昨今、毎シーズンのように世間を騒がせているのがラ・リーガの選手登録問題だ。
今年もバルセロナが、テア・シュテーゲンをめぐる選手登録で連日ニュースになり、先日はレバンテなど他のチームでも登録が間に合っていない状況を伝えられた。
15日時点でのラ・リーガ選手登録数
『Marca』や『as』などによると15日時点での選手登録人数は以下になっている。
アスレティック・ビルバオ 25名
アトレティコ・マドリー 24名
オサスナ 19名
セルタ 21名
アラベス 21名
エルチェ 19名
バルセロナ 17名(保留多数)
ヘタフェ 14名(保留多数)
ジローナ 23名
レバンテ 10名
ラージョ・バジェカーノ 20名
エスパニョール 20名
マジョルカ 21名
ベティス 22名
レアル・マドリー 24名(27名とする説も)
レアル・オビエド 21名
レアル・ソシエダ 25名
セビージャ 15名(7名が未登録)
バレンシア 25名
ビジャレアル 22名
バルセロナだけでなく、額面通りに見ればヘタフェ、セビージャは交代枠がフルに使えない状態、レバンテはスタメン11人が揃わないという事態のまま開幕1日目を迎えている。
各クラブとも選手が存在しないのではない。選手がいても、いや、いるからこそ選手登録ができないのだ。その理由は、厳しすぎるサラリーキャップにある。
そして、それでもクラブは楽観的なのはなぜか。財政、選手登録が複雑に絡み合う問題をなるべく簡潔にまとめるべく解説をしていこう。
厳しすぎる?ラ・リーガのサラリーキャップ制度とは?
スペインでは、各クラブ間の格差是正、経営の健全化のため、2013年より1部、2部に所属する全クラブを対象にサラリーキャップ制を導入した。
計算方法はクラブ全体の収入を元に使用限度額が毎年発表されるもので、他の国と違うのは「借金などの債務返済額」まで考慮して収支が黒字になるような計算式が用いられていることだ。また、選手だけでなく監督やコーチといったメンバー、さらに社会保険料すらもサラリーキャップの対象になっている。
サラリーキャップ計算式
「収入(Ingresos)ー非スポーツ費用(Gastos no deportivos)ー借金返済額=サラリーキャップ(Límite de Coste de Plantilla Deportiva)」
※非スポーツ費用とは、運営のための経費(事務所家賃、備品費用、人件費(サラリーキャップ対象外の)など)や選手関連以外の運用コスト
つまり、新規に選手を補強するには、収入をあげるため他の選手を放出する必要に迫られるケースが多い。
サラリーキャップの功罪
サラリーキャップにより、収入が伸びないとチーム力はあげられないし、論理上は単年度黒字でなければ経営ができない状態になっている。論理上というのは、例えば入ってくる予定のお金(スポンサー代や権利代)が何らかの事情で入ってこないということで赤字になったケースがあるからだ。
このサラリーキャップの問題点は、チームが下降線を描いたときに挽回が極めて難しいことにある。
収益が落ちるので黒字にするため選手を売却しなければならない、しかしそうなるとチームは魅力を失うし、チーム力も低下する。
バルセロナは多額の債務(借金)がありサラリーキャップに苦しんでいるため、毎年のように新しい選手登録をするために誰かを放出しなければならない事態に陥っている。ハンジ・フリック監督は開幕を前に「(選手登録に)満足はしていない。1年前も同じようなことがあった。でも、良いスタートをきれた」と複雑な心境を述べている。
コロナ禍による収入の減少
サラリーキャップと相性が悪かったのがコロナ禍である。2019/20シーズンを頂点にラ・リーガの売り上げは大きく下がった。そして、2025年6月に発表された2023/24シーズンのラ・リーガの公式ファイナンスレポートでも2019/20シーズンに僅かに届かなかった。
ラ・リーガのNTI(Income)※単位100万€
2017/18シーズン 4440.8
2018/19シーズン 4877.7
2019/20シーズン 5085.5
2020/21シーズン 3945.4
2021/22シーズン 4255.3
2022/23シーズン 4892.0
2023/24シーズン 5048.1
『La Liga』による
この制度によって、先日、オランダで元・日本代表FW本田圭佑もプレーしたフィテッセが破綻したようにチーム破綻が起こることは少ない。
しかし、ラ・リーガは「一瞬冒険をして」良い選手に投資することもできなくなっている。地道に少しずつ成長を求められるからだ。
それでもクラブが楽観視する3つの理由
スペインのクラブは毎年の風物詩のように登録問題を抱えながら、時には開幕に選手登録が間に合わなくても無事試合は行われ、何事もなくシーズンは始まる。
前日までに危機的な状況でも数時間単位で登録が進む、ギリギリな状況はラテン気質といってはそうかもしれないが、それ以外にも裏技が多数あるからだ。
プロ契約は25名でもB登録がある。
1つはラ・リーガは選手登録(プロ)は25名までで背番号1-25をつける決まりがある。ところが、Bチームの選手も26番以降の背番号を付けてプレーすることができる。1試合に最大6人までが登録でき、4名まで同時に試合出場できるルールがあるからだ。
今回のケースでいえば、
つまり若い有望株の選手をBチームの選手としてしまえば、試合には出場できるのに枠は1つ空く計算になる。今回のレアル・マドリーでいえば、アルゼンチン代表MFフランコ・マスタントゥオーノをBチーム登録としている。このことで選手登録からそもそも逃れさせる方法だ。
長期離脱枠の存在
もう1つは長期離脱による選手登録外による措置だ。「長期離脱枠(baja de larga duración)」というもので、クラブのトップチーム登録選手が5か月以上(診断書ベース)出場できないと認められた場合、登録外とするかわりにその選手のサラリーキャップ(年俸枠)が計算から除外される。そして、その枠を使い、代替選手をそのシーズン中もしくは離脱選手が復帰するまで登録できるというものだ。
今回でいえば、バルセロナのテア・シュテーゲンが腰の手術後5カ月以上の離脱となり、ジョアン・ガルシア(Bチーム)をトップチーム登録しようとしたが、一時的にもめた。
保証金を支払う(Aval)
今回、バルセロナが狙っているのが「Aval(アバル)方式」と呼ばれる保証金制度だ。実は、ラ・リーガではサラリーキャップ超過時の“例外登録”制度があり、登録予定選手の年俸総額と同等の額を保証金として預けることで選手登録ができるという制度があるのだ。
その保証金は、サラリーキャップを満たした場合には後に返還をされる。
スタジアムの開発『Espai Barca』
こうした裏技的な手法とは別に根本的に売り上げをあげようというのがバルセロナだ。
バルセロナの借金問題はかねてから取りざたされていた。2021年6月時点の純負債は、LFP基準で約6.8億€。総負債は13.5億€ユーロ(短期債務約5.96億€)年俸が収入の103%に達していた危機的な状況になったからだ。そのため、放映権を売却するなど「パランカ=財政のてこ」と呼ばれる手法で資金調達を進めてきた。
バルセロナはそんな中で一発逆転の目を狙っている。それが、ラポルタ会長のすすめる『Espai Barca』計画だ。スタジアムとその周辺を開発することで、音楽のライブを呼び込んだり、ショッピングセンターやホテルを併設するものだ。サッカー以外での収益を上げることで、サラリーキャップに使えるお金を増やそうというもので、完成すればスタジアム収入が毎年 2.47億ユーロ程度得られると試算がされている。
だが、当然一時的に借金額もあがる。
バルセロナの元会長候補、ビクトル・フォント氏が『Larazon』で出した資産では2024年10月の通常負債は13.02億€(短期:5.77億、長期:7.25億)と少しずつではあるが減っている。しかし、Espai Barça関連の負債11.82億€を加えると、合計で24.84億€となると試算された。さらにバルセロナは5%以上もの利回りを要求されている。
そのため、毎年サラリーキャップに振り回されるドタバタ劇が繰り広げられている。
それでも、6月27日に、『Espai Barca』の債務を長期借り換えに成功するなど明るい兆しはある。新スタジアムが紡ぐ新しい未来へ向かって今は我慢の時なのだ。
まとめ
開幕前の風物詩となったドタバタ劇、このようにラ・リーガでは毎シーズンのように開幕前には各クラブがサラリーキャップとにらめっこしながら、選手の補強と放出を推し進めている。