アトム級の平田樹に自身のキャリア最大の試練が訪れる。11月19日に開催されるONE Championship「ONE 163: Akimoto vs. Petchtanong」で対戦する相手は、他団体で幾度となくベルトを巻いてきた韓国のハム・ソヒ。
(インタビュー・構成=篠幸彦、写真=Getty Images)
どうでもいい選手であれば、絶対にこのカードは組んでくれない
――ハム・ソヒ戦を直前に控えた今の心境を教えてください。
平田:やっぱりビッグマッチなので、いつもの試合とはちょっと違う緊張感を持って過ごしていますね。
――普段とは違う緊張感を覚えるほどの強敵ですが、ハム・ソヒ選手に対してはどのような印象を持っていますか?
平田:強いですね。穴がなくて、そう簡単に負けるような選手ではないと思います。それでも必ずチャンスはあると信じているので、5分3ラウンドをひたすら攻めるしかないと思っています。
――このカードが発表されてからSNSなどでもさまざまな反応があったと思います。なかにはハム・ソヒ選手を相手にするのはまだ早いんじゃないかという声もあったそうですが、そういった反応に対してはどのように感じていますか?
平田:たとえそう思われたとしても試合を組んでくれたのはONEなので、それだけ自分に期待してくれているということだと思っているし、ファンの見たいという声があって生まれたマッチメイクでもあると思っています。いくらまだ早いと言われても決まったものはやるしかないっていう感じですね。
――この対戦オファーが届いたときは、どんなことを考えました?
平田:そのときアメリカにいて、起きたばかりのタイミングでマネージャーから電話がかかってきて「ハム・ソヒだけど、どうする?」って聞かれて、「やります」って寝起きで即答していましたね(笑)。さすがに「ちゃんともう一度考え直せ」って言われましたけど、そこで断るという選択肢はまったくなかったです。ハム・ソヒと聞いて躊躇(ちゅうちょ)するよりも、組んでくれたんだ、うれしいなという意味で「マジか」と思いました。
――うれしかったというのは、強い相手とやりたかったという思いがあったんですか?
平田:それもそうですけど、チャトリ(シットヨートン)さんがそういうマッチメイクを組んでくれたことがうれしかったですね。どうでもいい選手であれば、絶対にこのカードは組んでくれないんですよ。今後の期待感、これからのアトム級を代表する選手として自分のことを選択してくれたと思っています。
――会見ではハム・ソヒ選手との試合は自分にとってはメリットがあるという話をされていましたね。
平田:彼女は自分よりも倍以上のキャリアがあって、他の団体でチャンピオンにもなっていて、ポッと出てきた自分とはかなり格差があると思います。でもこれはそんな中で自分がどれだけできるかという、チャトリさんが与えてくれたチャレンジだと思いました。ここで差を見せつけられる試合をされたら見ている人に「やっぱりそうだよな」と思われてしまうのは重々承知しています。これまで練習してきた成果と、これまでの経験を総動員しても全然及ばないのはわかっていますけど、自分には失うものはないし、断ったってなんのメリットもない。だったらやるしなかいなと思ってオファーを受けました。
世界で戦うにはこの環境が一番必要だった
――アメリカに拠点を移してトレーニングするようになって半年ほど経つそうですが、きっかけは日本人若手選手の海外留学制度としてスタートしたABEMAの海外武者修行プロジェクトだったわけですよね。
平田:そうですね。3月のジヒン・ラズワン戦に負けて、そこから気持ちを切り替えるためにまったくわからない世界に飛び込んで、自分がやりたいこと、格闘技だけに絞ってやろうと思ってアメリカに行こうと決めました。こっちに来てからは練習ばかりの毎日ですけど、世界で戦うにはこの環境が一番必要だったんだなと思いましたね。
――日本にいた頃に足りなかったものはなんだと思いますか?
平田:自分が満足するだけの練習じゃなくて、こっちでは言葉が通じないからキツくてもやらなくちゃいけなくて、日本だったらやらないと言えば伝わるじゃないですか。言葉がわからなくてもやってみるというのも自分にとってはチャレンジだし、そういう環境が日本とは違うし、自分に足りなかった部分だと思います。一つひとつの経験の積み重ねがあって、絶対に成し遂げなくちゃいけないっていう気持ちに変わりましたよね。
――試合が決まっていることもあると思いますが、家とジムを往復するだけの毎日を過ごしているわけですか?
平田:日曜日以外は本当にそんな生活ですね。唯一の休みはタイムズスクエアとか、電車で行ける範囲のところにしか行けなくて、練習で疲れているときは外に出ないこともあります。
――日本にいた頃はオフの日はもっと自由に遊べていたのだと思いますが、そういったストイックな生活も自分に合っていると思いますか?
平田:合っていると思います。なにより自分がそれを望んで来たので。やっぱり試合はそれだけ懸けなければいけないものだし、そのぶん終わってから日本に帰ってみんなとご飯を食べたり、遊んだりするのはすごく楽しみなので、それまでの辛抱で、頑張ろうって感じですね。
世界を目指したいなら世界とどうつながっていくか
――現在住んでいるシェアハウスを出て、新たに部屋を借りる予定だそうですね。
平田:試合が終わったら一度日本に帰国して、12月中にニューヨークに戻ってそこからは自分で部屋を借りて生活しようと思っています。練習はもちろんですけど、練習以外の面でもすごく良い環境だなと思ったんですよね。
――やっぱりアメリカではアスリートに対するリスペクトを感じられますか?
平田:すごく感じますね。入国審査のときも「ファイターで練習をしに来た」と言ったらそれだけで通してくれたり、全然扱いが違うなと思います。
――若手選手が海外に行く意味はどのように感じていますか?
平田:海外武者修行プロジェクトを通してアメリカに行くのは、本当に楽しくて、良い経験だと思います。でもそこから実際に拠点を移して、アメリカでトレーニングを続ける選手はなかなかいないと思います。日本は仕事をしつつ格闘技を続けるというのが当たり前の世界なので、行きたいけど行けないという若い選手がほとんどだと思いますね。
――良い経験ができたとしても継続できなければ、なかなか成長につなげていくのは難しそうですね。
平田:そう思いますね。日本国内でトップを目指すのであれば、それでも全然良いと思います。でももっとハングリー精神があって「ここにいたい」「もっとここで練習して強くなりたい」と思った選手は、自分みたいにポッと行っちゃうと思います。
――そういうきっかけをつかむためにも若手選手はもっと海外へ出たほうがいいと思いますか?
平田:そうですね。あとはもっとSNSを使ってアピールしたほうがいいと思います。やっぱり関係者とか、世界中のファンとか、みんなSNSを見ているので普通に発言するより、自分の希望をSNSで発信することは意味があると思います。
今どきSNSで爆発していない選手は目立たない存在
――平田選手はSNSを使うときに、関係者やファンにどう届くかは常々意識しているところですか?
平田:海外でどれだけ練習をしているかとか、そういう発信はもちろんですけど、自分が好きなファッションとかで、好きなブランドの投稿をすると、そのブランドの人から声をかけてもらえたり、マッチメイクにしたって「あの選手と試合をしたい」と投稿すれば、試合を組んでもらえることもある。そういう幅広くアピールしていくことは大事だし、選手はもっとそこを意識してSNSを使ったほうがいいと思っています。
――試合の会見で、ハム・ソヒ選手が平田選手に対して「格闘技選手というより、エンタメという面で有名な選手だと思っている」という発言がありましたが、あの発言に対してはどう感じました?
平田:今どき逆にSNSで爆発していない選手は、本当に目立たない存在だと思いますよ。UFCとかを見ていてもやっぱり普段なにしているか気になるような存在でなければ、みんなが見たいと思う選手にはならないと思いますね。自分は欧米とか、世界で見られているほうが多いので、そこの感覚はアジアと世界でけっこう差があるなと感じます。
がむしゃらにチャレンジャーとして立ち向かっていく
――平田選手は「自分の時代をつくりたい」という言葉をよく使っていると思いますが、改めてその思いについて聞かせてください。
平田:今、自分自身がすごく中途半端なラインにいると思うんですよ。だからここで強いランカーの相手と戦って、「やっぱ平田樹は強いよね」と言われて、「日本のアトム級といったら平田樹」という存在になりたいですね。もしここで自分の評価を下げるようなことになってもネガティブに考えることは一つもなくて、またそこから頑張って評価を覆していけばいいと思っています。
――このハム・ソヒ戦で平田選手はどんなことを証明したいですか?
平田:ハム・ソヒが強いことなんて、わかっていることなんですよ。負ける確率が高いのは自分のほうだって、そんなこと自分が一番わかっています。どんなに周りからそんなことを言われたからといって、自分も「そうだよね」ってなるんじゃなくて、自分自身を信じてやるだけ。
――最後に期待しているファンに一言お願いします。
平田:本当に期待以上の試合をするので、15分間、まばたき厳禁で見ていてください!
<了>



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