2月8日に行われたFUJI XEROX SUPER CUP。リーグ戦王者と天皇杯王者が激突するこの一戦は、近年 “ある種のフェス状態”が機能し、年に一度クラブの垣根を越えてJリーグファンが集う一大イベントと化している。
(文・写真=宇都宮徹壱)
シーズン開幕の風物詩としてのスーパーカップ
日本サッカー界にとっての「元日」は、天皇杯決勝ではなくFUJI XEROX SUPER CUP(以下、ゼロックス)である──。この体感的な私の意見に、真っ向から異を唱える人は、おそらくそう多くはないと思う。前年のJ1優勝チームと天皇杯優勝チームが対戦するゼロックス。27回目を迎える今年は、横浜F・マリノスvsヴィッセル神戸という顔合わせとなり、2月8日に埼玉スタジアム2002で行われた。
本題に入る前に、あらためて「スーパーカップ」という大会形式について考えてみたい。新シーズン開幕1週間前に、リーグチャンピオンとカップウィナーが対戦するスーパーカップ。もちろん、スペインやドイツやフランスといった欧州各国にも存在するが、そのルーツをたどるとイングランドに行き着く。現在「FAコミュニティ・シールド」の名で知られる、元祖スーパーカップが始まったのは1908年(日本でいえば明治41年)。2つの世界大戦で中止になった以外は、今もシーズン開幕の風物詩として連綿と続けられている。
それ以外の国々のスーパーカップは、意外と歴史が浅い。イタリア(スーペルコッパ・イタリアーナ)とスペイン(スーペルコパ・デ・エスパーニャ)は、いずれも1980年代から。フランス(トロフェ・デ・シャンピオン)は1955年にスタートしたが、80年代から90年代にかけて約10年間のブランクがある。
わが国に目を転じてみると、1977年にJSL(日本サッカーリーグ)優勝チームと天皇杯優勝チームによるスーパーカップが開催されているが、1984年まで8回しか続かなかった。それから10年後の1994年、富士ゼロックスが冠スポンサーとなって、XEROX SUPER CUPがスタート(現在の名称となったのは2009年から)。大会名に若干の変更はあったものの、ずっと同一スポンサーの下で一度の中断もなく続けられてきたことは、世界的に見ても誇りにしていいと言えよう。
ゼロックスの世界観は『J’s GOAL』にある?
黎明期のゼロックスは、当時のJリーグブームの影響もあり、極めて注目度の高い大会であった。1994年の第1回(ヴェルディ川崎vs横浜フリューゲルス)の入場者数は5万1154人。1995年の第2回(ヴェルディ川崎vsベルマーレ平塚)は5万3167人。現時点では、これが歴代最多の入場者数である。しかし、その後の入場者数は目に見えて下降。2005年の第12回(横浜F・マリノスvs東京ヴェルディ1969)は、収容能力7万人超の横浜国際総合競技場での開催だったにもかかわらず、2万1104人という寂しい数字となった。
2000年代も半ばに入ると、Jリーグ人気は上昇傾向にあった。それでもゼロックスに関しては、なかなか4万人の壁を突破できない状況が続く。
この状況を打破するには、当該クラブ以外にも「元日」感を与えられるような設えを用意するほかない。そこで2012年から実施されたのが、全国のJクラブのスタグル(スタジアムグルメ)とマスコットを試合会場に集めて、ある種のフェス状態を演出することであった。そして後者に関しては、2013年から「Jリーグマスコット総選挙」が実施されるようになり、その盛り上がりはいささか常軌を逸していると感じるくらいだ。その経緯については以前のコラムでも言及したが、一つだけ追加で指摘しておきたいことがある。
今ではJリーグファン全体が、シーズン開幕の期待と喜びを共有できるゼロックス。その世界観の源流は、Jリーグ公認ファンサイト『J’s GOAL』にあると私は考えている。2015年以前の同サイトは、サポートクラブの垣根を超えた「Jリーグファンの広場」のような存在であった。その世界観を具現化したのが、現在のゼロックスであるというのが私の見立てだ。ゼロックス改革の陣頭指揮にあたった、Jリーグメディアプロモーション(当時)の山下修作氏がJ’s GOAL編集部出身であることからも、あながち的外れではないと思う。
2つのVAR判定と9人連続PK失敗という波乱
今年のゼロックスは好天にも恵まれ、埼スタには史上3番目となる5万1397人もの観客が詰めかけた。川崎フロンターレと浦和レッズによる前回大会(5万2587人)には及ばなかったものの、関西勢のクラブが出場して5万人超えとなったのは今回が初めて。
試合は、カップウィナーが先制してリーグチャンピオンが追いつくという展開が3度も繰り返される、実にスリリングな展開。神戸のアンドレス・イニエスタと横浜FMの仲川輝人という、今大会のポスターにも描かれた注目選手たちが2得点に絡む活躍を見せた。そして「マリノスで育てられた」と明言する神戸の飯倉大樹、その飯倉へのリスペクトを惜しまない横浜FMの朴一圭という両守護神もまた、試合中に何度も好セーブを見せてスタンドを沸かせる。内容的には申し分のないゲームだったと言えよう。
プレー以外で注目されたのが、今季からJ1で導入されるVARである。最初に発動したのは23分、神戸のドウグラスがヘディングで決めたかに見えたシーンは、VAR判定でノーゴール。そして36分、仲川と飯倉が接触した直後にマルコス・ジュニオールがダイビングヘッドでネットを揺らしたシーンは、VARによる確認作業を経てゴールが認められた。結果、前半は選手交代もなかったのに、アディショナルタイムの表示は5分。こうした光景は、いずれ当たり前のものとなっていくのだろう。
結局、勝敗の行方は延長戦なしのPK戦に委ねられることに。
最後に、マスコット総選挙に寄せて
かくして27回目のゼロックスは、神戸の初優勝で幕を閉じることとなった。ゼロックスのタイトルは、エンブレムの星にはカウントされないが、それでも当事者にとって名誉であることに変わりはない。一方の横浜FMは、またしてもゼロックスのタイトルには届かず。これまでリーグチャンピオンとして4回、カップウィナーとして1回、合計5回ゼロックスに出場しているが、不思議とこのタイトルには縁がない。そのジンクスは、今回も破られることはなかった。
トリコロールな人々にとり、それでも幸いだったことが2つあった。まず、前座として行われた「NEXT GENERATION MATCH」で、横浜FMユースが日本高校選抜に3−2で勝利したこと。そしてJリーグマスコット総選挙において、マリノスケ(横浜FM)が初優勝を果たしたことである。
今回で8回目を迎えるマスコット総選挙は、今やJリーグにとっても欠くことのできない存在になっている。ゼロックス前日に行われた会見で、Jリーグの村井満チェアマンが「日本サッカーにはマスコットという素晴らしい文化があります!」と誇らしげに語っていたのも、時代の確実な変化が感じられた。とはいえ、現状の総選挙に課題がないわけではない。たまたま今回は新顔の優勝となったが、2位のグランパスくんや3位のヴィヴィくんをはじめ、上位陣の予想が容易になってしまうところにシステムの限界が垣間見える。
この試合での神戸と横浜FMのゲームを見て「ウチはかなわないな」と感じた他クラブのファンは少なくなかっただろう。そんな彼ら彼女らにとり、マスコットに関しては「ウチの子が一番!」という認識を新たにすることで、ある種の救いが感じられたのである。しかし最近の総選挙は、ファンの数が多いJ1クラブが有利なシステムとなっており、J2やJ3クラブのファンは密やかな疎外感を覚えている(その意味で長崎のヴィヴィくんの健闘ぶりは特筆すべきだが)。
スポーツの世界が実力主義であること、それ自体は自明であり、何ら否定すべきことではない。しかしながらマスコットの世界においても、クラブの予算規模やファンの数で左右されるというのは、いささか夢のない話であるようにも感じられる。
<了>



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