スポーツ界では新型コロナウイルスの感染拡大防止に備え、それでも試合を行う苦肉の策として「無観客試合」を選ぶ事例が増えている。では無観客試合とはいったいどのようなものなのか? そこに至るまでの経緯はまったく異なるが、2014年に無観客試合を経験した浦和レッズの選手、メディアの声を聞いた。
(文=佐藤亮太、写真=Getty Images)
「無観客試合」とは実際、どんなものなのか?
各種イベントの開催延期・中止が相次いでいる。
Jリーグは今月15日までの公式戦をすべて延期。また今月2日には日本野球機構(NPB)と連携し「新型コロナウイルス対策連絡会議」設立を発表。感染防止に関する情報や対策を共有し、試合開催などの判断に役立てると発表した。
大会や試合を開催することと感染拡大予防を両立させる苦肉の策が「無観客試合」での開催だ。
先月26日、NPBとプロ野球12球団はオープン戦を無観客で実施することを決定。さらに日本相撲協会は今月8日から始まる春場所の無観客開催を決定。日本高等学校野球連盟(高体連)は今月19日に開幕する第92回選抜高等学校野球大会について、無観客開催を前提に調整。今月11日に結論が出る模様だ。
「無観客試合」とは実際、どんなものなのか?
触れざるを得ないのが2014年3月23日、Jリーグディビジョン1・第4節の浦和レッズ対清水エスパルスだ。
発端は3月8日、J1リーグ第2節の浦和ホームで行われたサガン鳥栖戦、この試合で差別と考えられる横断幕を掲出したいわゆる「横断幕問題」が発生。これを受け3月13日、Jリーグは浦和に対して無観客試合1試合とけん責処分を下した。
ここで記したいことがある。
ただ今回のテーマはあくまでも「無観客試合当日」。あの日、埼玉スタジアム2002で選手がどんな思いで試合をしたのか。また伝えるメディアはどうだったのか? ここが主題である。「横断幕問題」自体でも「無観客試合までの過程」でもないことを重ねて記したい。
「試合前独特の緊張感がこみ上がらず、奮い立たせるものがなかった」
さて、無観客試合となった浦和ホームの清水戦を簡単に振り返ると、19分、清水FW長沢駿に決められると、76分、浦和MF原口元気が同点ゴールを決め、1-1のドロー決着となった。
清水戦の浦和のスタメンは以下の通り。
GK 西川周作
DF 阿部勇樹、那須大亮、槙野智章
MF 平川忠亮、鈴木啓太、柏木陽介、宇賀神友弥、梅崎司、原口元気
FW 興梠慎三
ちなみにこの試合で関根貴大がリーグ戦プロデビューを飾っている。
選手はどのような気持ちで試合に臨んだのか? この取材にあたって、頭を悩ますことがあった。それは興梠慎三や柏木陽介ら当時、在籍し、かつ現在も在籍する選手に話を聞ける状態ではないからだ。新コロナウイルス感染拡大予防のため、浦和では練習取材は許可しているが、練習後の選手への囲み取材が禁止。
「いつも通りの気持ちでは戦いづらかった」。そう話すのが昨季限りで現役を引退した那須大亮氏。この試合で先発フル出場している。
「サポーターの声があって自分たちの力になる。僕はそう思って戦ってきた。そのなかで自分のモチベーションを上げるというか、気持ちをいつも以上に引き締めなければならないと感じた。ただモチベーションを上げる雰囲気や試合前独特の緊張感がこみ上がらず、奮い立たせるものがなかった。試合前のアップの時、いつもいるはずのサポーターの姿がない。あるべきものがないという違和感があった。試合が終わって、ロッカールームに戻った時、いつもと違い過ぎて……練習試合のようだった」と語った。
また清水戦で前半だけの出場となった現在は湘南ベルマーレでプレーする梅崎司はこう話す。「いつも通りにプレーができるように準備をしたけど、あまりにも殺風景で違和感があった。特に試合前のアップの時、いつもいるはずのサポーターがおらず、なんだか練習試合のような印象。なんというか……試合前の高ぶりがなかった。(試合について)一連の騒動の背景があっての無観客試合だったので負けなくてよかった。これはチームも同じ雰囲気だった。気持ちの準備も試合内容自体もとにかくすべてにおいて難しかった」と振り返った。
またスタンドで見ていた同じく現在は湘南でプレーするMF山田直輝は「練習試合を埼スタでやっている感じ。もし試合に出たことを考えるとちょっと……どうせだったら、みんなに見てほしいなと。チーム内では『公式戦だからいつも通り』と話し合っていたけど、やっぱり難しかったと思う。異様な感じだった。公式戦を埼スタでやっているのに無観客で……選手の声やボールの蹴る音が丸聞こえで……(今後、行われる場合があっても)無観客ではやりたくはない」。
3人に共通することは、公式戦にもかかわらず練習試合のような雰囲気だったこと。モチベーションを上げることに苦慮したこと。そして、あるべきものがないという違和感や喪失感があったというものだ。
味も素っ気もない空間
伝える現場はどうだったのか? 当時の担当記者に「無観客試合」当日のことを聞いてみた。
「盛り上がりに欠けて、つまらなくて、練習試合のようだった」
「スタジアムが無機質な感じだった。試合前、各社が飛ばしていたヘリコプターの音がやたらと聞こえたのが印象的だった」
「抑揚のないまま淡々と試合が進みました。選手はよくこうしたなかでプレーできるなと感じました」
「SFの世界に入ったような……通常あるはずの街自体がザワザワするような試合の雰囲気がなかった。閑散としていて……心が痛かった」
おしなべて選手と同じ感想を持っていた。さらにあるスポーツ紙記者は「試合後、原稿に書く時、どう伝えればいいのか、記者のあいだで揉めた。結果、ピッチ内の勝負のアヤよりも無観客試合が独り歩きしてしまった」と試合をどう伝えればいいのか悩んだ姿がうかがえる。
かくいう筆者も現場にいた。印象として同じく味も素っ気もない空間だったことを覚えている。
試合後、多くの記者の心を捉えたのが原口元気(現・ヘルタ・ベルリン)だった。「やっぱりサポーターは大切な仲間だと思う。それを深く感じた。また一緒に戦っていきたいという思いがすごい強くなった」。これがすべてを物語っている。
種目や背景は違うが「無観客試合」は各スポーツに携わるクラブ、チーム、選手、スタッフ、そしてファンにとって、今後、心の苦み(にがみ)として残り続けるだろう。
<了>



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