2025−26シーズンのBリーグ、サンロッカーズ渋谷は苦しい戦いを強いられている。その中で、誰よりもブレない姿勢を示し続けてチームを牽引しているのが、NBL時代を含めプロ13年目を迎えた田中大貴だ。

チームが7連敗を喫するなど勝ち切れない時期であっても、「準備やプレーを背中で見せられる」と、これまで培った経験と哲学で勝利への流れを引き寄せるべく奮闘している。目先の勝敗に左右されず、プレーと背中でチームを鼓舞し続けるベテランの現在地に迫った。

(文・撮影=白石怜平)

新しいスタートを切ったばかりのSR渋谷

田中は東海大学在学時の2013-14シーズン途中、アーリーエントリー制でトヨタ自動車アルバルク東京(現:アルバルク東京)に入団。2014-15シーズンにはNBLルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得するなど華々しいキャリアのスタートを切った。

2016-17シーズンのBリーグ初年度からベストファイブに選出されると、以降3シーズン連続で同賞を受賞。2019-20シーズンにはレギュラーシーズン最優秀選手賞にも輝いた。

その間にアルバルク東京(A東京)をBリーグ連覇に導くなど、Bリーグ発足前から日本バスケ界を代表する選手として活躍を続けてきた。2021年には東京五輪の日本代表としてもプレーし、2023-24シーズンからはSR渋谷に活躍の場を移している。

サンロッカーズ渋谷(SR渋谷)は、昨季終盤にA東京時代の連覇時などを田中と共に過ごしたルカ・パヴィチェヴィッチからカイル・ベイリーへとヘッドコーチが代わり、今季は引き続き開幕から指揮を執っている。現在のチーム状況について田中はこのように話す。

「チームとしては新しい体制のもとでスタートを切ったばかりで、作り上げていくには時間がかかると思います。

 ただ、その中でも勝ちを積み重ねていかないとチャンピオンシップには届かないので、難しさを感じながらも選手同士でコミュニケーションをとり、良いチームをつくろうという意識は高まっています」

「準備やプレーを背中で見せられる」結果に左右されず、チームを牽引するSR渋谷・田中大貴の矜持

「さすがに苦しかったです」

そして迎えた2025-26シーズン。チームは開幕から3連勝、5試合で4勝1敗と好スタートを切っていた。しかし、10月18日の長崎ヴェルカ戦から11月2日の仙台89ers戦までまさかの7連敗を喫し、長いトンネルへと入っていた。

リーグ連覇も経験し、そして一選手としては日の丸も背負うなど頂点に立ち続けてきた田中にとっても長く苦しい日々を過ごした。

11月8日、ホームの青山学院記念館では最後となる“東京ダービー”で古巣のA東京に勝利した際に、こう本音を吐露していた。

「自分のキャリアでもこれだけ連敗が続いたのは初めてでしたので、さすがに苦しかったです」

今季ここまで全試合にスターティング5として出場し、プレータイムも637分21秒と長くコートに立ち続けている背番号13は、自らの背中でチームを鼓舞し続けていた。

10月26日には当時まだシーズン無敗だった千葉ジェッツ相手に2桁11得点、11月1日の仙台戦でも21得点を挙げるなど、チームに流れを呼び込もうと結果で示していた。

「もちろん毎試合みんなで勝利に向けてベストを尽くしていますが、長崎・千葉と連敗して北海道戦で一度流れを切りたかった。ですがそれもうまくはいかず、仙台戦でも同じ思いで流れを初戦で切りたかったけれども、それもかなわなかった。

 それぞれが頑張っている中、結果(勝利)に結びつかないという状況が続いていましたね……」

勝利への流れを手繰り寄せたベテランの存在

ただ、チームは11月5日の島根スサノオマジック戦で連敗を止めると、A東京戦では先制点のアシストで勢いをもたらすとともに、18得点と躍動。連勝の立役者となった。この試合後に、カイル・ベイリーHCはこのように賛辞を送った。

「大貴はすごくプロフェッショナルな選手なので、連敗が続いた中でも自身のやるべきことをアグレッシブにやってくれていました。

 勝っても負けてもそれは常に継続しているので、今日のチャレンジ・活躍は驚くことはないです」

また、田中もその言葉を受けて自身が取り組んできたことを明かしてくれた。

「今このリーグはすごく競争力が高いので、毎試合タフな戦いが続きます。ただ、試合はやってくるので、その時々に左右されてはいけない。

 もちろんメンタル的には勝敗やプレーを振り返る中で少なからずきますが、それでもやっぱり次の試合に向けてちゃんと準備をしないといけないですし、僕は準備やプレーを背中で見せられると思っています。

 若いメンバーも多いので、どうしても気持ちのアップダウンはあると思いますが、そこをなるべく僕や(ベンドラメ)礼生といった経験ある選手がしっかりとトーンセットできるようにというのは考えてやってました」

若い選手からも学ぶ姿勢「そういう明るさも必要」

己の姿勢でチームを引っ張ることに加えて、若い選手の姿を見て感じることもあったという。

「ドンテ(・グランタム)やJJ(ジャン・ローレンス・ハーパージュニア)は負けが込んでいても一定のテンションを保っているので、そういう明るさも僕は必要ではないかと思います。

 それが彼らのいいところなので、みんなでいい雰囲気を作ってこれからも戦っていきたいです」

11月16日の佐賀バルーナーズ戦で勝利を収め、12月6日まで約3週間バイウィークが設けられた。この期間は「まずはしっかりと体を休めること。フレッシュに戻すことを最優先事項に置いていました」と語った田中。

リーグ戦が再開した初戦のレバンガ北海道戦では早速14得点をマークし、3Pシュートも自身シーズン最多タイの7回投じる(2回成功)など、早速コート上でアグレッシブさを見せた。

姿勢は変わらない。結果の先にあるもの

現在チームは5連敗中と厳しい状況が続いている。そんな中でも決して下を向かず、かつブレない芯を強く示していた。

「年齢も重ねている自分たちが、なんとか結果を持ってこれるようにしたい。姿勢で引っ張ることは変わらないです。

 あとは選手一人ひとりがしっかりと目の前の試合に全力でやらなければならない。

自分も含めてそこが大事だと思います」

誰よりも背中で語る男はSR渋谷をこれからも姿勢で牽引し、黄色に身を包んだサンロッカーズファミリーの心を奮わせていく。

<了>

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