三笘薫の数字が伸びない。プレミアリーグ27節終了時点で2ゴール1アシスト。

昨季の活躍を知るファンほど、その数字に物足りなさを感じているはずだ。だが、その背景には個人だけでは語れない事情がある。所属するブライトンの不振、戦術の変化、そして“勝てないチーム”に特有の心理的影響──。数字だけでは見えない三笘の現在地を、プレミアリーグの構造から読み解く。

(文=田嶋コウスケ、写真=REX/アフロ)

今季2得点1アシスト。三笘薫の数字が伸びない理由

三笘薫の所属するブライトンが、久しぶりの勝利に沸いた。

2月21日に行われた第27節ブレントフォード戦を2−0で勝利し、国内リーグで7試合ぶりに白星を挙げた。試合後のピッチでは、三笘も満面の笑みを見せ、チームメートと勝利の喜びを分かち合った。その表情には、単なる1勝以上の安堵がにじんでいた。

ここまでブライトンは、厳しい戦いを強いられている。国内リーグにおける直近14試合の成績は「2勝6分6敗」。リーグ序盤で一時4位につけていた順位もズルズルと低下し、現在14位まで降下した。

来季の欧州カップ戦出場を目指しているブライトンだけに、今の順位は決して満足できるものではない。2月11日の第26節アストン・ビラ戦に敗れた直後、三笘もブライトンに復帰した2022年以降で「今が一番難しい」と正直な気持ちを吐露している。

苦しいのは、順位表だけではない。チームが勝てない時間が続くと、選手のプレーそのものにも影響が及ぶ。特に攻撃の選手にとって、それは避けがたい事実だ。

実際、チームの不振に引きずられるように、三笘の個人成績もここまで奮わない。国内リーグ戦では27節を消化し「2ゴール、1アシスト」。もちろん、9月下旬に左足首を痛めて約2カ月半にわたって離脱し、復帰後もコンディション向上に努めてきた影響は大きい。しかし二桁得点の10ゴールを挙げた昨季の結果と比べると、物足りなさを指摘する声が出るのも無理はない。三笘本人も「もっと結果を」「最後のフィニッシュのところで決めきりたい」と反省を口にしている。

ただ、ブライトンのチーム全体がチャンスメークや決定機の創出に苦戦しており、選手個人の成績も伸びていないのは自然な流れである。攻撃回数が減り、ボールが前線まで届く回数が限られれば、アタッカーの数字もまた伸びにくい。

チーム状態と個人成績は、切り離して語れないからだ。

なぜブライトンは勝てなくなったのか?

ブライトンが不振に陥っている要因は複数ある。ファビアン・ヒュルツェラー監督の複雑すぎる戦術、うまく機能していない補強戦略の失敗など、スランプの原因は多岐にわたる。特に大きいのは、主力選手を高値で売却し、代わりに無名の若手を安価で獲得するというブライトンの補強戦略が、今シーズンはうまく機能していない点。新たに獲得した若手が実力を発揮できず、むしろ目立つのはFWジョアン・ペドロ(チェルシー)やDFペルビス・エストゥピニャン(ACミラン)ら退団組の抜けた穴のほうだ。

実際、ブレントフォード戦では、三笘の得点数が上昇してこない理由が垣間見えた。

前半を2−0で折り返すと、ここまで勝利から見放されてきたブライトンは慎重なアプローチに転じた。三笘を含むアタッカー陣は、総じて守備意識を高め、自陣の低い位置でディフェンスに走った。ここで失点したくない──。後半の失点で勝ち点をとりこぼす悪癖のあるブライトンは、当然後半から逃げ切りの意識が強まった。

その影響で、三笘も守備に奔走し、後半は攻撃面で大きな見せ場をほぼ作れなかった。ダニー・ウェルベックとのワンツーから一度、PA内でチャンスをつかんだものの、この場面ではシュートに至らず。後半は守備に追われたと言っていい。

ブライトンは狙い通りに逃げ切りに成功し、2−0でクリーンシートの勝利をつかんだが、後半は三笘の攻撃面のインパクトが限られた。勝利のための必然的な選択ではあったが、攻撃の選手にとっては、自らの結果を伸ばす時間が削られていく展開でもあった。

三笘本人がチームの勝利を「最優先事項」と強調しているように、勝利の結果は当然喜ばしい。だが今のチーム状況では、“守るために走る”時間が長くなる。苦戦するチームでプレーすることの象徴的な光景であった。

試合後、三笘は我慢強く戦ったと振り返る。

「皆が『勝たないといけない』と分かっていた。クリーンシートも大きい。GKの素晴らしいセーブがあって危ない場面もあった。そこで失点してしまうと試合の流れが悪くなる。踏ん張ったかなと思います」

勝てないとプレーは変わる。レスターが示した“負の連鎖”

プレミアリーグは「世界最高峰」と呼ばれる。

世界中からトップクラスの選手が集う「夢の舞台」だが、各クラブによる競争は熾烈を極める。潤沢な資金を持つクラブであっても、例えばトッテナムのように確固たる指針がなければ順位は一気に下降してしまう。ちょっとでも調子を落とせば、瞬く間に降格圏近くまで落ちてしまう「魔境リーグ」でもあるのだ。

例えば、2015−16シーズンに「奇跡のリーグ優勝」を果たしたレスター。強豪クラブを次々となぎ倒し、プレミアリーグの頂点まで上り詰めた1年は「おとぎ話」として世界中から称賛を浴びた。

ところが翌シーズンは大苦戦を強いられた。

優勝争いを演じていた前シーズンから一転、翌シーズンは残留争いに巻き込まれた。当時岡崎慎司は、チームが勝てなくなったことで選手の動きが硬直し、本来の持ち味が出せないと嘆いた。

「優勝争いより、残留争いのほうが本当に嫌ですね。(記者:選手への影響もある?) 例えば、リヤド・マフレズ。彼はドリブルで勝負する選手で、これまでならドリブルで”行き放題”みたいな感じだった。『取られても、何回でも行け!』みたいな。

でも今は精神的なダメージが大きく、『次、仕掛ければいい』みたいな気持ちになっていない。慎重になるというか、気持ち的に乗れない感じです。

 結果を出せばいいというのが昨シーズンだった。特に攻撃の選手は『一発決めればいい』という気持ちでいた。守備も、これまでなら『我慢すれば勝てる』という強さがあった。ちょっとや、そっとじゃ精神的にもブレなかったです。でも今は、『ヤバい、ヤバい』という感じで守備をしている。残留争いしていると、精神的なダメージが大きい」

チームが勝てないことで、選手たちのマインドがネガティブな方向に傾いていく──。岡崎の言葉は、勝敗が単なる結果ではなく、プレーの質そのものを変えてしまうことを示している。そして、こうした状況は、仕掛けや決断力を武器とする攻撃的な選手に重くのしかかる。

こうした負のサイクルは、岡崎の個人スタッツにも表れた。優勝したシーズンは、国内リーグ36試合に出場、そのうち先発は28試合だった。

リーグ戦で5ゴールを挙げた。

しかし、さらなる飛躍が期待された翌シーズン、チームは残留争いに巻き込まれ、岡崎のインパクトも萎んだ。新たにFWを補強した影響も重なり、岡崎の国内リーグ出場は30試合に減少。そのうち先発は21試合に留まり、得点数も3点に減った。

もちろん、それは岡崎個人の能力が低下したわけではない。チームの推進力が落ち、攻撃回数が減り、プレーに迷いが生まれれば、ストライカーの数字も自然と削られていく。攻撃の選手は、チーム状態の温度計でもある。

シーズン途中に監督交代が行われ、レスターは持ち直したが、その過程で味わった停滞感はプレミアリーグの過酷さを物語っている。優勝チームですら、わずか数カ月で残留争いに引きずり込まれる。それがプレミアリーグの厳しさだ。

監督交代が選手の立場を変える。吉田麻也の苦しい経験

監督交代による方針変更、戦術変更も、選手に影響を与える。

サウサプトンで残留争いを経験した吉田麻也は、監督交代の度に難しい状況に立たされていた。監督が変わる度に序列が下がり、その都度、再アピールを余儀なくされていた。

例えば、2019−20シーズン。オーストリア人のラルフ・ハーゼンヒュットル監督が、極端な若手重視の方針を打ち出したが、チームは黒星先行で一気に降格圏まで落ちた。吉田は「降格圏にいて肝心なところでミスが出てしまって取りこぼしている試合が多い」と嘆いていた。

さらに、サウサンプトンは、クロード・ピュエル、 マウリシオ・ペジェグリーノ、マーク・ヒューズと、次々に指揮官を変えていた時期でもある。当時、吉田はこう話していた。

「近年は2年連続で降格争いに巻き込まれている。個人的に大事だと思うのは、監督を頻繁に変えることなく、しっかり土台を作ること。でもこの2~3年は、監督が1シーズンもってない。そうなると、やはりチームの土台は固まらない。それこそ、付け焼き刃では厳しい。プレミアリーグは、今日うまくいったから、また来週うまくいくってわけではない。そこがイングランドの難しいところですね」

吉田の言葉が示すのは、「土台」の重要性である。監督が変わるたびにチームのやり方が変わる。そのなかで安定したパフォーマンスを発揮し続けるのは容易ではない。特に、DFであれば守備組織の安定は不可欠だ。土台が揺らげば、すべてが揺らぐ。プレミアリーグでは、そのわずかな揺らぎが順位に直結する。

翻って、三笘とブライトンのケースは?

7試合勝利がなかったという事実は、想像以上に重い。勝てない時間が続くと「まずは失点しないこと」が優先事項になる。ブレントフォード戦後半の戦い方は、まさにその象徴だった。

ただブレントフォード戦で、三笘の“あるプレー”に目が留まった。縦へボールを運び、スプリントで抜け出した場面だ。

後半、タッチライン際でボールを受けると、三笘は縦のスペースにポンと前に蹴り、力強く突破。サイドから中にえぐって仕掛けた。決定的なチャンスにはならなかったが、こうしたプレーは三笘の好調さを示すバロメーターでもある。マーカーを「抜ける」と感じたコンディションの良さ、そして自信の大きさが、縦へのランに表れていた。

振り返ると三笘は、左足首のケガから12月13日のリバプール戦で実戦に復帰した。復帰から約2カ月。ここまで13試合をこなし、ゲームを重ねるごとに調子は上がってきた。本人も「コンディションは上がっている」と手応えを語る。

「結果だけでは測れない」三笘の現在地

取材を重ねるなかで感じるのは、今の三笘を「結果」だけで評価するのはあまりに一面的だということだ。

岡崎が語った「慎重になる」という選手の心理。吉田が指摘した「チームとしての土台の揺らぎ」。勝てない時間が続けば、攻撃の鋭さも、組織の安定も少しずつ削られていく。プレミアリーグとは、そうしたわずかな変化が一気に順位へと跳ね返ってくるリーグだ。いまのブライトンは、その只中にいる。

そして三笘もまた、そこから無縁ではない。好調なチームにいれば、数字は自然と伸びていく。だが、苦境にあるチームで自らの持ち味を失わずに結果を残すことは、より難しい。ボールを受ける位置、仕掛けの回数、味方との距離感。そのすべてがわずかに狂うだけで、ゴールやアシストの数は確実に変わってくる。

今シーズンの先には、FIFAワールドカップの大舞台が待っている。

ワールドカップ初戦のオランダ戦について、三笘は「厳しい相手であるのは間違いないです。僕らの代表選手よりも、もっとトップのところで戦ってる選手がほとんど。彼らのレベルの高さを認識していますが、僕たちも負けてないと思う。しっかりと全員がコンディションを整えることが大事」と語る。だがこうも言う。「僕自身としては、ワールドカップは考えずに、まずクラブに集中したいと思います」と。

世界中の視線が集まるその舞台で活躍するためにも、いまプレミアリーグで味わっているこの苦しさは、決して無駄にはならないはず。今の経験は、代表という短期決戦の舞台でも必ず糧になる。

三笘薫はプレミアリーグという“魔境”で、その強さをこれまで以上に試されているように思う。

<了>

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