<FUJI ROCK FESTIVAL’24>2024.07.26(FRI)Awich @GREEN STAGE

振り返るフジロック2024|Awich
FUJI ROCK FESTIVAL'24 Awich

極東の女王。いざGREEN STAGEに降臨

夏の日差しが収まり、涼やかな空気とともにDAY1の夜が忍び寄るころ。ようやくクールダウンと思いきや、GREEN STAGEには続々とウィッチル(Awichファンの呼称)たちが吸い寄せられ、観客同士の体温が感じられるほどの密集地帯に。

期待と呼ぶには熱すぎる感情が空間に充満する。

そしてライブスタートの19時20分ジャスト。GREEN STAGEの闇の中にAwichのシルエットが浮かび上がる。まさにその光景は「女王。フジロック。降臨」。まだ何ひとつ言葉を発していないその立ち姿だけで、観客の期待と視線を一手に集める説得力が、今のAwichにはある。

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そうして始まった“Queendom”は、感情を抑えながらラップする序盤を経て、中盤の〈容疑者は逃走中〉から一気に AwichのギアがUP! Awich のライブにおけるリリックへの感情の乗せ方は年々高まっているが、さらにこの日の〈諦めてたステージに立つ夢〉〈チャンスは自分で掴むもの〉などのリリックは、GREEN STAGEに立った今のAwichとリンクする。そして〈荊棘を抜け、今立つフジロック(元の歌詞は武道館)〉というパンチラインで、Awich劇場が幕を開けた。

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続いて太く黒いビートが流れ、紅蓮のライトに照らされるステージにダンサーたちが登場して“Guerrilla”、そしてAwichも共に踊り狂うソロバージョンの“ALI BABA”を披露。1曲目でONE MICのリリシズムを見せつけたあとに、余裕でダンサブルな2曲を持ってくるあたりに、今のAwichのビッグステージに対する場慣れを感じるとともに、観客を開始早々わずか10分でロック。

冒頭3曲で観客の心をすぐさま掴んだのちに最初のMCへ。

「今日このステージに立てたことを本当に光栄に思います」と感謝を伝えつつ、「新曲もたくさんやろうと思います。知ってても知らなくても、本当のフジロッカーなら良い音楽を純粋に受け止めてくれますか!?」と煽る。

さらにAwichは2019年のフジロックで出会い、その後に亡くなったことを知った車椅子の女性とのエピソードを語り始める。Awichは1997年から毎年欠かさずフジロックに参加していたリカさんと呼ばれる女性からさまざまなことを教わり、「いつかGREEN STAGEに立ちたい」と伝えたという。そしてリカさんにとって、フジロックの最後の思い出が、Awichとの出会いだったと。

「リカさん……今日見てますか。私はフジロックのGREEN STAGEに立てたぜー!」と空に向かって叫ぶAwich。このエピソードに関して筆者は、Awichが2年前のフジロックに初出演する直前のインタビューで聞いていただけに、そこに込められた想いを想像して涙が頬を伝った。

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名曲から新曲。そして圧巻の沖縄“THE UNION”

約束を果たしたAwichは、自らの覚悟を再確認した上でライブを再開。すると感動のあとに突如、「ヘッドライナーがキャンセルになったから行かないとか~! Awichにはサブヘッドライナーは務まらないとか~! あーだこーだごちゃごちゃ言ってんじゃねーぞ!」と、Awichが“キレた”。

この前振りの場合、次に何の曲が来るのか。

Awichのことが好きな人ならきっとわかったはず。そう、Awichが成り上がるきっかけのひとつとなった初期のアンセム“WHORU?”だ。

おそらくフジロックの現場に来ている観客ではなく、TVやネットの向こう側で文句ばっかり垂れている連中を煽るように、タイトなラップで攻撃的な言葉を吐く。そして曲の終盤では、ステージ中央で両手を広げて天を仰ぐAwichの両端に、灼熱の炎柱が勢い良く燃え上がった。

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曲の内容もステージの演出も熱が最初のピークを迎えたこのタイミングで、畳み掛けるように始まったのは、Awichの日本でのキャリア第1章を輝かせたヒットチューン“Remember”。

夏にリリースされたこのアンセムが、フジロックのシチュエーションに合わないわけがなく、気持ち良くグルーヴィにラップするAwichに合わせて観客も体を横に揺らす。そしてサビ前の「フジロック! 飛びまーーーす!」というAwichの煽りに今度は縦にJUMP! ここで飛ばないやつはAwichのライブに来ない方がいい──確かにそう思える一体感がここで生まれる。そのAwichと観客の一体感は、続けて披露した“口に出して”におけるハンドクラップにも現れていた。

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ここから、ステージの世界観は一変。Awichが一度あとにしたステージに、伝統的な沖縄の民族衣装に身を包んだ踊り手と、三線を手にした唄者・Kunikoが現れた。沖縄民謡、そして“THE UNION”のイントロを伸びやかに歌い上げたのちに、沖縄にインスパイアされた艶やかな衣装でAwichが再登場。沖縄の壮大な夕日を思わせる映像をバックに、“THE UNION”を観客に届けた。

断言する。この沖縄パートこそ、AwichがAwichたる所以だと。Awichは、常に自身のバックボーンを背負ってきた。そしてこのフジロックという大舞台で、ここぞとばかりに十分すぎるほどの時間を割き、見事な世界観を構築し、沖縄を表現したAwichに最大限のBIG UPを送りたい。

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さらに序盤のAwichの宣言通り、新曲を交えたショウタイムへ。スクリーンの映像とリアルのダンサーがホワイトのスモークの中でリンクする新曲“Guapanese”と、同じく映像とAwichのラップが融合する“洗脳”。そして不穏なトラップ調のビートに英語のリリックを乗せた新曲“Yellow Monalisa”と、沖縄を連想させる情緒的なトラックにAwichの力強いラップが絡まる“Go”と続く。

フジロックでの新曲の披露はチャレンジングだが、映像とダンサーを駆使した2Dと3Dの融合は、GREEN STAGEという大舞台でこそ映える演出で、「観た人が自分自身のことをもっと知りたいと思えるようなステージにしたい」と常々語るAwichらしい。フジロックの観客たちは意表を突かれつつも、音楽に心を任せて自然と体を揺らし、Awichのパフォーマンスに酔いしれていく。

YENTOWN、Bad Bitch、沖縄。盟友たちが登場

そしてここからのターンは、おそらく多くの観客がAwichのステージに期待していたファクターのひとつである、Awich feat 愛すべき盟友たちによるヒットチューンの時間に突入する。

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まずは“Go”のトラックの延長でYENTOWNのサンプリングとロゴ、そしてスクラッチ音と来れば、DJブースにはU-Lee。

そう、満を持してkZm、PETZ、JNKMN、MonyHorseがステージに現れ、久しぶりのYENTOWNフルメンバーの新曲として話題を呼んだ“不幸中の幸い”をBOMB!

今年の<POP YOURS>でもサプライズで披露された同曲だが、AwichがフジロックのGREEN STAGEという晴れ舞台に、自らの運命共同体であるYENTOWNを呼ばないわけがない。いつも以上に楽しそうにラップするYENの面々。MonyHorseの〈ありがとうAwich 立てるフジロック〉のリリックにもあるように、YENTOWNにとってのビッグステージがこの日、さらに更新されたのだ。

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続いてAwichがREPする仲間たちと言えば、女性。「フィメールラッパーはどうこう~」みたいな論争を軽く吹っ飛ばした“Bad Bitch 美学”は、Awichのバースに続いてオリジナルバージョンのNENE・LANA・MaRIが次々と登場し、それぞれのスキルの高さをまざまざと見せつける。

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さらに息つく暇を与えず、“GILA GILA”に突入。サビの大合唱はMAXで、期待通りにJP THE WAVYが現れると、持ち前のダンサブルなムーブと近年磨きがかかるラップスキルを発揮した。

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そして再び沖縄タイムへ。〈Yeah, Di-Diego〉の出囃子とともに“RASEN in OKINAWA”を唾奇、OZworld、CHICO CARLITOのフルメンバーで届ける。三人三様で魅せる沖縄スタイルのフロウとライムで、Awich姉さんを祝福。〈くゆいぬはなしぬ うーむっさ すりさーさーすいすい〉の調べが、過去最高の気持ち良さで苗場に響き渡る。さらに、気合いの入るCHICOと延長線で“LONGINESS REMIX”へ。

終始、Awichのリラックスしたパフォーマンスから喜びが伝わってきた。

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グラミーからフジロックのヘッドライナー

この時点で観客は大満足。大団円が近い。いよいよAwichのステージはフィナーレへ。

「フジロック本当にありがとうございました! GREEN STAGEに私を受け入れてくれて、そして私の仲間たち、後輩たちを受け入れてくれて、本当に、本当に感謝してます。ありがとう!」と改めて感謝を伝えるとともに、「そして今度私が大きいところ、ドームとか!? そういうところでやるときは、みんな遊びに来てくれますか?」と、新たなる夢をウィッチルたちに贈ってくれた。

そしてラストの曲は、Chaki Zuluの哀愁漂うトラックの上で、誰かを好きになる瞬間の喜びや切なさを歌う“BAD BAD”。同局のMVを手がける山田健人(dutch tokyo)が今回のフジロックのステージ演出を手掛けていること、曲のテーマである「喜びと切なさ」がついに迎えたフジロックというステージのラストにふさわしく感じたことも込みで、最後にこの曲を持ってきたAwichに脱帽した。同時に、充足感に包まれながらも、「これで終わるんだ」という寂しさにも襲われる。

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こうしてフジロック、GREEN STAGE、サブヘッドライナーに臨んだAwichのステージは終幕。すぐさま周りの観客は興奮しながら感想を述べ合っているが、ほとんど耳に入ってこない。しばらく人にもまれながら、トボトボと歩きながら、この日のライブを最初から思い返していた。

文字通り、素晴らしいライブだった。

ただし、その素晴らしいという言葉には、さまざまな意味を込めたい。Awichはフジロックで、これまでアイコンとして発信してきた沖縄の文化や女性の強さを改めてステージで表現し、さらに自分だけではなく仲間たちにも同じ景色を見せた。

これだけでも素晴らしいという評価に十分値するのだが、さらにAwichは自身のまだ見ぬ輝かしい未来に向けて、フジロックですらチャレンジの場として捉えていたように感じる。

今回のライブに関して、後半の鉄板feat曲の連続はもちろん最高の盛り上がりだったが、個人的には前半の“Queendom”から“Guerrilla”“ALI BABA”や、“THE UNION”から新曲への流れなどに鳥肌が立った。ラップ・ダンス・映像・舞台効果などを融合させ、日本のHIPHOPを世界に通じる総合的エンタテインメントに高めようとする、Awichの覚悟が伝わってきたからだ。

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最後に、筆者がAwichに初めてインタビューしたのは2017年。その記事は『8』のリリース日である8月8日にQeticで公開された。そのインタビューの最後に、Awichは「女性は強くなることを恐れないでほしい」と語っていたが、今、彼女のその言葉を疑う者はきっといないだろう。

Awichは決して作られたアイコンではない。誰よりもタフで、ストイックで、そして人間くさいやり方で日本のHIPHOPシーンを底上げしながら、自身の大きなストーリーを描いている。

そして今、Awichの眼(まなこ)は、固い決意とともに世界へと向いている。もう、夢物語だと笑う者はいないはず。Awichがいつの日かグラミーを獲り、フジロックのヘッドライナーとして凱旋する日を待ちたい──。苗場の芝生に腰を下ろし、勢い良く酒を煽りながらそう願った。

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Photo by 横山マサト(Masato Yokoyama)Text by ラスカルNaNo.works

INFORMATION

FUJI ROCK FESTIVAL’24

7月26日(金)27日(土)28日(日)新潟県 湯沢町 苗場スキー場

FUJI ROCK FESTIVAL'24

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