数多くのサッカー少年が憧れる舞台、全国高校サッカー選手権。宮城県大会を勝ち抜いた仙台育英は、そのピッチに立つことができなかった。
(文=野口学、写真=アフロスポーツ)
仙台育英サッカー部の保護者が今も思い悩み、願うこと
仙台育英高校サッカー部3年生の保護者であるX氏は、今もサッカー部で起きた事態について思いを巡らせている。
「受けるべき罰として、選手権の出場辞退が妥当だったのか、今もずっと考え続けています。今回の事態については、学校側が発表している内容と、私たち保護者の認識には大きな乖離があります。学校側が発表した内容はさまざまな誤解が生まれかねない表現になっている。そのためサッカー部の部員たちの名誉が著しく傷付けられていると感じています」
X氏は、学校側がその誤解を訂正するような発信をすることで、部員たちの名誉を回復してほしいと切望しているが、その願いは今もかなえられていない。
いま一度、同校が出場辞退を決定するまでの経緯を振り返りたい。
学校側の説明と大きく乖離する「構造的いじめ」の実態
2025年11月12日、仙台育英は、サッカー部内に「構造的いじめ」が把握されたとして、同年12月末まで同部の対外活動を停止すると発表した。
「構造的いじめ」とは何か? 学校は11月12日の校内向けの文書で、以下のように説明している。
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部内規律の名のもとに、遅刻や無断欠席などの部内ルール違反や練習時におけるノルマ不達成に対して連帯責任での罰則が慣例化する中、その罰則の回避のために意図せずして一時期の資質・能力によって生徒間の上下関係が固定化し、特定の生徒が集団から疎外され、いじりや過剰な注意、さらに強要につながるといったことが確認できました。
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学校は10月14日から、サッカー部の部員1人が「構造的いじめ」の被害に遭ったとして「いじめ重大事態」と認知し、調査を開始していた。
こうした「構造的いじめ」が発生した原因について、「サッカー部全体、顧問団ならびに生徒の人権意識が不十分で、『構造的いじめ』を生じさせ、これを見逃してしまう体制であった」と結論付けている。「当該生徒の求める避難措置を含む保護体制を継続して実施」してきたが、「当該生徒が幼少期より大好きであったサッカーという競技を、本学園での課外活動により許しがたい競技とさせてしまったことは、教育に携わる機関として慙愧に堪えません」としている。
時系列で整理する。
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2023年春 被害生徒(現在3年生/以下、A君)が1年生であった頃から、同学年のサッカー部員複数名に不適切な言動を受けた。
2024年5月 A君が学校側に相談したことで、A君の求める避難措置を実施。この頃から部活動に参加できなくなった。
同年10月 A君がサッカー部の顧問団に相談。
2025年10月11日 A君が自殺を示唆する言動をしたことで、警察が保護。
同年10月14日 学校が「いじめ重大事態」として調査開始。
同年10月29日 サッカー部に対して聞き取り調査を開始。
同年11月1日 全保護者に「いじめ重大事態報告に寄せる校長所見」を通知。
同年11月2日 A君とその保護者の了承を得て、高校サッカー選手権 宮城県大会 決勝に出場。優勝を決める。
同年11月4日 仙台放送が第一報。
同年11月5日 学校が全保護者に調査方針を通知。
同年11月12日 サッカー部の対外活動停止を発表(全国高校サッカー選手権、プリンスリーグ、宮城県リーグ、新人戦、等)。
同年11月18日 監督ならびに部長が辞任届を提出、学校側に受理される。
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以上が、仙台育英ならびに主な報道機関から報じられた内容だ。
本件については非常に数多くの人々が関心を寄せた。そのほとんどがサッカー部に対して批判的な意見で、「辞退は当然」とするものが圧倒的だった。学校側に対しても、ここまで構造的いじめを防止できず、A君およびその保護者に心理的苦痛をもたらしたことに批判的な声が多数上がったものの、一方で、詳細な調査開始から比較的早期に出場辞退を決めたことには一定の評価をする声もあった。
確かに、ここまでの情報から想像されるのは、苛烈ないじめの情景だ。3年にもわたり複数名の加害者が暴言を浴びせ続けた。「構造的いじめ」という言葉からは、部全体でそうしたいじめが常態化し、加害者の言動を許容するような、あるいは見て見ぬふりをするような風潮があった。「構造的いじめ」の発生を顧問団が見逃したという文言からは、加害者が自発的に、あるいは自然発生的にその構造をつくっていった。学校はA君に対してできる限りの対応をしてきたが、「構造的いじめ」がなくなることはなく、部員たちのいじめがA君から大好きなサッカーを奪った。そのような想像がなされる。
だが取材を進めると、頭の中で想像される光景とは大きくかけ離れた実態が浮き彫りになる。
ここから先を読み進める前に、読者の皆さまにお願いしたいことがある。本記事の目的は決して、誰が悪かったのかを特定し、批判の目を向けることではない。「誰が悪い」ではなく、「問題の本質はどこにあったのか」「サッカー部が受けた処分の内容は妥当だったか」「今後(仙台育英に限らず)このような問題はどうすれば防げるか」、こうした問いが世の中で広く議論される、そんなきっかけになってほしいと願っている。
前提として、いじめは絶対に許されない
「構造的いじめ」の具体的な実相を把握することから始めたい。
前提として、被害者が心身の苦痛を感じているものは「いじめ」と定義される。今回A君は心理的苦痛を訴え、2024年中に抑うつ症状の診断を受けていた。この点において間違いなくいじめは存在しており、それは決して否定されるものではない。加害者は被害者の声に真摯に耳を傾け反省しなければならない。
だが、一言で「いじめ」といっても、そこには濃淡がある。加害者が受けるべき処分は、その内容、期間、頻度などのさまざまな観点から、校則等に従って決定されるべきものだ。
以下は、学校がA君の証言によって「構造的いじめ」として挙げた具体的内容だ。
(1)本人の意にそぐわないあだ名を付けられた。
(2)練習の無断欠席が多く、同級生から注意を受けた。
(3)練習に遅刻した際、同級生から強い口調で注意を受けた。
(4)練習時のノルマ不達成により、同級生から暴言を受けた。
(5)合宿で、部屋を“早いもの勝ち”で決めた際、当該生徒が部屋を決められず取り残された。
(6)練習で笑われた。
(2)~(4)について補足する。組織を運営する上で一定のルールは必要だ。だが人にはそれぞれ持っている特性や過ごしている環境が異なり、ルールを守ること、ノルマを達成することが容易な生徒もいれば、困難な生徒もいる。A君がどのような特性や環境を有しているか筆者には分からない。だが個々の背景に配慮せず、強い口調で注意することは決して正しいことではない。ましてや相手が傷つく言葉は許されるものではない。
ではなぜ、加害者とされる(※)部員たちは、こうした言葉をA君に使ったのか。
(※本件は、調査の中で明確に加害者を特定できるだけの十分な証拠があるわけではなく、あくまでA君の証言で名前が挙げられたという状況であるため、「加害者」ではなく「加害者とされる~」と表現する)
「連帯責任」によって互いを監視して同調圧力や強要を生み出す「構造」
仙台育英サッカー部では「連帯責任」が常態化していた。
これは学校が発した文書の中でも「遅刻や無断欠席などの部内ルール違反や練習時におけるノルマ不達成に対して連帯責任での罰則が慣例化」と記載されている。
例えば、今の3年生が1年生のころ、1年生の遅刻が続くと、顧問団から連帯責任で1年生全員の練習参加を禁じられることがあった。遅刻をしていない部員からすれば、なぜ自分は遅刻していないのに練習できなくなるんだという負の感情が生まれ、強い口調で注意するといった行動となって表れたことは容易に想像がつく。
他に、試合でミスをした選手に対し、顧問団から坊主にしろ、もし明日までに坊主にしてこなければ、連帯責任で1年生全員に罰則を与えると言われることもあった。1年生同士でバリカンを持って寮部屋に押し掛けるといったことも起きていた。(※A君は坊主にされたことはないが、こうした風潮には嫌悪感を抱いていたという)
このように、「連帯責任」によって、部員同士が互いを監視し合い、時に同調圧力や強要を生み出していたことが分かる。
遅刻や無断欠席を強い口調で注意されるといったような「連帯責任」を背景にした暴言や叱責、坊主などの同調圧力や強要は、A君だけが受けていたものではない。たまたまA君以外の部員からいじめを受けたという報告はなされなかったが、連帯責任を避けたいという心理が生まれれば、誰もが被害者になり得るし、誰もが加害者にもなり得る。そうした「構造」となっていたのだ。
これが、「構造的いじめ」の実相だ。
当然、こうした「構造」を生み出していたのは部員ではない。
顧問団が浴びせた暴言。孤独に悩んだ被害生徒の悲痛
A君は2年生となった2024年5月、学校にいじめについて相談。A君の求めに従い、学校はクラス替え等の避難措置をとった。すでに部活動にはほとんど参加できておらず心理的な距離が遠くなっていたが、この避難措置によって物理的な距離も離れることとなり、これ以後、A君とサッカー部員の間のコミュニケーションはほとんどなくなっていった。
同年10月、A君と当時の顧問団3人が面談を行った。仙台放送がその時に録音された音声を報じた(2025年12月1日)ので、以下に抜粋する。
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「サッカー部のルール知ってる? ねえ、ねえ? なに、なに? ここに誓約書あんだよ、サッカー部の。サッカー部の誓約書あんだよ」
「おまえ、黙ってることない? ふーん、誓える? じゃあこれおまえさ、嘘だったら退部する?」
「サッカーやらないやつが、結局こういうことするやつが、サッカー部にいても意味ないよ」
「このままサッカー部にいたいのか、いたくないのか。おまえならいたくないでしょ。俺だったらいたくない」
「サッカーを今頑張ったって、もうちょっと手遅れやと思う、俺は。サッカーで君がのし上がることは、もうまずないと思う」
「クラブチームで来てよっていうところがあるんよ。あるからさ、紹介してもええから」
「根性があるかと言ったら、俺は厳しいと思うから言ってるんよ」
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仙台放送の取材に応じたA君は、「相談しても、やっぱり現状が変わらなかった。もう言っても無駄なんだと思って、相談したりはしなくなった」と悲痛な胸の内を明かしている。
「学校が発している文書を読むと、A君からサッカーを奪ったのは部員たちだと読み取れる内容になっています。ですが、サッカー部に戻りたいと考えていたA君に退部を迫り、サッカーを奪おうとしたのは顧問団だと分かります」とX氏が話すように、学校側の発表が実態を十分に説明しきれていないことが分かる。
そして1年後の2025年10月、A君が自殺を示唆する言動をし、警察に保護されたことから、学校は「いじめ重大事態」として認知して調査を始めた。
学校はこれまで校内向けの文書において、A君が2年生の2024年5月に「関係機関と連携した上で、詳細調査の提案を行いつつ(中略)保護体制を継続して実施して参りました」「(2025年)10月29日には当該生徒から(中略)詳細調査の了承が得られたことから(中略)詳細な聞き取り調査を行いました」と説明していた。
だがA君とA君の父親は、仙台放送の取材に対して、「本当に死ぬ間際で警察に止められたから学校も問題として取り上げた」(A君)、「ずっと訴え続けてるのに、誰も聞き入れてくれない、受け入れてくれないことがずっと続いていた」(A君の父親)と、実際にはこのような状況になったことで学校がようやく動き出したと話している。
キャプテンが語った後悔の念
12月9日、サッカー部のキャプテン(3年生)が仙台放送の取材に応じた。
そこで語られたのは、後悔の念だ。
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「当時、連帯責任を伴う罰則や、指導者・先輩から厳しい圧力がある中で、同級生として彼にもっと寄り添うことができたのではないかという後悔が残っています。何か問題が起きれば連帯責任になるという空気の中で、生徒同士でも厳しい言葉をぶつけ合うような雰囲気があって、その雰囲気自体を少しでも変えられたのではないかと思って、反省しています」
「生徒たちは連帯責任による罰則、坊主にすることだったり、走りになることだったり、ボールが使用禁止になることを回避するために、生徒同士で解決する雰囲気があって、その中で特定の生徒が疎外されたり、過剰な注意がありました」
「チームの規律を乱す行為にはどんな生徒にもかかわらず、各々が注意していく雰囲気がありました。顧問団からは『注意する人が浮く組織ではなくて、規律を乱す人が浮く組織がいい組織だ』と教え込まれました」
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この取材の中で、キャプテンは嗚咽しながら言葉を振り絞る姿を見せていた。キャプテンという役割は、これほどの責任を負うべきものなのか。本来ならば大人の責任、大人の役割だと筆者は考える。一人の生徒がこれほどの後悔にさいなまれる姿が、部活動の“あるべき姿”だとは思いたくない。
また、キャプテンは仙台放送の取材に対し、全国高校サッカー選手権の出場辞退が決まるまでのいきさつを語っている。
宮城県大会決勝の3日前に顧問団から突然連絡が入り、練習を休んで聞き取り調査を受けることになったという。A君が学校や顧問団にいじめを訴えていることはこれまで一度も学校から知らされておらず、この時の聞き取り調査においても、部員たちは学校から何を目的とした調査なのか知らされないまま調査を受けていた。
決勝の2日後、本件がメディアで報じられると、何の説明もないままにサッカー部の練習が停止になった。その後も、練習停止の理由や調査の進み具合について、学校から詳しい説明は一切なかった。
状況を把握するため、キャプテンが校長のところに話しに行くと、副校長が応対。「(生徒・保護者・顧問の)三者面談が終わった後に辞退を公表する」と説明を受けたが、学校はその日のうちに出場辞退を発表した。
部員全員への詳細な聞き取りや三者面談が終わっていない段階での発表に、キャプテンは「出場辞退」という結論ありきで決まってしまった印象を受けたという。
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「まずはここまで大きな問題になった代のキャプテンとして、すごい反省していて、学校に対しても申し訳ないと思っているんですけど、もう少しこの問題に対して詳しい内容というか、この問題の内容を少しでも開示していただきたいなという思いはあります」
「心配なのは、彼(A君)を含めた僕たちの代が、これから世の中に出ていくときに、このままだと、“あの時のあの事件の育英サッカー部”という十字架を背負い続けることになってしまうので、学校としては本当にこのことを考えて、伝えるべきことは伝えるようにしてほしいなと思います」
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仙台放送ではこれまで都度、正確な事実関係を確認するため、学校に質問状を送ったが、学校側の回答は「特定の個人に関わるため、回答は控える」「学校の公式見解・説明は、ホームページに公表している通りです」としている。
またX氏ら保護者も校長との話し合いを何度も求めているが、出張などの理由で全て副校長が応対している。これまで校長は一度も部員の前に姿を見せておらず、校長の声明を副校長が読み上げるといった状態が部員たちの不信感にもつながっている。
1・2年生にとっては入学前の事態だったが…
学校側は公表している文書の中で「必ずしも一部の生徒だけに限られたいじめ事案ではなく」と記載しているように、A君の事案とは別に、「構造的いじめ」があったことを暗に示している。
だが、1・2年生とその保護者に対して、いじめの内容について具体的な説明はなく、現時点で「対応中」と答えるのみにとどまっている。X氏が学校関係者に聞いたところによれば、1・2年生における具体的ないじめの内容として上がってきたものは、「口が臭いと言われた」というもので、言われた部員も特にいじめとして訴えていたわけではないようだ。
選手権の辞退はもちろんだが、プリンスリーグや新人戦も出場を辞退している。これによりプリンスリーグからの降格が決定し、来年は県リーグを戦わなければならない。1・2年生にとっては、サッカー人生に大きな影響を受けたことになる。
加害者とされる部員だけでなく、3年生だけでもなく、1・2年生も含めて出場辞退とした理由は、現時点でも学校側から部員たちに明確に説明されていない。
あらためて考える。選手権辞退は妥当だったのか?
ここまで情報を整理してきた中で、どうしても筆者は考えてしまう。選手権の出場辞退は、本当に妥当な裁定だったのだろうか、と。
これまで何度も述べてきたように、加害者とされる部員たちには相応の責任がある。どんな背景があったとしても、被害生徒を苦しめてしまったことは事実だ。
だが「構造的いじめ」の根幹となった「連帯責任」を課していたのも、互いを監視し合い、過剰な注意を促す「構造」をつくり上げたのも、顧問団だ。
A君が自殺を図るまでに追い詰められた背景にあったのは、相談を受けていたにもかかわらず「誰に何を言っても無駄」とA君を孤独にしてしまった学校だ。
何より、いじめの被害者であるA君が、仙台放送の取材に対して「関係のない選手たちの夢を奪うのは違う」と話しており、辞退を望んでいなかったことが分かる(12月1日放送)。
学校が出場辞退を決めた背景には、日に日に批判が高まっていく中、A君はもちろん、加害者とされる生徒、サッカー部、学校全体を守る意図もあったのだろう。昨夏の甲子園(全国高校野球選手権)において、広陵高校が大会途中で出場を辞退した。ネット上での誹謗中傷、寮への爆破予告、さらには在校生に対する登下校中の嫌がらせなど、広陵は生徒の生命が危険にさらされる事態にまで陥ったためだ。同じ轍を踏まないように……そうした側面からは理解できる部分もある。
だが、サッカー部員150名の責任は、選手権、プリンスリーグ、宮城県リーグ、新人戦の全てを辞退するという罰を受けなければならないほどまでに重いのだろうか。本来、罰の重さは、罪の重さとのバランスで決められるべきものだ。顧問団は“一身上の都合”で辞任となったが、それでも子どもたちが受けている罰が、罪とのバランスを大きく逸脱してはいないだろうか。キャプテンが話しているように、今のままでは、対外活動停止期間が終わった後も、実態以上の悪評を背負うという罪と共に生きていかなければならなくなっている。
2025年12月27日に実施された3年生保護者向けの説明会では、2024年5月の避難措置以降、具体的な対応をしていなかった、サッカー部との連携が不十分だった、学校にも責任があったと認める発言があった。A君とその保護者から、いじめについて顧問団や部員には言わないでほしいという要望があり、どのような対応をとるべきか難しい側面はあっただろう。だがその結果として、顧問団がA君に退部を迫るような対応を許し、またA君を孤独に追いやってしまった。説明会で学校側が「今思えばもっとやるべきことがあった」と発言しているように、その責任の一端が学校にあることは確かだ。
だが現在公表している文書からは、学校に責任があることを認めているとは読み取れず、あくまでも顧問団と部員たちの責任だけを感じさせるものになっている。今後、学校にも責任があったことを認める文書を公表してほしいという保護者からの要望には、「約束できない。検討する」とするにとどめている。
現時点では、学校側が行ってきた調査の中で明確に加害者を特定できるだけの十分な証拠が出ているわけではない。迅速な判断が必要な状況の中で、学校による聞き取り調査のみを実施し、中立的な立場にある第三者による調査を行えなかったことも事実だ。それは学校も認めている。
今回の裁定は、3年生はもちろん、1・2年生も含めて、部員たちのサッカー人生、ひいては人生そのものを大きく左右するものだったことは間違いない。たとえ事後であっても、部員とその保護者が納得できるように、そして、実態と著しく乖離している部員たちの名誉を一定程度にまで回復できるように、学校から丁寧な説明があることを願いたい。
親の後悔…。部活に励む子どもの保護者にとって他人事ではない
X氏は、今も後悔していることがあるという。愛息が入学してからの3年間で、顧問団に違和感を抱いたことは幾度もあった。入部の際に「保護者は顧問団の指導方針・指導内容について一切口出ししない」といった旨の誓約書にサインしたこともあって、「でも強豪校ってこんなもんだよな」「顧問団に目を付けられたら息子が不遇の扱いを受けてしまうかもしれないから」とその違和感にふたをしてしまった。保護者と顧問団の間には高い壁があった。もし自分が違和感に目をつむらず、何か行動を起こしていたら……そう思い煩う夜をいくつも過ごした。
繰り返すが、本記事の目的は決して、誰が悪かったのかを特定し、批判の目を向けることではない。特定の悪者を仕立て上げ、誹謗中傷をしたところで、誰も救われない。
私たちが今やるべきことの一つは、サッカー部への妥当な処分は何だったのか、を考えることではないだろうか。今からその解を出したところで、仙台育英サッカー部の何が変わるわけではないかもしれない。だが、これから同じような事態がどこかの学校で起きたとき、直情的・感情的に「辞退しろ」と非難して終わるのではなく、建設的・発展的な発信につなげていけるかもしれない。
そしてもう一つ、私たちが考えるべきことは、そもそもとして、どうすれば今回のような構造的いじめの発生を防ぐことができたか、だ。
それは後編で考察したい。
【連載後編】なぜ部活動では“連帯責任”が蔓延するのか? 高校サッカー強豪校で「構造的いじめ」生んだ歪み
<了>
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