
[J2第15節北海道コンサドーレ札幌 1-1 いわきFC、5月11日、福島・ハワイアンズスタジアムいわき]
ドロー決着となり、2試合ぶりの白星を逃した札幌。3月9日に開催された第4節ジェフユナイテッド千葉戦で脳震とうの疑いによりピッチから退いたGK菅野孝憲(すげの・たかのり)がリーグ戦11試合ぶりに先発復帰し、安定したセービングと鋭いロングフィードでチームを最後方から支えた。
最年長41歳のベテラン守護神の帰還
頼れる男がピッチに戻ってきた。千葉戦での接触により脳震とうの疑いで欠場が続いていた背番号1は、正確なポジショニングから素早く攻撃につなげるパスやキャッチングなどで、攻守において存在感を見せた。
正確なロングフィードで攻撃を活性化させた菅野ピッチに帰還した菅野は「(リーグ戦11試合ぶりの復帰)そんなに経っていましたか(笑)。あんまり感じていなかったですけど、自分の仕事に集中しようというのを常に考えている。そこに落ち着いて入れたと思います」と、安定感のある所作とコーチングでディフェンスラインを統率した。
この日は後半29分のPK被弾を含め8本のシュートを受けるも、落ち着いた振る舞いと的確な位置取りでピンチをしのぎ続けた。41歳の大ベテランの復帰は大きく、得点したDF家泉怜依も「自分がミスしたときも止めてくれる。すごく心強いものがあります」と守護神の帰還に感謝していた。

ただPKによる失点で2試合ぶりの白星は、あと一歩のところで遠のいてしまった。
「ピンチも少なかったですし、焦らずに落ち着いてできたと思います。結果は引き分けなので、出るだけが目標でもないです。出て試合に勝つ、結果を出す。それが、全員が持たなくちゃいけない気持ちだと思うので、こういう結果は残念だと思います」と唇を噛んだ。
それでも今月3日に41歳の誕生日を迎えた守護神は、リーグ戦11試合のブランクを感じさせないスムーズな動きでピンチを未然に防いだ。
「常に僕が出るつもりで、週明け一日目からやっている。出る、出ないは監督が決めることですし、準備の過程は何も変わらないです」とキッパリ。
チームを問わず多くの若手守護神たちが『教科書のような方』と見本にする背番号1の辞書におごりの文字はない。
『札幌のブレイブハート』が勝利へ導く
この日対戦したいわきは最先端の科学的知見に基づくフィジカルトレーニングで鍛え上げた選手がそろっており、身体能力を生かしたセットプレーからの攻撃に定評がある。
平均身長178センチの相手イレブンと、GKの中では小柄な身長179センチの菅野との対決となったが、誰よりも素早くボールの落下地点に入る無駄のないプレーでいわきのセットプレーを防いだ。

「きょうも相手がフィジカルを前面に出してくるチームでしたけど、気持ちも含めて確実に僕は上回ってたと思います。昨日(10日)は移動のトラブルがありましたけど、誰一人もその言い訳をせずにグラウンドに入った。結果的には引き分けでしたが、すごくいい姿勢でできていると思います。それを続けていけば、必ず明るい未来が待っていると思った」と前を見据えた。
イングランドやスコットランドでは勇猛な選手を『ブレイブハート(勇敢な心)』と称して尊敬する文化がある。実際に元イタリア代表MFジェンナーロ・ガットゥーゾがスコットランド1部レンジャーズで激しくも、熱いプレーでチームをけん引して、その愛称で呼ばれた。
脳震とうの疑いから復帰した選手は接触プレーや対人プレーを恐れる選手も多々いる中で、菅野は臆することなく進んで窮地(きゅうち)へかけ進み、何度も札幌を救った。そして失点後に落ち込むイレブンを叱咤激励し、このチームを勝利に導こうとする姿勢はまさに『札幌のブレイブハート』だった。
菅野は「怖がらないことですかね。常にチャレンジすることは、それをやめてしまったらもう終わりだと思う。とにかく怖がることはないし、ミスをしても別にそれが返ってくるわけではない。
ミスした後、人はそのミスをしたくないような、安全なプレーをしがちなことが多いと思う。僕含めて、そういうことをやっているようじゃ絶対に個人として前へ進めない。そういう姿勢を誰一人崩さなければ、絶対に僕は前に進めると思う。みんな意識してやっているところがあります」と、プレーや振る舞いでイレブンを精神的にも支えた。

菅野は精神的な支柱としても存在が大きく、守護神の復帰はクラブのカンフル剤としての期待が大きい。勇気を持って、チームを正しい方向へと導く『札幌のブレイブハート』はチームにとって必要不可欠だ。
次節は17日午後2時にホームでカターレ富山を迎え撃つ。

開幕4連敗と修羅場を経験しながらも着実に立て直しつつあるチームは、『札幌のブレイブハート』の帰還により状況は大きく好転していくだろう。小柄ながらも偉大な守護神・菅野のプレーから目が離せない。
(取材・文 高橋アオ)