
世界的に急速な成長を見せている女子サッカー。特にヨーロッパでは観客数がうなぎのぼりとなっており、選手の価値も高まっている。
メディアでも女子のスター選手が取り上げられることが多くなっており、様々な企業のバックアップ体制もあってエンターテインメントとしての規模が拡大の一途を辿っている。
その一方、女子サッカーの露出が増えることによってメディアやコメンテーター、ファンなどから厳しい目が向けられることも多くなり、選手や関係者のプレッシャーも増加している状況だ。
日本でもプロのコンペティションであるWEリーグが創設されたほか、女子サッカー選手がどんどん海外のリーグへと進出し、DAZNでは欧州の女子サッカーが毎日のように放送されるなど環境は急速に整ってきた。
その状況を現場ではどのように受け止めているのか。今回Qolyはなでしこリーグの第4節スペランツァ大阪対静岡SSUボニータの試合を取材した。
試合前に整列するスペランツァ大阪
今シーズンから大野忍監督が率いるスペランツァ大阪、そしてウズベキスタン女子代表を退任した本田美登里監督が指揮する静岡SSUボニータ。両チームともにここまで3試合を戦って勝利がない状況で、まだ調子は上がっていない。
試合はどちらもビッグチャンスを作りきれない時間が長い内容となり、互いにペースを握れないまま90分を消化。勝点1を分け合うという結果になった。
そして終了後、なでしこジャパン139試合出場の実績を持ち、ワールドカップ優勝の経験も持つ名FW大野忍監督にお話を伺うことができた。

――まずはこの試合のことから感想を頂いてもよろしいですか?
負けなかったということは大きいですけど、だからといって引き分けでOKではないので。
ここから勝利するためにどうするか、ということを考えなきゃいけないなと改めて思いました。
――大野忍さんがプレーされていたころのなでしこジャパンのように、カオスにならないキッチリしたサッカーをされているなと思いました。そのようなスタイルを目指そうと伝えていらっしゃるんですか?
いえ、どのようなポジションを取るかとか、そういうことはあまりやっていないんです。
ゴールを奪うための手段、失点をしないための手段として、きちんと選手たちが判断していきましょうと。伝えているのはそれくらいですね。
――いちばん重要なことを伝えた結果、選手たちがこれまで学んできたものが出ているということなんですね。
はい、そう思います。
「選手自身が自分を評価する」ことの重要性

――近年では海外の女子サッカーもDAZNで見られる時代になりましたが、選手の意識などに変化は感じますか?
私はあまり女子のサッカーを見ないのでわからないですね(笑)。やっぱり男子の方を見てしまうので。イングランドやチャンピオンズリーグの試合も放送されていますけど、それなら普通にJリーグの方に行っちゃいます。
男子か女子かではなく、自分も現役時代は『メッシみたいになりたい!』と思っていたので(笑)。女子が女子のマネをしなければならないわけではないですからね。
――確かにそうですね(笑)。
やっぱりうまい選手は増えていますね。でも、うまいからといっても通用しないことはありますし、技術的にうまいだけでは意味がないところもあるというイメージはありますね。対戦している相手の逆を取るようなプレーをしたほうが面白いのに、と感じることはあります。ただ、正直に言えばあまりわからないですね(笑)。
というのも、選手の評価というのは、結局「自分たち自身がどう感じるか」だと思うんです。それは私が評価することじゃないなと。
私たちがワールドカップで優勝したときも、ノリさん(佐々木則夫監督)がいましたが、別に監督のためにプレーしていたわけじゃない。自分たちが『女子サッカーのために』と思ってサッカーをしていましたし、選手が自身で考えて試合をやっていただけなんです。
なので、いちばん重要なのは「選手自身が自分たちを評価すること」じゃないかなと思っているんです。海外に行きたい選手は行けばいいですし、WEリーグの選手のプレーを参考にするかどうかも自分たちで決めればいい。
冷たいと思われるかもしれないですけどね(笑)。でも、選手自身がそれから何かを感じてくれれば嬉しいですし、その自分が感じたものから行動することが大事だと思うんですよね。
――ある意味すごく深いですね。情報が溢れている時代だからこそ、自分自身が感じたことを大事にするというのは、サッカー選手にとってもできそうでできないことだと思います。ありがとうございました!
突き放しているように思われるかもと言いながらも、非常に選手の立場に寄り添った「評価コメント」だった。2019年に現役を引退したばかりとあって、監督になってもプレーヤーとしての気持ちを大事にしているようだ。
成長を促してくれる「選手と同じ目線でのアドバイス」
また、スペランツァ大阪のキャプテンを務めている深澤里沙選手も、大野忍監督の指導についてこう話していた。

――大野忍監督はどのような印象ですか?
ボールを失わないところとハードワークですね。サボらずにボール中心に動くことを日々考えてプレーしています。
去年からコーチとして来ていただいて、今年から監督という立場になりましたけど、すごく親身になって接してくれるんです。メンバーに入っても入らなくても。色んな方とコミュニケーションを取って、チームを良くするために動いてくれます。
大野さんがチームを盛り上げてくれているというのは間違いなく感じる部分ですね。監督という立場だからではなく、選手と同じ目線でアドバイスをしてくれるんです。
すごい方なんですけど、そのようなところを全然出さないので(笑)。
――WEリーグの創設、国外移籍の増加、そして海外の女子サッカーの盛り上がりと大きな変化がありましたね。なでしこリーグの選手として感じるものはありますか?
昔と比べれば、女子サッカーの人気は高まっていると思います。それはもちろん大野さんの頃のワールドカップ優勝があって、今に繋げてくれた。
自分たちはとにかく女子サッカーの選手が目標にしてくれるようなプレーをしていきたいですし、そのために日々努力していきたいです。
――ありがとうございました!
WEリーグが創設されたことによって日本女子サッカーのトップディヴィジョンではなくなったものの、以前よりも若手選手やベテランプレーヤーが活躍する場が増加しているなでしこリーグ。全国各地のチームが優勝を目指してしのぎを削っている。
世界的に発展を続けている女子サッカー。それを下支えするのは裾野の広さであり、なでしこリーグの役割は大きい。世界を知る大野忍監督がどのようなサッカーを繰り広げるのか、今後も注目を集めそうだ。