ニルス・ニールセン監督新体制となり、2月のSheBelieves Cup(シービリーブスカップ)での優勝、国内初お披露目となった4月のコロンビア戦での1勝1分と、好スタートを切ったなでしこジャパン。その中で、国内組として異彩を放つのがセンターバックとフォワードの両ポジションを主戦場に、複数ポジションでプレーする高橋はなだ。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=松尾/アフロスポーツ)
「WEリーガーは世界と戦える」 国内組の可能性に自信
――なでしこジャパンは2月のシービリーブスカップで優勝し、4月のコロンビア戦も1勝1分と好スタートを切りました。
高橋:ボール保持率もデータ上で確実に上がっていて、今の選手たちの特徴を考えると、日本が目指すスタイルに合っていると感じています。私自身、合宿ではチャレンジする楽しさややりがいを感じていますし、チームメートも同じ気持ちだと思います。これからイメージの共有が進んでいく中で、やりたいことがもっと具体化していくのが楽しみです。
――シービリーブスカップでは、国内組で唯一のフィールドプレーヤーとして全3試合に出場し、複数ポジションでプレーしました。WEリーグの可能性も感じたと思いますが、どのように捉えていますか?
高橋:総合的に見て、WEリーガーが外国人選手に劣っているとはまったく思いません。普段(三菱重工浦和)レッズレディースで練習していても、代表に行って「強度が落ちる」とは感じないし、選手たちのポテンシャルも十分です。実際、海外組の選手が「テクニックやスキルはWEリーグの方が高い」と話すこともありますし、みんなもともとは日本でプレーしていたわけですから、WEリーガーには世界と戦える力があると思っています。国内でプレーしながらも、自分の強みをどう世界にぶつけるか、一人一人の意識が高まれば、WEリーグの強度も上がると思います。
――4月の代表活動では、シービリーブスカップの時よりも練習時間が多く取れました。
高橋:2回目のキャンプでは、ニルス監督が求めることを共有する時間も、実際に練習で落とし込む時間も増え、確実に積み上げができたと思います。シービリーブスカップでは3試合ともうまくいっていましたが、今回は初戦でコロンビアに苦戦し、苦しい状況を経験できたことで、自分たちがやりたいことをどう表現していくか、対応力の面での成長につながったと思います。2試合目のトレーニングマッチでは後半、チームとしてやりたいことができて複数得点にもつながったし、ボールを持つ時間も長かったので、今後はその精度をもっと上げていけると思います。
コロンビア戦で決めた同点弾。「PKは好きじゃない」
――コロンビア戦では1点ビハインドの84分から途中出場し、終了間際に得たPKを自ら志願して決めました。自分から名乗り出たのですか?
高橋:PKは正直、好きではないんです。他に「蹴りたい!」という選手がいれば譲っていたと思います。でも、あの時は誰もボールを取りに行っていなかったので、「誰もいないなら私が蹴りたい」「絶対に決める」と強い気持ちでボールを探しに行きました。
――PKは個人の得点としても記録に残りますが、なぜ好きではないのですか?
高橋:PKはキーパーがヒーローになれるかもしれないけど、必ず誰かが悲しむ形で終わってしまうじゃないですか。そのシステムがあまり好きではなくて。たとえ外したのが相手の選手でも、その選手はずっと責任を背負ってしまうんだろうなと思うと、なんだか悲しくなってしまって。
――レッズレディースでも今季、皇后杯決勝とAFC女子チャンピオンズリーグ準々決勝でいずれも最初のキッカーを任されていて、苦手意識はないように見えます。
高橋:実は大事な試合で外した経験もありますが、その悔しさを乗り越えるために、自分の形を作って克服してきました。だから、PK自体に苦手意識はないです。
海外組からの刺激と「100kg超スクワット」への基準意識
――代表活動を通じて得た刺激や学びはありましたか?
高橋:自分のマインドは常に良い状態を保てているので、大きな変化はありませんが、海外組の選手たちの話を聞けるのはとても刺激になります。ニルスさんが求めるサッカーも学びの多いもので、世界一を目指すチームの雰囲気も含めてチームに還元していきたいと思っています。
――代表に海外組が増えて、全体のレベルも上がってきた実感はありますか?
高橋:感じますね。技術はもちろんですが、フィジカルの基準も確実に上がっていて、自分も負けずについていかないといけないと感じています。
――海外組の選手たちのどんな話が刺激になりましたか?
高橋:みんな世界最高峰のリーグで戦っているので、チームや選手の話、対戦相手の話などをよくします。ヨーロッパでプレーするほとんどの選手がシーズン終盤に差しかかっていて、盛り上がっているので、こちらも負けていられないと感じます。あとはウエイトの取り入れ方や、どんな練習をしているかという話はよく聞きます。日本よりも積極的にウエイトのトレーニングを取り入れているそうで、持ち上げる重量は日本とは全然違うと聞くので、知識として取り入れられる部分が多く、勉強になります。
――個人的に、基準にしている数字はありますか?
高橋:具体的な数値を設定しているわけではないのですが、海外ではスクワットやデッドリフトで100kg超えが当たり前と聞くので、それが一つの基準です。私もそこはできるので、最低限のラインとして持っていたいです。満足したら終わりだと思うので。
――2023年のワールドカップや昨夏のオリンピックにも出場していますが、海外の選手との試合で、フィジカル面で印象に残る選手はいますか?
高橋:特にこの選手というわけではなく、海外はどの選手も力強さを感じます。今回のコロンビア戦では、小柄な選手でもすごく力強さを感じました。WEリーグだとファウルになるような強いコンタクトでもボールを奪うのが難しくて、むしろ先に当たられることもあります。見えないところで手やユニフォームを引っ張るといった駆け引きも当たり前で、それでもファウルにならないこともある。そういう部分も含めて学びが多かったし、楽しかったです。
「世界一」は夢ではない。ニールセン流マインドセット
――ニールセン監督からは、今回の活動の最後にどのような話がありましたか?
高橋:合宿や海外遠征が続く中で、「私たちが目指すのは世界一」というメッセージを改めて共有してくれました。自分たちにできることをやり続けようという話でした。結構ミーティングでも「世界一」という言葉はよく出てきますし、私たちはそこを目指せるチームだと常に言ってくれています。
――ニールセン監督が選手やチームに自信を与えるアプローチについて、感じることはありますか?
高橋:今回は、イメージを視覚化させるための瞑想のような手法をミーティングで取り入れていました。いいイメージを持つことや、自分と仲間を信じて戦うことを強調し、動揺しない心を作っていくという考え方です。試合の前にもポジティブなメッセージを伝えてくれていて、今回のコロンビア戦で途中出場した時も、「自分の気持ちを出して、強い気持ちでゴールに向かってプレーしてほしい」と言ってピッチに送り出してくれました。
――高橋選手はどんなシーンをイメージして試合に臨むのですか?
高橋:自分が試合の中で良かったシーンや、次の試合でやりたいプレーをイメージするようにしています。普段からチームメートともプレーのイメージ共有をよくしているので、やっていることは同じです。
ムードメーカーとして信じる「絆」の重要性
――代表ではオンでもオフでもチームを盛り上げていますが、今回の国内活動では若い選手にも積極的に声をかけていましたね。
高橋:私自身、どんな時も楽しくいたいタイプなので、自然体で過ごしているだけです(笑)。でも、レッズでプレーしていて、普段のチームの雰囲気や選手・スタッフとの絆が試合に影響すると信じています。サッカーがうまい選手だけ集めても強いチームになると思いますが、大事な試合や局面では、そういう絆が勝敗を分けることもあると思います。笑顔の多い、ポジティブな空気で練習すれば、プラスの力が生まれると思うんです。
――食事会場の雰囲気がよく、「食事が終わってもみんな部屋に帰ろうとしない」と長野風花選手が話していたのが印象的でした。
高橋:食事の時間もみんなで楽しく食べたいので、同じテーブルの選手とはみんなで一緒に「いただきます」を言っています。最近は、私の掛け声を待ってくれる選手も増えてきました(笑)。
――クラブや代表でタイトルを獲得した時の、表彰式で一人がトロフィーを掲げ、チームメートは無反応という“森脇芸”が恒例になっています。
高橋:あの芸はもともとは森脇(良太)さんのものなので、ご本人にも連絡したことがあります(笑)。
――今後、ワールドカップやオリンピックに向けたステップアップのイメージはありますか?
高橋:私はレッズレディースでとにかく勝ち続けたいので、そのための日々の積み重ねが一番大事だと思っています。その先に代表や大きな大会があると思うので、目の前のことに全力を尽くしていきたいです。
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<了>
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[PROFILE]
高橋はな(たかはし・はな)
2000年2月19日生まれ、埼玉県出身。三菱重工浦和レッズレディース所属。同クラブのジュニアユース、ユースを経て、2018年にトップチームに昇格。もともとFWだったが、2017年のU-19女子代表でDFにコンバートされ、飛び級で出場した2018年のFIFA U-20女子ワールドカップではCBとして全試合にフル出場し、日本の初優勝に貢献。