風と波に挑み、瞬間の判断でスピードを引き出す――。ウインドサーフィン界の若き旗手・金上颯大は、5歳でボードに立ち、10代でプロ資格を取得。

緻密な道具選びと、3種類のレース艇を自在に操る技術を武器に、今まさに世界へと羽ばたこうとしている。海の上の駆け引き、道具へのこだわり、競技の醍醐味とは? その魅力を語ってもらった。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=金上颯大)

年齢も性別も超える海の舞台

――ウインドサーフィンは、どのぐらいの年齢で始める人が多いのですか?

金上:子どもは小学校1~5年生の間に始める人が多いですね。大学生の部活が盛んなので、大学から始める人もいますし、社会人になってから友達と一緒に体験しにくる方も多いです。僕のように親の影響で始める人もいますが、最近はジュニア層の育成や普及を目的に、さまざまなイベントが行われています。たとえば、僕が所属しているウインドサーフィンスクールでは、ゴールデンウィークに無料体験イベントを実施しました。海で濡れてもいい服装で来てもらい、ウェットスーツに着替えて、すべて無料で体験してもらいます。夏には「鎌倉マリン学校」という予約制のイベントで、小学1年生から高校生までを対象に、ウインドサーフィンとスタンドアップパドルボードの体験会も行っています。そこで友達ができると楽しさが増して、夏が終わっても「続けてみようかな」と思ってくれる子が多いです。

――競技者の年齢層はどのぐらいですか?

金上:子どもは5歳から、上は70代を超えて、性別も関係なく楽しめるスポーツです。仲間が増えると、誕生日を一緒に祝ったりもします。70代の方は、僕を孫のようにかわいがってくれます。

――年齢を重ねる中で、技術とフィジカルのバランスが洗練されて、スピードが上がるのでしょうか?

金上:サッカーや野球のように、20~30代がピークになるスポーツとは違っていて。

僕は22歳ですが、30歳年上の選手に負けることもあります。技術的な面もそうですが、ウインドサーフィンは使用する道具によっても大きな差が出ます。パーツや部品について話し始めたら、半日なんてあっという間ですよ(笑)。大会ではアマチュアの方から道具の相談をされることが多く、メーカーや修理方法についてよく聞かれます。

風を読み、海を制す。プロウインドサーファー・金上颯大が語る競技の魅力「70代を超えても楽しめる」

数百点に及ぶ道具の世界スピードの要となるセイルは5メートル超

――ウインドサーフィンは、どのような道具を使うのですか?

金上:風を受ける帆を「セイル」と呼びます。セイルとボードの2つが基本で、主要パーツは「セイル」「マスト」「ブーム」「ジョイント」「ボード本体」「ジョイントベース」「フィン」「ストラップ」と、合計で8つです。ネジや紐も含めると、数百点にのぼると思います。

――それを覚えて組み立てるのは大変そうですね。プラモデルや組み立てが好きな人は楽しめそうですが。

金上:初心者の方だと、道具を倉庫から出して海に出るまでに1時間くらいかかります。組み立てには30~45分ほどかかると言われています。

僕は比較的早いほうで、最短2分、長くても5分で組み立てますが、それでも急いでも倉庫から海まで20分ほどはかかります。

――パーツの種類にもかなり幅があるんですね。どのような調整がパフォーマンスに影響するのでしょう?

金上: ネジの回転数や紐の張り方、マストやブームの硬さ、カーボン製の「バテン」の曲がり具合などでもスピードが変わります。それを自分で調整したり、あった形に作り替えることもあります。

――種目によっても調整は変わるのですか?

金上:種目によって使う道具も、調整の仕方も違います。「どう乗りたいか」を考えて、セイルの形や素材、ネジの締め方などを工夫する。それもウインドサーフィンの魅力で、長く続けても飽きがこない理由です。

――初心者はどんな道具から始めればいいですか?

金上:セイルは3メートルくらいの小さくてシンプルなもの、ボードは大きいものが適しています。まずはまっすぐ進んだり、風上・風下に曲がるなど基礎を学んでもらいます。そのうちにハマれば自分の道具を持つようになり、練習を重ねると、プレーニング(浮き上がって滑走する状態)が見えてきます。感覚的に優れた子だと、すぐにプレーニングできることもあります。

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セーリング競技は6種目。
オリンピック種目は1種目

――セーリング競技には、どのくらいの種目数があるのですか?

金上:ウインドサーフィンには6つの種目があり、大きく分けるとレースとコンテストの2種類になります。僕がメインで取り組んでいるのはレース種目です。

レース種目は全部で4つあり、それぞれ「フィンスラローム」、「フォイルスラローム」、「フォイルフォーミュラ」、「IQフォイル」です。

「スラローム」は風下に全速力で走り抜ける、「海上のF1」と呼ばれるスプリント種目。「フィン」を装着してプレーニングしながら走る「フィンスラローム」とフォイルを装着して水の上を飛びながら走る「フォイルスラローム」の2つに分かれています。「フォイルフォーミュラ」はフォイルを使い、スタートラインから風上に2~3キロ離れた目標物を回航しスタート地点に戻るというコースを2周するマラソン種目です。「IQフォイル」は風が弱い時はフォイルスラローム、強い時はフォイルフォーミュラのコースを走る総合的な種目で、オリンピック競技に選ばれています。IQフォイルとその他のレース種目の違いは使用する道具です。スラロームやフォーミュラは制限はあるもののその時のコンディションやコースに適した道具を選べるのに対し、IQフォイルは全世界の選手が決められた同じ道具で戦います。僕は2種類のスラロームとフォイルフォーミュラのプロツアーを転戦しています。

――コンテスト種目はどのように競うのですか?

金上:コンテスト種目は2種類で、「ウェーブパフォーマンス」と「フリースタイル」です。「ウェーブパフォーマンス」はサーフィンのように波に乗ってパフォーマンスを行い点数を競い合う種目ですが、サーフィンと決定的に違う点があります。

それがジャンプです。サーフィンは沖に出る時に波の下に潜って進んでいきますが、ウインドサーフィンはその波を使ってジャンプし、その得点も勝敗に関係します。「フリースタイル」は平水面で風だけを使って飛んで回転する種目です。重力を無視した独特の動きが他のスポーツにはない魅力で、ウインドサーフィンの種目の中でも最も難しい種目だと思います。

――ウインドサーフィンでジャンプや回転をするには、かなり高く飛ぶ必要がありますよね?

金上:昨年、スペインのワールドカップで、世界で初めて3回転に成功した選手がいたのですが、正直、「そんなに飛んで大丈夫?」というような、高く見上げるほどの高さから回転していました。失敗する時もあるので、「このまま回ったら危ないな」と感じたら、手を離して飛び降ります。その高さも10メートル近くになります。ウェイブパフォーマンスは、体格があまり必要ないため、日本が最も世界に通用している種目です。

三刀流で挑むレース競技

――金上さんの強みと、メインで取り組んでいる種目を教えてください。

金上:僕の強みは、「ジャイブ」、いわゆるコーナリングです。これだけは誰にも負けません。逆に、直線のスピード勝負は苦手としています。

専門にしているレースは3種目あって、一つは「スラローム」です。これは、従来のフィンをつけて走る「フィンスラローム」と、フォイルを装着して走る「フォイルスラローム」の2種目に分かれています。走るコースは同じで、風上からスタートして、3回ほどコーナーを曲がってゴールするというものです。「海のF1」とも呼ばれ、700~800メートルの距離を時速50~70キロで40秒ほどで走り抜け、そのスピードのままカーブを曲がります。レースは風がある限り繰り返され、最終的なポイントで順位が決まります。  もう一つが、通称「フォーミュラ」、正式名称は「アップウィンドレース」です。スタート後、風上に対して約45度の角度で2~3キロ進み、目標物をターンして風下に戻るというロングコースを2周するレースです。

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――一番人気のある種目はどれですか?

金上:ダントツでフィンスラロームですね。2020年から昨年にかけて、世界的にフォイルサーフィンが流行り、ルールも頻繁に変わったことで、国内では混乱もありましたが、フィンの人気は根強いです。

――金上さんが一番得意としている種目は?

金上:フォイルを経験したことで、それぞれの種目に必要な練習をしっかり区切って行えるようになり、フォイルスラローム、フィンスラローム、フォーミュラの三刀流をうまくこなせるようになりました。その中でも得意なのはフォイルフォーミュラで、昨年は年間優勝しました。

 ただ、フォイルスラロームでは昨年4位で、自分としては納得のいく3位以内に入る成績を出したいと思っています。

今後はフィンスラロームに絞っていきたいと考えていますが、昨年は6位で、3種目の中で最も成績が良くなかったんです。今年は、すべての種目でランキング3位以内を目指し、「どの種目でも速い選手」になることが目標です。

――専門種目を変えるということですか?

金上:「変える」というよりは「戻す」という表現が近いかもしれません。もともとフィンスラロームに憧れて競技を始めたのですが、時代の流れでフォイルが登場し、スポンサーや指導者など、いろいろな方にフォイルサーフィンを勧められて参入しました。幸い、すぐに乗れるようになり、大会でもある程度成績が出たので、一時的にフォイルを専門にしてきました。でも、昨年から「フィンの大会を増やそう」という動きが高まってきて、フォイルと同じような地位まで回復してきました。僕自身も、原点を追い求める意味で、フィンに戻りたいと考えています。基本的には、一つの種目に絞って、より上を目指すスタイルに変えていこうと。まずは3本の刀をしっかり使いこなせるようになってから、最終的には一本に絞りたいと思っています。

【連載前編】最高時速103キロ“海上のF1”。ウインドサーフィン・金上颯大の鎌倉で始まった日々「その“音”を聞くためにやっている」

【連載後編】「プロでも赤字は100万単位」ウインドサーフィン“稼げない”現実を変える、22歳の若きプロの挑戦

<了>

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[PROFILE]
金上颯大(かながみ・そうた)
2002年8月14日生まれ、神奈川県出身。プロウインドサーファー。セブンシーズ所属。両親の影響で5歳の頃に鎌倉でウインドサーフィンを始め、高校3年生でプロ資格を取得。2024年度JWAフォイルフォーミュラ・プロツアーで年間ランキング1位を獲得。国内大会で好成績を収めながら、ワールドカップでの好順位獲得を目指している。今年、明治学院大学を卒業。アスリート社員とプロウインドサーファーのデュアルキャリアを模索し、競技普及やジュニア・ユース世代の育成にも力を注いでいくことを目標に活動している。インスタグラムのアカウントは@sotakanagami。

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