「すべてを回収する」。強度の高い守備で中盤を支えた遠藤航は、プレミアリーグのリバプール加入1年目、ユルゲン・クロップ体制の下で存在感を高めた。

だが指揮官がアルネ・スロットへと交代すると、チームのスタイルは大きく変化。その変化は、日本代表MFの役割にも直結した。戦術転換の中で見えた遠藤の価値、そして現在地とは――。

(文=田嶋コウスケ、写真=REX/アフロ)

ユルゲン・クロップ体制で輝いた“回収役”

今から約2年前の2024年1月1日。リバプールの遠藤航が、本拠地アンフィールドで躍動する姿があった。

対戦相手はニューカッスル。ユルゲン・クロップ監督率いるリバプールの先発メンバーとして、遠藤は4−3−3のアンカーでピッチを駆け回っていた。

当時、リバプールの順位は首位。インテンシティの高いパフォーマンスでニューカッスルを押し込み、後半に4ゴールを挙げて4−2で快勝した。その中で遠藤は、アンカーとして職務をまっとうした。クロップが「ヘビーメタル・フットボール」と自画自賛した超高強度のサッカーで、日本代表MFはプレス、ボール奪取、パスカット、縦へのパス展開と、中盤中央部で光り輝いていた。

畳み掛けるように攻撃を仕掛けるリバプール。相手がボールを後方で回し始めると、遠藤は体の重心を低くしてボールを刈り取ろうと気持ちを高めていた。

その姿は、まるでバスケットボールの守備者のようだ。後半7分には自陣で敵に激しく寄せてボールを奪い切り、素早く縦へ展開した。

パスを受けたモハメド・サラーのクロスから、最後はダニエル・ヌニェスがシュートを放つもGKにブロックされる。すると遠藤は両手をパチンと強く叩き、悔しさをあらわにした。一連のプレーは、遠藤の意識が相手陣内へとまっすぐ矢印を伸ばしていることを象徴する場面だった。

勝利後、遠藤は充実感を漂わせてこう話した。

「もう試合開始から、フルスロットルでやりました。奪われた後の切り替えのところで、しっかり自分がすべてを回収するような気持ちでやりました。そこがかなりハマっていた。うまく2次攻撃、3次攻撃ができていたと思う」

「ゲーゲンプレス」の申し子としての役割

さらに、こんな質問を投げかけた。「クロップ体制のリバプールは、選手が前に仕掛ける意識が強い。クロップのやり方は独特ですか」と。遠藤はこう答えた。

「独特というか、それがリバプールのスタイルです。自分もそれに慣れてきた部分はある。常に前向きにプレーする。特に、 チームが前進するときに、自分もしっかり前進するようにする。結局そこで、5メートルでも前に行けるかどうかで、セカンドボールを拾えるか、拾えないかみたいな世界です。

 それが前半から、今日は自分のところでセカンドボールをかなり拾えていたと思う。前に行って、あの場所にいることが大事というか。分かりづらい部分ではあると思うんですけど、それが自分の仕事なんで。それをとにかく愚直にやり続けるという感じですね」

最終的に、遠藤はプレミアリーグ挑戦1年目の2023−24シーズンで「公式戦44試合に出場」。シーズン序盤戦はベンチスタートが多かったが、故障者が増えた秋頃に序列を一気に引き上げ、後半戦はレギュラーとしてフル稼働した。

日本代表MFの高強度のプレーは、いわゆる「ゲーゲンプレス」を標榜するクロップのスタイルと親和性が極めて高く、クロップ体制の重要なピースとして稼働し続けた。

アルネ・スロット就任で変化した役割

ところがその年に大きな転機が訪れる。

2024年2月末、クロップ監督は2023−24シーズン限りで退任すると発表。

ドイツ人指揮官は「エネルギーが尽きた」との言葉を残して休養期間に入った。代わりにやって来たのが、オランダ人のアルネ・スロットだ。

就任直後のプレシーズンから、スロットは徐々にチームを変革していった。重視したのは、ポゼッションやビルドアップ、そしてパスワークを円滑に機能させるための選手配置。その中で、守備的MFのレギュラーとして新たに抜擢されたのが、オランダ代表MFのライアン・フラーフェンベルフだ。

もともとインサイドMFを務めるなどアタッカーだったフラーフェンベルフを、守備的MFにコンバートした。その狙いは、中盤底の選手であっても、敵を背負った状態からクルリと前を向き、さらにボールを前に前進させることにあった。もともとウィンガーのオランダ代表はこうした要求をスムーズにこなした。期待に応えたフラーフェンベルフは新シーズン開幕戦からフル稼働。対する遠藤の序列は低下し、ベンチを温める試合が増えた。

代わりに、遠藤は「クローザー」の役割を担うようになった。自軍リードの試合終盤に途中交代で出場し、安定した守備で勝利に導く。

守備的MFに加え、センターバックとサイドバックもこなす万能性を生かして、いわゆるスカッドプレーヤー(※常時レギュラーではないが、登録メンバーの一員として重要な役割を担う選手)としてチームを支えた。

スロット体制をクロップ時代と比較すると…

今月14日に行われたFAカップ4回戦のリバプール対ブライトン戦を取材するため、筆者はアンフィールドを訪れた。

クロップ体制が終焉してから、すでに1年半の時間が経過している。スロット体制のパフォーマンスを目の当たりにして感じたのは、「クロップ前監督時代とは、まったく別のチームに変わった」ということだった。

クロップ時代に比べるとインテンシティは低下し、敵に寄せる意識も薄れていた。代わりに選手たちが強く意識していたのは、フィールドでの立ち位置。フィールド全体をバランスよく使い、攻撃時、守備時、ボール保持時、非保持時それぞれに応じて、選手が適切な位置にいるよう心がけているようだった。

しかし、である。スロットが重視しているはずのビルドアップは拙く、その途中でブライトンにボールを奪われる場面も少なくなかった。

試合は3−0で快勝。だがブライトンの調子が著しく悪かったことも、少なからず影響したスコアだったように思う。「リーグ連覇」を期待された名門リバプールが、国内リーグで首位アーセナルと16ポイント差の6位と苦戦している理由が、試合内容から垣間見えた気がした。

離脱で浮き彫りになった遠藤の存在感

このブライトン戦で、遠藤の姿はフィールドにもベンチにもなかった。試合の3日前に行われたプレミアリーグ第26節サンダーランド戦で左足を負傷。

スロット監督は「長期離脱になるのは明らか」と述べ、重傷の可能性を示唆している。

ただ2月14日の時点で、こうも話している。

「シーズン中に間に合う可能性は間違いなくある。ただ、しばらく離脱する。現時点では、正確な復帰時期を断言することはできない。ケガはケースによって異なり、すぐに診断できる場合もあれば、様子を見て経過を確認する必要がある場合もある。ワタの場合は後者だ。

 来週の試合には帯同しないし、来月もメンバーに入らない。ただ、シーズン終盤には再びチームに戻れるチャンスがあることを願っている。それも、経過次第だ」

本稿執筆時点でまだ経過観察中で、最終的な診断結果は出ていない。遠藤の早期復帰とワールドカップ出場を願うしかないが、そんなサムライ戦士に対し、リバプールの仲間たちは敬意を示した。

主将のフィルジル・ファンダイクが「ワタのケガが長引かないことを願う」と語れば、ジョー・ゴメスは「ケガで倒れてもプレーを続けた姿に、ワタの生き様が表れていた」と話した。

遠藤はここまで、ベンチスタートでも常に万全の準備を整えてきた。出場機会の少なさに不満をあらわにすることもなく、ピッチに立てば100%の力を出し切った。そんな姿を、仲間たちはつぶさに見てきた。今回の負傷離脱によって、チーム内における遠藤の重要性と存在感が改めて浮き彫りになった。

高強度で輝く日本代表MFにとって最適な環境とは

ただ、筆者はこうも感じた。

クロップ体制で躍動していた遠藤の姿。そして「前半からフルスロットルでやりました」と充実感を漂わせていた日本代表MFの姿を思い出し、リバプールとは違うチームでプレーする勇姿を見たい、と。

繰り返すが、スロット体制のリバプールは、クロップ時代から大きく様変わりしている。プレーする選手の顔ぶれに大きな変化はなくとも、スタイルは明確に変化した。昨季はクロップからバトンを引き継いだ1年目。スロットが「大改革ではなく、微調整でチームを整えた」と語ったように、いわば調整期間だった。

だが今は違う。遠藤のプレースタイルと抜群の相性を誇ったクロップは、すでにリバプールを去った。スロットの下、新しいスタイルは着実に浸透している。そして、これからも続く。

遠藤とリバプールの契約は2027年夏まで。まずは左足を痛めたサムライ戦士の早期復帰を願いたい。そして復帰後、新たなユニホームをまとい、キックオフから躍動する遠藤の姿があるのなら――それもまた、一つの未来なのかもしれない。

<了>

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