
今月10日午後7時35分にFIFAワールドカップ(W杯)2026アジア最終予選(3次予選)日本代表vsインドネシア代表戦が大阪・市立吹田サッカースタジアムで開催される。
欧州出身のインドネシア人サッカー選手を積極的に招集するインドネシア代表は、国内外のメディアで『帰化軍団』と称されるほど多彩なルーツを持つ選手たちが集まっている。
日本代表、中国代表戦に向けて招集されたメンバーで欧州出身選手は30選手中17選手と過半数を超えている状況だ。
その中で欧州出身選手と比較してもそん色ないプレーで、アジアの強豪国と渡り合う純血選手がいる。
彼らと同僚だった山本奨(インドネシア1部ペルシス・ソロ)が日本の脅威となり得る純血の天才選手たちについて語った。
(取材・文・構成 高橋アオ)
Qolyのインタビューに応じた山本(本人提供)他とは全然違った天才マルセリーノ・フェルディナン
『インドネシアの未来』『インドネシア史上最高の天才』『神童』という称賛の言葉を受けるインドネシア代表MFマルセリーノ・フェルディナンは、卓越したボールコントロール技術、DFをあざ笑うようなドリブル、定規で線を引くが如くの正確な縦パスと、同代表のチャンスメイカーとして君臨している。
東南アジアでは北海道コンサドーレ札幌や川崎フロンターレでプレーしたタイ代表MFチャナティップ・ソングラシンに比肩する才能といわれる若干20歳の若き天才と山本は、インドネシア1部ペルセバヤ・スラバヤで同僚だった。
「(初対面は)マルセリーノは代表に行っていて、チームに遅れて合流してきました。その当時から彼はずっと代表に行っているんですよ。U-17、19、21、A代表。1年で一緒に何試合やったかなと数えるくらいでした。たまにアウェイ戦のときにホテルが一緒の部屋だったりしましたね。第一印象としてはみんなが言っているように『うまいな』と思いました」と当時を振り返った。

2022年東ティモール代表戦で17歳にして代表デビューを飾った神童は、アジア最終予選でも2022 FIFAワールドカップに出場したサウジアラビア代表相手に2得点をマークして同国史上初めてのサウジアラビア代表戦勝利に貢献し、今年3月に開催されたバーレーン代表戦ではFWオレ・ロメニーの決勝弾をスルーパスでアシストした。
山本は卓越した技術を持つ神童を「そこら辺の外国人よりやりやすかったです。
ボールの技術、扱い、そしてボールを取られないプレーが大きい。勇気を持って自分からも仕掛けていける選手です。あまりビビらないでどんどん仕掛けていけて、その中で取られない。ラストパスも出せる。攻撃的なアタッキングMFですごくいい選手です。ゴール前まで入っていけるし、いろいろな局面に関われる選手ですね」と絶賛した。
インドネシア人選手の平均レベルが低いと断じていた山本だが、マルセリーノに対しては「正直に言って全然違いました」とその異質さを評価していた。
2023年から活躍の場を欧州に移し、ベルギー2部デインズでのプレーを経て、現在はイングランド2部オックスフォード・ユナイテッドに所属している。ただ欧州ではその才能を十分に発揮できておらず、出場機会に苦しんでいる。
「いまのチームは、こっちだとみんな知っていますけど、オックスフォードはインドネシア協会会長が持主のチームです。
インドネシア代表はソーシャルメディア(の発信)でもすごいじゃないですか。何でもない試合でもすごく取り上げられる。僕がマルセリーノから聞いた話では『チームを選んでいない』と言ってました。その当時もよく話しましたけど、『来シーズンいなくなるんだよね。ヨーロッパに行くんだよね』と。『どこへ行くの』と聞いたら『いや、分からない。親が話しているから』と言っていましたね」
インドネシアを背負う若き天才はマーケティング面での欧州移籍の意味合いも強く、クラブシーンでの出場機会を犠牲にしている状況だという。山本は「年齢も若いのでもったいない。あの年代は一番試合に出ることが大事だと思う」と惜しんでいた。
あるインドネシアサッカー関係者も「彼は籠の鳥のようで不憫(ふびん)な面もある」と吐露するほど国内での注目度が高く、重責を背負わされている。

ただ実力は間違いなく同国代表でプレーすれば昨年11月開催されたサウジアラビア戦で2得点を挙げて、2-0で勝利するなどワールドカップ王者アルゼンチン代表を破った格上相手でも圧倒的な輝きを見せただけに、日本は警戒しなければならない。
守備の要リスキ・リド
若き純血の才能はフェルディナンだけではない。現在東南アジア出身の若手センターバックでは最も評価が高いとされるDFリスキ・リドもインドネシアで生まれ育った実力者だ。

リドともペルセバヤ・スラバヤで同僚だった山本は「リスキ・リドも良かったです。外国人のセンターバックよりはいいなと。なんなら今年に関してはインドネシアの外国人を含めても一番(センターバックで)良かったんじゃないかな」と称賛した。
東南アジア出身のセンターバックでNo.1という定評について尋ねると「そうだと思います」と山本が即答するように、同国のセンターバックで最も期待を受けている純血選手であり、プレースタイルは冷静さと恐れを知らない闘争心を併せ持つクレバーなセンターバックだ。
フィジカルの強さと身体能力を生かした球際の守備に、身長182センチとセンターバックとしてはやや小柄ながら優れた脚力を生かした空中戦の強さ、素早いカーバーリングに定評がある若干23歳の才気として期待されている。

「まず骨格がインドネシア人離れしています。ヨーロッパ人のようにがっしりしていて、筋肉質でフィジカル能力が高いです。しっかりボールも扱えてうまくて、すごく頭もいいので、いいセンターバックだと思います。(東南アジア全体で)頭は抜けていると思います」
同代表では3バックを採用しており、センターバックにはセリエAヴェネツィアでレギュラーを務めるDFジェイ・イツェス、オランダの強豪トゥエンテのレギュラーのDFミーズ・ヒルハースとリドはトリオを形成している。
J1セレッソ大阪にも在籍していたDFジャスティン・ハブナー(プレミアリーグ・ウォルヴァーハンプトン)やJ1横浜F・マリノスDFサンディ・ウォルシュよりも序列が高いため、同国の守備の要として大きな期待を受けている。
山本は「例えば海外に出て(フェルディナンとリドの)どっちが活躍できるかといったら、僕はリスキ・リドのほうが活躍できる可能性が高いと思います」とリドを高く評価している。

「リドはすごくいい選手です。なぜかと言うと、マルセリーノみたいな選手はうまいですけど、多いっちゃ多いじゃないですか。10番だったりあのポジションは特にね。
他の国のディフェンス(に入っても)リスキ・リドはそのポジションとしてはすごくレベルが高いと思う。自分はリスキ・リドのほうがポテンシャルがあると思います。ただヨーロッパでやれるかと言ったらそれはちょっと何ともいえないです」と高評価した。
その実力の高さを「(Jリーグでも)慣れさえすればできると思います」と山本がいうように、東南アジアだけではなく、アジアでも高く評価されているリドが、優れた守備能力で日本の強力アタッカー陣と対峙する。
あの二人は特殊
インドネシアの人口は同国中央統計庁によれば、2024年で約2億8348万人の人口を誇り、人口の多さは世界で4番目だ。豊富な人口リソースを持つ同国で最も盛んなスポーツはサッカーであり、競技人口も多い。リドやフェルディナンのような才能が今後多く輩出されるかといえば、異なるようだ。
山本は「あの二人が特殊だと思います。リーグでは今年も『この若い選手が活躍した』という賞がありますけど、(山本と同僚だった)当時のマルセリーノと比べると全然大したことがない。

東南アジア全体で見通しても比類なき才能と高く評価される2選手は、10代のときから同国を支える才能と高く評価されてきた。両選手をよく知る山本も普段の振る舞いから異質さを感じ取っていた。
「すごく落ち着いていましたね。その当時、いまでもまだ若いんですけど、特に試合直前なんて結構みんな気合が入っていて大きな声を出す選手がいたり、落ち着きのない選手がいるんですけど、その当時から二人はすごく落ち着いていて慣れている感じでやっていました」と明かした。
二人の才能を早くから見抜いていた山本は「その二人と一緒にやっていたので運が良かったのかな。ちなみに僕はマルセリーノのジャージーを持っています。当時『こいつはいい選手だ』と聞いていて、最後の最後に奪い取ってきました(笑)。一応(シャツを)交換しておきました」と、笑いを交えながら誇らしげに語った。
両選手の話を進める内に山本は、Qolyに紹介したい選手がいると切り出してきた。現在ブルネイ1部DPMMに所属するインドネシア代表FWラマダン・サナンタだ。

ペルシス・ソロで同僚だった山本は「ちなみにもう一人いて、インドネシア代表にチームメイトがいます。自分がいま所属しているペルシス・ソロのFWでラマダン・サナンタです。彼とも1年半一緒にやっていて、すごく仲も良くてよくご飯も行ったりしていたんです。彼は来シーズン移籍するんですけど、一応自分は彼にも注目しています。
サナンタもインドネシア人の中では身体能力が抜けていますね。若くてちょっとアホなんですけど、自分をコントロールできなくて(苦笑)。ただハマったときの怖さはすごくあります。ゴール前での嗅覚も持っているので、ベンチに入るのか分からないですけど、出たら何か見せてほしいなと思っています。一応ユニフォームを(サナンタから)もらいました(笑)。サナンタとは結構仲良かったんですよ。正直に言って一番期待というか頑張ってほしいです」と、22歳ストライカーにエールを送っていた。
インドネシア代表は現在最終予選グループCで6チーム中4位と健闘しており、ワールドカップ出場権を得られる4次予選進出圏内(3、4位)に入っている。中国戦の勝利、日本から勝点獲得を狙っており、2選手への期待は国内で高まっているという。

山本は「インドネシアが勝つにしろ、負けるにしろ、その二人には活躍をしてほしいなと思っています。それこそマルセリーノだったら、日本の中盤はすごくいい選手しかいないと思うんですけど、その中でいままで見せていたようなプレーを見せてくれて、得点に絡むシーンを見たいです。リスキ・リドがもし試合に出たら日本のFWを抑えたり、あのプレッシャー、プレスがくる中でいままで通りビルドアップとパスを見せてほしいと思います」と元同僚の健闘を祈っていた。
インタビュー終わりに「いまインドネシアが代表としてもどんどん上を目指していっている。二人が中心となってワールドカップにでも行って活躍してくれたらいいと思います」と期待を打ち明けた山本。日本戦でどのような活躍を見せるのか興味が尽きない。