アスリートの声をきっかけに開発され、メジャーリーガーのパフォーマンスを支えてきたサポーター機能ベルト「コアエナジー」。開発元であるマスクメーカー「白鳩」が、その技術を活かして次に挑んだのはサッカーだった。

インナー型サポーター「コアエナジーX」だ。きっかけは、日常の会話から生まれた「インナー」という発想の転換。そこから元プロ選手の意見を取り入れながら改良を重ね、神戸大学との検証や南葛SCとの共同プロジェクトにも踏み出していく。掲げるのは『PLAY THE LONG-GAME(長期的に競技人生を支える)』。サッカーならではの仕様に合わせた試行錯誤と、その先に見据えるマルチスポーツ展開まで、白鳩ホールディングス代表であり、コアエナジー事業を展開する関連会社コア・テクノロジー代表も務める横井隆直氏の言葉を通してその現在地と、未来図について聞いた。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、トップ写真提供=©南葛SC、本文写真提供=コア・テクノロジー)

ベルトの次に見えた可能性。インナー型サポーター誕生の背景

――サポーター機能ベルト「コアエナジー」は、野球やゴルフで成果を出してきました。その次の展開として、なぜ「次もベルト」ではなく、インナー型サポーターという選択に至ったのでしょうか。

横井:ある時、自宅で「ベルトをするスポーツって、野球とゴルフぐらいしかないよな」と口にしたんです。すると妻が、「どんなスポーツだって何かしらユニフォームは身につけているでしょう」と。その一言が原点でした。そこから、履くことで体幹や腹圧をサポートするインナー型サポーターという発想につながっていきました。

ベルト以上に時間はかかりましたが、私がイメージを伝え、それをもとに技術者たちが今の形に仕上げてくれました。

――技術的にも、かなり多彩な要素が詰まっていますね。

横井:広告やブランディングに長けた会社も多いですが、うちの会社は、正直なところ「売るのが得意」な会社ではありません。発明やものづくり、品質管理を突き詰めるのが得意な会社です。私たちは繊維技術だけでなく、製造工程を自動化する機械を作ることも得意としています。日本で雇用を生み出しながらものづくりを続けるためにはコストがかかりますが、工程を自動化することで、結果として製品価格を抑えることができています。

――数ある競技の中で、サッカーに本格的に取り組もうと考えた背景を教えてください。

横井:元社員に、プロとしてサッカーをしていた選手がいます。身近な存在として、彼からさまざまな意見をもらえたことが大きかったです。現場目線のフィードバックを受けながら、技術者たちが改良を重ねていきました。もう一つは、競技としての広がりです。サッカーは、バレーやバスケットボールと並んで、世界的に競技人口が多く、文化として根づいているスポーツです。

その点も、大きな理由になりました。

『PLAY THE LONG-GAME』に込めた意味

――サッカー用として開発する上で、特に悩んだ点はどこでしたか?

横井:最初は、スパッツにするか、ユニフォームとしてトップス側に組み込むか、という二択でした。トップスに内蔵する案も有力でしたが、最終的にはスパッツにしました。色の規定や着用ルールなど、競技特有の制約も一つずつ整理しながら、元プロ選手と二人三脚で形にしていきました。

――サッカーは圧迫を好まない選手も多い競技ですが、ハードルにはなりませんでしたか。

横井:野球でも圧迫を嫌う選手はいますし、サッカーでも全員に使ってもらえるとは考えていません。ただ、コアエナジーベルトを野球界で広げていった初期と、似た感触はあります。加えて、私たちにはデータがあります。神戸大学の准教授と共同で、サッカーに特化した検証を時間をかけて行いました。その結果、疲労軽減につながるというデータが得られています。

 サッカーは、ジャンプして着地し、フェイントをかけ、スプリントを繰り返す競技で、そうした動作をシーズンを通して継続するのがプロです。そうした負荷に対してどんなサポートができるのかを数値として示せる点は一つの強みだと思います。

――実際に着用した選手からの反応はいかがですか?

横井フットサルの大会で試してもらった際には、「インナーの着用が苦手で履かない」という選手もいましたが、試した選手からは「着用感がいい」「試合後に脱いだ時、体が軽い」といった声が多く聞かれました。

 また、関東サッカーリーグ1部の南葛SCをスポンサーとして支援するようになり、1年間モニターを行いました。全員が履いたわけではありませんが、履いた選手からは「切り返しが楽になった」「パフォーマンスが上がった」「試合後の疲労度が違う」といった実感の声をもらっています。

――コアエナジーブランドのスローガンである『PLAY THE LONG-GAME』という言葉には、どんな思いが込められていますか?

横井:根底にあるのは、「誰かの役に立ちたい」「マスキングによって人間のできるを広げる会社」という思いです。マスクもそうですが、1枚あることで人の行動範囲が広がる。コアエナジーも同じで、研究に関わってくださった教授やドクターからは、「ケガの予防につながる製品だからすべてのスポーツアスリートに届けてほしい」と言っていただいています。

 『PLAY THE LONG-GAME』は、日本語にすると「ケガなく、長く競技人生を続けてほしい」という意味です。アスリートは常にケガと隣り合わせでプレーしています。だからこそ、選手寿命を1秒でも長く支えるギアでありたいですし、競技レベルを問わず、スポーツを愛する人に届けたいと考えています。

“広がり続けるフィールド”世界戦略とブランド哲学

―― 今後、サッカー以外の競技も含めたマルチスポーツ展開をどのように描いていますか?

横井:コアエナジーブランドを展開するコア・テクノロジー株式会社は会社としてはまだ小さいですし、急激に広げられるとは思っていません。使ってくれた人が良さを感じ、少しずつ広めてくれた先に、結果がついてくると考えています。

 現在は南葛SCとの取り組みに加え、日本のスノーボード・ハーフパイプ日本代表チームとオフィシャル契約を結び、サポートしています。競技特性に合わせたアップデートを重ねていきます。

そうした流れの中で、ご縁があれば、他の競技や女子スポーツにも広げていきたいと考えています。

――南葛SCとの取り組みを皮切りに、サッカー界でどのような広がりを描いていますか。

横井:最初にサッカーの世界に進出するとなった時、社内では「誰とスポンサー契約をするか」という話になりました。その中でご縁がつながって「キャプテン翼」のチームとコラボできたら面白いんじゃないか、という話をいただいたんです。それを聞いて、「それは面白い!」と感じたのが最初のきっかけでした。そこから1シーズンが終わり、ホーム戦では毎回ブースを出させてもらい、私自身も初戦を見に行きました。1年が経って、サッカー界でどこまで商品を広められているかは、正直まだ未知数です。ただ、南葛SCとの契約は、私たちにとって間違いなく正しい選択だったと思っています。

――最終的に、コアエナジーは「どんなブランド」としてスポーツ界に存在したいと考えていますか?

横井:それは、『PLAY THE LONG-GAME』という言葉に集約されています。プロのトップ選手と契約するのは、認知してもらうきっかけを作るためです。ただ、それ自体がゴールではありません。スポーツをする人の中で一番多いのは、アマチュアの人たちです。

野球やサッカーに限らず、他の競技も含めて、アマチュアからプロまで、「長く競技を続けるためのギア」を届けたい。それが、私たちが目指している姿です。会社のビジョンとしても、世界中でそういう存在でありたいと考えています。

――サッカーではヨーロッパも大きな市場だと思いますが、今後どのように広げていきたいですか?

横井:アメリカは巨大なスポーツ市場がありますが、サッカーの本場はやはりヨーロッパだと思っています。日本とアメリカで展開できれば、その先は圧倒的に進めやすくなると感じていますし、ヨーロッパでも通用する可能性はあると感じています。その時がきたら、パリやロンドンなどを拠点に、まずはパートナー探しから始めるつもりです。

【連載前編】なぜ老舗マスクメーカーはMLB選手に愛される“ベルト”を生み出せた? 選手の声から生まれた新機軸ギアの物語

<了>

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[PROFILE]
横井隆直(よこい・たかなお)
1974年生まれ、愛知県出身。株式会社白鳩ホールディングス 代表取締役社長。コア・テクノロジー株式会社 代表取締役社長。1999年に株式会社澤村に入社し、約4年半の修業期間を経て、2003年に株式会社白鳩に入社。

2015年7月に同社代表取締役に就任し、同年10月にスポーツ用品、健康器具商品の開発・販売を行う関連会社コア・テクノロジー株式会社の代表取締役にも就任。アメリカにおけるサポーター機能ベルト「コアエナジー」の事業展開を加速させるため、2023年8月に家族でアメリカに移住し活動中。

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