月会費100円――。そのインパクトが地元テレビでも話題となった札幌発の総合型地域スポーツクラブ「サフィルヴァ」。
(文=本島修司、写真提供=サフィルヴァ)
「生徒3人」のフットサルスクールからのスタート
サフィルヴァとは、一体どんな総合型地域スポーツクラブなのか。
設立は、2013年の4月。豊川代表が日本フットサルリーグに加盟しているエスポラーダ北海道を退団したことを機にサフィルヴァは総合型地域スポーツとしての産声を上げた。掲げた理念は「スポーツで笑顔の輪を」というもの。もともとはごく一般的なフットサルの社会人チームとして活動していたという。その後にNPO法人化して、まずはフットサルスクールを立ち上げていく。当時のことを豊川代表は次のように語る。
「集客のノウハウもなく、生徒は3人しかいない状態から走りだしました」
それでも、訪れてくれる子どもたち一人一人と向き合いながら多くの競技をプレーできる総合スポーツクラブへと徐々に成熟していく。実績も残していくたびに、口コミが広がっていくことを実感したという。現在はアカデミーコースと呼ばれる、フットボール(サッカー/フットサル)、ハンドボール、陸上、ドッジボール(準備中)をすべて行えるコースと、マルチスポーツスクールの運営をメインに会員数は約450人となった。またフットサルの男子TOPチームはFリーグへの参戦を視野に活動している。
そして、テレビ番組にも取り上げられて話題となったのがマルチスポーツスクールの「月会費100円」という衝撃的な価格破壊。この価格設定はどこから生まれ、そのためにどんな取り組みがなされているのか。
なぜ月会費100円を実現できるのか?
「月会費100円の取り組みを始めたのはコロナ禍の時でした。この時期には必然的にサフィルヴァを客観的に見直しながら立ち返るような時間を取れました」
そして豊川代表はこう続けた。
「それまでも、総合型地域スポーツクラブとしてサフィルヴァの中でいくつかの競技を取り組んでいました。ですが、設立当初に思い描いていた『好きな競技を選んで、それらを行き来できる環境』にはなっていないことに気がつきました。幼少期からさまざまな競技に触れていくことが子どもの才能発掘につながる。そして生涯スポーツとして楽しんでもらうことになると常に感じていました」
強い共感を覚える方針だが、ここまでは多くのスポーツ指導者も同じ思いを抱いているようにも感じられる。しかし、ここから先の行動力がサフィルヴァを唯一無二の存在に押し上げる。
「日本で初めてのチャレンジをしたいと思いました。せっかく日本初のチャレンジをするのであれば、家庭環境に関わらず子どもたちの機会格差を少しでも減らしたいという気持ち一つで『月会費100円』へ舵を切りました」
どう考えても利益を出して運営できる価格設定ではないが、そこにはサポートしてくれる人たちの大きな力があるという。
「当然ですがマルチスクール単体で見ると赤字になります。その上で、とにかくまずはスポーツの間口を広げたい、子どもたちにスポーツを通じた楽しさが溢れる未来を見せたいという思いを優先しました。
現時点では、自治体やスポーツ庁などからの公的支援は一切受けていないという。しかしパートナー企業は約30社。クラブの活動への理解が広がる中でさらに増えている状況だが、もっとたくさんの企業に活動を知ってもらい、参加してほしいという。
スポンサードや寄付に頼り切った体制というわけでもない。
「マルチスクールから専門競技のアカデミー部門へ移行する生徒も増えてきています。アカデミーの競技数も少しずつ増やせていて、希望があれば今週と来週で違う競技ができるという私たちがやりたかったことに近くなってきた実感もあります。そうした活動の中で自然と二次利益、三次利益につながることがビジネス面の成長にもつながっています。また部活の地域展開で各自治体が苦労しているのを見て、その民間モデルを作ろうという目標もあります」
いろいろな種目を楽しみたい子ども、専門的にやりたい子ども、それぞれの目的に寄り添って、誰もが楽しめる仕組みが完成しつつある。
老若男女、障がいの有無に関わらずスポーツを楽しめる環境を
実際にサフィルヴァのマルチスクールに通う子どもたちの親御さんからはこんな声が寄せられている。
「どの競技も指導者が『まず楽しむこと』を指導しているので方針として素晴らしいと思う。予約のシステムもわかりやすくて通いやすいです」
「スポーツを選び始める年代で、一つのスポーツに絞らずに習えるのがありがたいです。複数のスポーツを習うと金銭的にも負担になるので、全部で100円は本当にありがたいです」
こうして口コミはどんどん広まり、拠点とする札幌市という枠を超えて、現在も北海道の各地から子どもたちがこの場所を求めて通っている。
また、サフィルヴァの特長として子どもだけではなく、働き方世代、高齢者へのスポーツを通じた交流の場をつくること、障がいを持つ方へのスポーツ提供にも力を入れている。
まず、働き方世代の方に向けては、札幌市内のパートナー企業に向けて「健康経営優良法人」という経済産業省の認定制度の趣旨に沿った取り組みを行っている。仕事の合間に身体を動かすことや、ストレッチやマッサージなども取り入れ、健康のリテラシーを高め、仕事に向かう良い循環を作る仕組みだ。
高齢者に対するスポーツ事業としては「生活やライフスタイルに合ったスポーツへの関わり方」を意識している。その上で連携協定を結んでいる白老町という人口1万5000人の街から提供を開始。スポーツ庁の事業を白老町と共に採択を取り、「健康キャラバン」を立ち上げてトレーナ-を派遣し、介護予防事業として取り組んでいる。
障がい者の方へのスポーツの提供は、設立当初から力を入れてきた取り組みだ。「障がいの有無に関わらずスポーツを楽しめる環境」をしっかりと整えている。具体的には、電動車椅子サッカー、車椅子カーリングなどのチームがあり、障がいがあってもなくても、好きなスポーツを見つけてもらうことに力を注いできた。
こうして、老若男女、そして障がいの有無にかかわらず、誰もがスポーツで交流できる場として成熟を重ねてきたサフィルヴァは圧倒的な支持を得てきた。
評判が高まるにつれて、多くのメディアからも関心を持たれるようになった。
「地域の皆で子どもを育てる」ことが重要
最後に、豊川代表にこの場所にかける思いと今後の展望を語ってもらった。
「地方に行けば行くほど、『この地域で生まれ育ったからこの競技には触れられなかった』という声があります。競技ごとに子どもを取り合ったりするのではなく、各スポーツクラブや少年団・民間企業・行政の3者がしっかりと協力して『地域の皆で子どもを育てる』ことが重要です。この問題に対して本気で向き合わなければいけない時期にきているのかなと思います」
家庭の経済状況や、育った地域の環境によって子どもがスポーツを楽しむ機会が左右される「スポーツ格差」の問題に真正面から向き合うサフィルヴァの取り組みは、全国でスポーツクラブを運営する者、これから志す若者にとって大きな指標にもなりそうだ。
「同じような課題感を持つ指導者の方とお話をする機会も増えてきています。そういった同じマインドを持つ皆さんと一緒に北海道、ゆくゆくは全国で、このような取り組みを広げていけたらと考えています」
その上で、「『スポーツで笑顔の輪を』という理念はこれからも変わりません。将来的にはマルチスポーツのパラバージョンなども実現させたい」と目を輝かせる。
衝撃の「月会費100円」とともに、子どもたちの笑顔が増えていく最強の総合型地域スポーツクラブ。豊川代表の信念と思いは、スポーツの笑顔とともに、これからも満開に咲き誇るだろう。
<了>
幼少期に最適なスポーツ体験「バルシューレ」とは? 一競技特化では身につかない“基礎づくり”の重要性
部活の「地域展開」の行方はどうなる? やりがい抱く教員から見た“未来の部活動”の在り方
「部活をやめても野球をやりたい選手がこんなにいる」甲子園を“目指さない”選手の受け皿GXAスカイホークスの挑戦