難しいんですよね。
新しいものから受ける刺激と古い機材で作る面白さ
──“夢は枯野を駆け回る”は四つ打ちですけど、あまりハウスっぽくないのが面白いなと思います。ハウスは去年すごいホットでしたが、あれはあの時期に作ったビートだったりするんですか?あれは2~3年前のビートです。King Kruleと一緒にやっていたPintyの1st EPでああいう曲があって、それを聴いて作りました。元々ラップ用ではなくて、単純に好きで作ったビートなんですよね。自分で聴く謎のやつみたいな。YouTubeにtoydogがチャリンコの動画を上げているんですけど、それにインスト版が使われています。2020年くらいの動画ですね。
VOLOJZA - 夢は枯野を駆け廻る
──それにラップを乗せようと思ったのはなぜですか?やっぱり質感がすごい好きだったんですよね。ああいう曲をやっている人はほかにいないだろうし、いいかなと思いました。あれが今回の作品で最後にラップを入れた曲ですね。──質感といえば、最後の曲の“前夜”も面白い質感の曲ですよね。穏やかなようで今回一番ヒップホップから逸脱したビートだと思います。あれのエピソードを教えてください。あれは夜にすごい小さい音で作ったビートです。ウワネタを弾いていたら、なんかすごい好きな感じのものになったんですよね。教会というか、そういう「許しがあるような音」というか。そこにドラムとかを足すでもなく、色々といじっていたら不思議なビートになりました。それになんとなくメロディが思いついたから書いたみたいな感じですね。──お話を聞いていると、VOLOJZAさんのビートの面白さは機材から生まれているような気がしました。使っているドラムマシンが古くて今っぽくないから、そうなるんですよね。さっきの“顔が濡れたら力が出ない”の話にも繋がるんですけど、ちょっと前に流行った音に近いと古く感じると思うんです。そこを古い機材でやっている分、トレンドの影響を受けても変なものができるんだろうなと思います。MC-303は人から貰って、使ってみたら面白くて結構使っています。あとはドラムマシンの「TR-8」と、KORGのアナログモデリングシンセを使っていますね。特に機材オタクというわけじゃなくて、その時の流れで興味があって買ったものや、貰ったものを使っています。しょっちゅう買い替えたりはしていなくて、持っている中でどうするかみたいなことを考えることが多いですね。新しく買ってどうこうみたいなことはあまり思わないです。サンプリングはずっとMPC-1000を使っています。──なるほど。古い機材で新しいことをやった結果があのビートなんですね。VOLOJZAさんにベテランとしての話を聞きたいんですけど、最近日本でもヒップホップが盛り上がってきていて、若いラッパーやビートメイカーが色々と出てきているじゃないですか。最近の新しいアーティストでお気に入りの人はいますか?面白いと思ったのはPeterparker69ですね。あれは自分の前に作っている人はいないものだと思います。ライブでJeterくんと被ったこともあったんですけど、すごい変な感じで面白かったです。Tohjiや釈迦坊主も好きですね。あと、やっぱり自分にできないことをする人は好きです。「こういうやり方があるんだ」みたいな発見があって面白いです。逆に誰か例を挙げてもらったりできますか?──自分が最近好きなのは¥OUNG ARM¥という人ですね。「気をつけるスパゲッティ」ってフックの白Tシャツの曲があるんですけど、それとか面白いです。(笑)。自分の場合は若い人のラップだと、そんなに「ヒップホップ!ヒップホップ!」していない人の方が、自分の知らない感じで好きになることが多いですね。STARKIDSとかも面白いなと思います。──なるほど。今制作している作品について、言える範囲で教えてください。Die,No Ties,Flyのアルバムがほとんどできています。あとはサンプリングのソロアルバムを修正して、まとめて出せたらなとは思っていますね。

取材・文/アボかど撮影/Kazuki Hatakeyama
INFORMATION

割れた鏡が見た何か
VOLOJZA2023.05.03(水)
Tracklist1. 真犯人2. 顔が濡れたら力が出ない3. トンネル feat. doq4. 寝るしかない5. Favorite feat. WO6. 靄靄7. 夢は枯野を駆け廻る8. 前夜
Mix&Mastered by KABEYAMPhoto by Kazuki HatakeyamaPress Release by アボかど
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