上海メディアの新民晩報は8月31日付で、東方網、広州日報、新聞晨報のこれまでの記事を引用するなどで、上海市内の料理宅配専門店の中に衛生状態が極めて劣悪な店が存在することを暴露する記事を発表した。配達員のネット上での告発がきっかけとなり、改めて取材を重ねたという。

中国の都市部で調理品の宅配業が盛んになるきっかけの一つは、人々の移動や飲食店の活動が大きく制限された、2020年に始まった「コロナ禍」だった。コロナ対策が緩和されても料理宅配は利便性が歓迎されることなどで、人々の生活に根付くことになった。配達される料理の種類も、極めて多彩だ。また、飲食スペースのない宅配専門店も増えた。

宅配専門店の衛生状態を最初に告発したのは配達員だった。かなり多くの配達員が、宅配専門店の不衛生な厨房などをひそかに撮影してネット投稿した。多くのネットユーザーが瞬く間に反応し、激しい議論を呼んだ。

実情を確認するために宅配専門店を取材した記者も、「見るに堪えない衛生状態を目の当たり」にすることになった。ある雑居ビルには麻辣鶏(マーラージー、四川風鶏肉料理)、フライドチキン、ハンバーガー、ワンタンなど各種の宅配専門店があり、同じ建物には工事用の足場などをレンタルする店も入居しており、かなり雑然としていた。あるハンバーガー店はごみ置き場からほんの数歩しかなく、店入り口までごみであふれかえっていた。

別のビルでは、2階建ての建物の目立たない出入口から配達員が出入りしていることに気づいた。建物の2階部分には「馮姐醬大骨(馮姉さんの味付け豚骨)」という看板が掲げられている一方で、窓ガラスには「易足堂」という足裏マッサージの広告が貼られていた。

建物2階部分に行ってみると、本来ならば2人が並んで歩けるほどの幅の通路は、食材や商品、生活用品で埋め尽くされていた。ドアが開いていた3室をのぞくと、床や壁には油汚れがこびりつき、雑多な物が置かれており、半分が切られたジャガイモや開け放たれた米袋、食用油の大きなポリ容器なども放置されていた。

地下室を厨房にしている店もあった。極めて狭くて窓がないので換気もできず、上半身裸で作業する男性も多かった。室内には食材や調理器具、日用品が無造作に置かれ、床にじかに置かれていた物もあり、すぐそばにはごみ箱があった。

取材を通じて、異なる店が同じ営業許可証と食品営業許可証を共用している場合があることが分かった。一つの地域で、5店舗が同じ許可証を使っているケースもあった。また、宅配便利用のためのネット上のプラットフォームでは、別の店なのに表示されている所在地が同一だったり、プラットフォームによって同じ店の所在地が違う場合があった。また、プラットフォーム掲載に当たっては店舗の写真が求められるが、まったく関係のない店舗が表示されている場合があった。掲載の申請を受けたプラットフォームがそのまま受け入れたと考えられる。

上海中島法律事務所のパートナーであり、上海弁護士協会民事業務研究委員会委員でもある李威杰(リー・ウェイジエ)弁護士は、「24年2月に施行された『上海市ネットワーク飲食サービス食品安全監督管理弁法』によれば、従業員に健康管理制度を設けること、営業場所は衛生規範制度を守ること、ネット上で営業する飲食業者が第三者プラットフォームに公示する情報は経営項目や店名と一致させることが求められる。食品営業許可証を偽造、改ざん、売買、貸与、譲渡することは禁止されている」「食品宅配関連のプラットフォーム企業が審査義務を尽くしていない場合も、『ネットワーク飲食サービス食品安全監督管理弁法』に違反している」と説明した。

多くの人が宅配専門店の衛生問題を知るきっかけになったのは、配達員のネット投稿だった。新民晩報記事によると、ソーシャルメディアを調べたところ、多くの配達員が自発的に「衛生監督員」として活動していることが分かった。配達員らが公開する厨房の実際の様子は、良心的な「明るい厨房」の利用を促すと同時に、人々が問題ある「闇厨房」を知るようになる効果を発揮しているという。配達員の中には、「店舗の所在地が地下や2階である場合、ほとんどはイートインのない宅配専門店なので、慎重に注文した方がいい」などの「知恵」を伝授した人もいる。

記事は、多くの配達員を利用して、問題ある店舗の写真を行政の担当部門に即座に送信する仕組みにより、監督を強化する可能性について論じた。実現すれば店舗の衛生状態を維持するための画期的方法になるが、安定継続のためには、配達員の監督権限をどう定義するか、配達員の権益をどう保護するか、悪意ある通報をどう防止するか、既存の法規とどう調和させるかなどの、解決せねばならないさまざまな課題があるという。

中国では3月15日の「消費者権益の日」の直後に、「配達員が決して手を出さないデリバリー品とは?」という話題へのアクセスが急上昇した。つまり「調理の現場を知る配達員ならば、自分では決して注文しない料理」の紹介だ。

示された料理には「黄燜鶏(ホアンメンジー、鶏肉の味付け煮込み):冷凍肉など鮮度のない肉を使う場合があり、副菜の洗浄も不十分」「フライドチキン:多くは半加工品を使用しており、保存が不適切だと虫がわいたり傷んだりしやすい」「麻辣燙(マーラータン、辛さとしびれる刺激が特徴のセルフスタイルの鍋料理):食材の種類が多く品質の保証が難しく衛生状態も楽観できない」などと、「配達員ならば忌避する」が10種類以上も紹介された。(翻訳・編集/如月隼人)

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