デフレが進む中国で北京にある高級ホテル・北苑大酒店のスタッフは毎晩、屋台を設置して出来たての料理を販売している、とロイター通信が伝えた。消費者や企業が旅行や会議、宴会の出費を減らす中で、落ち込んだ収入を確保しなければならないからだ。
ロイター通信はSNSやニュースサイトの情報に基づくと、北苑大酒店以外にも中国全土で少なくとも14の高級ホテルがここ数週間で料理を屋台販売している、と報道。いずれも消費需要の低迷や企業の出張予算削減、宴会予約の低迷などのあおりを受けている。
北苑大酒店のセールスディレクターのアンウェン・シュー氏は「今はもう、単に値下げすればお客さんが来る状況ではない。そもそも全く来てくれない」と語り、新たな収入源を見つけ出す必要性を強調した。
背景としては中国指導部が今年、公務員や共産党員の倹約や規律徹底を改めて打ち出し、大人数での外食の禁止やアルコール消費の制限などが課されたことも業界への打撃になったと言及した。
シュー氏は一番の売れ筋としてこのホテルの看板料理であるハト1羽丸ごとのクリスピーローストを挙げた。屋台では38元(約780円)だが、ホテルのレストランで食事すれば58元だ。7月28日に屋台を開いて以来、それまで1日当たり約80羽だったハトの売り上げがおよそ130羽に増えた。
一方でシュー氏は数カ月でレストランの個室の稼働率は100%から33%前後まで落ち込み、レストランの客単価は半減して100~150元程度になってしまったと説明。屋台の粗利益率は10~15%とケータリング業界の平均を上回るものの、ホテル内での事業の縮小を完全にカバーできていないと述べた。
オーストラリア・メルボルンのモナシュ大学のハー・リン・シー教授(経済学)は「高級飲食業界、とりわけ五つ星ホテルは生き残り戦略の修正を図らなければならない。現在の事態は中国経済全体がかなり大きなデフレリスクに直面していることの表れだ」と指摘した。
外資系でも重慶市のJWマリオットや武漢市のヒルトンなどのホテルが屋台販売に乗り出している。
重慶の五つ星ホテル、リバー・アンド・ホリデー・ホテルは7月に駐車場で屋台販売を始めて以来、1日当たりの収入が数千元から6万元に跳ね上がった。マーケティング・セールス担当マネジャーのシェン・キュヤ氏は「どの業界も今年は厳しい局面にある。生き残りが最も大事で、なりふりなど構っていられない」と話し、インターネットでホテルのブランド価値が損なわれかねないと批判されても意に介していない様子だった。(編集/日向)