中国ではキャッシュレス化が進み、現金盗難の心配は大きく減った。一方で、物の紛失や置き引きは依然として発生している。

杭州発、連雲港行きの高速鉄道で発生した「20秒の盗難事件」は在外邦人はもとより治安の良さに慣れた旅行者に注意を促す事例だ。

杭州西駅発の高速鉄道で10月下旬、乗客が1万4000元(約30万円)のノートパソコンを座席前のポケットに入れたままトイレに立った。わずか20秒後、隣席の乗客がそのPCを手に取り、列車を降りたという。

被害者の通報を受け、車内の監視カメラ映像と実名制乗車データを照合した鉄道警察は、容疑者の居場所を特定。南京鉄道公安が上海まで赴き、容疑者を逮捕した。容疑者は「(ノートパソコンは)拾っただけ」と弁解したが、映像記録が決定的な証拠となり、刑事強制措置が取られた。

今回の事件は中国の鉄道システムの監視力と追跡力を示す好例となった。高速鉄道では実名制による乗車券購入(身分証番号で予約)が前提となっているほか、多くの路線、車両で高解像度の車内監視カメラが装備されている。万一の盗難やトラブルが起きても、短時間で容疑者を特定できる体制が整っているわけだ。この「テクノロジー×制度」による二重管理が近年の中国鉄道の治安を大きく支えている。

実際、中国の都市部でスリや強盗に遭う確率は低く、主要駅や空港は警備も厳重だ。ただし「盗られにくい環境」が油断を生むこともある。

特に高速鉄道や空港ラウンジでは「一瞬だけ」「隣の人も旅行者だろう」という心理からノートパソコン類を置きっぱなしにするケースが多い。とはいえ、機器には持ち主にとって重要な情報が蓄えられているだけに、それを紛失するダメージは計り知れない。

今回の事件は、治安が向上し、監視が充実していても、置き引き盗難が皆無になるわけではないことを示している。(提供/邦人NAVI-WeChat公式アカウント・編集/耕雲)

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