
今季契約満了となったJリーガーたちが集う『JPFA(日本プロサッカー選手会)トライアウト』が11日、12日に実施された。11日の部に参加したJ3ヴァンラーレ八戸を今季で契約満了となったMF山田尚幸は今回で2度目のトライアウト参加となった。
1度目の参加となった2021年次トライアウトでは右ひざ前十字靱帯(じんたい)断裂の大ケガを負っての参加だったため、チーム関係者との名刺交換という形で参加した。2度目の今回は万全の状態で挑み、持ち前の球際の強さ、読みの鋭いディフェンスでスカウトにアピールした。
ピッチ上で奮闘した2度目のトライアウト
1度目の参加時とは違って2度目のトライアウトはピッチで自身のプレーを発揮できた。出足の素早い寄せ、バランスを取りながら絶妙なポジショニングで相手の攻撃を阻止するなど、ベテランらしい冷静沈着な振る舞いと若々しい活気あふれるプレーでピッチを駆け抜けた。
鳥かごでボールをカットする山田(右から二人目)トライアウトを終えた山田は「前回参加したときには体が動かず、名刺を配るだけでした。今回は本来のトライアウトというか、しっかりと体を動かして、自分のプレーを見てもらえました。最年長ですけど、それなりにアピールはできたのかなと思います」とやり切った表情を浮かべた。
紅白戦1本目はボランチで出場し、球際の強さと素早い寄せでボールを刈り取り、2本目は3バックの一角で出場すると冷静なラインコントロールで守備を整えた。複数ポジションを難なくこなし、J3通算262出場(歴代3位)した実力をいかんなく発揮した。
「ボランチのときは僕の仕事は守備だと思っているので、立ち上がりから、ボールを奪うこともできていたし、前につけることもできていた。ディフェンスに関しては相手フォワードが体の強い選手でしたけど、そこに負けないようにしっかりとアピールできたと思うので、自分の良さが出せたと思います」とユーティリティ性をアピールした。

トライアウト当時36歳で参加したベテランは、笑顔で若手選手と会話しながらトライアウト特有の緊張感を和らげていた。前回はトライアウトに選手としてピッチに上がれず、必死に名刺を配るなど苦労を経験しただけに、器の大きさも垣間見られた。
「こういう機会は選手にとって捉え方次第です。できればトライアウトに参加しなかったらいいだろうけど、このトライアウトに参加できない選手も中にはいる。その中で、僕たちはトライアウトを受けることができて、アピールする場が設けられています。
この1日で評価される。きょう1日をしっかりとアピールできる場にするためにも、きょう集まった人たちとギクシャクしても意味がないから、しっかりと自分たちをアピールできるような雰囲気作りをしていこうと声をかけてやっていました」とベテランとしての仕事も卒なくこなした。
ベテランの闘志はまだまだ燃え盛る
昨季はリーグ戦34試合に出場してJ3歴代最多出場記録を更新するなど順風満帆なシーズンを過ごしていたが、今季は負傷の影響でリーグ戦7試合と出場数が激減。八戸でキャリアに幕を降ろすことも考えていたが、出場数の減少により山田の反骨心に火が着いたという。

「秋田を満了になって、トライアウトで名刺を配って、きっかけがあって、八戸が取ってくれました。このチームが僕にとって最後になるかなと思って八戸に入りました。2シーズンしっかりと試合は出られましたが、最後の3シーズン目でケガがあって長期離脱をしてしまって、なかなか試合に絡めず。その中で試合に出たい気持ちもあったし、まだまだサッカーをしたいという気持ちが勝っちゃって、このトライアウトに出させてもらいました」と、出場機会の減少により競技への意欲が再び燃え上がったという。
負傷により約2カ月間戦線から離脱したが、懸命なリハビリによって戦場へ舞い戻った。
「30歳以上は免除されていますけど、僕はけがから復帰してから2部練に最年長でもしっかりと頑張らせてもらって、気持ちを見せていましたけど、試合には絡めなかった悔しい思いをしました。まだまだやりたいなというところで、今回参加させてもらったのですが、僕を必要としてくれるチームがあれば続けたいと思います」と進路の希望を明かした。
また八戸にはチームを象徴する選手がいた。東北2部北時代から在籍17年と八戸一筋でプレーし続けたMF新井山祥智(しょうち)の存在も山田の現役続行に影響をもたらした。今季で引退したレジェンドは技術面に優れたファンタジスタであり、長くプロ選手として活躍し続けた姿勢から刺激を受けたという。
そして自身を支え続けてきたファンの存在も大きい。取材時にブラウブリッツ秋田、八戸とこれまで所属してきたチームのサポーターにメッセージを求めると、柔らかい表情で受け応えた。

「秋田も八戸もそうでしたけど、本当に熱い人たちばかりで、どの試合でも秋田も八戸も勝てない時期はありましたけど、どんなときでも、選手の背中を押して一緒に戦ってくれました。自分たちの気持ちを押し殺してでも一緒に戦ってくれる熱いサポーターがたくさんいます。本当に感謝していますし、どんなときでも、選手の味方になって戦ってくれるので本当に心強かったです。
感謝しかないです。
1度目は大ケガにより選手としてチーム関係者にプレーを披露できなかったが、2度目にして自身のプレーを力強く披露した。きょうで37歳の誕生日を迎えるベテランの現役続行の意志は強い。新天地でピッチを駆け抜ける姿を多くのファンに見せてほしい。
(取材・文・撮影 高橋アオ)